俺の両親
家から徒歩5分。
BAR SHIMONに着く。
時刻は20時過ぎ...まだ開店したばかりで、お客さんは誰もいない。
母さんはカウンターの中にいて、お酒のボトルを拭いていた。
「...どうしたの? 親子揃って」
俺はこの時初めて母さんの店に入った。
中学生が酒場に入ってはいけない。
親と一緒なら大丈夫だろうか?
父さんはカウンター越しに、母さんの目の前に立った。
何か言いたげだが、何も言わない。
「水くらい出せ。気がきかない女だな」
やっと出た言葉がそれだった。
...そんなんだから嫌われるんだよ。
「何かお酒飲む? いつもの芋焼酎? 帝翔はジュースね」
母さんは父さんの態度に慣れてるのか、気にしていない様子だった。
俺と父さんは席に座る。
「お腹すいてる? 何か作る? めんどくさいけど、お腹すいてるのなら作ってあげるわ」
母さんは昔から料理が嫌いだが、父さんの前では一応気を遣う。
グラタンを作ったから大丈夫だと、俺は母さんに伝えた。
「えっ、グラタン置いて来たの? 冷めるんじゃないの?」
母さんが不思議に思うのは当然だ。
この状況をどう説明していいのか、俺にはわからない。
父さんは出されたお酒を一気に飲み干して、カバンから財布を出した。
「会計」
「もう帰るの? 何しに来たのよ...」
滞在時間5分も経っていない。
父さんの奇行に母さんは呆れる。
「釣りはいらない」
父さんは3000円をカウンターに置いた。
「帝翔、大丈夫? お父さんに虐待されてない?」
「されてるかも」
冗談まじりに母さんと話す。
母さんは時々家に来るから、そんなに久しぶりではなかった。
「帝翔が勉強しないで、女と遊んでばかりいるから注意したんだ。受験生なのに」
父さん...その言い方はずるい。
俺が悪いみたいじゃないか。
...本当のことなんだが。
「勉強すればいい? 聖奈と勉強すれば文句ない?」
俺はわざと聖奈の名前を出した。
母さんの前で聖奈の否定は出来ないだろう。
否定してしまったら、元カノに未練があると思われるから。
その誤解を解く為に父さんは来たはずなのに、いざ母さんを目の前にすると何も言えないんだ。
父さんはプライドが高いから、本当は今でも母さんのことが好きなのに、気持ちを隠している。
「母さん、俺成績下がったわけじゃないんだよ。どの高校でも行けるって、先生にも言われてるんだ。
家事もちゃんとやってるし、幼馴染の勉強を見てあげるくらい、良いと思わない?」
俺は母さんを味方につけようとした。
「聖奈ちゃんって、雷門家の? 昔からずっと仲良いわね。
将来のお嫁さんになっちゃったりして」
母さんの言葉を聞いて、父さんが俺を睨む。
ああ、もう、面倒くさい!
「結婚しないって! 俺、超美人と結婚する予定だから。
父さんみたいに、母さんのような綺麗な人と結婚するんだ。聖奈は母さんと比べたら全然レベル低いよ」
こう言えば父さんも満足だろ?
父さんのことも、母さんのことも持ち上げられるし。
「帝翔...私みたいな人と結婚しても、別れちゃうかもしれないのよ。顔だけじゃなくて、内面も見なさい」
母さんはそう言うが、自分が美人であることは否定しない。
俺は混乱した。
父さんは「女は顔か金だ」と言って、母さんは「内面を見ろ」と言う。
完璧な女なんているのだろうか?
「帝翔、早く飲め。帰るぞ」
父さんが苛立った様子で促す。
俺はオレンジジュースを一気飲みした。
母さんに一言挨拶を交わすと、父さんと共に店を出る。
帰り道、父さんの小言は止まらなかった。
「内面を見ろ、だと? 俺のこと金と顔で選んだくせに。
ああ、だから後悔してるのか。内面で結婚相手を見なかったから。
なんて腹立つ女なんだ。嫌みたらしい。
俺はあの女の、人に媚びないところが気に入ったんだ。俺こそ内面を見ていた。
帝翔、あんな女褒めるな! 調子に乗るだけだぞ」




