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縁生  作者: たると
15/29

2-3

「食べ終わったら、茶碗だけ洗っておいておくれ。」



大将が、二人分の食事をお盆に乗せて持ってきた。

奥さんは、カウンターに並べられた椅子を壁際に寄せて

掃除を始めていた。



「二人とも奥の座敷で食べていらっしゃい。」



彼女にお盆を手渡して、エナメル質の前掛けを外す。

割烹白衣を着たまま厨房を出た。

座敷に入ると対面に食事が置いてあった。

互いに労い、席に着き、食事に手を付けた。



「今日は、お客さん少なかったですね。」



「ああ、そうだね。いやに長く感じたよ。」



「人が少ないと石原さんの話し相手をしなくちゃですからね。

 むしろ疲れますよ。相変わらず、気の利いたことを言いませんし。」



「大変そうだったね。」



「聞いていらしたんですか。だったら助けてくださってもいいじゃありませんか。」



私は憐れみを含ませて笑ったが、同時に私の発した不用意な言葉に肝を冷やした。



「いや、聞こえてはいないよ。あいつの話は、常に煩わしいからね。

 勝手にそう思っていただけさ。」



「だったら尚更ですよ。毎度毎度、記憶を失くしたように男、男と聞いてくるんですもの。」



私は少し身構えたまま、愚痴の聞き役に徹した。

彼女は心からではなさそうであったが、少しの不満を顔をに蓄え

言葉に乗せてそれを発散していた。

私が食事を終えるころ、彼女はまだ半分ほどしか食べ終えていなかった。



「お腹空いていらししたのですね。早すぎるのもよろしくありませんよ。」



「空いてはいたが、君が遅いだけさ。」



「そんなことおっしゃってはだめですよ。少し待っていてくださいね。」





    ***






食器を運び、厨房に降りる。

二人分の食器を洗って、大将と息子さんに挨拶をして白衣を脱ぎ、

上着を羽織って外に出た。

彼女もすぐに出てきた。



「おつかれさまです。」



「俺は、煙草を吸ってから行くから。」



彼女は一瞬、踵を返そうとしたが、思いとどまって私を見た。



「じゃあ、待っていますわ。途中まで一緒に参りましょう。」



 私は、煙草に火をつけて一口目の煙は吸わず、全て空に吐き出した。

寒さに体を強張らせ、上着を肌に引き寄せる。






「祥貴さんは、彼女さんはいらっしゃるの。」






私は、ゆっくりと煙を呑んだ。



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