キスしちゃった
「何言ってるんですか」
「したじゃん。今。間接キス」
聖奈は突然立ち上がった。
食べ終わったアイスのカップをベンチに置き、水飲み場まで走る。
...喉が渇いたのか?
俺は聖奈が置いたゴミを空のコンビニの袋に入れる。
後でゴミ箱に捨てよう。
俺はタオルで股間を隠しながら、聖奈に近付いた。
間接キスくらいでマラが反応してしまうとは、我ながら情け無い。
落ち着かせるには少し時間がいるし、とにかく今は聖奈だ。
付き合うか付き合わないか。
こんな大事な話を後回しにしてはダメだ。
聖奈は素直じゃないから、今タイミングを逃したら一生付き合えないかもしれない...いや、俺はそれでもいいんだが。
でもあんな幸せそうな顔をされたら、俺から言ってやってもいいかな、とか思っちゃったりして。
俺は聖奈の肩を叩いた。
「付き合う?」
さあ、俺から言ってやったぞ!
「はい」と言え!
「わ、私、キャメロン・ディアスじゃないですから! サモ・ハン・キンポーですから!」
...何を言ってるんだコイツ。
ああ、俺がキャメロン・ディアスがタイプだと言ったから、気にしてるのか。
「いや...今のお前なら栗山千明に見えなくもない」
マスクのキャメロン・ディアスの次に、死国の栗山千明が好みだ。
可愛すぎて、ジャンルがホラーだということを忘れてしまう。
ちょうど聖奈もそんな髪型だし。
「先輩、私のこと別に好きじゃないじゃないですか!」
「好きが何かはわからない。けど、聖奈のことは嫌いじゃない...あれ? ってことは好きなのか?」
じゃあ、好きってことでいいよ。
とにかく俺はただ、聖奈の時間が欲しい。
聖奈に読ませたい本、一緒に見たい映画がたくさんある。
それが出来れば付き合わなくても良い。
友達と恋人の違いって、セックスするかしないかの違いだろ。
...聖也は恋人じゃなくても、するみたいだけど。
俺の体が欲しいと言うなら...聖奈になら、与えてやってもいい。
...まだまだ子供だと思ってたのに、聖奈のえっち!
「ち、違います! 先輩はただ...発情期なだけです!」
人を動物みたいに...失礼な!
「間接キスして興奮しちゃってるだけ! 恋と性欲を一緒にしちゃダメです!」
う、何も言い返せない。
もしかして、バレてる?
タオルで隠してるから、股間の膨らみは見えてないはずだ。
無意味にタオルを持って、前を隠してるのが不自然なのか?
「でも聖奈は俺のこと好きなんだろ? 俺は別に、聖奈のこと嫌いじゃない。これって成立しない? ああ、頭が痛くなってきた」
タオルを持ってない方の片手で頭を抱える。
頭を悩ませていると、俺のマラは落ち着いていった。
これで堂々とした態度が出来る。
「好きと嫌いじゃないは同じじゃないのか?」
「本を読んでください! 恋愛小説! 読んだらわかるかも!」
なるほど...恋愛小説は読んでないな。
ミステリーやファンタジーに、恋愛要素が入るのはあるけど、恋愛がメインの小説は読んだことがない。
「確かに。俺は星の王子さまが理解出来なかった」
恋愛小説ではないが、サン・テグジュペリの「星の王子さま」の良さが俺にはわからなかった。
読んだのは小学生の頃。
内容はあまり覚えていないが、バラに腹を立てたことだけは覚えている。
父さんにその話をしたら「お前はまだ、バラに出会ってないから」と言われた。
「じゃあ父さんはバラに出会ったの?」と聞けば、「俺にとってのバラは、美智子だった」と返される。
父さんも父さんで、よくわからない。
美智子...母さんがバラなら、母さんとまた一緒になればいいのに。
父さんと母さんは喧嘩が絶えなかった...王子様とバラのように。
どちらかというと、父さんの方が「ワガママなバラ」だったが。
...そうか、父さんが星に残されたバラで、母さんが星を出て行った王子様なのかもしれない。
母さんが父さんの元に戻りたいと思わない限り、二人はもう一緒になれないのか。
そう思うと俺は、急に悲しくなった。
「聖奈が言うなら読むよ。ごめんな、付き合うことが出来なくて」
俺はまだ、ちゃんと恋を理解してない。
恋と性欲を一緒にしてしまったら、聖也のことを責められない。




