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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第八部・水底の色彩

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119/119

119 第八部・防衛拠点〈各施設〉


◆拠点〈施設〉


 ブリーフィングルームで拠点での任務内容を確認したあと、タカクラたちは〈スィダチ〉から派遣されていた職員の案内で、施設内を見学することになった。


 案内役の職員は、部族民が身に着けている毛皮や薄汚れた布ではなく、白い長衣をまとっていた。素材には防菌処理された清潔な繊維が使われていて、〈医療組合〉の治療士(メディック)などが着用する診察衣に似ていた。旧文明の〈販売所〉で入手できるものなのだろう。


 その姿は〈森の民〉の中にあっても異質だったが、他の人間と区別するために用いられているのだろう。彼らの多くは、部族間の差異に関係なく、森の民に尽くすために存在していた。言葉遣いは丁寧で、態度にも偏見は見られなかった。異邦人として侮蔑されることも多かったタカクラたちに対しても、礼儀正しく接してくれた。


 その姿勢には、単なる職務以上のもの――部族の未来を真剣に考える意志が感じられた。拠点は急造建築とされていたが、旧文明の技術が利用されていたためか、タカクラには〈傭兵組合〉の拠点よりも安心できる構造に思えた。


◆食堂


 最初に案内されたのは、もっとも利用頻度が高くなると思われる食堂だった。等間隔に設置された支柱が空間を支え、食事のための長机と椅子が整然と並べられていて、同時に数百人を収容できるだけの広さが確保されていた。


 壁面には、各部族の存在感を示す毛皮や装飾品が飾られていて、すでに彼らの生活の一部になっていることが感じられた。


 地下鉄を利用して〈スィダチ〉から運び込まれた食材の調理を担当するのは、各部族から派遣された者たちだった。彼らは、それぞれの食文化に合わせた調理法を用いていた。焼く、煮る、蒸す――調理器具も部族ごとに異なり、火の扱い方や香辛料の使い方にも違いがあった。


 興味深いことに、人間はどのような環境にも順応してしまう生き物だった。これまで機械に触れたことのなかった部族の者たちも、すでに調理家電の扱いに慣れてしまっているようだった。


 食堂の一角には、旧文明の自動販売機(フードディスペンサー)も設置されていた。それは〈廃墟の街〉で見慣れた破壊された販売機ではなく、完全な状態のものだった。どこから調達してきたのかは分からなかったが、電子貨幣(クレジット)を使えば、好みの〈合成食品〉を購入できるようだった。


〈国民栄養食〉をはじめ、栄養バランスが調整されたパッケージ食品から、嗜好品であるアルコール飲料に至るまで、あらゆる種類の〈合成飲料〉が揃っていた。〈蟲使い〉たちの多くはそれを使わなかったが、〈廃墟の街〉出身の者たちにとっては、ありがたい存在だった。さすがに、気味の悪い昆虫や正体不明の生物の肉を食べる気にはなれなかった。


◆兵舎


 兵舎として利用されていた区画へと足を運ぶと、タカクラたちはまたしても異様な光景を目にすることになった。


 兵舎も食堂のような広大な空間になっていて、二段、三段構造の寝台が所狭しと並べられ、まるで巨大な蜂の巣のような印象を与えていた。寝台の数は数えきれないほどで、各寝台には厚手の布製カーテンが取り付けられ、最低限のプライバシーが保たれるよう配慮されていた。


 その整然とした構造の中にも、各部族の文化が息づいていた。毛皮や動物の骨で装飾された寝台。森で採取された蔓や葉を編み込んだ籠。乾燥させた薬草を吊るした一角。それぞれの寝台が、持ち主の部族的背景を静かに語っているようだった。


 中には、寝台の周囲に小さな祭壇のようなものを設けている者もいた。そこには祖霊を祀るための彫像や、儀式用の道具が並べられていた。香の煙がわずかに漂い、空間に霊的な静けさをもたらしていた。


 その様子は、〈傭兵組合〉で見られるような、一般的な兵舎のイメージからはかけ離れていた。むしろ、部族ごとの生活様式が寄せ集められたような印象だった。猥雑でありながらも、どこか温かみがあった。


 彼ら、彼女らは軍人ではなく、それぞれの部族に属する誇り高き戦士だった。異なる仕来りや信仰を持つ者たちであり、この場では、それらが尊重されているようだった。


 装飾は自由で、誰もそれを咎める者はいなかった。各部族の戦士には、ある程度の裁量が認められていて、それが彼らの士気と誇りを支えているのだろう。


 もっとも、すべてが自由というわけではない。火器や危険物の持ち込みは禁止されていて、騒音や暴力行為には厳格な規律が設けられていた。違反者には即座に処罰が下される。


 また、昆虫の立ち入りも禁じられていた。〈蟲使い〉たちが従える変異体は、あくまで戦闘区域での運用に限られていた。


 この兵舎には、トイレや大浴場が併設されていた。利用時間に制限はなく、戦士たちは任務の合間に自由に身体を休めることができた。


 浴場は、旧文明の循環式浄水設備を利用したものらしく、湯気の立ち込める空間には、石造りの浴槽と簡素な洗い場が整然と並んでいた。もちろん、ここでも部族ごとの装飾が施されていて、湯に浸かることが単なる衛生管理ではなく、儀式的な意味を持っていることが窺えた。


◆その他


 兵舎の近くには、弾薬庫も設置されていた。しかし、そこへの立ち入りは厳しく制限されていた。入り口には、戦闘用の機械人形が二体、警備にあたっていた。旧文明の警備ユニットを改造した機体らしく、侵入者を即座に排除するようプログラムされているように見えた。


 拠点内で武器を手にできる者は限られているのだろう。それは、異なる部族の寄せ集めでもあるこの組織の秩序を維持するための、当然の措置だった。


 車両格納庫らしき施設も確認されたが、そこに案内されることはなかった。外部の人間には見せられないと判断されたのだろう。格納庫の外壁には旧文明の建材が使われ、出入り口には生体認証装置が設置されていた。内部には、旧文明の輸送車両やドローンなどの戦術機動ユニットが保管されている可能性が高かった。


 タカクラは、ナグモ・マイから提供された資料を思い出していた。そこには、旧文明の遺物として確認されていた〈母なる貝〉の存在が記されていた。その技術が、この拠点でも使われているのかもしれない。


 何もかもが、驚愕するような作りだった。自然と人工物、信仰と技術、秩序と混沌――それらが、静かに共存しているような場所だった。

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