騙されやすい男
「へえ、帝翔が女の子を気に入るなんて珍しい。これも何かの縁だし、いま連絡先交換すれば?」
聖也がナイスなアシストをする。
やはり持つべきものは友だ。
「帝翔は良い男だぞ。イケメンだし、高学歴だし、金は持ってるし」
聖也は思いつく限りのことを言って、俺の株を上げる。
「それに、こう見えて童貞だし。ガード固いから浮気する心配なし」
聖也!
童貞は長所のうちに入るのか?!
「聖也! ちょっとこっち来い!」
俺は聖也を椅子から立たせる。
腕をつかんで、入口のドア付近まで引っ張った。
「童貞って言うな! 何で言うんだよ!」
「だって童貞じゃん」
「だからって言うなよ!」
「見栄張ったってしょーがねーだろ」
聖也は童貞じゃないから童貞の気持ちがわからないんだ!
二十八にもなるのに、まともに経験がない男の気持ちが!
「俺が童貞なのは、初恋の人に未練があったからだ! その初恋の相手が目の前にいるんだから見栄張ってもいいだろ!」
聖也は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして俺を見る。
そして何かを考えるように少し黙ってから口を開いた。
「わかった。俺が悪かった」
聖也は謝る。
不満そうなのが気に入らないが、喧嘩してもしょうがない。
「俺には元カノがいたって設定にするから...聖也は余計なことを言わないでくれ!」
聖也の手を握って懇願する。
「いいけど...でもこんな近くで、そんな大声で話してたら、多分マリアに丸聞こえだぜ」
言われてハッとした。
店は俺達以外ノーゲス。
洋楽が流れているが、それ以外はしんとしている。
カウンターの方を見ると、俯きながらグラスを拭いている母さんと、同じく俯きながらスナック菓子を食べているマリア。
「マリアさん、今の話聞いてました...?」
俺が聞くと、マリアは顔を大きく横に振った。
「いえっ、全然! 何も!」
彼女は、ぼーっとしていたから何も聞いてないと言う。
よ、良かった。




