人間椅子
図書室の椅子に座らされた私。
ダミアンは本棚から一冊の本を持ってくる。
江戸川乱歩傑作選。
短編集だ。
「この中の『人間椅子』を読んで欲しい。他は別に読まなくていいから」
ダミアンはいつもそう。
オススメの物語以外は無理に読ませない。
このスタイルに慣れてしまった私は、自分から本を探す事がなくなった。
題名や、装丁に惹かれて自分で小説を買っても、心に刺さる物語とはなかなか出会えない。
その点、ダミアンがすすめる小説はハズレがないから安心して読める。
人間椅子は短い話だったが、とても引き込まれた。
すぐに読み終えた私はダミアンに感想を言う。
「騙されちゃった。でも本当だったら怖い」
思わず敬語を忘れてしまう。
「官能的で、俺は興奮した。俺も椅子になりたい」
ダミアンからセクシャルな話をされたのは、この時が初めてで、私は反応に困った。
どういう気持ちで私に読ませたのだろう。
自分の性的嗜好を私に共有したかったのか?
共感されたかったのか?
「先輩って...Mなんですか?」
ダミアンはいつも上から目線で話すし、マイペースで人に合わせられないし、強引だからSだと思っていた。
...正直どちらでもいいけど。
「そう、だよな。椅子になりたいって...マゾっぽいか。そうかもしれない」
この世で1番どうでもいい質問しちゃった。
「聖奈ならいつでも俺の膝の上に乗っていいよ」
やだ、冗談でも気持ち悪い。
ちょうど予鈴が鳴ったので私は助かった。
もう十分付き合ったし、さっさとこの場から離れよう。
「先輩の上に乗りたい女の子、いたら紹介しますね」
喜ぶ女の子はうちのクラスにたくさんいる。
早く誰かと付き合えばいいのに。
「俺、別に誰にでも上に乗って欲しいわけじゃないんだけど」
そう言われて、私は立ち止まった。
それって、どういう意味?
『テイトくんって、セイナちゃんのこと好きなの?』
今まで何度も周りの人に言われた言葉。
まさか、そんなわけない...そう思ってたけど。
もし、もし本当にそうなら...私はどうすればいいの。
私はどうしたいの?
アリなのか、ナシなのか。
わからない。
ダミアンは意地悪だけど、言葉が不器用ってだけで、見る角度を変えたら優しい。
勉強は教えてくれるし、面白い本を紹介してくれるし。
あんなに怖くて泣いていた怪談話も、気付けばハマってしまった私。
怖いもの見たさで、ホラー映画を片っ端から借りて見るのが趣味の一つになった。
それでも一人は怖いから、いつもダミアンと一緒に見る。
ダミアンはお化けも幽霊も何も信じてなくて、何も怖がらないから、一緒にホラーを観るのは頼もしい。
思い返したら、昔「デブ」と言われただけで、それ以外で悪意のある行為をされたことはない。
私は...ダミアンの想いを受け入れることが出来るの?
そう悩んでいると、彼は悪気なくこう言った。
「可愛い女の子がいい。そうじゃない子に、膝の上に乗られたくない」
ああ、そうだ、こいつはこんな奴。
見た目重視。
私と過ごした時間の長さとか、思い出の濃さとか、関係ない。
綺麗な子なら誰でもいいんだ。
「先輩のバカ! ほんと大嫌い!」
私は逃げるように走り去った。




