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縁生  作者: たると
13/29

2-1

2章に入りました。

もう少し長くなりそうですが、お時間あるとき読んでいただければ嬉しいです。

 授業が終わると煙草を喫んでから電車に向かう。

席に座り、本を開く。手に纏う煙の匂いを時々吸った。

乗り換えを終えると終点まで本に没頭した。

駅に停車するたびに車掌や機械的な女性の案内声が聞こえるが

物語の邪魔にはならなかった。

電車を降りてもまだ外は明るかった。

駅を出ると、飲み屋街が広がり、少し外れるとラーメン屋、パン屋

美容室、コンビニと面白くない光景が続いた。

高速道路の下をくぐり、お洒落気取りのカタカナを飾ったアパートが見えてくる。

エレベーターで4階に上がり、角から2つ目の部屋に入った。

外より薄暗い部屋を見て、彼女がまだ帰っていないことを知った。

服を着替えてベランダに出る。煙草に火をつけた。

公園に茂っている緑。自然とは言えない自然を眺めた。

ベランダから戻ると玄関が開き、彼女が入ってくる。



「ただいま。」



「おかえり。」





   ***





 入学後すぐ、小料理屋の厨房でアルバイトをした。

大将と奥さん、息子の三人で営んでいる小さな店だった。

こじんまりと求人を出していたこの店に私は入り込んだ。

簡単な焼き物やご飯ものを作り、皿洗いをして遊ぶ金を作った。

大学に入り、遊びに呆けることこそ皆の理想として

何度か試してみたものの、俯瞰的立場が度々私を飲み込み、

私には向いてないなどと理由をつけて、遊びからも逃げた。

働くことが苦痛と感じることはなく、むしろ心地が良いから続けた。

ただ熟す様に、過ぎるように続けた。



 

 心的に怠惰な生活も二年になろうかというときに

奥さんの手伝いとして彩音という大学生が入ってきた。

血色のいい肌に、赤を乗せた頬と目尻が印象的に映った。

自然だろうが人工的だろうが、人の紅潮は目に留まってしまう。

彼女は、大学は違うが私と同じ学年で、性別とともに何もかも正反対に作られたような人だった。

気立てもよく、誰にでもはっきり物を言うことができた。

時には、聞いている我々の時間が止まるような心持になることがあったくらいだ。

初めて姿を見せたときだけは、不安を含んでいたようだが

私には気付けなかった。




「祥貴くん。こちら彩音ちゃん。

同じ年らしいし、仲良くね。」




彼女は、こちらに目線を落とし、少し笑って頭を下げた。

目尻に沿った髪の束が少し揺れていた。



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