ユダ様
17時。
なんとか定時に上がって、聖奈と会社を出た。
とりあえず会社から徒歩で行ける、ショッピングモールへ向かう。
「うわあ...すごい! 見てください先輩! ユダ様ですよ」
入ってすぐの三層吹き抜けのアトリウム。
天井からぶら下がっている、大きなポスターを聖奈は指さした。
ファッションブランドJUDAS Iscariotのデザイナー、通称ユダ様。
美しすぎるファッションデザイナーと称えられ、自身のブランドのモデルは勿論、テレビ等のメディアにも引っ張りだこだ。
髪の色は奇抜でグラデーション。
ベースは紫、根本は黒、毛先は赤。
この髪色を数年は維持している。
男だが化粧をしていて、韓国系というよりは、薄めのビジュアル系といった感じだ。
「やっぱりユダ様は美しいなあ」
聖奈はうっとりした様子で、スマホで写真を撮る。
確かにユダは女性人気が強いが、まさか聖奈までファンだったなんて。
「俺とどっちがカッコイイ?」
そう聞いてみる。
聖奈はスマホをしまって俺を見た。
「ユダ様には色気があるんです」
なんだそれ。
まるで俺には無いみたいな。
...いや、童貞と既婚者じゃ差はあるかもしれない。
そこは認めよう。
だが、どちらが良い男かなら、負ける気がしない。
化粧を落としたらユダと俺は同じような顔をしてる。
差があるとしたら性格の良さと、年収と、あとは聖奈が言う色気。
...年収も負けてるな。
「でも、クズじゃん」
2回も離婚してるんだぞ。
しかも、ユダの浮気が原因の離婚。
「これだけ見た目が良くて、仕事も成功してたら、モテるのはしょうがないですよ。
むしろ、結婚相手に選ばれただけ幸せだと思います」
やたらユダに肩を持つ聖奈。
聖奈が不倫を許すような子だとは思わなかった。
そんなにユダは魅力的なのか?
「何? 聖奈はクズが好きなの?」
少し攻撃的な言い方をしてしまった。
別に喧嘩がしたいわけじゃないのに。
「...先輩、お兄さんと仲が悪いんですか? 先輩のお兄さんだから、あんまり悪く言わないようにしたんですけど...」
そう、この天井からぶら下がってるポスターの男、キメ顔でいかにもナルシストそうな男が俺の兄。
ユダ様...本名、湯田皇翔。
母親に引き取られた兄さんとは名字が違う。
俺がユダの弟だと知っている人は、俺の周りでは少ない。
親が離婚する前からの知り合いくらいだろう。
「...兄さんと仲は良いけど」
嘘では無い。
ユダは同棲している女と喧嘩すると、決まって俺の家に逃げる。
一つしかない家の合鍵を、兄さんが持っているくらいには、良好な兄弟関係だ。
ユダの女性関係のだらしなさには呆れるが、それ以外の面では素直に尊敬している。
「先輩って、なんか子供みたいですね」
そう言われてむかついたが、すぐに怒りは収まる。
聖奈は俺の手を右手で取って、子供をあやすように左手でポンポンと軽く叩いた。
「先輩の方がカッコイイですよ」
嬉しい!
「当然だ」
聖奈はやっぱり良い女だ。
見る目がある。
さすが聖也の妹、そして俺の可愛い幼馴染。




