Shoot him!
「ッシャァァアアア!! 今日は飲みまくるぞぉぉぉおお!!」
ルプスと再開したその日の夜。
リーヴァスはひとりで夜の街へ訪れ、たくさんの女相手にはしゃいでいた。
今夜はすこぶる機嫌がいいようで、適齢でないにも関わらず、大量の酒を喉の奥へ流し込んでいる。
その間にフリーデは所定のポイントまで行こうとしていた。
右手には大きな革製の四角いカバンに、左手にはお洒落なステッキ。
初の復讐ということで表情が強張っていたのもあり、それを訝しんだ衛兵に声をかけられた。
「失礼。そこのお方」
「はい、なんでしょう?」
「ずいぶんと大きなカバンですね。こんな時間に」
「この時間でなければいけないのです」
「……近ごろは物騒でしてね。差し支えなければ、中身を確認させていただいても?」
「えぇ、かまいませんよ。大したものは入っていませんが」
特に拒む様子はなく手慣れた動作でカバンの鍵を開けた。
「あ、これは……」
小型の六分儀にコンパス、三角定規、その他諸々の魔術的な小道具。
「星辰魔術のための観測道具です。今夜は良い夜ですので」
「そうでしたか。最近は色んな魔術師がそういうのやってるって噂は聞きましたが……。これは失礼しました。ご協力感謝します」
「いえいえ、お仕事頑張ってください。では……」
そう言って立ち去るフリーデ。
しかし目指すのは星が観測しやすい丘だの広場などではない。
アルマンドが用意してくれた廃れた建物。
どういう経緯で、どうやってこの建物を買ったのは知らないが、ここからなら十分に狙える。
「さて、やりますか」
フリーデの訓練された手つき。
取り出したるはさっきの道具とステッキ。
それぞれをバラバラに分解していくや、ガシャガシャと組み合わせ始めた。
筒のように空洞のあるステッキを、バラしてそれらしい形になった小道具のネジ穴に入れていく。
六分儀のスコープを取り付け、それで遠くを見れるように調整する。
……開始から1分ほどでそれはできた。
『できたようだな』
『これ、もっと簡単にできなかったの? 組み立てるのめんどくさいのだけれど』
『組み立てんのがいいんだろうが! ロマンだよロマン!』
『知らないわよ。てかいらないわよそんなロマン』
テレパシーでの会話で悪態をつきながら、スコープ越しに店の窓から照準を定めた。
持ち運びの際のカモフラージュもかねた組立式のスナイパーライフル。
アルマンドより与えられた異界の凶武器。
今いるこの距離からでも、目の前にいるように視認できる。
狙うは頭、ではなくリーヴァスの左手。
一撃で殺しはしない、そのための『弾丸』はすでに装填してある。
「まずはアナタ。……特別授業をしてあげるわリーヴァス」
呪いと憎しみを人差し指に込め、引き金を引く。
ズドンッッッ!!
空を切り、光と闇の間を飛び、特製の弾丸は真っ直ぐ狙い通りにリーヴァスの左手をえぐり飛ばした。
「ぐわぁぁぁあああああああああ!?」
激痛が断末魔を、そして周囲にさらに断末魔を呼ぶ。
有頂天であった酒場は一気にパニックの現場へと早変わり。
悶え苦しみながらリーヴァスは奥へと運ばれていった。
『撃ち抜いた。あとは計画通りに……』
『おう、しっかりやれ。それまでヘマすんじゃねぇぞ』
『了解』
フリーデはその場から離れる。
正確無比なスナイピングに自分自身、内心驚いていた。
多少の訓練をしたとはいえ、妙にしっくりくる感覚。
余計な緊張はなく、初の実戦で意外なまでに集中できた。
自分の成果に胸を踊らせながら来るべき日を待つ。
そしてそれは徐々に訪れた。
「うぅぅ、痛ぇ、痛ぇえよぉお……っ!!」
左手を撃たれたあの日からずっと激痛と高熱に苛まれていた。
両親が莫大な金を投じて様々な医者や魔術師に診せるも、まるで手の内ようがなかったのだ。
どれだけ治癒魔術をかけても手は治ることはない。
そればかりかどんどん悪化していき、傷が膿んでそこから凄まじい異臭が漂う。
さらに嘔気や眩暈、寒気といった症状まで出て、もはや回復の目処が立たなかった。
療養のため彼は別荘へと移り、学園はしばらく休むことに。
「おい聞いたか? リーヴァスが誰かに狙われたって」
「あぁ知ってる。クソ、誰なんだよそんなことした奴……ブッ殺してやる!!」
「聞いた話じゃ、遠くから狙われたってよ。許せねぇ……! ムシャクシャしてきた。なぁ、ルプスボコりにいかね? ちょっとストレス解消しようぜ」
「……いや、今はリーヴァスの心配しよう。それと、リーヴァスを狙った犯人捜しだ。そいつ捜し当ててギタギタにしよう」
「あぁ、そうだな。ちょっと金つかませば、人数は集められる」
「ククク、俺らがどういう存在なのかまったくわかってねぇみたいだな犯人は。なんでリーヴァスを狙ったかは知らねぇが、とんだ命知らずだぜ」
「よし、じゃあ今日は昼休みで帰るか。んで、人数集めよう」
残りふたりはリーヴァスの仇と憤慨し、今自分たちになにが起こっているのかも知らずに息巻いていた。
そしてこの地点で知るよしもなかった。
リーヴァスが死ぬということを。
場所は変わり、王都から離れた緑豊かな農村が見える別荘にて、彼はいた。
「痛ぇ、痛ぇ……」
昼も苦しみ、夜も眠れず。
そんな日々が続き、ついには使用人に当たり散らす元気もなくなったある日。
「……き、……さい。……きなさい……」
「ぅ……ぁ……?」
「起きなさい!」
────バシャアアッ!!
「うわっ! 冷てぇ……ッ!!」
朦朧としていた意識が現実に引き戻される。
目の前にいたのはバケツらしきものを放り捨てる美女の姿だった。
視界のぼやけをなおしつつ今一度しっかり確認するや、リーヴァスはゾワリと背筋を凍らせた。
「ひっ! て、テメェは……フリーデ……! な、なんでここに、なにしに来やがった!」
「言わなくてもわかるでしょう?」
そう言うやフリーデははマッチを擦って火をともす。