チョコレート
注文したラーメンと生姜焼きがテーブルに置かれて、俺らは食べ始めた。
「美味しー!」
あまりにも聖奈が幸せそうに食べるから、一口貰いづらい。
仕方がない...生姜焼きで我慢するか。
「今日は買い物付き合ってくれて、ありがとう。来てくれると思わなかった」
また聖奈と一緒に出掛けられる日が来るなんて。
すごく嬉しい。
「脅されましたから。っていうか、私が太ってた頃の写真、本当に持ってるんですか?」
「実家にあったよ。聖奈が東京に戻るって聞いて、アルバム見返したから」
俺はスマホの手帳型ケースを開いた。
ケースのポケットに入れていた1枚の写真を取り出して聖奈に見せる。
「これは昔からずっと持ち歩いてるけど」
俺が中3の頃に聖奈と一緒に撮ったチェキだ。
後ろから俺に抱きつかれて、やや困り顔になっている聖奈が写っている。
「なんでそんなのまだ持ってんの?!」
聖奈、敬語忘れてる。
「大事に持っとくって約束じゃん」
「や、約束?! ...したかな? もうそんなの捨ててください!」
奪われそうになったので、俺は手帳型ケースにすぐしまう。
写真の聖奈も、この写真見せてびっくりしてる聖奈も可愛い。
こんなの捨てられない。
聖奈は絶対戻ってくると思った。
俺とまた会ってくれるって。
11年は長すぎたけれど。
俺たちならまた仲良くなれる。
俺と聖奈が出会ったのは幼稚園の頃。
第一印象は最悪だったかもしれないが、なんとか好かれようと俺は頑張った。
まるまる太っていてサモ・ハン・キンポーにそっくりだった聖奈に、俺は正直に「可愛くない」と言ってしまった。
聖也が「俺の妹は可愛い」とずっと言うものだから、よっぽどの美少女だと期待していたが、全く可愛くない。
とはいえ、1番の友達の妹。
俺は仲良くしようと思ったが、嫌われてしまったようで、近寄っても逃げてしまう。
どうしたものかとずっと考えていたが、ある日、好機が到来した。
幼稚園の頃から俺は、一人でおつかいを頼まれるようになっていた。
泣き虫だった兄は母にべったりで、俺の方がしっかりしていたから、父は俺に「牛乳を買ってきて欲しい」と頼んだ。
当時の俺は、小学生に早くなりたくて、よく兄のランドセルを背負っていた。
その日もランドセルを借りて、その中に牛乳を入れるつもりでおつかいに出掛ける。
途中、公園で聖奈が他の子供にいじめられているのを見つけた。
「助けてヒーローになれば、サモハンも俺と仲良くしてくれるんじゃね?」
と思った俺は、そのいじめっ子達から聖奈を守った。
いじめっ子達は俺を「泣き虫ミョウドウのくせに!」と言った。
俺は兄と双子のように顔が似ていたから、間違えられたのだと思う。
多少暴力的なことをしてしまったが、相手は俺を皇翔だと思っているし、皇翔がやったことにしよう。
いじめっ子達を追い払い、聖奈に話しかけると、兄・聖也の誕生日プレゼントを買いたいと彼女は言った。
聖奈は少ない小銭しか持っていなかったので、俺が持っていたお金を足して、2人で駄菓子を何個か買った。
お金の計算も出来ないし、自分の家の道はわからないし、それで1人で買い物しようとするなんてアホな子だと思った。
ただ、何も出来ないくせに、兄の為に何かをしようとする気持ちは、健気で良い。
聖也が可愛いと言うのも頷ける。
俺はこの日から、聖奈のことを面倒見てやりたいと思った。
聖奈を家まで送って、そのまま帰った俺は、父親にかなり怒られた。
帰りは遅い、牛乳も買ってこない、お金もない。
俺はゲンコツをくらった。
元々泣くタイプでも、母さんに甘える性格でもなかったから、ソファーで1人うずくまって、心の中で父さんの悪口を言った。
それから暫くして、父さんが俺と兄さんを呼んだ。
呼ばれて玄関の方に行くと、聖奈と聖奈のママが来ていた。
聖奈ママにチョコレートを貰って、兄と2人で分けた。
チョコレートの美味しさに、ゲンコツの痛みも恨みも忘れた。




