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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
番外編・01

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021 番外編・変異体・脅威


■変異体・脅威


◆◇這蠅(はいばえ)


 いつからか、その異形の化け物は〈這蠅〉と呼ばれるようになっていました。瓦礫の隙間を這い回りながら獲物を狩る姿から、畏怖の念を込めて、そう呼ばれるようなったのかもしれません。二足歩行するその姿は、わずかに人の形を留めているものの、その異様な外見は見る者に忘れられない恐怖を刻み込みます。


 ゴキブリのように平べったく細長い胴体は、短い体毛に覆われていて、頭部には蠅を思わせる複眼が並び、見る者に底知れない不安を抱かせます。


 這蠅は、一見すれば人間のように二本足で直立していますが、その姿勢はどこかぎこちなく、まるで壊れた人形のように不自然です。体高は二メートル優に超え、その昆虫めいた脚には鋸歯状の鋭い突起物が確認できます。その脚が地面を擦るたびに「ガサガサ」と硬質な音を立てるため、接近に気づくことは難しくないです。


 しかし音が聞こえたときには、すでに逃げるには遅すぎる場合がほとんどです。


 黒く艶のある鞘翅(しょうし)に覆われた翅は半透明で、光を微かに反射しながら極彩色に輝きます。しかし飛ぶことは稀で、地面擦れ擦れを這うようにカサカサと移動します。その動きは信じられないほど速く、廃墟の瓦礫や廃車の残骸の間を縫うように進むのが特徴です。


 その存在は、〈廃墟の街〉でも珍しく、生存者の間では〝二度と見たくない悪夢〟として語られています。その異常な耐久性と敏捷性は、多くの者にとって常に脅威であり続ける。その脚の突起物で攻撃されれば、深い傷を負うことは避けられない。何よりも、その奇怪な姿は、人間の内なる原始的な恐怖を確実に呼び起こし戦意を喪失させます。


◆◇海徒(かいと)


 海岸近くで遭遇した奇妙な者たちです。文明崩壊後の危険な世界において、海岸を唯一の生活圏とする共同体でもあります。彼らはその排他的な性質により、決して内陸へ進むことはなく、海に寄り添うようにして生きています。


 その異様な容姿と奇妙な行動から、いつしか〈海の徒〉または〈濡れ人〉と呼ばれるようになりました。侮蔑を込めて〈ヒトガエル〉とも呼ばれます。


 彼らの外見は独特で、どこかイボガエルに似た大きな頭に、イボだらけの青白い顔、それに大きな眼球が特徴的です。その眼球は飛び出しているように見え、まるで海の底から引き上げられた深海魚のように湿った異様さを感じさせます。


 首元には、厚い脂肪に埋もれるように(えら)のような奇妙な器官があり、それが彼らの存在をより奇妙なモノにしています。


 独特の歩き方をするので、遠目からでも〈海徒〉だと分かります。猫背で蟹股になりながら歩く様子は、どこか生気を欠いていて、ひどく不気味です。また身体は落ち着きなく動いていて、時折、痙攣するかのようにビクリと震える特徴があります。


 加えて、彼らの肌からは粘液めいたベトつく汗が滴り落ち、その身体から漂う臭いは、腐敗した海藻を思わせ、海岸の荒廃した風景と不気味に調和しています。


 海岸にある集落は排他的で、外部の者が近づくことを頑なに拒みます。そのため、彼らの日常生活について多くは知られていません。ただひとつ確かなのは、彼らが海岸を徘徊しながら、浜辺に流れ着くゴミを回収していることです。


 水棲生物との奇妙な共存関係が判明したことで、〈海徒〉の存在は広く知られるようになりました。理由は不明ですが、海徒は水棲生物の変異体に襲われることがありません。その身体から発せられる独特の腐敗臭が原因なのか、それとも粘液のようにべとついた汗が関係しているのかもしれませんが、その秘密は依然として解明されていません。


 さらに不気味さを際立たせるのは、邪神を崇拝する怪しげな教団との関係が噂されている点です。その真偽は未だ定かではありませんが、荒涼とした海辺では、時折奇怪な儀式の跡が発見されるといいます。満月の夜には、海から上がる潮騒の音に混じり、彼らの低い呻き声が聞こえるという話も絶えません。


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◆◇人擬き


〈廃墟の街〉を徘徊する不死の化け物、〈人擬き〉は旧文明期以前に人間が生み出した不死の薬〈仙丹〉の産物です。驚異的な生命力と再生能力を持つため、完全に殺すことは不可能だとされています。遭遇したさいには、〈人擬き〉を無力化する戦術が用いられます。銃撃や爆破によってその動きを封じることでしか、彼らとの接触から身を守る術はないとされています。


〈人擬き〉との戦闘で最も注意すべきは、その感染力にあります。傷を負った場合、高確率で〈人擬きウィルス〉に感染します。その結果、数日内に〈人擬き〉へと変異し、人々の新たな脅威になってしまいます。


 不死の化け物は廃墟と化した街の至る所で目撃され、略奪者たちとの戦闘が絶えず発生しています。その銃声に引き寄せられるように、さらに別の〈人擬き〉の群れが集まり、街で悲劇を繰り返します。


◆◇略奪者〈レイダーギャング〉


 文明の崩壊と共に生まれた荒廃の象徴です。無法者の集団であり、ならず者、盗賊、そして狂人たちが寄り集まって形成された武装集団です。生き残るための倫理や理性はとうに失われ、彼らの活動はもはや暴力と破壊の域を超え、狂気に染まっています。


 略奪者の拠点は〈廃墟の街〉の至る所に点在し、互いに支配領域を巡る争いを繰り広げています。ギャング同士の抗争は血で血を洗うものであり、〈廃墟の街〉で生きる者たちにとっては近づくこと自体が命取りとなる危険地帯になっています。


 武装集団の多くは、スカベンジャーや隊商を標的にして略奪を繰り返しています。彼らは常に武装していて、粗雑な装甲や廃墟で手に入れた旧式の武器で身を固めています。誰もが自らの力を誇示するため、奇抜な衣装やホログラムの装飾で着飾り、その見た目だけでも多くの者を圧倒します。


 彼らの残忍さはただの略奪にとどまりません。ときに生存者を捕え、彼らの惨劇を見世物とすることで、恐怖の支配を広げています。狂気に染まったその行動は、もはや〝生き残るため〟だけでは説明できない、人間本来の残虐性を垣間見るようでもあります。

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