015 第二部・技術・機械人形
◆昆虫型ドローン〈インセクト型監視ユニット〉
かつて軍事や産業用途に開発された小型のドローン群です。小指の爪ほどの小型モデルは、瓦礫の隙間や配管の中さえも難なく進入する能力を持ち、精密な監視と情報収集を可能にします。
これよりも小型のモノは産業スパイを目的に製造され、大型のモデルは、攻撃用の兵装を搭載するなど、軍事目的で使用されることもありました。
昆虫型ドローンの動力源は、体表面に搭載されたナノバイオハイブリッドシステムを用いています。このシステムは太陽光や空気中の化学物質からエネルギーを吸収することで、極限状態下でも長時間の活動を実現します。また、群れを成すことで独自のネットワークを形成し、特殊な通信方法を通じてリアルタイムの情報共有を可能にしています。
偵察用途に特化したモデルは、多波長カメラによる夜間視覚や、赤外線・放射線の検知能力を備えていて、敵勢力の追跡や資源の探索など多岐にわたる役割を果たします。さらには、毒針や特殊爆薬を搭載した攻撃型モデルも存在し、目標を正確に排除することも可能ですが、すでに攻撃型のドローンが存在するため、主な役割は偵察です。
超軽量の金属ナノワイヤ素材で構成され、防塵、防水性能を備えているため、あらゆる環境での活躍が期待できます。〈二十三区の鳥籠〉では、警備として活用され、治安維持に貢献しています。
文明崩壊後、制御システムを失った一部のドローンが、独立した自己維持プログラムに基づき無秩序に動き回るようになり、人々に未知のウイルスを注射しているという噂が立ったこともあります。しかし多くの場合、それらは事実ではありませんでした。
しかし、すべてのドローンは〈データベース〉に接続されているため、システムが人々に遺伝子改変のワクチンを投与していると頑なに信じる陰謀論者が存在します。
◆多目的ドロイド〈シキガミ〉
日本の企業によって開発された〈多目的ドロイド〉は、彫像を思わせる美しいデザインを備えた機械人形です。滑らかな体表は耐久性に優れた白い人工皮膚に覆われていて、精巧に設計された骨格を覆っています。その美しさゆえ、〈廃墟の街〉でも異質な存在感を放っています。
〈シキガミ〉はあらゆる目的に対応できるよう設計されています。介護や給仕、さらには家政婦としての役割も果たします。必要に応じて人工皮膚や髪の毛を移植することができ、外見を特定の用途や好みに合わせて調整することも可能になっているため、軍用に改良されたモデルが戦地に派遣されたこともあります。
高性能なAIエージェントが標準搭載されていて、通常の会話はもちろん、状況に応じた柔軟な思考や判断を行うことができます。この人工知能は、人間との自然な対話を目指して開発されたものであり、優れた言語能力〈あらゆる国の言語〉と行動判断力を備えています。
◆建設人形
旧文明期に製造された〈建設人形〉は、かつて繁栄を極めた人類文明の驚異的な産物であり、文明崩壊後の荒廃した世界においても、なお生き続ける異形の遺物です。この技術は〈データベース〉やナノマテリアル、高度な自律型AI、そして自己修復機能を統合することで実現されました。
建設人形の種類は多岐にわたります。例えば、全長六十メートルを優に超える建設人形は、都市規模の構造物の建設や修復を担当し、その巨体に備わる複数の精密なマニピュレーターで外壁を修復し、必要に応じて新たな空中回廊を建設します。
一方、小型かつ敏捷な多脚型の建設人形は、狭小な空間での補修や点検を得意とし、文字通り都市の隅々までその管理の手を伸ばしていました。これらの機体は互いにネットワークを構築し、膨大なデータを共有しながら、高度に効率的な作業を実現していました。
それらの驚異的な技術も文明の崩壊とともに失われ、多くの建設人形が停止しました。都市の〈下層区画〉では、今でも動かなくなった建設人形が見られますが、部品の大部分がスカベンジャーや傭兵によって持ち去られたため、その形状を完全に留めているものは稀となっています。
しかし〈上層区画〉では、いまだ稼働中の建設人形が発見されることがあり、それらの機体は都市の構造を静かに維持し続けています。また建設人形の動力源は謎に包まれています。既知のエネルギー技術では説明できないその稼働時間は、旧文明期の技術がいかに驚異的であったのかを示しています。
◆複製生成装置〈クローンリプリケーター〉
バイオテクノロジーと先進的なナノテクノロジーが融合した、旧文明の人類の驚異的な科学装置です。その外観は、銀色に輝く巨大な筒状の装置です。一見すると滑らかな金属で覆われた無機的な外装に見えますが、装置が稼働すると、その表面は瞬時に透明化し、素通しガラスのように内部を覗くことが可能となります。
浴槽を思わせる筒のなかには、緑がかった半透明の溶液で満たされていて、これこそが肉体の製造を可能にする媒介物質となっています。この溶液には、構成物質の調整や栄養供給を行う無数のナノロボットが浮遊していて、各種の生命維持プロセスを支えています。ガラスを通して、複製体が生成される過程を静かに見守ることが可能となっています。
〈クローンリプリケーター〉の複製工程は、以下のような手順で進行します。まず、栄養素を含んだ素体が筒内部に投入されます。素体は単なる未分化の生体組織の塊であり、複製体を作り上げるための基盤となります。
つぎに、〈データベース〉を介して登録された遺伝情報が精密に解析され、その情報を基にナノロボットが素体を再構築していきます。このプロセスでは、遺伝子配列の完全な複製が行われるだけでなく、必要に応じて特定の遺伝子を編集し、身体能力を向上させる調整も行われます。
この一連の工程を経て生成された複製体は、任意の年齢まで成長させることが可能で、最終的に装置内部で目覚めるように設定することもできます。複製体は、原本となった人間と全く同一の外見を持つだけでなく、神経系や感覚器官も精密に再現されていて、意識の転写さえ可能であったとされています。
しかし文明崩壊後の現代では〈クローンリプリケーター〉がどのように、その複雑な工程を成し遂げているのかは、未だ解明されていません。




