洋楽が胸に刺さる
「俺には元カノがいたって設定にするから...聖也は余計なことを言わないでくれ!」
帝翔は俺の手を握って懇願する。
「いいけど...でもこんな近くで、そんな大声で話してたら、多分マリアに丸聞こえだぜ」
俺はずっと気になっていたことを言った。
店に俺達以外の客はいない。
バックストリートボーイズの「I want it that way」が流れているが、それ以外は静かだ。
カウンターの方を見ると、俯きながらグラスを拭いている美智子さんが笑いを堪えている。
そして同じく俯きながらスナック菓子を食べているマリア。
絶対に聞こえてたはずなのに、気付かないフリをしてこちらを見ない。
「マリアさん、今の話聞いてました...?」
帝翔が聞くと、マリアは大袈裟に首を横に振った。
「いえっ、全然! 何も!」
演技下手かよ。
だが純粋な帝翔は信じてしまった。
頭良いんだか悪いんだか。
俺達は席に戻った。
「聖也には黙ってましたけど、実は昔彼女がいて。だから童貞ではないんですよ」
わざわざ否定するのがもう童貞っぽい。
俺は呆れながら、煙草に火をつける。
「へえー、どんな子だったんですか?」
マリアも悪い。
ニヤニヤしながら質問している。
狼狽える帝翔を見て楽しんでいた。
帝翔はわかりやすく目が泳いで、助けを求めるように俺を見た。
「えっと...髪は明るくて肩までの長さで...睫毛が長くて、顔は濃い方かな...水商売やってそうな格好いつもしてて...」
それって俺か?
よりによってモデルは俺かよ。
普段女に囲まれて仕事してるのに。
「名前は聖子ちゃん」
やっぱり俺だった。
マリアは笑う。
とりあえず、帝翔が無害だとわかればそれでいいか。




