嫌いじゃない
「本当に違いますから! 考えてもらわなくても大丈夫です!」
私はアイスを口に運ぶ。
「いいなあ。俺もアイス食べたい」
「自分のも買えば良かったじゃないですか!」
「いや、財布の中300円しか入ってなかった。お前が250円のアイス選ぶからだぞ!」
うっ...それは申し訳ない。
だって安いアイスクリームって、なんとなく味が薄い気がするもの。
どうせ奢って貰えるなら美味しいものが良い。
「いります? 私の食べかけだけど」
「え...マジ?」
本当はあげたくないけど。
そんな羨ましそうに見られたら、そう言うしかない。
ダミアンはアイスを受け取って食べた。
何故か急に無言になるダミアン。
あまり好みじゃなかったのかな?
見かけによらずお喋りなくせに、アイスを見つめたまま静かになった。
「いらないなら返してよ」
溶けてダメになっちゃう。
「...え? あ、ああ」
ダミアンはアイスを返してくれた。
体調悪いのかしら?
ぼうっとしてるし、心なしか顔が赤い。
食べ終わったら運転手さんを呼んで、先に送ってあげよう。
私はアイスを食べる。
「はあ、幸せ」
こんなに美味しいのに、一口でいらないなんて。
「お前って本当に俺のこと好きなんだな」
隣で変なこと言ってる。
やっぱり熱があるんだわ。
「聖奈とキスしちゃった」
遂に虚言まで!
「何言ってるんですか」
「したじゃん。今。間接キス」
ダミアンに言われて初めて気付いた。
私は食べ終わってしまったアイスのカップをベンチに置いて、水飲み場まで走った。
私のバカ...!
何で気付かなかったの!
あの男...だからおとなしくなったんだわ!
水で口をゆすぐ。
ダミアンは私の側に寄って、ぽんと肩を叩いた。
背筋が凍る。
幽霊に触れられた気分だ。
「付き合う?」
鳥肌!
間接キスしたくらいでその気になってる!
「わ、私、キャメロン・ディアスじゃないですから! サモ・ハン・キンポーですから!」
私も私で変なこと言ってる。
「いや...今のお前なら栗山千明に見えなくもない」
髪型だけな?!
私が黒髪ロングで前髪ぱっつんだからってだけ!
「先輩、私のこと別に好きじゃないじゃないですか!」
「好きが何かはわからない。けど、聖奈のことは嫌いじゃない...あれ? ってことは好きなのか?」
この人アホだ。
ものすごくアホだ。
「ち、違います! 先輩はただ...発情期なだけです!」
先輩を動物みたいに言っちゃった。
でもこの際、言葉は選んでられない。
「間接キスして興奮しちゃってるだけ! 恋と性欲を一緒にしちゃダメです!」
そもそも間接キスで興奮するって何?
ハードル低すぎじゃない?
「でも聖奈は俺のこと好きなんだろ? 俺は別に、聖奈のこと嫌いじゃない。これって成立しない? ああ、頭が痛くなってきた」
ダミアンは頭を抱える。
こっちの台詞だ!
頭が痛いのは私の方!
「好きと嫌いじゃないは同じじゃないのか?」
「本を読んでください! 恋愛小説! 読んだらわかるかも!」
我ながら良いアイディアだ。
思えばダミアンは恋愛小説を読まない。
いつもミステリーかファンタジーか...とにかく恋愛小説を読んでいるイメージはない。
「確かに。俺は星の王子さまが理解出来なかった。ただバラに腹が立っただけだ。恋を知ったらあの作品の良さがわかるのか?」
私はダミアンの言ってることがわからない。
あんたはオススメの本しか私に読ませないんだから、私が読んでない作品のことを聞かないで!
「聖奈が言うなら読むよ。ごめんな、付き合うことが出来なくて」
なんか私がフラれてるみたいじゃない!
ああ、どうかダミアンが読む恋愛小説のヒロインが、私と真逆なタイプの女性でありますように!




