バレンタイン
その年のバレンタインは日曜日で、次の日の月曜日に学校でチョコをたくさん貰った。
放課後の雷門家に持って行き、クラスの子から貰った手作りチョコを聖奈にあげた。
俺は潔癖症だから、他人の手作りが食べれない。
ちゃんと手は洗ったのか?
調理器具は綺麗なのか?
どんな環境で作ったかわからない物が食べられない。
...飲食店まで気にしてしまうと何も食べれなくなるので、外食は(考えないようにしているから)平気だ。
貰った手作りチョコを聖奈にあげるのは昔から。
彼女は喜んで貰った。
市販のチョコはあげない。
俺だってチョコレートは好きだ。
「聖奈は何で俺にチョコくれないの?」
今まで聞いたこともないのに、何故かその年は聞いてしまった。
「えっ...だって、手作り食べれないじゃないですか」
「別に、買ったチョコでもいいじゃん。
ていうか、聖奈だったら手作りでも良いよ。聖奈のこと汚いと思ったことないし」
聖也には毎年作ってると聞いていた。
ついででも良いから、俺に渡すって発想はないのか?
「...そっか。先輩甘党ですもんね。
今からで良ければ、買いに行きましょうか?」
「なんか、俺が買わせたみたいで嫌だ」
我ながら面倒くさいことを言う。
聖奈は呆れた顔をした。
「もう...今まで欲しがらなかったのに」
俺だって何で急にねだったのかわからない。
最近聖奈と距離を感じるから、安心する為に欲しかったのかもしれない。
「もうすぐ受験なのに、こんなんじゃ集中出来ないよ」
バレンタインと高校入試、何の繋がりがあるのかと、聖奈は首を傾げた。
「そわそわする。聖奈がずっと冷たいから」
「冷たくなんて、してないです」
そう、聖奈は冷たくしていない。
前と変わってないはずなのに...でも、何かが違う!
「チョコレートはいらないから、ハグして欲しい」
ハグしてくれたら、安心する。
俺は嫌われてないんだなって。
「えっ...い、嫌です」
...普通に断られた。
傷付く!
「じゃあ帰る」
俺がハンガーから自分のコートを外そうとすると、聖奈は止めた。
「ま、待ってください! 恥ずかしいじゃないですか...ハグなんて」
引き止められただけで嬉しい。
俺はにやけてしまいそうになるのを堪えた。
簡単な男だとは思われたくない。
...面倒くさい男だとは思われてそうだが。
「にーやにもハグなんてしないのに」
俺は母さんに会う度ハグされる。
母親だからしてくれるのかもしれないけど。
「俺の膝の上に座るか、ハグするかどっちがいい?」
「...どっちも嫌」
「帰る」
コートを羽織ろうとすると、腕を掴まれて止められる。
「じゃあハグします! 前からは恥ずかしいんで、後ろからでもいいですか?」
俺は頷いて、ソファーに座った。
立ったままバックハグをされたら、身長差で俺の顔の位置に聖奈の頭が来ないと思ったから座った。
聖奈はソファーの上で膝立ちになって、後ろから抱きしめてくれる。
腕に包み込まれて、安心感で泣きそうになった。
「先輩...受験頑張ってください」
「うん」
元々自信はあったけれど、聖奈に応援されたらなんだって出来る気がする。
寂しさが埋まると、今度は体が熱くなってきた。
なんて恥ずかしいことを要求したのだろう。
ハグして欲しいだなんて...俺は冷静じゃなかった。
聖奈の体温、髪の匂い、息遣い...ドキドキする。
背中に当たっている柔らかいものは、胸かもしれないと思うと、それしか考えられなくなってしまった。
当たり前に反応してしまう。
俺はクッションを膝の上に置いて、バレないようにした。
「コアラになりたい」
「えっ、どういうことですか?」
「コアラの親子」
「...先輩って、たまによくわからないこと言いますよね」
なんで伝わらないかな。
コアラの親子みたいに、ずっと一緒にいたい。




