俺のおかげ
「お前、昔はデブだったから。いじめられて、よく泣いてたもんな。可哀想に」
今はスラリとしているが、幼稚園の頃は太っていた聖奈。
顔も体もまんまるで、髪の毛はおかっぱで、その姿はまるで...。
「サモ・ハン・キンポー」
「やめてください!」
聖奈は俺を睨むが、タレ目だから怖くない。
「俺がつけてやったあだ名思い出しちゃった。サモ・ハン・キンポー」
「思い出さないでください!」
聖也がジャッキー・チェン好きで、子供の頃よく一緒に映画を見ていた。
サモ・ハン・キンポーは、昔のジャッキー映画によく出演していて、俺は好きだった。
動けるデブ。
名前の響きもいい。
本当によく似ていたのに、小学校上がる頃にはもう痩せていた聖奈。
「まだ子供だったのに...お菓子も我慢して、運動も始めて...それでちゃんと痩せるなんて偉いよ」
聖奈はまだ俺を睨んでいる。
「先輩が1番私をデブいじりしたんです。すごく嫌だった! 私...先輩を黙らせたかった!」
「へぇ...じゃあ俺に感謝して」
「はあ?!」
「俺のおかげで可愛くなったってことでしょ」
聖奈は無視して、仕事を再開した。
下唇を噛んでいる。
何故そんなに怒る?
俺は事実しか言ってないだろ。
なんとなく帰りづらい。
俺は自分の席に座り直して、聖奈の仕事を横で見ていた。
「お先に失礼します」
他の部下が次々に帰っていく。
気付けば俺と聖奈だけになってしまった。
「...帰らないんですか?」
暫く無言だったが、先に沈黙を破ったのは聖奈だ。
「いや...なんていうか」
謝るか?
でも何に対して?
「...俺は可愛いと思う」
俺がそう言うと、聖奈は顔を赤く染めた。
林檎みたいに真っ赤だ。
「な、なんなんですか、急に...!」
聖奈はどう見たって照れている。
さっきまで怒っていたのに。
やっぱり聖奈は俺のことが好きなんだ。
「可愛いのはお前じゃなくて、ちゃーらいおんの方ね」
そうからかってやると、また怒ってしまった。
「早く帰って!」
左手で俺のカバンを持って、右手で俺の腕を掴んで部屋を出る。
そのままエレベーターに押し込まれた。
「お疲れ様です!」
聖奈はそう言ってフロアに残り、エレベーターの閉じるボタンを押した。




