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縁生  作者: たると
17/29

2-5

 翌朝の天候は明るかった気がしている。

満ち足りすぎても、記憶から零れる物も多かった。

ベランダに出て煙草を喫んだ。正しく並んだ木々の緑と

煙の白を視界に燻らせた。

ドア越しに彼女を振り返ると、彼女も起きて朝食の支度をしていた。

部屋に戻り、ベッドに腰かけた。



「今日は授業ですか。」



「ああ、午前中に終わるよ。」



「そうですか。私は夕方まではかかりますから。

 鍵を渡しておきましょうか。」



「いや、少し友人と飲んでくるよ。」



「そうですか。あまり遅くなると困りますよ。」



「そう飲める体質でないからね。昨日と同じ頃には戻るさ。」



私の言葉に明暗を切り替える彼女の表情を面白く、愛おしく思える気がした。



「じゃあ、先に出るよ。」



「ええ、なるべく早く戻ってくださいね。」






   ***






大学の授業では、シャルロッテが壁に掛けられた拳銃の埃を拭っていた。

天邪鬼に他の書籍や物語を好もうと努力しても、現代まで残ったこのロッテを

愛さずにはいられなかった。

自身の心のために、幾らか身勝手にロッテに責任を持たせ、それを喜びとして

愛を感じるこの男が、実に本能的で十分に理解するに足りた。

果たして私は、おおよその人間を他人としてきた私は、いくら親友のためとはいえ

手に入れた愛を残して、命を投げうつことができるだろうか。

それが美しくあるために残された手段であれば、可能なのだろうか。



 私はいつも通り煙草を喫んで、電車に乗った。

何件か本屋を巡り、でかでかと「大賞」の文字を飾った本を一冊買ってみることにした。

カフェに入り、友人の授業が終わるまで時間を過ごした。

しばらく後に、一本の電話が入り、丁寧に栞を挟んで本をしまい、店を出た。

地下鉄に乗って伏見駅まで向かった。

7番出口を出ると、友人の将大がすでに階段上で待っていた。



「よう、祥。待たせて、すまんな。」



「別に問題ないさ。」



「ちょっと早いが、まぁいいだろう。行っちまおう。」



すぐ近くの居酒屋に向かった。

木造の2階建てで、元々黒い木を使ったのか、変色したのかわからないが、

コクのある黒い建物がビルの間を埋めるように佇んでいた。

店に入ると、まだ時間が早いためか、客はまばらに入っており、我々は案内された席に座った。

将大は、同郷の友であり、はっきりと親友と呼べるものだった。

ビールを2つ頼み、適当な肴を三つ四つ拾ってきた。



「お前は、俺のために死ねるか。」



「なんだいきなり。俺を殺したいのか。」



「いやそうじゃない。ただ、授業中そんなことを考えていただけだ。」



「んー、死ぬときの心中なんてわかるものでもないからな。」



「そう正論をかましてくれるな。一興としてに決まっているだろう。」



「今の精神をもって、その漠然とした質問に答えるとするならば、死ねないな。」



「いやに含みのある言い方だな。でもまぁ、それを聞いて安心したよ。」



「飲み始める前にする話ではないだろうに。」



ビールが運ばれ来て、二人は乾杯もせずに飲み始めた。

ビールが喉を通り、一緒に飲み込んだ息を吐く。

苦い穀物の香りがアルコールと一緒に鼻に抜けた。











「あぁそうそう、まだ先の話だけど。

 年明けに一度実家に帰るんだ。お前も一緒に来いよ。」



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