14話
「いや、分かりにくいんだけど。結局あんたは神なのか?」
「えぇ、そうです!」
何故か誇らしげに胸を張る男。
昔話をすると言っておいて身の上話を始めたり、人に頼む態度じゃないだろ。
「当初はモンスター退治だと聞いていたが、依頼は変更でいいんだな?」
「えぇ、モンスターを倒すよりも簡単でしょう?勿論報酬に変更はありません」
依頼が簡単になるのは結構だ。報酬も悪くない。神とやらに興味はあるが触らぬ神に祟りなしと言うし、妙な事に巻き込まれないうちに帰らせてもらおう。
なんせ相手は最強種の一角に数えられる神族なのだから。
村の御神体の絞りカスでも、今の俺達に勝てる道理はない。
「じゃあ契約成立だな。あんたの子供に合わせてくれ。すぐに発とう」
「私の息子なら、貴方がたに貸し出された家の奥にある林の中でいつも剣を振っていますよ」
優男に礼を言い、先程案内された小屋へと戻っていく。
「奥の林って言っても、林のが広すぎて解りゃしねぇ」
林とは言っても、ここは山の中なのだから全てが林のようなものだ。目印がないとは言えもうちょっと特定出来る情報出せよ…
舗装などされていない山道に悪態をつきながらひたすらに登っていく。
足場が悪いせいで想像よりも体力を持っていかれてしまうな。
15分位歩いただろうか。そろそろ帰り道の事を考えると億劫になる時間だ。
空はすっかり夕日に染められたし、山の中だから視界も悪くなってきた。
「これ絶対違う場所に来てるよな。帰るか?帰っていいよな?」
息子は見つからんし、モンスターにも出会わないから経験値も稼げない。
言うかなんでモンスターいねぇんだよ。山奥だからか?
「ん?なんだあれ?」
コウの歩く道の更に上の方、日本の山羊に似た生き物が血を流しながら倒れているのを見つけた。
「エスケープゴートか?」
それは、野山に住み着く逃げ足の早い山羊のような生物だ。馬程もある体高に、大きな巻角を持っているがモンスターではない。
「推奨討伐レベル20のエスケープゴートが一撃か」
逃げる暇も与えられず後ろから殺されたらしい。
捕食者のレベルは30程度。
本当に俺たちではどうにもならないやつが出てきたな。
こっそりエスケープゴートの角を剥ぎ取ると、インベントリに仕舞い込む。確か一本で銀貨1枚になったはずだ。
「よし、帰るか」
逃げるように山を駆け降りて小屋へと戻る。息子は見つからないのに嫌なものは見てしまうは、疲れるしで最悪であった。
項垂れるように小屋に備え付けられてあった椅子に倒れ込む。
「あ、コウ帰っていたんだ」
「今帰った所だ」
扉を開けて帰ってきたのはレイと鞠。
「美波は別行動か?」
「うん。何か気になる事があったらしくてね」
「代わりに男の子拾ってきたで」
「うちでは飼えません。返してきなさい」
なんで鞠はいつも、どこからともなくいらない物を拾ってくるんだ。
こちとらあの優男の息子を探して山道を一時間も彷徨ったんだぞ。
「俺はイオだ。お姉ちゃん達と一緒に山に住み着いたモンスターを倒し行く。お前も連れていってやるよ」
なんだこのクソガキ
「そうか。精々足を引っ張るなよ」
「なんだと!?俺はもうレベル15だぞ!モンスターなんかに負けるわけない!」
うっそだろお前。俺よりもレベル高いじゃねぇか
「ま、まぁ、そこそこの実力はあるようだな。因みにスキルはどんなのを持ってるんすかね?」
この小さい小屋の中。俺たちの力関係は定まってしまった。
「スキルなんて持っていない」
「は?スキル無し?クソ雑魚じゃねぇか」
スキルがないと言うのはつまり、スキルツリーを使用した事がないと言う事だ。
辺境の村に住む少年でも一度くらい王都に行った事があるとおもったんだがな。
「じゃあスキルはいい。ステータスを教えてくれ」
「ステータスって何だよ」
まじか。この世界の田舎の子供は皆んなこんなものなのか?
「ステータスオープンって言ってみろ。それで現れた文字を読み上げるんだ」
「やってみる!……ステータス、オープン?」
なにやら不思議な顔をしながらこちらを見てくる少年。
「どうした?」
「なにも出てこないぞ!俺が子供だからからかっているんだろ!」
は?ステータスが出てこない?そんな事がありえるのか?
いや、ゲームではプレイヤー以外がステータスを開くような描写はされていなかった。
もしかしたらこの世界に住む人間にはステータスを見る能力がないのかも知れない。
「まぁ、いい。俺の方で見るからな。抵抗するなよ」
少年の頭の上に手を置き、ステータスオープンと念じる。
『レジストされました』
あぁ…そう言う感じか。確か、あの優男は神だったな。ならばその息子の存在レベルが神話級でもおかしく…ないのか?
「お前あの優男の息子かよ。おーい、レイ。こいつとはいつから行動していた」
「小屋から出てすぐだよ。家の裏で素振りしてたから村を案内してもらっていたんだ」
「完全な入れ違えじゃねぇか。じゃあなんだ?俺は村にいる子供を探して1時間も山を彷徨っていたのか?」
完全な無駄足じゃねぇか。
山に入ってやった事が山羊の角をむしり取るだけとか。
「あなた、私が村長さんから話を聞いている間ずっと散歩をしていたのかしら?」
「うわっ!いつからいたんだよ」
後ろからニュッと出てきた美波は呆れたように額を抑える。
「あなたがそこにいる子よりもレベルが低いと発覚したあたりからかしら」
「お兄ちゃん俺よりレベル低いのか?」
最悪だよ。新人のバイトよりも月給が低い事が発覚したような気分だ。
「レベルなんかで人間の優劣が決まるわけじゃない。男はハートだ!」
「こんな子供よりもレベル低いなんて恥ずかしいなぁ?」
うるせぇな。お前も似たようなもんだろ
「鞠、どうせ沙魚川君から卵とミルクを買って貰っていないのでしょう?農家の方から譲ってもらってきたわ」
「美波ありがとうなぁ。コウはどうせ忘れてたし自分で買いに行こうか迷っとってん」
まぁ、忘れてたけど。どうせって言われるのは癪だ。忘れてたけど。
「暗くなったら危険よ。まだ夕方だけれどもお風呂頂いちゃいましょう?」
「コウ。案内してよ!」
うーん。これを言ってもいいのか。
最初この村に来た時思ったんだけど、なんか。ここゲームの時と違うんだよな。
俺が知る限りでは、この村はもっと栄えていたし、守り神なんていなかった。
案内する事はできるが、色々と改変の入ったこの世界でも、未だに温泉が残っているかは分からない。
嫌だなぁ、期待させてしまった分だけ温泉が無いと知った時の反感が怖い。
それなら最初からないと思っていた方が楽だ。
「よし、行くか」
だから俺は思考を放棄した。
今、温泉が無いかもしれない件について触れておいて、実は温泉がありました。となった時の好感度の下がり方は予想できる。
頼む。温泉よ。あってくれ。
村の入り口まで引き返し、更に山の奥へと歩みを進める。獣道を数分歩いていると、山の一部に洞窟が見えてくるので、そこを抜ければ断崖絶壁で景色の良い温泉が…あるはず。
「コウ!凄いよ!崖に温泉がある!」
「本当、夕日と合わさって幻想的ね」
ゲーム時代では下にジャングルの様な盆地があり、秘境に来た様な気分になれると密かに人気のスポットになっていたのだが、それは今でも健在の様だ。
ならば変わったのは村だけか?やはりあの元神のモンスターが村を変えてしまったのか。
「おい、コウよ」
「なんだ?卵買って来なかった事まだ怒っているのか?あれは…」
「いや、違う違う。今から鞠達はお風呂に入るんやで?」
うん?好きにすれば良いだろ?
「それとも一緒に入りたいんか?」
あぁ、出ていけと。もうちょっと俺にも景色を楽しませてくれても良いと思うのだが、仕方ない。
「よし、レイ、イオ。俺たちは外で待機だ」
「はーい」
「俺、お姉ちゃん達と一緒に風呂入るよ」
は?なに言ってんのこのガキは?
「まぁ、まだ子供やし別にええか」
「そうね。一緒に入りましょうか」
「良いのか?そいつ12歳くらいだぞ?」
「俺は13歳だ」
だったら尚更だめじゃねぇか
日本では女風呂に入れるのは小学校低学年までだ。13歳の男はおっさんに囲まれながら温泉入るんだよ。
「俺、この兄ちゃんと一緒に風呂入りたく無いよ」
「確かに」
おい今確かにって言ったやつ誰だ?
否定して欲しいわけじゃないが、あえて肯定する意味もないだろ。
「コウ、諦めなよ。僕が一緒に入ってあげるから、さ?」
「いや、誰かと一緒に入りたいわけじゃねぇよ!」
「何や?鞠の素肌をそこの少年に見られるんがそんなに嫌なんか?」
「沙魚川君、小学生に嫉妬するなんて恥ずかしく無いのかしら?」
「……わぁったよ!大人気ない事して悪かった。但し、言っておくけどな」
「13歳の男は性に目覚めてるからな!!」
「コウ、これ以上自分の株を下げる前にやめておこう」
フシャァァァァ
獣の様な威嚇をしていたらレイに首根っこを掴まれて連れていかれてしまった。