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報復と慟哭を司る魔女

「へ? わ、わ、わ、わぁぁぁあああぁぁああああ!?」


 あるはずのない展開に正気に戻ったフリーデは悲鳴を上げ、手足をバタつかせる。


「ったく、しょうがねぇなぁ。ホレ、ちょっと上で待ってろ」


 その女は魔術を行使し、フリーデを浮き上がらせ、元の場所へと戻す。


「さぁ~て見てろよ。ここからスーパーヒーロー着地だ。いくぜ、スーパーヒーローちゃ……────」


 ────グキ、グチャア!


「ひっ!」


「あ~ってててて、久々にやるとアブねぇなあれ」


(え、この人いつの間に! さっき落ちたはずじゃ!)


 もう一度下を覗いてみるも、あの潰れたカエルのような跡はなくなっていた。


「アナタ、何者なの……?」


「……ちょっとしまらねぇが、まぁいいか。オレの名はアルマンド。報復と慟哭を司る魔女だ」


「報復と、慟哭?」


「そ。まぁここじゃなんだ。オレのアジト行こう。ついてきな」


 アルマンドと名乗る女は時計塔の中に設けた秘密の空間に案内した。

 かなり生活感のある場所だ。


 ベッドにイスにテーブルに。

 しかし大体は見たこともないような装置が支配している。


 一体いつから住んでいるのか……。

 

「まあ座れ」


「は、はい」


 鼻歌交じりにコーヒーを淹れ始めるアルマンド。

 褐色の肌に銀色の髪、銀色の踊り子衣装をまとった若い女。


 艶美な肉体の曲線は抜群のプロポーションを確立しており、エキゾチックな雰囲気は薄暗いこの空間に美しく映える。


 同性であるフリーデでもその美しさに現実を忘れかけていた。


「最初は皆そうやってオレを見るんだ。……そして次から、ウンザリする」


「え?」


「ひでぇよな。オレほど献身的な魔女なんてそうそういないってのに」


「あの、魔女というのは? 魔術師ではなくて?」


「……聞いての通りだ。よこしまな存在。だがオレはアンタの味方でもある。────このまま終わっていいのか?」


 募る不信感と現実感の乖離でモヤモヤとしたフリーデにかまわずコーヒーを渡す。

 このままで終わっていいのか。


 それはことのあらましを知っているかのような口ぶりだった。


「クラスメイトへのいじめに、教員への暴行……おまけに隠蔽ときた。八方塞がりだな」


「軽々しく言わないで!」


 フラッシュバックし、突如として語気を強めるフリーデ。

 怒りと拒絶の感情、そしてよみがえる罪悪感。


「なんで、助けたのよ……」


「あん?」


「なんで助けたのよ……どうして死なせてくれなかったの……今さら味方なんていらないわよッ!! 味方だっていうんなら、なんで初めから助けてくれなかったの!? ヒーロー気取りで私を助けて、私が感謝すると思った!? 生きてればいいことがあるって、アナタはなんていい人なんでしょうって言ってアナタを心酔するとでも? ……バカじゃないのッ? 私は死にたくて死のうとしたのよ!! 助けてほしくて身を投げたんじゃないッ!!」


 テーブルを叩くと同時に転げ、そして零れ落ちるコーヒー。

 それを気にすることなく、アルマンドはワインボトルのコルクを口で開けてラッパ飲みする。


「その怒りと悲しみをどうして連中にぶつけられないか、考えたことがあるか?」


「な、なにを……」


「ただ単純に不可能だからか、事態の悪化を避けたいからか、それとも報復されることへの恐怖か」


「……相手は貴族をバックにつけてる連中よ。……法律だってアイツらに味方する。出来レースよ。初めから味方なんていなかった」


「そうかもな。────だからこそ、オレの出番なんだよ」


「え?」


 アルマンドの言葉に、フリーデは涙にぬれた絶望の瞳を向ける。

 

「さっきの話に戻すがなぜ相手にぶつけられないのか。……言うなれば抵抗できないのか教えてやろう。相手に狙われたが最後、『自分を守る』ってことが許されなくなっちまうからなんだ。……相手からすりゃ罪になるんだよ。悪になっちまうんだよ。そうなりゃ理屈も整合性も関係ねぇ。気に入らなけりゃ煮るも焼くも炙るも蒸すも、相手の思いのままだ。異端狩りなんてまさにそうだろ?」


 そしてそこからもっとも恐ろしい学びを得る。

 『狙われた奴は大抵やり返してこない』というもの。


 やり返してこないというものほど好都合なものはない。

 フリーデへの暴行にしてもそうだし、ルプスへのいじめにしてもそうだ。


 拳で、言葉でどれだけなぶり倒しても、それは正当化されまかり通る。

 悪いことをしたかどうかは関係ない。


 気に入らないというだけで、無理矢理ひざまずかせ、「ごめんなさい」「許してください」と言わせることが可能になるのだ。


 それがわかってきたとき、フリーデの心に湧き出てきたのは理不尽への怒り。

 現実に屈した怒りではない、その現実すら飲み込む復讐の念。


「……さて、アンタの思いを聞こうか? ここで立ち上がれば、アンタはオレという最強の復讐パートナーが手に入る。どうだ? 今ここで決めろ」


「……さ、ない」


「聞こえねぇ」


「私はあの学園を許さない。あの3人も! 私とルプス君の人生を滅茶苦茶にしておいて、自分たちだけのうのうと生きてるだなんて!!」


「やっとやる気になったか。嬉しいよ」


「……えぇ、そしてルプス君を助ける。どんな手を使ってでも、彼を地獄から解放してみせる。そのためなら、魔女の力だって!」


「Excellent!! 完璧だ。実に頼もしい。そうとわかれば、復讐道具を渡してやらねぇとな」


「もう用意してるの?」


「色々ストックしてんだよ。これはオレの中ではお気に入り且つ自信作なんだが……」


「なに、それ?」


「まぁ使い方は今から説明するし、訓練も行う。覚悟は良いな?」


「えぇ、望むところよ」


「上等」


 報復と慟哭を司る魔女アルマンド。

 その異次元の雰囲気を持つ女と出会ったことで、フリーデは復讐という魔道に墜ちることを選んだ。


(待っててねルプス君。先生が絶対アナタを助けてあげるから……)


 しばらくはアルマンドのアジトで生活し、彼女から復讐道具の使い方を学んだ。

 そして、同時進行で考えていた計画を実行することに。


「まずは、……"アイツ"ね」


 3人組のひとり、名をリーヴァス。

 彼の今夜の動向はすでに情報として仕入れている。


 あとは計画通りに行動するのみだった。


「ねぇアルマンド、リーヴァスを殺す前に、ルプス君に会いたいのだけれど。ひと目見るだけでいいから」


「別にそれはかまわねぇけど、いいのか? あれからずっと会ってねぇんだろ?」


「……えぇ、でも、やっぱり私、心配なの。自分があんな目にあっても、私は……」


「まぁ好きにしな。アンタにとっちゃ希望そのものだからな」


「ありがとう」


 フリーデは時計塔を出て、学園へと向かう。

 今は授業中なので生徒と出会うことはない。


 それでも用心のため、彼女は隠形の術で姿と気配を消して校内へと入る。

 たまたま踏み入った校舎裏、そこには……。

 



 

ブクマ、★★★★★よろしくお願いいたします!


↓↓↓

別のも投稿してますので是非是非!

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