バレたら負け
「高慢と偏見」を読んで影響を受けたのは、私の方だった。
読みながら、自分とダミアンの関係を重ねてしまう。
私とダミアンの出会いは、主人公エリザベスとダーシーのように、良くはない。
けれども何年も関わっていくうちに、印象は変わっていった。
ダミアンは正直なだけで、それほど悪い男ではないと。
帝翔とダーシーは似ている部分がある。
家が裕福で、顔も整っているから、媚を売る女性が周りに多いところ。
高慢で、人を見下したような言葉づかいをするところ。
非社交的で、人間関係が不器用なところ。
しかし自分が心を開いた者には、ちゃんと大切にするところ。
似ている部分が多いので、私はダミアンのことをダーシー様と同じだと思うようにした。
そう思うと、彼のことが憎めなくなってきた。
......いや、もうはっきり言ってしまうと、私は彼のことを好きになってしまった。
あんなに嫌いだったのに。
何年もかけて、じわじわと毒のように、気付けば愛しく思うようになってしまった。
あの小説をダミアンから借りたのがトドメだった。
もしかしたら、明堂帝翔もダーシー様のように恋愛慣れしていないだけで、心の底では私を愛してくれているのかも。
期待がどんどん膨らんだ。
というのも、ダミアンは自分の時間を、ほとんど私に使ってくれていた。
私は毎日、昼休みにダミアンと屋上前の階段で過ごすようになった。
お互いの趣味である小説や映画の感想を言い合ったり。
日常の他愛もない話もしたり。
学校が休みの日、土日どちらかは家に遊びに来る。
私が行きたい所を言えば、ダミアンはどこでも付き合ってくれた。
兄と3人の時もあれば、2人で出かける時もある。
週6会っていれば、ほとんど恋人みたいなものだ。
むしろ、普通の恋人より会っているかも。
小学生の頃は毎日会ってもなんとも思わなかったのに、中学生になってからは駄目だ。
どうしても異性として意識してしまう。
ダミアンは中3が成長期のピークで、身長はどんどん伸びるし、声変わりも終わって大人っぽくなった。
入学式に撮ったチェキは、本当はまだ持っている。
捨てようと思ったけど、学校で捨てて誰かに見つかったら嫌だし、とりあえず私の生徒手帳に挟んでいた。
捨てるのを忘れている間に、私はすっかり恋に落ちて、写真の存在を思い出してからは毎日それを眺めていた。
4月はまだあどけない顔を残していたダミアンも、夏には立派なお兄さんだ。
成長期が遅れている兄の聖也はまだまだ小っちゃいし、クラスの男子は全員まだ子供っぽいし、ダミアンが大人に見えてしまう。
バスケ部の試合があると、兄に誘われた。
「兄の親友だから仕方なく」と強がったけれど、本当は私も観に行きたくてしょうがなかった。
運動音痴な私は、バスケに全く興味は無い。
ただダミアンが汗をかいてスポーツしている姿が、キラキラして見えた。
遠くからシュートを決めるのも、ボールを敵から奪うのも、ドリブルしているのも、立っているだけでもかっこいい。
もう何してもかっこいい。
普段袖で隠れている腕の筋肉が見れるのが良い。
意外と胸板も厚い。
そんなところばかり見ていたのは内緒だ。
他の女子が名前を呼んで応援してるのに、私は一切声を出さなかった。
好きだとバレたくない、恥ずかしい。
本当はこの場にいる誰よりも好きだと自信があるのに、つまんなそうな顔を作って、密かにダミアンを目で追っていた。
ダミアンが部活を引退すると、一緒にいる時間が更に増えた。
私は映画鑑賞部に入部していたけれど、彼がバスケ部を辞めたのと同時に幽霊部員になった。
学校で映画を観るくらいなら、ダミアンを誘って家でホラー映画を観たほうが絶対に楽しい。
彼も映画好きだったし、私が誘って断ることはなかった。
オーメン、13日の金曜日、悪魔のいけにえ、死霊のはらわた、ヘルレイザーなどなど...有名なホラー映画のシリーズは、ほぼ見た。
海外ホラーあるあるの、お色気シーンも、ダミアンと観るのは気まずくない。
外国人の胸がぽろりと出る度に、「おっぱいだ! えっちだ!」とダミアンがわめくので、呆れを通り越して笑えてしまう。
彼なりに気をつかって、笑いに持って行ってくれたのかもしれない......いや、ダミアンにそんな器用なことは出来ないか。
そんなところも可愛い。
恋は盲目だ。




