疑惑
俺と聖奈が結婚?
何故そんな噂が?
「誰から聞いたの?」
俺の質問に、神殿は気まずそうにする。
「誰ってわけじゃないですけど...先輩、聖奈さんの席を隣に置くし。ずっと一緒にいるし」
聖也は俺にとって、実の兄より兄弟だ。
そんな聖也の妹は、俺の妹のようなもの。
妹の面倒を兄が見て何がおかしい?
「それに、社長の娘である聖奈さんの結婚相手として、先輩は家柄も完璧ですし」
家柄も完璧って...俺は雷門家とは違う。
金持ち一族の雷門家。
一方、父さんは雷門に入社して、たまたま専務になっただけで、元は北海道小樽出身の普通の家庭で生まれた一般人だ。
そして俺は夢がない男。
親友と父親が働いているから、雷門で働いてみようかなと思っただけ。
中学も高校も生徒会長の経験があって、秘書課と生徒会は相通ずるものがあったから上手くやれただけだ。
聖奈の結婚相手には、完璧とは言えない。
それに、父親同士は仲が良いが、俺の両親は聖奈の母親を嫌っている。
「俺は聖奈と結婚したくても結婚出来ないから」
そう言うと、神殿は雷に打たれたような顔をした。
「ど、どうして? まさか、聖奈さんって私と同じ...?」
「ないない。聖奈は『女』だから」
「じゃあどうして? もしかして先輩、不妊症ですか?」
「失礼だな。俺は元気だって。元気すぎるくらい。今朝だって...」
「そこまでは聞いてないです」
神殿は少し考え込む。
「もしかして、腹違いの兄妹とか?」
なんて想像力が豊かなんだ。
俺と聖奈が兄妹なわけ...ないよな?
突然自信がなくなってしまった。
もし父さんが聖奈のママと浮気していたら?
そもそも、父さんが聖奈のママを嫌っている理由は、元々二人は付き合っていて、最終的に父さんがフラれたからからだ。
そんな二人が結婚後に過ちを犯していたら?
その時に生まれたのが聖奈で、俺と聖奈は腹違いの兄妹...だから、父さんは俺達を結婚させたくない、そうも考えられる。
突然恐ろしくなって、俺は神殿を放置して走り出した。
秘書課の隣、役員室に駆け込む。
「父さん!」
部屋の中には父さんと聖也がいた。
父さんはメンマを抱きながらコーヒーを飲んでいて、聖也はパソコンで作業をしている。
二人は同時に顔を上げた。
「俺と聖奈って、兄妹なの?!」
俺の問いにもっと焦ると思ったが、父さんは冷静だった。
「···何を言ってるんだ?」
狂人を観察するような冷たい目で見られる。




