嫉妬
その男は強敵だった。
数ヶ月経ったが、全然消える気配はない。
聖奈は化粧まではじめて、垢抜けていった。
今まで興味なかったくせに、ファッション雑誌まで買うようになった。
どんどん綺麗になっていく...これが恋の力?
「受験生なんだから、男と遊んでる場合じゃないだろ」
勉強が終わるとすぐ携帯をいじる聖奈に、俺は注意した。
「私、ちゃんとやることはやってる。勉強サボってないでしょ。
学年順位4位以内キープしてるし」
受験生の頃の俺みたいなことを言っている。
聖奈は本当に成績が良くなった。
調子に乗って生意気になってる。
誰のおかげでキープ出来てると思ってんだよ。
俺だろ。
俺の前で他の男とメールすんなよ。
「どのくらいの頻度で会ってるの?」
良い感じの男がいるわりには、俺がいつデートに誘っても聖奈は断らない。
まあ俺も、週1は父さんと過ごさなきゃならないから、日曜日はノーマークなのだが。
「月1くらいですかね?」
「月1!」
俺は笑ってしまった。
「その男、絶対他に女がいるよ! 普通好きだったらもっと会うから」
聖奈は携帯から顔を上げた。
冷たい目で俺を見る。
「好きな人、出来たこと無いくせに。何がわかるんですか?」
わかるよ。
聖奈も聖也も好きだ。
好きな人間にはたくさん会いたい。
「あの人は忙しいんです。将来の夢がある人だから。
夢も目指すものも何もない、先輩とは違って」
は?
夢は...確かにないけど...俺だって部活があった時は忙しかった。
生徒会、バスケ部、帰ったらすぐに洗濯物を取り込んで、ご飯とお風呂の準備。
朝も早く起きて朝ごはんと、父さんのお弁当作り。
学校行く前に掃除と洗濯。
そして眠い目を擦りながらバスケ部の朝練...。
そんな俺でも、聖奈に会いたくて毎日家の前を通って帰った。
10分でいい...いや、5分でもいいから会って話したい。
ただの友達ですらこんなだから、俺に彼女が出来たらもっと会いたいと思うのだろう。
「忙しくても時間は作れるから。『忙しい』は言い訳にならない。
好きな女の為に会う時間作れない奴って、無能だよ。
それか、それほど聖奈のこと好きじゃないか」
俺がそう言うと、聖奈は泣き出してしまった。
「どうしてそんな意地悪言うんですか!」
意地悪なんか言ってない。
俺は事実を言ってるだけだ。
「泣くなよ。俺がいじめてるみたいじゃないか」
「いじめられてます! 先輩、ずっと酷いこと言ってくる」
酷いこと?
怪しい男だと思いながら、「良い男だね」と嘘をつくことは出来ない。
どうでもいい女なら黙ってた。
でも聖奈は俺の大事な人だ。
上辺だけの甘い言葉が優しいと思うなよ。
そんな男より俺の方がよっぽど優しい!
「もう先輩と話したくないです!」
「あっ、そう。わかった」
苛々する!
そんなに俺と話したくないならいい!
勉強も教えないし、映画も観劇も誘わない!
クズ男に惚れて破滅しろ!
俺はカバンを持って、部屋を出ようとした。
出る前に振り返って、聖奈の様子を見る。
椅子に座ったまま泣いている聖奈が、とても小さくて、か弱くて、見ているだけで辛くなった。
俺はカバンを床に置いて、聖奈の側に寄った。
「ごめん...泣かないで。俺が悪かった」
謝ると、聖奈は涙いっぱいの目で俺を見上げた。
胸が苦しい。
「他の男と楽しそうにメールしてるの、なんかムカつく。だから、嫌なこと言った。
早くそんな男、終わればいいと思って。ごめん」
俺の方が先に終わったら意味ないじゃないか!
俺の方が絶対良い男なのに、俺より気に入られてるその男が気に食わない。
携帯に気を取られて、俺との会話が雑になっている聖奈が嫌だ。
もっとちゃんと俺に構って欲しい。




