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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第八部・水底の色彩

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101 第八部・侵食帯〈屍狗會〉


■地域:侵食帯

 集落:灰の裂け目〈AshRift(アッシュリフト)


◆縄張り争い


〈廃墟の街〉と〈大樹の森〉の境界に位置する〈侵食帯〉と呼ばれる地域には、〈灰の裂け目〉という集落が存在する。そこは、〈廃墟の街〉で居場所を失った傭兵や廃品回収者(スカベンジャー)たちが、廃墟と森の境界を越えて活動する探索者――通称〈Ashwalker(アッシュ・ウォーカー)〉として集う拠点となっている。


 彼らは、人の姿が消えた崩壊した都市の残骸や、〈大樹の森〉から廃品を回収し、それらを再利用可能な資源として取引することで生計を立てている。


 この〈侵食帯〉には、〈灰の裂け目〉で活動する探索者たちと敵対する複数の組織が存在する。〈屍狗會(デスドッグ)〉の名で知られるレイダーギャングも、そのひとつだ。


 彼らは探索者を襲撃し、遺体から遺物や装備品を奪い取ることを生業としている。いつからか、自らを死体に群がる犬の群れになぞらえるようになり、〈屍狗會〉という組織を結成した。思春期の男子が好みそうな、やや気恥ずかしい名前ではあるが、彼らの実力は確かだった。


◆屍狗會〈デスドッグ〉


 かつて人類が築いた偉大な文明の廃墟の中でも、〈屍狗會〉は異質な武装集団として恐れられていた。彼らは、ただの略奪者ではない。〈侵食帯〉を越えて活動する熟練の探索者たちを相手にするため、彼ら自身も旧文明の技術によって身体能力を強化し、肉体を武器へと変貌させていた。


 その身体は、鉄と神経が融合した戦闘機械(サイボーグ)だった。最前線に立つ隊員のひとり、通称〈ハウンド〉は、両腕を炭素繊維と旧文明の合金製の義肢に置き換えていた。義手は羽根のように軽く、自在に操れるだけでなく、拳を振るえばコンクリートの壁すら粉砕することができた。


 跳躍時には脚部の人工筋肉によって、人間離れした高さから襲いかかることも可能だった。その動きは、肉食獣が獲物に襲いかかる瞬間のように鋭く、速かった。


 彼の顔面には、片眼を覆う義眼が埋め込まれていた。拡張現実対応型の光学義眼は、暗闇の中でも敵の輪郭を浮かび上がらせ、熱源を検知して壁越しの動きを追跡できた。義眼は〈データベース〉に接続されていて、敵の装備や動きに応じて自動的に優先順位を割り出すこともできた。


 だが、〈屍狗會〉の真の脅威は、個々の肉体強化だけではない。彼らは戦術支援型〈インプラント〉を脳に埋め込んでいる。超小型プロセッサが神経信号を高速処理し、反応速度を人間の限界まで引き上げていた。敵が引き金に指をかけるよりも早く、彼らは動くことができた。


 さらに、〈インプラント〉は戦闘員同士の無線通信を可能にし、戦場の情報をリアルタイムで共有する。敵の位置は瞬時に仲間たちと共有され、脳内に転送される。彼らは群れとして動き、獲物を囲み、逃げ場を与えない。


 この技術の恩恵を受けた〈屍狗會〉は、もはや並みの人間とは呼べなかったのかもしれない。彼らは死肉に群がる野犬であり、死を運ぶ機械の群れだった。〈大樹の森〉で活動する探索者たちの天敵として存在し、否が応にも激しい生存競争が繰り広げられていた。


◆野犬部隊


 探索者たちの追跡には、訓練された野犬部隊が投入されていた。彼らは探索者の匂いをたどり、奇襲を仕掛けるための武器だった。その野犬の多くは、旧文明の軍用犬の血統を引き継いだ変異種であり、筋肉は異様に発達し、瞳は夜間でも光を捉えることができた。だが、最大の武器は鼻だった。


 鼻腔には〈嗅覚インプラント〉が埋め込まれていて、空気中の微細な粒子――汗、油、血、火薬――を瞬時に識別することができた。探索者が通った痕跡は、彼らにとって地図のように鮮明なものだった。


 群れは無言で動く。先頭の個体が匂いを捉えると、他の犬たちがその動きに連動する。彼らの脳にも生体チップが埋め込まれていて、隊員の端末から送られる信号は犬に直接届き、瞬時に行動を制御していた。右へ回り込め。伏せろ。吠えるな。殺せ。命令は音声通信で伝えられ、犬の内耳に直接聞こえるようになっていた。


 しかし、その技術は完璧ではなかった。手術は過酷であり、成功率は低い。多くの犬が麻酔から目覚めることなく命を落とした。生き残った個体も、時に神経が焼き切れ、錯乱状態に陥る。それでも〈屍狗會〉は手を止めなかった。彼らにとって犬は兵器であり、感情を持つ存在ではなかった。


 生き残った犬には、ケブラー製の軽装防具が与えられる。銃弾や刃物から内臓を守るための防具は、旧文明の警察犬用ベストを改造したものだった。背中には小型のカメラとセンサーが取り付けられ、隊員の端末に映像と位置情報を送信する。


◆戦闘員


 かつて探索者として名を馳せた者たちがいた。彼らは〈侵食帯〉を越え、〈大樹の森〉の奥深くへと踏み入り、旧文明の遺物を掘り起こしては、命と引き換えに持ち帰った。


 だが、すべての探索者が理想を抱いていたわけではない。中には仲間を裏切り、血を流すことに快楽を覚えた者もいた。そして、そうした者たちが流れ着く場所があった――〈屍狗會〉の名で知られる冷酷な武装集団だ。


 この集団に所属できる者は限られていた。〈廃墟の街〉から流れてきた略奪者や、傭兵としての過去を持つ者たちの中でも、過酷な生存競争を生き延び、〈ハウンド〉をはじめとする幹部の眼に適った者だけが、正式な構成員として迎え入れられる。


 選別は残酷で、試練は常に死と隣り合わせだった。生き残った者は、もはや人間ではなく、戦場に放たれた(いぬ)だった。


 彼らの装備は、機能性と殺傷力を極限まで追求している。まず身にまとうのは軽量装甲ベスト。スチールやセラミック製の複合素材によるプレートとケブラー繊維を組み合わせた防具は、銃弾や散弾を弾き、刃物の切断を防ぐ。動きやすさを重視した設計で、奇襲や攪乱戦術に最適化されている。


 ベストやチェストリグには、煙幕弾や閃光弾が収納されたポーチが備えられ、敵の視界と聴覚を奪うための準備は怠らない。


 もちろん、ガスマスクも常備している。旧文明の軍用モデルを改造したもので、フィルターは〈大樹の森〉の濃い胞子や汚染物質に対応し、胞子の中でも呼吸を維持し、有毒ガスの中でも戦闘能力は失われなかった。拡張現実対応型のレンズには曇り止め加工が施されていて、彼らの視界を遮るものは何もない。


 武器は近距離での殺傷力を重視している。散弾をばら撒くショットガンは短銃身で取り回しが良く、至近距離での破壊力は絶大だった。刃渡りの短いナイフは義手との連携によって高速の連撃を可能にし、敵の防具の隙間を狙うのに適していた。


 火炎瓶は、簡易製造されたガラス瓶に揮発性の液体を詰めたもので、敵の陣地や逃走経路、さらには食虫植物を焼き払うために使用された。


 中でも異彩を放つのが、小型チェーンソーを備えた小銃だった。旧文明の工具と旧式の火器を融合させたこの改造銃は、銃撃と切断を同時に行えるよう設計されていた。森の中で探索者を追跡するさい、移動を阻む草木に対応するための装備だったが、やがて戦闘にも用いられるようになった。


 さらに、森を徘徊する昆虫の変異体に対抗するため、彼らはグレネードランチャーを携行することもある。榴弾は爆発と同時に焼夷効果を発揮し、昆虫を生きたまま焼き払うことができた。


 彼らは群れで動く。植物や背の高い雑草の中からあらわれ、混乱のなかで敵を殺し、炎の中へと消えていく。〈屍狗會〉とは、死を纏う狗の群れであり――その名に恥じない、冷酷で精強な殺戮者たちだった。

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