マナティーおじさんのお話
シンベエくんは
友達のジンベエザメの
ベーザメくんと歩いていました
そこへ怪しいとウワサの
マナティーおじさんが登場しました
「マナティーおじさんだよ〜」
マナティーおじさんは急に知らない人に
話しかけてくるおじさんです
なんだか怪しい
誰もが声をかけられても
無視をするようにしている
要注意マナティーです
そのため、シンベエくんも
そのおじさんとは関わりたくありません
そう思っていると
友達のベーザメくんはふいに言いました
「べぇ!
マナティーおじさん、なんかあったべい?」
その言葉でシンベエくんは
冷凍されたように
体が固まってしまいました
友だちのベーザメくんが
怪しいマナティーおじさんに
声をかけてしまったのです
何をされるか分かりません
すると
マナティーおじさんは
反応してくれたことに
驚いたような顔をして
不気味な笑顔で言いました
「道に迷ったんだ
道案内をしてくれないかい?」
その怪しすぎる言葉に
シンベエくんは
はっと思いました
それは明らかなウソだと
なぜなら
この辺をいつもうろついている
マナティーおじさんが
ここで道に迷っているわけがないからです
しかし
友達のベーザメくんは疑っていないのか
言いました
「いいべ!」
最悪です
全然、良くありません
友達のベーザメくんは
こういうところがあります
楽しそうだと思うことに
突っ込んでいくのです
この前も先生が
「この宿題はタコでもできる簡単な問題だ」
と話していたら
本当にタコに問題をやらせて
次の日、先生に
「タコには解けませんでした!」
と言って墨だらけの宿題を見せて
怒られていました
そんなベーザメくんです
しかし
今回ばかりは危険だと思いました
ベーザメくんを
説得しなければなりません
マナティーおじさんは
まさかの答えに驚き気味
マナティーおじさんは
喜んでいいました
「スーパーマーケットに行きたいんだ
連れて行ってくれる?
お菓子買ってあげるよ〜」
シンベエくんは
はやく逃げたいです
「お菓子を買ってあげるよ
なんていうおじさんに
絶対について行ってはいけない!」
それは子どもの頃から
よく教わっていることです
それにこの歳でお菓子なんて
バカにしています
さすがにこれには
ベーザメくんも断るはずです
ベーザメくんは
笑いながらこういいました
「いいべ!ちょうどお腹が空いていたベ!」
シンベエくんはがっかりです
言葉も出ません
マナティーおじさんは
相当嬉しかったのでしょう
変な喜びのダンスを踊っています
怖いです
結局
シンベエくんは何も言えず
友だちのベーザメくんと
マナティーおじさんを
スーパーマーケットまで
案内することになりました
まぁ 二人だから大丈夫か・・
スーパーに行く途中
マナティーおじさんは
話しかけてきました
「昔はね
ここの海もまだ街じゃなかったんだよ
海藻の畑が広がっていたんだ!
どう? 想像できるかい?」
おじさんの昔話です
シンベエくんは呆れてしまいました
道に迷っているのに
この街の昔話なんて・・
そんな話は聞きたくもありません
友達のベーザメくんはどうでしょう
「この前、向こうの海藻の畑で
波起こしの練習をしていたら
怒られたべい!
マナティーのおじさんは
怒られたことある?」
楽しそうに会話をしていました
マナティーおじさんは
得意げになっていいました
「あるよ!
こう見えても昔は力が強かったんだ
ヤンチャなことをしてよく怒られたなぁ
他校のマナティーともケンカをしたよ
ケンカに勝って
マナティー学校時代は
よくモテたもんだな〜」
昔の武勇伝
そんなことは聞いていません
昔はどうであれ
今はどう見ても
不審なマナティーおじさんです
マナティーおじさんは
調子が良くなって
一緒に『マナティー音頭』を踊るかい?と
聞いてきました
そんな音頭は踊りたくありません
でも
友だちのベーザメくんは言いました
「べー! 踊ろうべ!」
これまた最悪です
こんなところで
『マナティー音頭』を踊るなんて
恥ずかしすぎます
知り合いのジンベエザメに
見られていたら
なんて言われるでしょう
そんなマナティー音頭を踊るくらいなら
タコ踊りをタコと一緒に
踊った方がマシです
マナティーおじさんは
そんなことはお構いなしに
踊り出しました
陽気に歌いながら
「マナティーのお祭りに〜♪
参加する人は〜♪
いっぱい踊るんだ!〜♪
バ・バンバ・バン!」
ベーザメくんも
マナティーおじさんの歌に合わせて
踊っています
シンベエくんは
茹でダコのように顔が赤くなりそうです
見ているだけでも
恥ずかしくて 恥ずかしくて
一人で帰ろうかと思いました
すると
その時
「おう、、」
マナティーおじさんがうなり声をあげました
どうしたのでしょう?
マナティーおじさんの動きが止まりました
マナティーおじさんは
銅像のように固まってしまって
様子が変です
するとマナティーおじさんは痛そうに言いました
「腰をやっちった・・」
微かな弱々しい声です
そうです
それは他でもありません
ギックリ腰です
急に盛り上がって
マナティー音頭なんて
踊るもんだから起こった
ギックリ腰です
ベーザメくんは心配そうに言いました
「大丈夫べい?」
ベーザメくんは
心配そうな顔をしています
しかし
シンベエくんは心配していません
昔は力が強かったんじゃないの?と
心の中でバカにしていました
マナティーおじさんは
こんなところで負けてたまるかと
踏ん張りますが
動けません
ベーザメくんは言いました
「病院に連れて行こうか?」
マナティーおじさんは
首をふりながら呟きました
「優しいね〜
でもこれくらいは大丈夫だよ
それより優しい君は
なんて名前だっけ?」
「ベーザメだーよ!」
「ベーザメくんか! 君はいい子だ!」
ベーザメくんは何気なく
マナティーおじさんに
名前を教えてしまいました
シンベエくんは悪用されないか
不安になりました
ここである意味
マナティーおじさんを
心配しました
なんとか復活した
マナティーおじさんは
「スーパーマーケットで
なんでも奢ってあげるよ!」
と高らかに宣言しました
シンベエくんは
「知らないマナティーおじさんから
買ってもらうものなんてないよ・・」
と思いました
しかし
友達のベーザメくん
「ジンベエザメ野球の海藻チップスが
食べたいべ〜」
と言っていました
そうこうしているうちに
スーパーマーケットに着きました
マナティーおじさんは
すぐにお菓子コーナーに向かって
ジンベエザメ野球の海藻チップスを
カゴにいれました
そしてシンベエくんとベーザメくんの分の
飲み物を買いました
それだけでレジの方へ向かっていきました
これはなんだかおかしいです
さすがに
シンベエくんは言いました
「マナティーおじさんは
何をここに買いに来たの?」
マナティーおじさんは
その問いにびっくりしました
またギックリ腰になったみたいに
少し固まりました
そして
「そうだ、歯磨き粉だ!」
と言いました
マナティーおじさんは
特にこだわる様子もなく
歯磨き粉を掴んでそれを買いました
やっぱり
マナティーおじさんが
スーパーマーケットに行きたかったのも
道に迷ったのも嘘だったんだと思いました
最初から分かっていたけど・・
シンベエくんは思います
友だちのベーザメくんは
子どものようだと
マナティーおじさんに買ってもらった
海藻チップスを食べては
「この海藻チップス、うまいべい!
買ってくれてありがとうべ〜!」
と言っています
その様子は何も考えていない
子どもと同じです
なぜ、そんなに何も恐れずに
生きていられるのでしょう
少し羨ましいです
シンベエくんは
ずっとマナティーおじさんを
信用できないでいるので
買ってもらった飲み物も飲みません
しかし
そんなシンベエくんの心とは別に
マナティーおじさんは
我が子を見るように
優しい目で微笑んでいました
マナティーおじさんは突然
「マナマナ・・」
と呟きました
ベーザメくんは
「マナマナ?」
と聞き返しました
その言葉に
マナティーおじさんは
真剣な顔になりました
その後、また笑った顔になって
言いました
「マナマナ・・」
「マナマナってなんべ?」
マナティーおじさんは
そのベーザメくんの言葉に
少し話しにくいのか
深い呼吸を一つしました
そして言いました
「うん、
マナマナはおじさんの妻なんだ
妻なんだけどもうここにはいないんだ・・
プレゼントも用意していたのに
渡せずに・・」
マナティーおじさん
そこまで言って泣き出してしまいました
泡がゆっくりと空へ舞い上がります
マナティーおじさんは
何か過去を思い出すようでした
シンベエくんは
急に泣き出した
マナティーおじさんの気持ちを探りました
なぜ、こうなってしまったのか?
その結果は
「妻がいなくなって孤独になった
それが悲しくて心は泣いていた
寂しくていつも話す相手を探していた・・」
です
そう考えると
マナティーおじさんが
話しかけてきた意味も分かります
しかし
知らない人に急に話しかけてきて
ウソをついてまで
かまってもらおうとするなんて
どう考えても迷惑だと思います
迷惑だけど・・
マナティーおじさんは
泣き止んで
出会った時よりも優しい表情で
言いました
「今日はありがとうね
楽しかったよ〜
若い頃に戻ったみたいだ!
若いってのはいいな〜」
マナティーおじさんは
しみじみといいました
ベーザメくんは
「若いってのは最高べ!」
と言いました
「でも・・」
「でも?」
マナティーおじさんは
その先の言葉が気になりました
「でも何歳になっても
若い気持ちでいたいべ!
マナティーおじさんも
子どもの頃に戻って
今の自分を見てみるといいべ!」
マナティーおじさんは
ベーザメくんの言葉に
不思議な顔をしていました
「子どもの頃の自分が
今の自分をどう思うか、か・・」
マナティーおじさんは
何か考えている様子でした
それから
マナティーおじさんと
お別れをしました
ベーザメくんは
「また遊ぼうべ!」
と言いました
マナティーおじさんは
少し若返ったように
「またね!」
と手を振ります
シンベエくんは
そんなマナティーおじさんに
軽く手を振り返しました
帰り道
ベーザメくんは言いました
「マナティーおじさん
いいマナティーだったベ!」
その言葉にシンベエくんは
心の中で思いました
「マナティーおじさんは
本当にいいマナティーだったのかな?
本当のことは分からないな・・
だけど・・
今日は楽しかったな・・
あまりうまく
この気持ちをまとめられないけど
マナティーおじさんも
元気に過ごしてほしいな」
シンベエくんは
マナティーおじさんの
笑顔を思い出しました
数日後、ベーザメくんの元に
マナティーおじさんから
お手紙が届きました
『ベーザメくんとお友だちへ』
マナティーおじさんだよ
あの日はありがとう
おじさんは
おじさんクラブという
サークル活動を始めたよ
みんなで仲良く
ボードゲームをするんだ
そこでお友だちができたんだ
アザラシのおじさん
そのおじさんと話していると
子どもの頃のように
楽しいんだ
これも
ベーザメくんとお友だちのおかげだよ
大事なことを思い出したんだ
ありがとうね
おじさんにとって
あの日は大切な想い出だよ
また会おうね
お元気で
マナティーおじさんより
おしまい
読んでくださってありがとうございます!!