モラハラ夫の息子
次の日の昼休み、聖奈は図書室に来なかった。
毎日集合するって約束したのに。
いくら待てども来ない。
昨日、俺が間接キスなんかで興奮してしまったことに幻滅してしまったのか?
恥ずかしい...。
俺の方が年上なのに、余裕を見せられない。
こんなカッコ悪い男、付き合いたくもないよなぁ。
今まで圧倒的勝者だったのに、聖奈にダサいところを見せてしまった自分が情け無い。
予鈴が鳴って、自分の教室に戻る前に聖奈のクラスを覗きに行った。
...いない。
休みか?
俺は1人の男子を捕まえて、聖奈が出席してるか聞いた。
「出席してましたよ。予鈴鳴ったし、戻ってくるんじゃないですか?」
体調不良で保健室に行っていたのか?
そうだ、聖奈は約束を破る子じゃない。
きっと具合が悪くなって、休んでたんだ。
少しでもいいから会って話したい。
俺は5時間目に遅れてしまうのは覚悟で、幼馴染を待った。
ややあって、聖奈が戻ってきた。
「聖奈、なんで約束守らなかったの? 待ってたのに。どこに行ってた? 体調でも悪かった? 保健室?」
時間があまりない。
先生が来てしまう。
俺は言いたいことを一気に言った。
聖奈は俺を無視して教室に入ろうとする。
思わず腕を掴んでしまった。
「心配したんだよ」
嫌われたかもしれないって、心配した。
二日連続で同じことに悩んでいる。
お願いだから俺のこと嫌わないでくれ。
聖奈がいなかったら、俺の人生つまらないじゃないか。
「先輩と友達でいるの、疲れちゃいました」
聖奈の言葉は、俺が求めているものではなかった。
なんで?
昨日は俺のこと嫌いにならないって...。
一日経ったら気持ちが変わるなんて、そんなの酷すぎる!
「...そう。わかった」
上等だ。
俺だってお前みたいな奴、疲れる!
昔から頼んでもないのに女の子を紹介してきて。
俺が他の子に優しくすれば不機嫌な顔をするし。
部活では皆の前で泣き喚いて。
お前のご機嫌を今まで何度とったことか。
あげく子供の頃助けてやったことも覚えてない。
恩知らず!
裏切り者!
俺は聖奈の腕を離して、自分の教室に戻った。
途中チャイムが鳴った。
幸い、先生はまだ教室に来ていなくて、俺は5時間目に間に合った。
「女って、なんて腹立つ生き物なんだ!」
俺は自分の筆箱を持って、開いている窓の外に投げようとした...が思いとどまった。
...筆箱を失って困るのは自分だ。
「どした? 珍しく荒ぶってんじゃん」
前の席に座る聖也が、体ごと振り向く。
「話しかけんな、前向いてろ、殺すぞ」
俺は筆箱を音を立てて乱暴に置く。
「おー怖っ。お前、想至さんソックリ。短気で暴力的。やっぱ血は争えないな」
想至...とは、俺の父親のことだ。
父さんはよく俺を登山やキャンプに連れて行くのだが、俺が行きたくないと駄々をこねるから、父さんは聖也も一緒に連れて行くことで、俺を山に連れ出していた。
その為、聖也と父さんは顔を合わせることが多い。
...俺が、父さんにそっくり?!
成長して、顔がどんどん似てきているのは否めないが、中身まで?!
俺が懸念していたことがどんどん現実になっている。
父さんは未来の俺!
俺は静かに座って、心を落ち着かせた。
父さんみたいにはなりたくない!
何故って...父さんは孤独だ。
本当は寂しがり屋なくせに、虚勢を張って平気なフリをしているのがダサい!
...俺も強がってる。
本当は怒ってるわけではない、ただ悲しいんだ。
悲しみを受け止められなくて、自分の心を守る為に怒りに変換している。
俺は前に座っている親友の背中をつついた。
「聖也、ごめん。八つ当たりして」
聖也は振り向いた。
「いーよ、気にしてないって」
...良い奴すぎる。
俺は聖奈のことを相談しようかと悩んだが、やめた。
聖奈には、もう一回俺から会ってみよう。




