透けブラ戦争【後攻】
【登場人物】
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。右隣の席に座っている女子が苦手。
梅雨の中休み……久しぶりの晴天に恵まれたと喜んだのも束の間、この日の予想最高気温は32℃とスマホの天気予報アプリに表示されていた6月末の平日。
室温がグングン上がり、そろそろエアコンをつけてほしいと誰もが願っていると思われる4時限目の授業中、釜無高校1年3組の《御勅使 美波》は目のやり場に困っていた……そう、私のことだ。
私の前の席に座っている《水辺 ふたば》さん……ちょっと大柄でふっくらした印象だが、それでもスタイルはかなりいい方の部類に入る女子だ。
しかしそれにもまして特徴的なのが、学校の「持ち込み禁止品リスト」に加えてほしいほどの「巨乳」の持ち主だ。で、さっきから気になっているのが……
彼女のブラジャーが思いっきり制服の上から『透けて』見えているのだ。バックベルトも、肩紐も、ホックまで……白いブラと肌の色のコントラストでそりゃもうくっきりと!
今は6月、制服は夏服になっている。ウチの学校の女子は白のブラウスが夏服に指定されている(ベスト着用可)。しかし今日はメッチャ暑い! 暑いのはわかっているんだけど、だからといって白いブラの上に直接制服って……この子は周りの視線が気にならないのかな?
私だったら気になるけどなぁ~。キャミ着るとかせめてベージュのブラにするとかした方がいいんじゃないの?
それにしても……真後ろから見てもやっぱ彼女のバストはチート級にデカい。
ブラのベルトが思いっきり食い込んでいてはちきれそう……そういや以前、大きいのが悩みで1サイズ小さめのブラを着けてるって聞いたことがあるけど……逆効果だろ。締め付けられたことで浮き出た「肉感」が余計エロさを感じるわ。
ていうか「大きいのが悩み」ってウソでもいいから言ってみたい。ま、Bカップの私は部活でも着替える必要のないスポブラで過ごしていますけど……ふーんだ!
まあ私のことは置いといて……この状況って周りの男子どもは気にしていないのかな? 何か後ろの方からエロい目で見てるヤツとかいそうだ。
右側の席をそーっと見てみる……みんなマジメに勉強しているみたいだ。まあ期末テストも近いからそれどころじゃないか。
左側はどうかな? そういや左隣には赤坂君がいるけど……。
《赤坂 大》君……私の片想いの相手。身長148センチの私より小さそうに見える大人しい草食系男子だ。
まあ彼はマジメだし勉強もそこそこできるし……テスト前の大事な時期、透けブラにうつつを抜かしているワケないでしょ? と、左側をチラッと見たとき……
私の心の中の戦争が……
【開戦】
どっか~ん!
ぬぁああああああああああああああああああああああああああああああああああにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい~!?
――やっちまったなぁ!? 赤坂っ!
伸びた鼻の下! トロ~んとしたエロい目!! あれはど~ぉ考えても水辺さんの透けブラを見てニヤケている顔に間違いない!!
――このぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 許せないっっ!!
ブン殴ってやりたい気分だけど……私たちは恋人同士じゃない、ただのクラスメイトだからそんなことしたら問題になる(※恋人同士でも暴力はダメです)。
でも好きな人のニヤケ顔を見たくない。私はイスの位置を直すフリをして体重をかけたまま……
〝ギギィーーーー!!〟
イスをずらしわざと大きな音を立ててみた。何人かこっちを見た。赤坂君も一瞬ビクッとして我に返り、黒板の内容をノートにとり始めた……ひとまず安心。
――何でよぉ~、何で私じゃなくて水辺さんを見てるのよぉ~!
やっぱ草食系でも男の子なんだなぁ~……でも、私の方だって見てほしい!!
……いや、おっぱいじゃなくて。
赤坂君、私を見るときは「怯えた目」でしか見てくれないもんなぁ~。
「……」
――うぅっ! (自爆……またの名を自業自得)
自爆した私の顔は机と一体化していた。しばらく静かな授業が過ぎていたが、赤坂君が気になったのでそーっと左の席を見たら……
――あ~っ!!
また赤坂君、水辺さんの方向をチラチラ見ながら顔がニヤケてやがるぅ!!
休み時間になったらマジでアイツを2~3発グーパンしてやりたい!! でもまだそんなことできる関係じゃないし(※いや、だから……そんなことできる関係なんてありません!)……。
あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! くやしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
――ん!? でも待てよ……?
この状況って……本人的には「他人に見られたらすっげー恥ずかしい状況」ってことになるよね?
ならばこの証拠を押さえれば赤坂君の「弱み」を握れる……つまりマウントが取れるってことじゃん! でもってこれをキッカケに私が優位に立てば、彼に有無を言わせずお付き合いを「強要」できるかも? 何だ、逆にチャンスだぁー!
――あっ!
凶悪な妄想をして、思わず不敵な笑みを浮かべた私に赤坂君が気が付いた。赤坂君は私と目が合った瞬間ビクッとして、目がまん丸くなってフリーズ……非常にわかりやすい反応だ!
――さぁ巨乳好きの赤坂君! 貧乳の攻撃を受けるがよい!!
あ……赤坂君、私から目をそらして黒板の内容をノートにとりだした。水辺さんは見ていません、ちゃんと授業受けてますアピールか?
なるほどぉ……私と目が合ったのは無かったことにするつもりなんだねぇ~。
――おもしれぇ! だったらこっちもそれ相応の攻撃をしてやるわよ!
赤坂 大! 覚悟しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
私はメモ用紙を取り出した。彼は今「何も見ていない」「何も知らない」というATフィールドを全開している。ならばこのメッセージでそいつを破ってやろう。ただ、いきなり核心に触れるのも面白くない。ここは一言でインパクトのある……
『すけべ』
とだけ書いて反応を見よう。
メモ用紙「爆弾」を赤坂君の机の上に「投下」! いきなり机の上に投げつけられたメモに、赤坂君はビビっていたけど開封して中を見ている。そして……
顔から血の気が引いて……めっちゃ動揺してるぅううううううううううううう!
――ぷぷぷっ! あ~はっはっは面白い!!
さてと、私も授業に復帰しよう。期末テストも近いし、元々成績もあまり良い方じゃないから一応ちゃんとやっておかないと……。
私はしばらくマジメに授業を受けていた。すると……
〝ポトッ〟
あれ? 私の机にメモ用紙が……お、投げ返してきたか!? 赤坂君から反応があったのでちょっとうれしい。でも何これ? 下手くそな折り方……ってかそもそも折れてないし!
赤坂君からの返事は……
『何のことですか?』
――ふ~ん、やっぱしらばっくれたかこのドスケベ! じゃあ本気を出すわよ!
すでにこの反応は想定内なので、あらかじめ
『水辺さんのブラジャー見てたろ』
と書いたメモ用紙を「即返」で赤坂君の机の上に投下! 私からの「セカンドインパクト」受け取れ~っ!
……開封したかな? 私はそ~っと赤坂君の様子を見てみた。
ぷぷぅ~っくすくすくすっ!
さっきよりさらに動揺しているぅ~! しかも今度はメモ用紙を持った手が小刻みに震えているわぁ~。笑いをこらえるのがつらい……ぷぷっ!
しばらくすると再び……
〝ポトッ〟
メモ用紙が返ってきた……ってか、さっきから私のメモ用紙使ってるじゃん。メモ帳持ってないんかい! どれどれ、なんて書いてある?
『見てません!
言いがかりはやめてください!
証拠はあるんですか?』
――おいおいおい逆ギレかよこのヘンタイ! 思わず苦笑してしまったわ。
はぁ~ん「証拠」ねぇ~……そうきたか。じゃあこの「作戦」を決行するしかないな。私がイスをずらして大きな音を立てた「本当の理由」を教えてあげよう。
【赤坂君むっつりヘンタイスケベ認定! もう言い逃れできないぞ作戦!】
※用意するもの※
・スマホ
・メモ用紙
1.あらかじめ机の下でスマホのカメラアプリを準備しておく。
2.決定的瞬間を逃さないのとシャッター音を立てないために動画を選択。
3.イスをずらし大きな音を立てながらアプリを起動(起動音を消すため)。
4.赤坂君を撮影(ここまで実行済み)。
5.メモ用紙に「あるメッセージ」を書いてきっちり折りたたんでおく。
6.折りたたんだメモ用紙の表に
『こっちを見ろ』
と書いて、赤坂君の机に投下!
7.机の下からスマホ(カメラ)を赤坂君の方向に向ける。
8.赤坂君がこっちを見たらスマホを指さして視線を誘導する。
9.あとは折りたたまれたメモを読んでもらえばOK!
という感じで準備完了……では作戦実行!
〝どっか~ん!!〟
赤坂君、撃沈! 作戦、成功!!
ちなみにメモに書いた内容は
『休み時間にクラスの女子を集めて【上映会】するよ!
もちろん水辺さんも一緒にね♪
赤坂被告! 罪を認めるか?』
なぜ「女子限定」かというと、男子が混じると赤坂君に同情する「擁護派」が出てくる可能性があるからだ。でもこれが女子だけの集まりなら、たとえこの状況がグレーゾーンだったとしても「有罪確定」に持っていける。
こういうセクハラ行為に対する女子の「結束力」はハンパないからね!
――勝った。
撃沈された赤坂君の頭部は見事に机と同化している。これが格ゲーならきっと彼の頭の上に「YOU LOSE」の文字が見えていることだろう。
あははっ! ちょっとダメージ大きすぎたかな? かわいそうな気もするけど……でもね赤坂君! 好きな男子が他の女子を見てデレデレしている姿って正直見たくないんだよ……こっちだってダメージ大きいんだからね!
しばらくして撃沈ヘンタイ君……じゃなかった赤坂君が、メモを私の机めがけて投げようとしていたけど……手元が思いっきり震えている。このメモが「誤爆」して他の人に渡ってしまったら、私までマズいことになるので手を伸ばして受け取った。さて、何が書いてあるんだろう?
『ごめんなさい 罪を認めます!』
――そうかそうか、素直でよろしい。
『何でも言うことを聞きますから
このことは誰にも言わないでください!!』
――ま、元々誰にも言うつもりはないけどね!
私の好きな人にそんなマイナスイメージつけたくないもん……ってか、ちょっと待って!? 「何でも言うことを……」って?
『何でも【命令】して結構です』
か……
かっ……
完・全・勝・利ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……やったね!!
えっそれって私の言うことに「絶対服従」って意味だよね!? だよね!? だよねぇええええええええええええええええ!? そしたらもぉ~、私の【命令】はただひとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっつ!
私は新しいメモを取り出すと……
『じゃあ、私と付き合いなさ…………
「……ふぅ」
私は小さくため息をつきペンを置いた。そして頭を抱えると、
私はバカかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
いくらなんでもその【命令】はおかしい! 今の関係でそれ言ったら誰が聞いても「えっ何で?」って言いたくなるほど不自然……頭がおかしすぎるわ!
これって一見【命令】しているように見えるけど、赤坂君にその気がないであろう今の状況でこれ言ったら「お願いします!」と自ら下手に出て……つまり、わざわざ「マウント」を取られにいってるようなものだ!!
さすがにこれはムリだ! どうしよう? 私は途中まで書いた文字を消しゴムで消して再び書き直した。「おまじない」で赤坂君の名前を書いたこの消しゴムはまだ角が少しすり減った程度だ。
『じゃあ今度の週末デートし……
これもダメだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! まだ友だち以下の関係だぞ!!
『じゃあ今度ゴハンおごって♥』
『服買って♥』
『金くれ……
人の弱みにつけ込んで脅して金品要求って……恐喝だよ! ダメじゃん!?
えぇえええええええええええええええええええええええええっ!! どうしたらいいのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 何も思いつかないんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
私は【命令】を書いては消し、書いては消し……メモ用紙が汚くなったので交換して……をしばらく繰り返していた。でもここであることに気付いた。
――いや待てよ!?
今、ここで私が【命令】を下したらそれで終わりじゃないのか?
せっかく捕まえた「獲物(弱み)」を再び野に放ち、私たちの「主従関係」もこの時点で終了になる……何かいい方法は?
――そうだ! いいこと思いついた!!
これは一見「神対応」で解放しているようにみせかけといて実はちゃんと縛りあげているという、いつ爆発するかわからない「時限爆弾」だ。
私は早速、メモ用紙に書いた「時限爆弾」を赤坂君の机に投下! その内容は、
『上映会は中止するよ!
他の誰にも言わないから心配しないでね
あと、私からの【命令】は
今はまだ何も思いつかないから保留にしといて』
とメモ用紙の表に書いた。これなら一見「解放」に見える。だが……
『↓ウラも見てね』
と誘導して、ウラには「時限爆弾」を……
『あくまでも保留だからね!?
いつ【命令】するかわからないから覚悟はしておいてね♪
5分後かもしれないし1年後かもしれないよ!?
それまでにスゴいのを考えておくから! じゃあね!』
さらにトドメを刺しておこう!
『P.S.動画は保存しておくからね! 変なマネしたら
いつでも上映会するゾ~♪』
4時限目終了のチャイムが鳴り昼休みになった。でも……
赤坂君は机の上に顔をうずめたままずっとフリーズしていた。
う~ん、やっぱやりすぎたか(笑)。
【終戦】
※※※※※※※
〈1年後〉
私は今、机の上に顔をうずめたままずっとフリーズしてたヘンタイ君……じゃなかった《赤坂 大》君と付き合っています。
実はこの数日後、ある出来事によりこのとき保留にしてた【命令】を発動することになるんだけど、これがキッカケで彼の心にちょっとした「変化」が起きることになるらしい……それはまた次回お話ししますね。
いや~、それにしてもこのときの赤坂君の反応には笑った笑った! でも彼、今でこそBカップの私と付き合っているけど実は「巨乳好き」なのは変わっていないようで、その後も似たようなエピソードが……なので今度そういう反応があったらどんな「お仕置き」をしてやろうか今から考え中! 覚悟しろよ~ふっふっふ!
あ、そういえば……あの「動画」は保存してあるのかって?
答えは「ノー」! ていうか初めから撮ってないよ!! だって……好きな人が他の女の子見て鼻の下伸ばしている姿なんて見たくないもん!
私だって……あの日以来、毎日牛乳飲んだりして努力しているんだよぉ~!
で、その努力の結果はあったのかって?
……はぁ~っ(ため息)
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!