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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第二部・目覚め

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017 第二部・変異体・考察


■変異体


◆シロアリ


〈廃墟の街〉で恐れられているシロアリの変異体です。かつての面影を残しつつも、異常なほど巨大化し、体長は1.5メートルほどに達します。長くしなやかな胴体に加え、六本の脚を持ち、驚くほど素早い動きで地上を駆け回ることができます。


 見た目の不気味さも、この生物がもたらす恐怖の一因になっています。半透明の乳白色の胴体は、体内の器官がぼんやりと透けて見え、本来の生命体から逸脱した異形の存在のように見えます。頭部には細長い触覚があり、それが周囲のニオイや動きを感知するのに役立ちます。また、異様に発達した大顎は、見るだけでも不安や恐怖を掻き立てます。


 これらの昆虫は、幸いにも体表が柔らかく、機関銃の弾丸で簡単に制圧することが可能ですが、その数と速度は油断を許しません。


 群れのなかには、透明な翅を持つ個体も確認されています。しかし飛翔能力はなく、翅を揺らしながら低空を、あるいは地面をカサカサと動き回り、獲物に襲いかかります。ゴキブリの仲間でもあるシロアリの変異体は、木材や植物繊維などを主食にしています。これにより汚染された木材や植物を分解し、土壌に栄養分を還元していました。


 しかし大量発生の影響で特定の植物が足りなくなり、本来の木材をかじる習性から、生存本能に従い肉食性へと変化を遂げています。そして最も恐ろしいのは、その肉食性が〈人擬き〉だけでなく、武装した人間に対しても向けられることです。


 通常、シロアリの変異体は数十から数百の個体で群れを成して行動し、獲物を認識すると容赦なく襲い掛かります。そして圧倒的な数で包囲し、刃物のように鋭く強靭な顎で肉を咬み千切る様はまさに悪夢そのものです。瓦礫の間を素早く移動するので、銃弾を命中させるのは難しく、一度群れに狙われた者が逃れるのは極めて困難になっています。


 興味深いのは、単体で行動しているシロアリの行動です。群れから(はぐ)れた変異体は驚くほど臆病になり、脅威を感じると敵に立ち向かうことなく、必死に群れとの再合流を図ります。素早く動き回るその姿は、どこか不気味で滑稽ささえ感じさせますが、油断は禁物です。変異体は群れに合流した瞬間、再びその凶暴性を取り戻します。


 シロアリが巣として利用する地中の構造物は、その生物の異常性を際立たせています。それは広大な迷宮そのもので、地中深く闇の中へと無限に続くかのように張り巡らされたトンネル群が広がっています。その規模は常軌を逸していて、数千から万単位の変異体が収容されていることが確認されています。


 侵入者がその領域に一歩でも足を踏み入れれば、瞬く間にあらゆる方向から群れが襲いかかり、逃れる余地はありません。


 巣の内部は、つねに不気味な雰囲気を漂わせています。腐敗した肉や植物の臭いが空気に重く満ち、息苦しささえ感じさせます。トンネル内は蠢く変異体で埋め尽くされ、地中でカサカサと動き回る変異体の音が絶え間なく響き、侵入者の神経を蝕み、脳裏に焼き付く悪夢に変わります。


 そして何よりも奇妙なことは、巣全体があたかも生きているかのような感覚を与えることです。暗闇の奥から響く湿った音、それはどこか遠くの空洞で発生しているかもしれないし、目の前の壁が発する唸り声のようにも感じさせます。この音が侵入者の鼓膜を叩き、不安をかき立て、冷たい恐怖で神経を擦り減らしていきます。


 攻撃手段が限られている人類にとって、このシロアリの巣は存在そのものが絶望的な脅威になっています。巣を発見した段階で速やかに破壊することが唯一の対処法とされていますが、多くの場合、すでに手遅れの状態になっています。


 発見時には、巣の内部で数千単位、時には万を超える数の変異体が待ち構えていて、巣の破壊どころか近づくことすら困難を極めます。そして群れの動きを見逃した場合、その結果はさらに最悪の形で荒廃した世界で生きる人類に降りかかることになります。


 巣から溢れ出した無数の変異体が広範囲に散らばり、次々と人間の居住地や隊商を襲撃していきます。その過程で新たな群れと巣が形成され、恐怖の連鎖を生み出していきます。一度繁殖が進めば、群れは手のつけられない規模に成長し、人類が打てる手段は限られていきます。


◆変異体に関する考察

 以下の考察は、〈廃墟の街〉で回収されたデータパッドに残された記録です。


 文明崩壊に至る混乱期に大量に使用された化学兵器や生物兵器、さらには放射性物質を含む兵器によって、広範囲に亘る環境汚染が確認された。このような汚染地帯は、従来の生態系を根底から破壊し、同時に、そこで生存し続けるために急激な進化を余儀なくされた生物に新たな形で、生存のための環境を提供することになった。


 とくに昆虫や小型の動物は、その短い繁殖サイクルのために、遺伝子変異が短期間で累積しやすいという特性を持っていた。汚染された土壌や水、あるいは大気中に含まれる毒素の影響を受け、生存のために急激な変化が進行しました。これにより、従来の環境では見られなかったような〝異形〟とも言える生物が誕生したと考えられる。


 また、汚染物質が遺伝情報に直接作用することで、突然変異が急激に進んだケースも考えられる。たとえば、放射線被曝による細胞の異常分裂や、化学兵器由来の化合物が引き起こす遺伝子破壊の結果、従来の生物の生態が劇的に変化した可能性も考えられる。


 その結果、肉食化、巨大化、不自然な運動能力の獲得、あるいはまったく新しい捕食戦略を持つ超自然的な生物へと進化した可能性が考えられる。群れで行動し、蟻のようにコロニーを形成する蜘蛛の存在が、その仮説を裏付けている。


 さらに文明崩壊の混乱期には、統治局や軍が行った極秘の生物実験や遺伝子操作の結果、制御を失った生物兵器が汚染地帯に解き放たれた可能性も否定できない。こうした実験生物が汚染地帯の環境に適応し、新たな種として繁殖したというシナリオも、一定の現実味を帯びてくる。


 これらの変異生物は、生態系の頂点に立つ新たな脅威として君臨し、人類の生存を一層困難なものにしている。その存在は自然の摂理に従った進化ではなく、文明の崩壊によってもたらされた〝人災の産物〟であると言えるだろう。


 旧人類が撒き散らした破滅的な遺産であり、その影響が生物たちの形態を――かつての自然の秩序を完全に捻じ曲げた証拠でもある。いずれにせよ、明日も引き続き〈廃墟の街〉で調査を行う。運がよければ、この恐怖の地で命を繋ぎ止められるだろう。

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