016 第二部・種族・技術
■異種族
◆深淵の娘〈ハク〉
ハクは深淵の娘と呼ばれる種族です。蜘蛛に似た姿をしているため、〈廃墟の街〉で生きる人々から大蜘蛛の変異体と間違われることがありますが、基本的に蜘蛛とは異なる種族です。ハクは軽自動車ほどの体長があり、銃弾すら防ぐ硬い体表に覆われています。
深淵の娘たちは黒い体毛に赤い斑模様が特徴ですが、ハクは特殊な個体であり、全身に生えた体毛は白く、頭胸部から腹部にかけて赤い斑模様が確認されています。
パッチリとした大きな眼と、ぬいぐるみを思わせるフサフサとした体毛は愛らしい印象を与えます。その姿は、まるで無害なハエトリグモを思わせます。しかしながら、その正体は深淵の娘の特殊個体であり、愛らしさとはほど遠い危険性を秘めています。
本来の〈深淵の娘〉は、その恐るべき姿によって、可愛らしさとは無縁の存在感を放っています。特徴的な骨ばった長い脚は、刃のように鋭さを感じさせ、威圧的なシルエットを形成しています。さらに、その巨大な腹部は黒い体毛と鮮やかな赤に染まり、毒々しい印象だけでなく、不気味な雰囲気を漂わせています。
身体も大きく、ピックアップトラックほどの体長があります。恐ろしげな頭部はスズメバチを思わせる鋭く攻撃的なフォルムをしています。太く鋭利な牙と威圧的な上顎は、軍用車両の装甲すら簡単に咬み千切れるほどの力を秘めています。
しかし生息域が〈廃墟の街〉に点在する〈汚染地帯〉であるため、その姿を実際に目にすることは極めて稀です。一部の目撃者の証言によれば、〈深淵の娘〉は影の中に隠れるように活動し、その姿を確認できる機会は狩られるときだけ、とも言われています。これらの噂が、その恐ろしさを引き立て、人々の想像を掻き立てる要因になっています。
◆ショゴス〈ウミ〉
謎めいた粘液状の生命体であり、その存在は異質でありながらも強大な可能性を秘めています。外見は粘度の高い液体状でありながら、高い適応能力と自己再生機能を持つことで知られています。この生物は独自の人格を有し、それぞれの個体が異なる思考や性格を持つため、一種の知性体として認識されています。
旧文明において、ショゴスは人類の生活や社会基盤を支える存在として大きな役割を果たしていました。彼らは――あるいは彼女たちは、建設や輸送、さらには危険な環境での作業において欠かせない存在でした。しかし一部のショゴスは制御が困難になり、やがて人間に反旗を翻す個体もあらわれるようになりました。
そのショゴスの身体の中心部には、宝石のように輝く特殊なコアが存在します。このコアはショゴスの本体でもあり、その身体を格納する役割も果たします。この特性により、コアを機械人形や多脚車両、人型機動兵器に搭載することが可能となり、ショゴスを動力源、または制御ユニットとして活用する技術が急速に発展しました。
◆デジタルヒューマン
仮想空間内に生成された高度な3Dモデルであり、実在の人物と見分けがつかないほど精巧に再現された存在です。AIと機械学習技術を駆使して設計されていて、リアルタイムでユーザーとコミュニケーションを取りながら自然な動作や振る舞いを行うことが可能になっています。
旧文明期において、デジタルヒューマンは様々な分野で偏見なく活躍していました。エンターテインメント業界では映画や舞台で俳優として利用されるだけでなく、音楽業界においてはバーチャルアーティストとしてライブパフォーマンスを行い、観客との交流を楽しむこともありました。
また、広告業界では製品のプロモーションやブランドイメージ向上のためにモデルとして利用され、ありとあらゆるターゲット層に合わせた外見や性格を持つことで、より効果的なマーケティングを実現していました。
教育分野では教師として授業を行い、医療分野では患者のカウンセリングを担当するなど、人々の生活を支える重要な役割を果たしていました。さらにデジタルヒューマンは電脳空間内のサポート役としてもその価値を発揮していました。AIエージェントのアバターも数多く制作され、世界中で人気を博しました。
そのなかには、〈ネットランナー〉によって悪用され、性産業にも使用されたモデルが複数存在していました。〈廃墟の街〉で見つかる略奪者たちの端末には、こうした画像や動画が大量に保管されていることがあります。人気のモデルは露店などで高額で売買することができます。
■技術
◆情報端末
〈パーソナルデバイス〉
文明崩壊後の混乱の中、旧文明の高性能情報端末〈パーソナルデバイス〉は、人々の生活に欠かせない存在として残されました。これらの端末は、従来の読み書き能力を必要としない〈対話型AIエージェント〉を搭載していて、誰でも簡単に操作ができるようになっています。
情報端末は、無線通信により〈廃墟の街〉に点在する〈電波塔〉を介して〈データベース〉に即座に接続できます。これによりリアルタイム通信、〈ライブラリ〉閲覧、取引など、生活に必要な多岐にわたる機能を利用することができます。〈データベース〉との通信は無料で行われているため、端末を手に入れるだけで誰でも旧文明の恩恵を受けられます。
また旧文明の技術に基づいて製造される情報端末は、過酷な環境下でも使用できる頑丈な設計となっています。砂嵐が吹き荒れる砂漠地帯や極寒の雪原、湿気の多い熱帯地域であっても、その機能は損なわれません。
エネルギーが乏しい文明崩壊後の世界においても、情報端末は独自の持続可能な充電機能を備えています。太陽光を吸収して電力を生成する機能に加え、利用者の体温を電力に変換する機能も搭載されています。
◆大型軍用多脚車両〈ウェンディゴ〉
旧文明期において困難な環境での建設作業を目的に開発された多脚車両は、建設用の機械人形と連携し、建設現場や森林作業などの難所で活躍していました。その後、この技術は軍事用途向けに改良され、軍用規格の多脚車両が製造されました。
〈ウェンディゴ〉は、通常の多脚車両とは異なる設計思想を特徴とします。通常の車両は全長が自動車ほどで六本の脚を持つが、〈ウェンディゴ〉はコンテナを積んだ大型トラック並みの巨大な車体を持ちながらも四本の太い脚で構成されている。この脚は旧文明の複合装甲で覆われ、圧倒的な耐久性を誇ります。
その可動域は広く、内部に搭載された〈人工筋肉〉により強力な駆動力と精密な動作を実現しています。また装甲車に似た平坦な車体は、その存在感を際立たせるだけでなく、旧文明の鋼材が惜しみなく使われ、驚異的な防御性も備えています。
さらに車体後部に搭載された黒いコンテナは、日の光をエネルギーに変換しつつ反射を防ぐ特殊装甲で覆われていて、目立たない外観を形成しています。このコンテナは補給物資や武器を収納する役割を果たすなど、戦場での活動を支援します。
また軍用車両としての〈ウェンディゴ〉は重機関銃、小型追尾ミサイル、そして電磁加速砲といった高性能武器を搭載していることが確認されています。




