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10歳から至宝と呼ばれた私は、我武者羅にダンジョン攻略してますが、あれ? もしかしてこれはやばい? 〜大剣一筋な私は向かってきた敵を倒しまくります〜

作者: 犬三郎

「……ば、化け物……化け物がっ!」

「……私は化け物じゃない」

 リーエは細腕で大剣を振り、男性の胴体を切り分ける。悲鳴も上げずに男は血を流す。ダンジョン、39階層。黒煙の魔と呼ばれる、決して1人では立ち入ってはいけない場所に、齢15歳の少女が1人で、20人の闇カーチャルと対峙する。周りは石壁に覆われ、黒煙が立ち上る。目利きが出来ない状況、四面楚歌を彷彿とさせる場面でリーエは自分を討とうとする人間を殺していた。

「あ、有り得ねぇだろ! こちとらBランク冒険者が3人もいるんだそ……!? それを僅か6秒で薙ぎ倒すなんて……! これが至宝……かよ……!」

 迷宮都市(ゼイウス)で《至宝の4人》と言われる人物がいる。

 1人は大型ギルドに、1人は弱小ギルドに、1人は孤独に、1人は自由に。その1人1人が到達階層を1年間に1階層を破っていく。

 その才ある4人が象徴するのは正しく【才能社会】。

 ダンジョンはモンスターを倒す度に経験値を得て、人物の才能を飛躍させていく。階層の深いモンスターを倒せば倒すほどその人物は至高の階段を上っていく。

 全人類が強くなることを確約されたダンジョンで、至宝の4人は別格だった。その中の孤独の至宝は孤独故にダンジョンで闇討ちに合うことがしょっちゅうだった。

「……不愉快」

 切れ味はないに等しい、木で作られた大剣。刃渡り1.5メートル、横幅50センチ。自分の身長に届きそうな大剣をその剛腕の力で、魔法、剣、防具を軽々しく屠っていく。

 3人の冒険者が3方向から剣を振るが、リーエが足底を地面にめり込ませ、足場を揺らす。体勢が崩れた3人は目にも止まらぬ速さの回転斬りで、絶命する。切れない刃先なのに、圧倒的な力で捻り潰す。未だにスキル、魔法を使用しない彼女。人を殺しているはずなのに柳眉のひとつも動かさない彼女。

「か、かかれ! 怯むな! いけいけいけえええぇぇぇぇぇ!」

 火の矢の雨、風の刃、天から降る雷。リーエが大剣を一閃。風圧だけでリーエへの軌道が変わり、周りにいた冒険者へ。

 現在。ダンジョンの最高到達階層は67階層。大勢のメンバーを抱え攻略を行った結果の成果。対してリーエは”1人”で63階層を攻略した。

「……もう飽きた。貴方達より、モンスターと戦う方が生を実感する」

 リーエは大剣を横へ一振。ピキピキ、ビキビキ、亀裂音と破裂音が木霊してこのルームは爆発した。

 至宝の1人は伊達ではない。崩れ落ちる天井。未だに風が靡き、彼女の黄金色のミディアムヘアーが揺れる。絵本の中の、お姫様を切り取ったような神々しさの顔のパーツに、翠色の宝石を彷彿とさせる瞳と、白の戦闘衣服。幻想、という言葉が似合う彼女は何も無かったように無表情で歩む。気づけば41階層。黒煙の魔の最後の地。

 通常ならば特殊な装備を着なければ、黒煙の毒素には耐えられない。酸素の低下、体が重くなり、鎖に繋がれてるようになる。モンスターに有利になるはずなのに、彼女は些事の事のように平然と歩み、いつの間にか大きなルームに入っていた。黒煙の中でも分かるほどの大きさ。横幅、500メートル、縦に400メートルと続く。天井までは30メートルぐらだろうか。先程から歩いていたゴツゴツとした岩肌ではなく、砥石に研磨されたかのような床と天井と壁。リーエはルームに立ち止まり、静かに何かが現れるのを待つ。

「……きた」

 ピキリと壁にヒビが入る。一部分だけならばいいが、それは床、天井、壁から、全てにヒビが。常人なら警鐘を鳴らし、避難する、化け物。決して1人で相手とってはいけない階層主(モンスター)。まるで次の層へ行かせるのを阻むように、天所から骸骨の巨顔が垂れ下がる。

 床、壁には弓や剣を持った手が無数に現れる。骸の王(ミミッティ)。高い高い天井、顔の骨の中に潜在する大きな魔石を壊すまで永遠に攻撃をしてくる。遠距離攻撃手がいなければ、まるで歯が立たない。リーエは双眸を歪めるどころか、

「ふふふふっ、愉快」

 頬を釣りあげていた。完全に姿を現し、黒煙のせいで朧気に見える巨顔にリーエは狙いを定める。ミミッティもルームに立っているリーエに気づき、無数の腕を動かし弓矢を放つ。その弓矢は1000を超える。

 荒波のように迫る矢にリーエは見向きもせず、ミミッティへ大剣を飛来させる。魔力弾(マジックミサイル)のように驀進する大剣は、強固の骸を貫き、魔石を木っ端微塵に砕く。あまりに呆気なさすぎる、階層主の終幕。骨が灰へとなり、灰の雨と弓矢の雨が同時にリーエに降りかかる。

 リーエはただ一言、

「はっ!」

 と鼓膜が破れるかのような破裂音を発声し、弓矢を壊す。有り余る灰が壁へ打ちつけられる。ただただリーエの独壇場。誰も、適うはずがないと畏怖の念を抱いた正に至宝、

「……やっぱり不愉快。楽しく……ない」

 死の恐怖というものを忘れた彼女はまた突き進む。己が満足出来る、理想になるために。

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