カラオケへ
「友達と...待ち合わせしてて」
そういえば卒業式の後は予定があると言っていたな。
クラスの子と集まるのかな?
俺の時もそうだった。
卒業式の後、一部の同級生で集まってカラオケに...俺は行きたくなかったけど、聖也が「今日くらい我慢しろ」と言うから参加した。
カラオケは嫌いだ。
正確に言うと、大人数で行くカラオケが嫌いだ。
皆の知っている、盛り上がる曲を歌わなきゃいけない空気。
聞きたくもない下手くそな歌。
端っこの席で携帯をいじってると、寄ってくる猫撫で声の女。
面白くないし、うるさいし、つまらない。
聖奈もそんな集まりに参加するのかな?
「何時待ち合わせなの? 友達来るまで俺も一緒にいていい?」
こんな可愛い子、1人にさせたらナンパされちゃう。
俺が変な男から守ってやらないと。
「えっ...だ、大丈夫です!」
「友達来たらすぐ帰るから」
せっかく会えたのに、もうバイバイは嫌だ。
ほんの僅か...5分でもいいから、着飾った聖奈を見ていたい。
土曜日もお洒落してくれるかな?
「...友達は来ないかもしれないし」
聖奈は泣きそうな声で言う。
「どういうこと?」
「1時間も待ってるんです。連絡も返ってこないし、もしかしたら来ないかも」
はあ?!
1時間も立って待ってるってことか?
「...帰れば?」
「でも、遅れて来るかもしれないし」
「充分待っただろ。怒って帰ってもいいレベル」
時間を守らない奴なんて嫌いだ。
そんなの縁切ってしまえ。
「何か事故に巻き込まれちゃったのかも」
口ぶりからして、待っている友達は1人のようだ。
同級生で集まるわけではないのか。
「だとしたら尚更、ここでずっと待っていてもしょうがないだろ。『先に帰ります』って連絡して帰れば?」
「そうですよね...」
聖奈が可哀想だ。
おしゃれして、お化粧までしたのに、約束をすっぽかされるなんて。
俺が気付かなかったら、声をかけなかったら夜まで待っていたかもしれない。
「せっかくだし、カラオケ行こうよ。奢るから」
久々に聖奈とまともに会話が出来て嬉しい。
躊躇している彼女の腕を掴んで、カラオケまで連れて行った。
大人数のカラオケが嫌いなだけで、歌うのは好きだ。
部屋に入ってすぐ、俺はフードメニューを開く。
腹が減った。
「何か食べる? 俺はラーメンと炒飯。飲み物はコーラかな」
夜ご飯の前だけどいいや。
どうせ作るの俺だし。
父さんの分だけ作ればいい。
聖奈は俺に遠慮しているのか、ウーロン茶だけ頼んだ。
俺は勝手に、聖奈の分としてピザも注文した。
彼女が食べなかったとしても、俺が食う。
注文した食事が届いても、聖奈は口をつけなかった。
ずっと俯いていて、こちらまで陰陰滅滅とした気分になりそうだ。
こういう時は話に触れた方がいいのかわからない。
俺は様子を見ながら、ラーメンをすすった。
「私、からかわれちゃったのかな。本当は最初から会う気なんてなかったのかな」
やっと口を開いたと思ったら暗い話だ。
なんでそんなにネガティブなんだ。
俺だったら...そんな無礼な奴のことは忘れる。
「向こうから連絡来ないの?」
答える代わりに、聖奈の瞳から涙が静かに流れた。
お、俺の質問が悪かったか?




