魔法使いにはなりたくない
俺の名前は明堂帝翔。
とある会社で働くサラリーマン。
「明堂さんってカッコイイよね」
「彼女とかいるのかな?」
「そりゃあ絶対いるでしょ。
むしろあれでいなかったら、おかしくない?」
エレベーターを待っていると、同じくエレベーターを待っていた他の部署の女性二人が小声でそう言った。
本人達は聞こえてないと思ってるだろうが、この距離で聞こえないわけがない。
それともわざと言っているのか?
名前も知らない女二人。
彼女達の方を向くと、一瞬だけ目が合ったが、
すぐに外された。
顔を赤らめて下を向く女達。
こういう場面は珍しくない。
俺は生まれつき顔が良い。
嫌味に聞こえるかもしれないが、事実なのだからしょうがない。
物心ついた頃から女の子にモテていた。
顔も良くて成績も良い、運動も出来る。
自分で言うのもなんだが、欠点なんてない。
だが、俺はどうやら「おかしい」 らしい。
彼女いない歴=年齢。
生まれてから一度も彼女が出来たことがない。
寄ってくる女はたくさんいたが、うまく行ったことはない。
親友いわく、俺は女性の理想が高いとのこと。
自分ではそうは思わない。
顔が良ければ性格なんてどうでもいい。
俺はとにかく見た目重視だ。
美しい俺に相応しい、美しい女性が良い。
ただそれだけ。
しかしなかなか俺に相応しい女性がいない。
二十八になっても彼女はおろか、一度も夜の経験がない。
世間ではそれが「おかしい」 らしい。
二十半ばくらいまでは正直に言っていたが、「ゲイなのでは?」と周りに疑われるようになってきてからは言わないようにしている。
同性愛に偏見はないが、俺は女が好きだ。
美しい女が好きだ。
ただでさえ彼女が出来ないのに、ゲイだと誤解されたら、より出来ないではないか。
だから俺は隠すようになった。
あと二年で魔法使いになってしまうことを。