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煙が喉を擦るように通っていく。
一拍開けて、彼女のいない空間に吐き出した。
「いや、いない。」
「そうですか。では、なるべく早く煙草を消してくださいね。
寒くて、そう待ってはいられませんよ。」
「しばらく我慢していたんだ。そんなに急かしてくれるな。」
「私も我慢をしていたのですよ。」
「なんだ、じゃあ君も吸うかい。」
「愚鈍を演じても面白くないですよ。石原さんとの会話、聞いていらしたのでしょ。」
私は口惜しいふうに煙草をすり潰した。
私が歩き出すと彼女も隣に寄って歩いた。
いつもは別れる駅前の信号を通り過ぎる。
「帰らないのですか。」
「帰って欲しいのかい。」
「答えるのはあなたですよ。」
話している間も歩みを止めず、それを答えとして彼女に送った。
いつもは通らない道だった。
ガラス張りの美容院の前を通る。防犯灯が灯り、薄明るくぼやけたいくつもの鏡の前には
紺藍色の椅子が並んでいる。
コンビニの明かりは、私に一層夜を感じさせた。
「いい加減、言葉にしてくださってもいいのですよ。」
「必要のない言葉は、汚らわしいだけだよ。」
「そうやって上手く言いくるめられるのは気分が良くないものです。
まあ、今回は充分に足りた気持ちですから、許しますけど。」
「そうはっきり言われるのも悪くないものだね。」
「ほら、汚らわしいものばかりでないでしょう。」
アパートに着くと、入り口のポストを確認してエレベーターに乗った。
4階でドアが開き、彼女に連れられるように降りて行く。
玄関を開けると、甘く香る小さな部屋に明かりを灯した。