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5) パーティーでの再会

前夫はかなりの屑です。ご了承下さい。

 


「よぉ。楽しそうじゃねぇか」


 懐かしいと言うには不快で、聞き覚えのある声に顔が強張った。


 振り向けば離縁して以来初めて会う前の夫サンドルがへらりと笑って立っていた。

 彼は相変わらずアウトローを気取っているのか公式の場なのに隊服を着崩していて見苦しい。


 結婚していた頃もだらしなく思えて苦言を呈したことがあったが『ガキは何もわかってねーな。こっちの方が女の受けがいいんだよ』と一蹴されただけだった。


「なんだよレーヴェン。お前新しい女が出来たのか?……へぇ、まあまあ見れる顔じゃねぇか。いつもみたいに俺に貸せよ」


 そう言うとサンドルはエルバの肩に手を伸ばしてきた。それだけで嫌悪感を感じ、しかし再会の衝撃で硬直していると彼の手をレーヴェン様が叩き落としてくれた。


「いつも?違うだろう?私と別れたからあなたと付き合い始めたんだ。彼女の名誉のためにもそこは訂正させてもらおう。

 それに言っておくが女性の貸し借りなど一度もしたことはないしお前と友人になったこともない。

 お前の言葉は騎士の品位を下げる。少しは慎んだらどうだ?」


「ぐたぐだうっせーな。俺より弱いくせによぉ。なら、俺が試合で勝ったらこの女を寄越せよ。前みたいに地面に這いつくばらせてやるからよ」


 そいつの前でな!とゲラゲラ汚く嗤うサンドルに不快感を隠しきれなかった。

 強いか弱いか以前に騎士として最低だわ。自分の行動で国王様を侮辱してるってなんで気づかないの?ここは地元の小さな町ではないのよ?


 しかも砕けすぎた言葉遣いを家以外でも使っていたなんて信じられない。強いからそんな横柄な態度でも許されると言うの??


 すでに勝ったつもりになっているサンドルは下卑た笑みを作りもう一度エルバの腕を掴もうとしたのでするりとかわしレーヴェン様の横に引っ付いた。


「触らないでください」


 前の夫が砕けすぎた態度からちっとも進化せず、痴態を晒しても気にしない恥ずかしい人間だったと知り嫌悪感が生まれた。


「はあ?生意気な女だな。痛い目に遭いたいのか?」

「やめろ。彼女は私の妻だ。汚い手で触らないでくれ」

「妻だあ??……?お前……もしかしてエルバ、か?」


 エルバを隠すように割って入ってきたレーヴェン様に臆することなくサンドルは噛みつき、やっと目の前にいるエルバだと気づいた。


 彼がまったくわたしに興味なかったのはわかっていたつもりだったが、たった数年で顔を忘れてしまうくらい彼の記憶に残らなかったのかと思うと少しだけ虚しくなった。


「へぇ。あのちんちくりんなガキが見れる程度には育ったじゃねぇか。俺の好みには胸も色気も足りねぇが……まあまあ楽しめそうだ。

 大人の仲間入りした記念に俺が女の悦びってやつを教えてやるよ」


 舐め回すような視線と舌舐りに悪寒がしてレーヴェン様の背に隠れるとサンドルは思い出したように声を張り上げた。



「そーだよ!お前には俺のエルバを寝取った件があったなぁ?

 俺に隠れて妻のエルバを寝たのはお前だろ?そのせいで俺達の関係は終わっちまった!伯爵様の権力には勝てないからなぁ!

 浮気されてエルバを奪われて俺の心はズタズタなんだよ。平民(エルバ)でも責任を取って引き取るなら俺にだって慰謝料くらい払うべきだよなぁ?」


 回りにも聞こえるように叫ぶサンドルにぎょっとして目を瞪った。

 はあ?何が俺の心はズタズタよ!ずっと不倫していたのはそっちじゃない!それなのに慰謝料って!また借金まみれになってるんじゃ……。


「断る。なんで無関係のお前に支払わなくてはならないんだ」

「無関係じゃねーよ。そいつは俺の(元妻)だ。権力にかこつけて俺の手垢がついた中古品かっぱらったのはお前の方だろうが。

 きっちり使()()()支払えよ。お・坊・ちゃ・ん」


 ニヤつくサンドルに戦慄した。あんたとは白い結婚だったっつーの!!気持ち悪いこと言わないで!

 しかも使用料って何よ!バカにしてるわけ?!しかも大声で中古品だなんて、レーヴェン様の名誉に傷がつくじゃない!!


 やっぱり屑は屑だわ!と怒りで拳を震わせると隣からも熱いオーラを感じた。視線を遣れば見たこともないくらい怒りを露にしたレーヴェン様がサンドルを睨みつけていた。


「その言葉撤回しろ。サンドル・グラース」

「被害者はこっちなんだよ。中古品で楽しんだ分の使用料(慰謝料)を支払うか、負けを認めてエルバを差し出すか二つに一つしか選択はねーんだよ。

 だが安心しな。飽きたらちゃ~んとお前に返してやるよ」


 そん頃はエルバはもう俺から離れられなくなってるだろうがな!と嗤うサンドルにふざけるなと殴りたい気持ちになった。

 あんな奴と結婚していたなんて恥でしかないわ!


 持っていた扇子を投げつけようと手を上げようとしたが、レーヴェン様にその手を握られた。

 視線はサンドルに向けられていたが掴む手は優しくて握りしめていた手の力を抜き強張った肩の力を抜くように息を吐いた。


「レーヴェン様…」

「大丈夫だから、少し離れてて」


 わたしを見るとほんの少しだけ表情を崩したが、すぐに引き締めサンドルを睨みつける。冷たい視線を受けているのにサンドルは嘲笑った。


「エルバ知ってるか?こいつは一度も俺に勝てたことがないんだぜ?幾度となく剣を交えたがこのお坊ちゃんが勝てたことはない!

 だからいくら応援してもこいつは負ける。間違いなくな!」


 異様な空気を察した人達が下がり、ダンスをするかのように広い空間ができた。

 その中心でレーヴェン様とサンドルが剣を構える。


 パーティーに持ち込める剣は刃先が潰れているもののみしか許されていない。だから決闘のように死んだりはしないそうだが不安は拭えなかった。


 審判はシエル様が名乗りをあげ、レマーレ様はわたしの傍らに立ってくれた。「大丈夫だ」と元気づけてくれたが騎士同士の戦いを初めて見るエルバは祈るように指を組んだ。


 決闘のような緊迫した雰囲気で始まった戦いはサンドル優勢だった。

 レマーレ様曰く、サンドルの型は自由でどこから攻めてくるのかわかりにくいのだという。だからレーヴェン様は防戦一方になってしまう。


「ずっといい子ちゃん戦法しか習ってこなかった貴族にはやりづらい相手だろうぜ」

「じゃあ、まさか……」


 負けてしまうのでは、と顔を青くすればレマーレ様が見てればわかると笑った。


 お腹に響くような剣の打ち合いが連続する。いくら刃先を潰したところであんな音が体にぶつかったらただではすまされないのではと気が気でなかった。

 レーヴェン様が傷ついたら、命を落とすようなことがあったらどうしようと震えた。


 けれどわたしは伯爵夫人だ。夫を信じず狼狽して恥をかかせるわけにはいかない。

 戦いに圧倒され卒倒してしまいそうになる気持ちを叱咤し、唇を噛んで試合を見続けた。



「はっはーっスキありだ!」


 互角の試合をしていたがサンドルが受けた剣をぐっと押し上げると足を使ってレーヴェン様の腹を蹴った。

 その威力は大きくレーヴェン様は弾かれたように後ろに飛び丸テーブルに突っ込んだ。


 グラスや皿が割れるけたたましい音に悲鳴が上がりエルバも青ざめる。しかしレーヴェン様はすぐに立ち上がったので安堵と共に涙がこみあがった。


「おせーよ!ノロマが!!」


 見る限り怪我はしてないみたいだとホッとしたのも束の間、体勢を整える前にサンドルが突っ込んできてレーヴェン様に襲いかかる。

 それに対抗しようと剣を構えようとしたが肝心の剣が手の中になかった。








読んでいただきありがとうございます。

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