青い麦
泣かせてしまったお詫びに、聖奈にアイスをご馳走した。
コンビニに行って、アイスを選ばせる。
好きなだけ買ってやりたいが、残念ながら俺の手持ちは300円しかない。
父さんはケチだ。
俺に必要以上のお金を持たせてくれない。
聖奈は高いアイスを選んだ。
...ギリギリ手持ちが間に合って良かった。
俺達は公園のベンチに座る。
聖奈がアイスを食べている間、俺は日頃の愚痴をこぼした。
その流れでつい、聖也に女がいることを言ってしまう。
聖也には体だけの関係の女がいた。
俺はその女と会ったことがある。
芸能事務所に入っているだけあって美人だが、俺達より10歳も年上だ。
20代の大人の女が、中学生に手を出しているなんて、吐き気がする。
俺はその女を「ダルレー夫人」と呼んでいた。
由来は、昔読んだコレットの「青い麦」という小説に出てくる女の名前。
俺はこの小説が好きではない。
主人公は大切にしている幼馴染の女の子がいるのに、年上のダルレー夫人と体の関係を持ってしまうのだ。
そのくせ、最後は幼馴染と結ばれる。
俺はこれを読んで、何が愛なのか、好きとはなんなのかわからなくなってしまった。
俺はこの小説を聖奈には読ませなかった。
こんな男だと思われたくないし、そもそも俺がハマらなかった本を読ませても時間の無駄だ。
聖也に何故その女との関係を断たないのか聞いことがある。
相手は付き合う気がない。
そんな奴と体の関係を続けて何になる?
聖也は「帝翔はお子ちゃまだな」とだけ言って笑った。
わからない...聖也が幸せそうには俺は見えない。
友達と遊んでる時は楽しそうなのに、ダルレー夫人と会った次の日は、物思いに耽る。
それが恋なのだろうか?
ただ性欲に溺れているだけなんじゃないか?
それを恋と結びつけて、可哀想な自分に酔ってるだけなのでは?
聖也のことは友達として好きだし、尊敬しているからこそ、そんな間抜けな姿は見たくない。
「俺、本当はめっちゃ性欲強い。ぶっちゃけ今日見学に来た女の子達、誰とでもヤレると思う。
でもだからって軽い気持ちでするのは申し訳ないよなあ。どの子も付き合いたいと思わないし」
俺は聖奈に赤裸々に話した。
愛情がなくても、行為は出来る。
俺にとっては排泄と何の変わりない。
きっとダルレー夫人もそう思っている。
だが俺はあの女と違って、誰かを不幸にはさせたくない。
「先輩はどういう人なら付き合いたいって思うんですか?」
聖奈に聞かれる。
「それなんだよなあ。可愛い子や綺麗な子はいっぱいいるけど、どれもピンと来ない。そもそも好きってなんだろう」
父さんが言う「魅力的だが去ってもいい女」...そんな女腐るほどいるが、どの子がいいのかわからない。
そもそも、今俺は聖奈と一緒にいたいのに、他の女の為に時間を作れる気がしない。
「好きなタイプとかは? 芸能人とか」
「キャメロン・ディアス」
俺は即答した。
映画「マスク」でキャメロン・ディアスを一目見てから虜だ。
あんな綺麗な人がいたら、一度は付き合ってみたい。
「外国人が好きってことですか?」
「いや...笑顔が可愛い。あと、セクシーだ」
聖奈はため息を吐いた。
...怒ってる?
あくまで憧れだ。
そんな女性がいたらの話。
出会えたらラッキーだが、あんなにセクシーでキュートな女性は見たことがない。
「そんな人と出会えると良いですね」
...なんか、言い方が冷たい。
もしかして、今俺は青い麦の主人公みたいになってる?
大事な幼馴染がいるのに、歳上のセクシーなお姉さんが好きだと言って。
いやいや、相手はハリウッド女優だぞ?
どんなに俺の家が裕福でも、一生手が届かない。
それに俺は、日本にいたいし。
知らない土地に行きたいと思う性格でもない。
俺は今の環境に満足している。
そもそも、聖奈は俺のこと好きじゃないだろ?
...いや、好き、なのか?
だからそんなに冷たいのか?
可愛い子の椅子になりたいと俺が言った時に怒ったのも、他の子を膝に乗せると思ったから?
いじらしいじゃないか!
俺に気持ちを言えないくせに、嫉妬して不機嫌になって!
抱きしめて、聖奈の頬にキスしてやりたい。
俺にそんな勇気と行動力があれば。




