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12話

 トリスバーガー。それはコカトリスと呼ばれる危険モンスターの肉を使用したハンバーガーの事である。コカトリスの鳴き声を聞いたものは全身が石になり、身動きが取れなくなるだとか絶命するとか言われているうえに、コカトリス自体もかなりの大きさを誇るのだが、このハンバーガーに使われているコカトリスは人間によって養殖された安全なコカトリスである。


 しかし、いくら安全と言っても元がコカトリスのため、屠殺の際には耳栓では塞げないほどの音量で鳴き声を上げる。そのため養殖場は人里から離れた場所に位置しており、仕留める際は冒険者に依頼することも多いらしい。


「いつになったら着くんや!もう30分は歩いたで!」


 ブーブーと文句を言いながら俺の背中にしがみつく鞠は揺れが酷いと更にダメ出しを出してくる。

 こいつコカトリスの檻に閉じ込めてやろうか。


 冒険者協会にて依頼を受けた俺たちは王都から15分程度歩いた草原の横にある林の中を歩いていた。

 この世界の冒険者協会のシステムはゲームの時と変わっておらず、簡単なクエストを一つだけ受けて、それが達成できたら無事ブロンズランクの冒険者として活動することが許される。


 その簡単なクエストというのがこれから行うコカトリスの屠殺というわけなのだ。


「ほら、見えたぞ。あのフェンスの中にコカトリスがいる」


 高さ5メートル以上もある電気の走るフェンスの中には鶏をそのままゾウと同じようなサイズにした化け物がいた。


「えぇ、コカトリスってこないに大きいかったんやなぁ」

「まさに怪鳥ね」


「あの鶏にナイフでどうしろっていうのさ!」

「レイが仕留め損なっても美波がやってくれるから大丈夫だ」

「酷くない?」


 魔法攻撃は基本的に遠距離専用だ。物理攻撃との併用とはいえ勇者の専用スキル【セイントセイバー】ならそれなりにリーチのある攻撃が放てると思うのだが、面白いので黙っておく。


「なんや?ここの牧場は管理人とかおらへんのか?」

「ここら一帯には魔法陣が張られているから一定のレベル以下の冒険者しか入れないようになっている。もっとも、コカトリスを簡単に狩れるようなレベルになったら、もっと簡単で美味しいクエストがあるからそれすら必要ないかもしれないがな」


「でも養殖場なら餌をあげる人がいてもいいんじゃないかな?」

「コカトリスの鳴き声には体の自由を数秒間奪う効果がある。これをスタン状態というんだが、餌をあげようと近づいた途端にスタンを食らって袋叩きに合う事件が起きてから餌やりは魔道具によって自動化されているんだ」


「そんなん最初のクエストで倒す様なモンスターじゃないやろ」

「この世界はこんなもんだ。受け入れろ」


 全ての生物が生存するために必死なのだから唯の雑魚生物は殆どいない。「噛みつき草」も草原の真ん中にいたから雑魚だったが、本来なら森の中で待ち伏せをして狩りをするモンスターなのだ。


 ただしチュートリアルステージのスライム。お前は知らん。


「そういえば美波が昨日取得したスキルの効果ってなんなんだ?2つとも同じ効果しか言っていかったっていうことはないんだろ?」

「そうね。なんでもあなたに教えられるのは癪だもの。自分で使い方を考えてみたかったのよ」

「なんやおもろそうなスキル手に入れたみたやな」

「お手並み拝見だね!」


 この養殖場はかなり広く、反対側のフェンスは地平の彼方である。その養殖場にクルッと一周フェンスが敷かれており、そこには絶え間なく強力な電気が流れている。コカトリスがいくら美味く、大量の肉が手に入るとはいっても餌代や冒険者への報酬を考えると儲けが出るかは些か疑問ではある。


 途中、絶縁体で加工された扉以外に触れようとした鞠に対して、触れたら死ぬぞという脅しを入れたら「ヒュピッ」と言う鳴き声と共に肩を震わせていた。

 大丈夫。死ななければ回復できるから。


 フェンスを潜ると近くにいたコカトリスが大きな足音を立てながら走ってやって来る。しかし、このゲームを極めた俺にとってこの程度のモンスターは屁でもない。


「散らばれ!踏みつけられるなよ!」


 各々が左右に飛び退く様にコカトリスの突進を避ける。

 コカトリスは俺達に攻撃が当たらなかったとわかるや足でブレーキをかけて2撃目に移る…つもりだったのだろうが、減速虚しく後方の電気フェンスに激突した。


「よっわ」


 誰が溢した声だったか。恐らく全員が同じ気持ちだっただろう


「……ボサっとするな!畳み掛けるぞ」

「コウもちょっとだけ気を抜いてたよね!?」


 俺が戦闘中に気を抜くわけがないだろ。あいつもコカトリスの檻の中に閉じ込めてやろうか

 コカノリスは未だに感電して身動きが取れない様だ。恐らく何もしなくてもすぐに死ぬだろうが一応戦力の把握のために攻撃をしてもらう。


「レイ、美波!やれ!」


「セイントセイバー!」


「…(れき)


 レイのナイフから放たれた光の衝撃波は感電中のコカトリスの背中に直撃して弾け飛ぶ。コカトリスには赤いエフェクトを垂れ流す2メートル程の傷を残した。


 ほう。セイントセイバーはかなりの射程があるんだな。


 美波はというと、確かにコカトリスに一撃を入れていたのだが、レイの与えた傷に比べて浅く致命傷にはなり得ていない様に思える。


「コ、コケぇeeeeEEEE!!!」


 くっ!、ゲームの時よりも酷い音だな。頭の中をミキサーにかけられている様な感覚だ。

 それにスタンを喰らってしまった。コカトリスは一撃で倒さないとコレがあるから好きじゃないんだ。


 カチンッ


 美波が刀を鞘に仕舞った途端、コカトリスに向かって無数の石の(つぶて)が飛来する。どこからともなく出現したの礫は、全方位からコカトリスを取り囲む様に攻撃を与えた。


 1秒程度であったが、数百発の礫をぶつけられたコカトリスは羽がぼろぼろになっており、特にレイの与えた大きな傷跡は無残にも抉れていた。


「えぐいなぁ」

「絶対に喰らいたくないな。これは」


 コカトリスは土煙の様なエフェクトを出して消滅した。

 恐らくレイか美波のインベントリ内に大量のコカトリス肉が入っているだろう。

 アイテムが与えられる条件は「戦闘における貢献度が最も高い者」なので、偶にヒーラーがアイテムを手に入れることもある。


「美波!凄いよ!ブワァーって!石がブワぁーって」

「レイこそ、ナイフで放った光の太刀が鶏に致命傷を与えていたじゃない。凄いわ」


「それにしても…」


「スタンってあんな感じなんだね。思うように体が動かないのはなんだか気持ちが悪いよ」

「せやけど美波はコカトリスの鳴き声を聞いも、刀を鞘に納めるっちゅう行動をしとったでね?」

「それは敵を攻撃してから刀を鞘に収めるまでが一連のモーションだからだろうな」


 コカトリスの鳴き声は行動停止とかのデバフではなくあくまで自由を奪うだけだ。

 スキルというシステムの中で予め決められた動きをするのは自由行動とはいえない。


「その通りよ。実際に刀を鞘に仕舞った後は体が動かなかったもの」

「でも、ひとつだけ訂正よ。体が勝手に動くのは刀で斬りつけた後だったわ」


「なるほどな。じゃあ強制的な後隙モーションだな」


 何が違うのかと言われれば難しいのだが、少なくとも見ている側としてはほとんど変わらない。

 しかし動かしている側からすれば動く気もないのに勝手に体を操作されるのはあまり面白くはないだろう。



「何はともあれクエストクリアだな。明日からは本格的に冒険者として活動していくぞ」



 ◆◇◆◇◆◇


 西門の通りを真っ直ぐ歩くと突き当たりに見えて来る 剣と魔法の絵が描かれた大きな看板を掲げた建物。俺達は冒険者協会の中で冒険者になるための手続きを進めていた。


「わぁ!随分早くに帰って来られましたね。ふむふむ。養殖コカトリス一体の討伐を確認致しました!報酬を用意して参りますので少々お待ちください!」


 元気な受付のお姉さんはパタパタと走っていった。

 ガチャガチャと忙しそうに何かを操作していたかと思うと、小走りで帰ってくる。


 可愛いなおい


「ではこちらがコカトリス討伐分の鉄貨3枚とコカトリス肉の買取分の銅貨5枚です。ご確認ください!」


 は?嘘だろ?

 養殖コカトリスとはいえ討伐料300円?あの100キロ近い肉が5000円?

 幾らゲーム時代と事情が変わっているとはいえショボすぎないか?


 四人で分けたら一人頭1300円だぞ?これじゃ宿泊料を払っておしまいだ。


 これじゃだめだ。もっと金を手に入れて、l強い装備を揃えてレベルを上げなければ。いつまで経っても童貞を卒業できない。


 結果的にコカトリスは殆ど経験値を持っていなかったし、報酬も安い。


「おいお前達、今からゴブリン狩だ」

「へぇーやっぱりいるんだ。ゴブリン」

「川にもおったでな。確かコウは5匹のゴブリンにリンチされとったよ」


 見てたなら助けてくれよ。


「申し訳ありません…ゴブリン討伐はた先程やって来た方々が受注してしまいましたので、そちらのクエストボードからお選びください」


 受付のお姉さんは困った様にそう言った。


「ねぇ、コウ。ゴブリンじゃないといけない理由でもあったのかい?」

「ゴブリンは光り物を好むからな。巣に金品を隠し持っていることが多い」

「成程、ゴブリンよりもゴブリンの持っているお宝が目当てだったんだ」


 ゲームではゴブリンの巣に隠されたお宝は一定時間で回復するのだが、ゴブリンの住処を全て把握して順番に回収して回るという金策をしている奴もいた。

 敷居が高い割にあまり儲けも多くないので実践するプレイヤーは少なかったが。


「じゃあその人達もゴブリンのお宝が目的かもしれないし、今から行っても仕方ないね」


「あ!でもその方々は、皆さまお揃いの上質な服を着ていましたので、お宝だけなら残っているかもしれませんよ!お金に困った様子ではなかったので」


 へぇ…上質な服を揃えた連中、ねぇ?


「……美波、どう思う?」

「クラスの人間かも知れないわね。確か服屋の店主さんも制服を見て態度を変えていたもの」


 やっぱりそうだよなぁ。俺達がここに来る前にいたのは教室に中で、転移に巻き込まれたと思われる人間も結構いる。

 もしもそいつらがクラスの奴らではなく、本当に実力のある冒険者パーティーだとしたら、こんな駆け出しの街に用はないだろうし。


 むしろ、同じ魔方陣で転移したのに同じ場所に召喚されなかった事の方が不思議だ。


「じゃあ諦めて別のクエストを受けるか。そいつらの動向も気になるところではあるが」

「僕もクラスの皆んなは心配だけど、クエストを受けているっていうことは、ある程度こういう世界の知識を持っていると思うし別に急がないかな」

「私はそもそも貴方達とは別のクラスな上、巻き込まれたクラスにも知り合いはいないから興味ないわ」

「鞠も別クラスやしなぁ、どうでもええけど今から遠出は嫌やで」


「じゃあクラスの奴らとは会えたらラッキー。無理して会う必要は無しっていうことで」

「意義なーし」


 方針も決まったのでクエストボードの元へ行く。


 ボードというか、壁一面にクエスト用紙が貼られているのだが、その中のうちの一つ。【村を襲った謎のモンスターの討伐】という依頼を剥がして3人に見せた。


「どうしたんだい?これにするの?」

「謎ってなんやねん」

「生物の見た目や名前が分からないなんてよくある事よ。それよりどうやってそのモンスターを倒すつもりなのかしら?」


「実際に見てからじゃないと何ともいえないが……情報によればここから遠くない場所だし、村人が数人殺されただけで済ませるような奴なら幾らでもやりようはある」


「村人、死んじゃってるの⁉︎」

「日本でも熊なんかに襲われる事がる。似たようなものだから感情的になるなよ」


「…分かった」


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