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縁生  作者: たると
5/29

1-5

彼女は先にあの軽い扉を開けて外に出ていった。

あの扉が閉まるまでに私も出よう。

簡単な誓いを立てて、急いで靴に足をねじ込んだ。

地面をつま先で叩いて、迫りくる扉とハイタッチするように

押し返した。

靴のクッションが丸まり、踵で引っ掛けるように直す。

彼女は私に一瞥をくれると、先に歩き出していた。


 敷地を抜けると、すぐに小さい橋があった。

橋というよりは、小川にかけられた小さな道路であったが。

立ち留まって見下ろすと、土色の水が白い空気を孕んでいた。

彼女は興味がなさそうに目をそらし、以前祖母と行ったことがある

川の切れ目まで歩こうと言い出した。

橋を戻り、車で通った道とは逆方向へ進んだ。

彼女は、草を一本引き千切り、小さくいじりながら

友達の愚痴や喧嘩の話。

父親に連れられて行ったプールの話。

テレビや漫画の話を矢継ぎ早に続けていた。

喧嘩の話のときは、どうしても彼女に肩入れしてしまう。

自分に有利な内容しか話していないためだろうか。

私の反応に彼女は満足していたようだった。



「祥貴は今日ご飯食べていくの?」

私が、父が17時に迎えにくるから、夕食前には帰るだろうと

伝えると。

しきりに、食べて行くようにと説得し始めた。

彼女も迎えの時間は知っていたはずだった。

説得の機会を作りたかったのだ。

私にも、彼女にも決定権がないことを私は理解していた。

彼女にはそれがなかった。

彼女の拙い言葉で、どれほど時間をかけようと

私には決めあぐねるふりをして、彼女の希望に

埋まりたいことを態度で表すことしかできなかった。

それがまた彼女を助長した。



「お母さんに聞いてみるね。」



その言葉は、再び私を不安と体裁のための思考に沈めた。

彼女は道を引き返した。私も後ろを追っていく。

雨を纏った雑草。輝いて見えたなどとは言わない。

ただ、時を経た今もなお、そこにある気がしている。

記憶は美化されるものだろう。

然し、あえて穢そうとは思えなかった。


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