完治は難しい
「帰るわ」
「は?」
「帰る」
頼んでいたラーメンが席に運ばれるが、俺は立ち上がった。
「もやしラーメンは?」
「俺の食べていいよ」
テーブルには俺が注文したもやしラーメン定食と、聖也が頼んだチャーハン&半ラーメンセットが並んでいる。
「食えるか、この量!」
確かに、一人でこの量はきつい。
俺は座り直して、ラーメンを食べた。
「俺が笑ったこと、怒ってんのか? それとも、内面に問題あるって言ったことを怒ってんのか?」
聖也が気を遣って聞いてくる。
「いや、怒ってない。今日はもう帰りたい」
「小学生の頃から皆勤賞のお前が早退って珍しいな? 体調悪いのか?」
早退して初恋の人に会いに行きたい、とは言えない。
「実は十年前から患ってる」
優しい聖也は俺の言葉を信じてしまったのか、箸を床に落とした。
嘘ではない、俺は病気だ。
病名は恋の病。
「な、なんの病気なんだ?」
正直に「初恋の人に連絡先渡しに行きたいから早退する」と言ってしまったら、聖也は呆れて社長にチクるだろう。
社長ならまだいい、聖也は俺の父さんにも言いつけてしまうかも。
社長より父さんの方が怖い。
「聖也、それは言えない。言えない病気なんだ」
そう言ってラーメンを大急ぎで食べた。
聖也はショックを受けたようで、言葉が出ない。
店員から新しい箸をもらうが、全く食事が進んでいない。
「じゃ、俺帰るから。早退するって皆に伝えといて」
ラーメン定食を食べ終えた俺は、呆然とする聖也を置いて店を出た。