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2話

 レベルアップ


 それはゲームにある要素の一つだ。

 条件をクリアしていくことにより、キャラクターの能力値が上がっていくというシステムなのだが、


 “それが現実で起こっている”


 なんということだ。この人里離れた森の中に長い間いた事により、遂に毬が壊れてしまった。


「脳内で…なんか…声が聞こえる」


「脳みそに小さいおっさんでも住まわせてたのか?」


 俺はかわいそうな奴でも見るような視線で毬を見ていたのだが、突然降ってきたスライムが俺の頭にぶつかって弾ける。


 はたから見ればどんなギャグだろうと思うかもしれないが、俺は内心で頭にスライムを叩きつけられた以上の衝撃に見舞われていた。


『取得経験値が800を突破しました』

『レベルが1上がります』


 おおぅ。

 つい先ほどまでの毬と同じ表情をしながら二人で顔を合わせる。


「な?」


 どや顔がうざったいが、今はそんなことどうでもいい。


 マジだ。


 ゲームとか、アニメでしか見たことも聞いたこともない「レベルアップ」という概念を、己が身に感じ、今まで考えまいとしていた思考にたどり着く


「なぁ、毬。変な事言っていい?」

「何?愛の告白?」


 お互い精神を抜かれたような棒読みで会話をする。


「この世界さ、多分ゲームの世界だと思う」

「ほんまか。そら…愛の告白よりも衝撃的やな…」



 ◇◆◇



 俺たちはその後、一言も言葉を交わすことなく待ち合わせの場所へと足を進める。

 最初はとぼとぼと放心したように歩いていたのだが、徐々に現実感が戻ってくるのと比例するように歩くスピードも速くなり、焦りの感情を取り戻すと同時、それは全力疾走へと変わった。



「「レベルアップで足が速くなっている!気がする!」」


 具体的には一割くらいだろうか。最初は気のせいかと思っていた。


 坂を登り。倒木を飛び越え。地面を這うスライムを蹴り飛ばす。


 どこかの段階で予想は確信へと至った。


 だがそんなことはどうでもよかった。


 俺は、あの、『インフィニティ・ユニバース・ユートピア』の世界にやってきた。


 それはMMORPGと呼ばれるものだ。

 VR初期に発売された、五感への接続が甘いゲームだった。

 その後に出たMMOは売れに売れ、様々な賞を総なめにしていた。

 唯、安かったからという理由だけで始めただけだった。

 正直、俺が始めた頃には既に過疎化が進んでいた。

 それでも



 …それでも。それは俺が大好きなゲームだった。



 RPGが大好きな奴らだけで作ったような愛と隠し要素がふんだんに盛り込まれ、未だに誰にも見つけられていない要素がゴロゴロと転がっている。そう開発者が言ってたんだ!



 だから、賞は取れなくても、ライトゲーマーが手を付けなくても、ガチャが渋くても、武器の強化がマゾでも、頑張って作った装備がデスペナルティで奪われようと。


 だから、そのゲームだったからこそ。廃人とPKが蔓延る蟲毒のような世界だったからこそ。



 そこが俺の一番輝ける場所だった。



 本当は森で目が覚めた頃からわかっていた。

 それはゲームキャラクター共通の初期スポーン位置だから。


 指に噛みつく植物に何も考えず触れたのも。

 それはゲームで真っ先に現れるチュートリアル用の魔物だから。


 スライムを素手で破裂させ、服に着いた液体を気に留めなかったのも。

 それは無害な魔物だとわかっていたから。


 小川の前で動きを止めたのも。

 本来ならばあそこでムービーが入るから。ムービー中は動けないことを知っていたから。


 でも、もしも違ったらどうしよう。そう思って行動ができなかった。

 だから決定的な何かが現れるまで自分を騙し続けていた。



 素晴らしい。最高だ。マーベラス。全能感による高揚で気づかなかったが、ずいぶん長い間全力疾走していたらしい。さっきまで近くにいた毬とそこそこ距離が離れている。

 俺は呼吸を整え、整え…口の中に酸っぱい液体が充満した時、ようやく自分が限界を超えて走っていた事に気が付き、盛大に吐き出した。


 暫くしてえづきが止まった頃。最後にもう一度深呼吸をする。


 未だに口は酸っぱく、目には涙が溜まっている。


 そして、空高くで輝く太陽に向かって手を突き出した……



「完!!!みたいな?」



 気が付くと後ろには毬がいた。息を弾ませながらも俺に追いついたらしい。


「俺たちの戦いはこれからだ!」

「確信犯やろ」


「ごめんごめん楽しくなってつい」

「つい?つい楽しなってゲロってたんか?」

「フェイクニュースやめろ」

「いやいや、真実の切り抜きやよ?」

「悪質だなぁ」


 さてと。


「ステータスオープン」

「おもろい冗談やな」

「…」

「え、冗談よな?」




【ステータス】


 沙魚川ハセガワ コウ18歳

 レベル2

『体力』11           『魔力』11

『物理攻撃力(物攻)』11  『魔法攻撃力(魔攻)』11

『物理防御力(物防)』11  『魔法防御力(魔防)』11

『敏捷』11         『器用さ』11

『回復力』10        『運』10

『スキルポイント』5     『所有経験値』800EXP



【スキル】

 なし

【パッシブスキル】

『童貞』

 ◇◆◇


 頭の中にこれらの文字が表示される事を確認すると俺は大げさに喜んだ。


 そして、横にいる毬にも同じようにさせると…



「なんや!頭の中に無理やり情報を入れられる感覚は!」


 はっはっは。やはり最初は慣れないよな。じゃねぇ!なんだよ『童貞』って!

 ゲームにはなかったスキルだろ!いや、いままで埋もれていただけか?

 ならば発生条件は何なんだ!



【童貞】

 それら全ては道程である。


【効果1】レベルを上げた時に得られるポイントが1.11倍になる。

【効果2】最大レベルキャップが5解放される。

【効果3】レベルを上げる為に必要な経験値量が2倍になる。


 童貞では無くなった瞬間より、【童貞】によって加算されたポイント以外が失われる。

 創造主より個人に見合ったスキルを賜ることを誇りに思うがいい。



 あーつまりなんだ。


 軽くぶっ壊れでは?


 やばい。やばすぎる。

 何がやばいって、このゲームはレベルが上がった時に、前のステータスを1.1倍にする特性上、レベル40後半からカンストまでの55までは爆発的にステータスが加算されていく。それのレベル上限が5解放されるとなるととんでもない効果が得られるだろう。

 1.11倍は分からん。後で計算するか。


 しかしネックはレベルを上げるための経験値が2倍になる点。

 そして、このファンタジー異世界で自由に性行為が行えなくなる点だ。

 カンストすればデメリットなしとはいえ、それまで俺は周りよりも大幅に弱い状況で戦わなければいけない。

 最悪だ。特にエルフや獣耳の女の子と自由恋愛ができなくなる点はマジで最悪だ。

 考えたやつには即刻死んでほしい。


 創造主云々は考えると頭が痛くなるので今はおいておく。


「なぁなぁ、このスキル欄にある、精霊召喚ってなんや?」

「は?」

「いやいや、この精霊しょ」

「糞がぁぁぁぁあああ??」

「うわぁぁぁコウさんご乱心んんん⁉」


 精霊召喚。ゲームの中でも確認されていたのはハイエルフの長老ただ一人という超希少なぶっ壊れスキルだ。

 羨ましい。どれくらい羨ましいかというと、もしも童貞と精霊召喚を交換できるなら、コンマ1秒もかからず童貞を地面に叩きつけた後、唾を吐き捨てて、スライムの如く蹴り飛ばしてやるだろう。


 いや待て、ハイエルフのババアは糞強い精霊で辺りを消し炭にしていたが、実は召喚までが物凄く大変だったり、デメリットがあるのかもしれん!


 危ない危ない。童貞をクソスキルと言うには時期尚早だった。

 慌てて地面から童貞スキルを拾い上げた俺は、


「精霊スキルの効果教えてくれよ」

「えっとなぁ」


【精霊召喚】

 魔力消費 15

 様々な効果を持つ精霊を、魔力量依存でランダムに呼び出して従わせるスキル。

 同時に使役することができる精霊は3体までのため、それ以上の契約にはほかの精霊との契約を破棄しなければならない。契約破棄にも魔力が必要である。


 ローリスクハイリターンの代名詞やないかーい

 俺は再び童貞を地面に投げ捨てた。


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