8話
豆知識:ステータスを算出する計算式は1.1のn乗×10です。[1.1^n*10]
n=レベル数
因みにコウは1.1が1.11になります。
「へぇー、フォレストサーペントが住んでいた洞穴の先に道なんてあったんだ」
「ここを抜けたらチュートリアルは終了だ。モンスターも出現するから気をつけろよ」
洞穴というより洞窟を想起させる糞蛇の住処は、実に数百メートルもの長さに及ぶ。
鍾乳石を伝って落ちてきた水滴の音が、反響して不気味な音を奏でているため、それに怯えて体を震わせる毬をみていると退屈はしない。
本来なら幾つにも分岐する道を総当たりで進まないといけないのだが、ゲーム時代から伝わる有名な手法として、風の音がする道へ進めばいとも簡単に抜け出すことができるのだ。
「な、なぁ?モンスターと戦うゆうても、うち等は武器も持っとらへんで?」
「一応俺は棍棒を持っているが、毬は精霊でも召喚すれば戦えるだろ?」
正直、チュートリアルを抜けてすぐのステージにいるモンスターなんぞに負ける気はしないが、もしもの時は最強の美波もいるし大丈夫だろう。
「そうだ!精霊召喚だよ!移動に便利な精霊を召喚して街まで連れて行ってもらおうよ!」
「移動に便利な精霊ってなんだよ。そんなご都合主義が許されてたまるものか」
「ねぇ!お願い!一回だけだから!」
毬の精霊召喚はかなり燃費が悪い。今後の戦闘を考えたら…まぁ特に温存する理由もないか。そもそもこの辺りはまだソロプレイを想定されているしな。それを四人で攻略するのだから相当楽勝なはずだ。
「まぁ、精々面白い精霊を召喚して俺を笑わせてくれ」
「そないな事言っててええんか?最強の精霊を召喚して度肝抜いたる!」
いや、MP量依存だから最強は無理だろ
「召喚!」
例のごとく毬の手に光が集まっていく。スライム程度の大きさになると地面に落下し、
やはりスライムが現れた。
「流石、笑いの神に愛された毬さんは違ぇや!」
「うるっさいなぁ!コウもあの蛇と同じ、窒息死がしたいんか!?」
「ごめんなさい」
何気にあの攻撃はえげつなかったからな。相手が相当油断していないと決まらない技ではあるが、決まりさえすればボスですら抵抗出来ない。
闇落ち一寸法師と名付けよう。
「遊ぶのはそれくらいにしておきなさい。出口が見えてきたわよ」
曲がり角を過ぎると、数十メートル先に光が現れた。洞窟に潜ったときはまだ太陽が昇っていなかったたため、それなりの時間が経ったといえるだろう。
洞窟を抜けるとそこは先ほどの原生林とは打って変わり平原であった。
地平の先まで背の低い植物が生えているだけの超田舎。辛うじて人が通るような道はあるものの、見える範囲に人工物は見られない。
「あ、おい!毬のスライムの色なんか黒くねぇか?」
「ほんとうだわ。洞窟の中にいたから分からなかったのね」
俺の立てた仮設の信ぴょう性がどんどんあがっている。やはり召喚をする場所によって現れる精霊も変わるのだろう。
「なんだか闇魔法を使いそうなスライムだね!」
「一応ステータス確認しておくか」
そういってコーヒーゼリーのようなスライムに手をかざした。
【ステータス】
『ブラックスライム』
レベル1
『体力』1 『魔力』1
『物理攻撃力(物攻)』1 『魔法攻撃力(魔攻)』1
『物理防御力(物防)』1 『魔法防御力(魔防)』5
『敏捷』1 『器用さ』1
『回復力』1 『運』1
『スキルポイント』0 『所有経験値』000EXP
【スキル】
『盲目』
対象者一体の視力を奪う。
持続時間:三秒
再発動:三分
【パッシブスキル】
『物理攻撃無効』
魔法攻撃以外のダメージを一切受け付けない
『MP上昇付与』
対象者一体の最大MPを五パーセント上昇させる。
うーんこの一見強そうに見えて実は対処が簡単な感じ、実にスライムらしい。
だが、現状でこのスライムに勝つ方法はレイの魔法剣と毬へのダイレクトアタック以外は思いつかない。
無力化だけなら、遠くへ投げ飛ばせばいいので割と簡単なんだが…
いやいや、そもそもこいつ仲間だから倒す必要はないうえに、精霊召喚以外の出現方法もわからないのだから対処法とか要らないだろ。
「まぁ、なかなか悪くないんじゃないか?初手で盲目を使えば相手はパニック間違いなしだ」
それ以外に使い道はないが。という事は言わないでおく。
最終的に突き詰めていけばMP五パーセント上昇は大きいのだが、そのタイミングでは戦場に出た瞬間に死ぬようなステータスだし…
「なるほどなぁ。要は使い方次第というわけやな」
「ね、ねぇ!その盲目っていうスキル僕に使ってみてよ!」
うーわ出たよ好奇心マン。こいつ、いつか絶対大いなるしっぺ返しを食らうな。今確信した。
「すごーい!本当に真っ暗だよ!おもしろ!」
「もういいだろう?とっとと行くぞ!」
ここからケフィア王国までは延々と平原が広がっている。これからの道のりを想像するだけで足が重くなるが、一度王国に行ってしまえば以降はファストトラベルや、馬車等の移動手段も格段に増えるため今回ばかりの辛抱である。
◇◆◇
「ねぇぇぇ!何時になったら着くのさ!?」
歩き始めて一時間ほど経った頃、暇を持て余したレイがとうとう怒り始めてしまった。
正直、ここら辺のステージはある程度レベルが上がってしまえば用なしなので俺自身あまり詳しくはない。ゲームではスタミナ等を気にすることもなかったので走り抜けた記憶があるのだが、残念ながらこれは現実である。体力も無限ではない。
特に心配なのは少し汗ばむ季節だというのに手持ちに水分がないことだろう。俺は出発前に川で水を飲んできたが、それを拒否したレイと毬は昨日から水分を摂取していない。
「人の視点から見える地平線までの距離は約4メートルや。そして、人間の平均的な歩行速度は時速4キロ。今は最初に地平線やった場所の近くにおるはずや」
「へぇ!地平線って4キロしか離れていないんだ!よく知ってたね!」
「いや、後ろを振り返ったら洞窟が地平の彼方にあったからな。適当やで?」
モンスターでも出れば張り合いが生まれるのだろうが、残念。洞窟からここまで接敵は一回もない。
モンスターの少ないフィールドだとは思っていたがまさかここまでだったとは。まぁ、この一帯には川や水場が無いとかの理由で、ゲームの時よりも生き物が少ないのだろう。
「ほら、そうこう言っているうちに城壁っぽい物が見えてきたやろ?」
「本当か?」
嘘だろ?俺には全く見えないのだが、俺よりもかなり身長の低い毬に見えるのか?
「あかん。もうダメや」
「毬!大丈夫!?」
そういって毬はその場に立ち尽くしてしまった。
「気持ち悪いわぁ…頭痛い…」
「脱水症状ね。あまり汗をかいている様子もないわ」
幸いまだ軽い症状で収まっているが、ここから城下街まで歩くことはできないだろう。
先ほど城壁が見えると言っていたのは視界のぼやけか、あるいは強い願望による幻影か。
もしかしたら魔法を使う行為によってカロリーを消費するのかもしれない。
「毬大丈夫か?」
「もうちょっとは大丈夫や」
「おんぶいるか?」
「お願いするわ」
というわけでここからは俺が毬を担いで進むことになった。
レイや美波も手伝うといったが、それは丁重に断っておく。
もし魔法によって体力を消耗するなら、面白がって魔法を使わせた俺の責任でもあるわけで、つまるところ俺の良心が痛んだ故の行動だからだ。
「よっこいしょっと」
毬の体は凡そ高校生とは思えないほど軽かった。体の大きさを抜きにしても女子ってこんなに軽いものなのか…?
俺がそうやって驚いていると
「コウ……汗臭いわ」
お前、もう降りろよ
「どうやら俺たちの旅はここで終了のようだ。悪いがここからはお前一人で歩いて行け」
「堪忍してや!ここから歩くなんて無理や!我慢するから!」
こいつ絶対まだ余裕あるだろ
「あら、それは可哀そうね。やはり私が運んだ方がよかったんじゃないかしら?」
美波は俺と一緒に川の水を飲んでいたため割と余裕である。
「ほんまか?じゃあコウ、お前はもう用なしや!」
「あら、でも汗臭い沙魚川君に背負られた毬を背負うのは…少し不快だわ。残念だけどここはレイにお願いするわね」
余裕はあっても背負う気はなかったらしい。こいつらほんと一回でいいから痛い目を見ればいいのに
「え?僕?嫌だけど?」
「ま、そういうことらしいからこれからもよろしく頼むわ!」
「いやぁ、俺はもう用なしって言われたしなぁ?」
「なんや心の狭い奴やな!」
しかし、依然として俺の服は掴んで離さないためこの先も毬は俺が請け負うこととなった。
毬が最初に召還したスライムのステータスを載せておきます。スキルが変わるくらいで基本的な数値は一緒です。
『ブルースライム』
レベル1
『体力』1 『魔力』1
『物理攻撃力(物攻)』1 『魔法攻撃力(魔攻)』1
『物理防御力(物防)』1 『魔法防御力(魔防)』5
『敏捷』1 『器用さ』1
『回復力』1 『運』1
『スキルポイント』0 『所有経験値』000EXP
【スキル】
『状態異常回復』
能力値に対して以外のデバフを解除する。
詠唱時間:五秒
再発動:三分
【パッシブスキル】
『物理攻撃無効』
魔法攻撃以外のダメージを一切受け付けない
『自由変形』
使用者の形を自由に変形させることができる