優しい悪魔
私は立っていられなくなった。
あ...やばい、コーヒーこぼしそう。
ゆっくり、お盆を床に置く。
私はそのまま階段にしゃがみ込んだ。
なんで?
なんで結婚出来ないの?
私達、兄妹なわけでもないのに。
兄も同じことを思ったのか、ダミアンに理由を聞く。
「結婚するなら、聖奈と真逆の人じゃないと」
つまり、私はタイプじゃないってこと?
あんなに私のこと可愛いって言ってくれてたのに。
眩暈がする。
座っているのもつらい。
私はほとんど倒れるような形で、階段の段差に顔を伏せた。
酷い...なんでこんなに私を傷付けるの?
私に優しくしないでよ。
会いに来ないでよ。
私がバカだった。
やっぱりダミアンは悪魔の子で、悪魔なんて好きになるものじゃない。
「聖奈、遅いな。様子見に行ってくるよ」
ダミアンが言う。
やばい、来ちゃう。
立たなきゃ。
でも、力が出ない。
「聖奈? 聖奈、大丈夫?!」
ダミアンに見つかってしまった。
階段で倒れ込んでいる私の体を、彼は起こした。
「どうした? 転んだのか?」
私は首を横に振った。
「ちょっと...眩暈がして」
そう答えると、ダミアンは私の体を抱き上げた。
お姫様抱っこで部屋に運ばれ、ベッドに寝かされる。
数分前の私だったら、軽々と私を抱き上げてくれるダミアンに男らしさを感じたり、距離の近さに照れていたかもしれない。
でも今は、喜べない。
「聖奈どうしたんだ?」
「階段で倒れてた。救急車呼んだ方がいいかも」
ダミアンは兄と一緒に困惑している。
「大丈夫、そんなんじゃないから」
おおごとにされる前に、私は二人を止めた。
「貧血? それとも熱? 体温計はどこにあるの?」
ダミアンの言葉を聞いて、兄が引き出しから体温計を探す。
熱なんかない、そんなの測らなくてもわかる。
「本当に大丈夫だから...!」
愛と憎しみは表裏一体だ。
ダミアンの優しさが、今は憎らしい。
「ごめんなさい...少し休ませて...一人にしてください」
「一人になんて、出来ない。心配だ」
本当に嫌な男。
消えて欲しいのに、消えてくれない。
「帝翔、俺達は出よう」
兄はダミアンの肩を叩いて、部屋を出るよう促した。
「お前、自分の妹が心配じゃないのか? 倒れてたんだぞ」
「...わかった。とりあえずお前は部屋から出ろ。俺が残る」
ダミアンは追い出されることに不満そうだ。
空気が読めないのも彼の欠点。
「いいから。聖奈は家族には甘えられるけど、家族以外の前では強がるから。
だからお前は一旦部屋を出てくれ」
「...わかった」
やっと納得したのか、ダミアンは部屋を出て行った。
堪えていた涙が一気に溢れ出す。
心臓が悪魔に掴まれたように痛い、苦しい。
こんな時でも優しいダミアンが辛かった。
本音を聞いたばかりなのに、認めたくなくて、まだ期待してしまう自分がいるのが悲しい。
兄がベッドに座った。
「...ごめんな」
察しの良い兄のことだから、私が話を聞いてしまったことに気付いたかもしれない。
それ以上は何も言わず、慰めるように私の背中をさすった。




