時給2000円
10月末。
父さんに突然、銀行のキャッシュカードと通帳を渡された。
「お前名義の口座を作っておいた。お金は自由に使っていい。その代わり小遣いはもうやらないからな」
通帳を開くと、40万ほど入っていた。
「龍一から、家庭教師のバイト代だ」
父さんの話によると、これは俺が聖奈の家庭教師を始めた約4か月分の給料だそうだ。
中学生は法律上、原則労働することが出来ない。
父さんの給料に、特別手当をのせて俺にバイト代を払ったのだという。
週6で1日2時間、時給2000円の計算だそうだ。
父さんはわざわざ俺の口座を作って、特別手当の金額を入金した。
「龍一からの小遣いだと思え」
中学生がひと月に10万のお小遣いは高すぎる!
父さんにお金をせびっても500円しか貰えないのに。
俺は次の日、聖奈パパが帰ってくるまで雷門家で待とうとした。
「パパはいつも帰ってくるの遅いよ。0時過ぎることが多いし」
聖奈が言う。
俺の父さんは帰ってくるの早いのに。
大人になってから知ったが、接待で女の子の店に行っているから、帰りが遅いのだ。
父さんも、銀座のクラブで母さんと出会ったわけだから、店に行くことが悪いとは言えない。
接待で行く女の子の店は仕事だ。
父さんの帰りが早いのは、「息子が1人で待っているから」と俺を理由にして、飲みに行くのを断っていたから。
父さんはずっと家族思いだった。
そうとも知らず、中学生の俺は「父さんは全然働かない怠け者だ」と決めつけていた。
仕方がないので、その日は帰った。
聖奈パパと会えたのは土曜日。
俺は口座から全額下ろし、封筒に入れて、龍一さんに返した。
「このお金は受け取れません。俺はただ、好きで聖奈に勉強を教えてるだけなんで。
俺にとっては、遊びの一環です」
そう言ったが、聖奈パパは受け取らなかった。
「さすが、想至だね。養育費にまわさないで、全額しっかり息子に渡したんだ。
そのお金は帝翔くんのものだよ。働いた対価だ。
聖奈の中間テストの結果見た? 77位から26位に上がったんだよ。
帝翔くんには感謝しなきゃならないな」
そんなに上がったのか?
そこまで出来るなら、何故今まで勉強しなかったんだ。
「聖奈の成績が上がったから、帝翔くんにお小遣いをあげるんだ。次の期末テストで順位が下がったら払わないよ。
そうだね...30位以内なら時給2000円。50位以内なら時給1000円。
それ以下なら払わない」
ぐっ...プレッシャーだ。
成績なんて聖奈のやる気次第だろ。
正直お金なんてどうでもいい。
聖奈を俺と同じ高校に入れるのが目標だ。
俺としては、最低でも15位以内には入って欲しい。
欲を言えば4位以内に入って欲しい。
俺も聖奈に頑張って欲しいが、お金を貰うのは気が引ける。
「そのお金で携帯でも買ったらどうだい? 想至から、息子の携帯を1か月で没収したって聞いたけど」
龍一さんは提案する。
確かに...携帯は欲しい。
携帯さえあれば、聖奈と連絡がとれる。
俺が高校に上がって、聖奈が中学でひとりぼっちになったとしても、電話をかければ寂しい思いをさせなくて済む。
「...わかりました。このお金は出来るだけ聖奈に還元します」
俺はすぐに父さんと携帯ショップに行った。
父さんに没収された端末がまだ残っていたので、新しいのは買わずに、前回の携帯で契約をした。
「絶対に俺はお前の携帯代を払わないからな!」
父さんに念を押される。
もう携帯でネットゲームはしない。
あくまで連絡だけだ。




