告白戦争【後攻】 ※最終回※
こんな笑顔でよければ……これから毎日見せてあげるよ赤坂君!
12月も中旬になり、2学期の期末試験をいよいよ来週に控えた雲ひとつない木曜日の朝。釜無高校1年3組の《御勅使 美波》はこの日の登校前、試験日以上に緊張する朝を迎えていた。そう、私のことだ。
一昨日から昨日にかけて、ネット配信中の地元アイドル《忍野 萌海》ちゃんや親友の《玉幡 遊》に背中を押され、ウチのFランバカ兄貴《御勅使 福嗣》にけしかけられ……そして憎き恋敵《上条 志麻》にライバル宣言をして……
今日、私は隣の席の《赤坂 大》君に告白すると心に決めたのだ。
昨日は成り行きでそんな決意をしてしまったが、正直今は緊張と不安しか存在しない。そりゃそうよ、私は普段「ラーテル」とか陰で呼ばれて男子から恐れられているけど、実は恋愛に対してとても慎重……もとい、オクテなんだから。
私は低身長なのがコンプレックス……というより高身長男子にいじられるのが嫌いなので、彼氏にするのは私より低身長! と心に決めていた。そんな身長148センチの私にとって身長147センチ(当時)の赤坂君は激レア好物件!
のはずだったんだけど……
ここ1ヶ月、その赤坂君と口きいていない状況なのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
赤坂君が志麻と一緒にいるところを目撃して以来、私はずっと赤坂君を避け続けている。他人の彼氏になったものだと半分あきらめていたのだが、昨日の志麻の話では赤坂君に「告ったけど返事待ち」なのだそうだ。
なので私も赤坂君に告れば志麻と対等の立場になる。だからできるだけ早く赤坂君に告白するべきなのだが……
――今日じゃない!!
1ヶ月間フツーの会話すらできていないのに、告白などできる空気ではないことくらいウチのFランバカ兄貴(福嗣)でも読めるだろう。
でもこの流れになってしまった以上、今日赤坂君に告白するしかないだろう。ここで告白すれば志麻と対等になれる。あとは赤坂君が決めること……結果がどうなろうと全力を尽くせば後悔はない。
私は玄関のドアを開けて出かけようとした。すると……
〝ニャー〟
……目の前を黒猫が横切った。
――あっ……
――こんな猫、近所に居たっけ?
私は黒猫に「にゃー」と挨拶してから学校に向かった。
【最終戦争……開戦】
学校に着いて教室に入ると遊たちがいた。しばらく遊たちと談笑していると赤坂君が登校してきた。いつもなら「赤坂君、おはよ!」と、誰よりも先に挨拶していたのに……ここ1ヶ月間はずっと挨拶していない。
だが今日は違う! 告白すると心に決めたせいか赤坂君の様子がメチャクチャ気になる!! 意識しないように……と思っていてもついチラッチラッと赤坂君を目で追ってしまう。でもってたまに目が合うとそのときは思わず逸らしてしまう……告る前から悟られないようにしないと。
うわぁあああああああああああっ緊張するよぉおおおおおおおおおおおおっ!!
※※※※※※※
〝キーンコーンカーンコーン〟
2時間目終了のチャイムが鳴った。3時間目は体育、今日は女子も男子も体育館でバレーボールだ。
〝ガタガタッ……スタスタスタ……〟
最近、赤坂君に話しかけられる前に席を立つのが習慣になってしまった。志麻とは付き合っていないとわかってからもつい拒絶反応してしまう。
この高校では女子は女子更衣室、男子は教室でジャージに着替える。私はジャージの入った黒いナップサックを持って教室を出た。
――どうしよう。
もう3時間目だよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
私は女子更衣室でジャージに着替えると、ずっと天井を見上げていた。
そんなとき……事件が起きた。女子更衣室内で「思わぬ名前」が出てきたのだ。
「赤坂くーん、そこのヘアゴム取ってーっ!」
――えっ? ちょっと!
何で赤坂君が女子更衣室にいるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
「えっ、何で!?」
私が驚いていると他の女子たちからも……
「赤坂ーっ、体育館行ったら(バレーボールの)ネット設置するの手伝って!」
「ねぇ赤坂くーん、新しいスポブラ買ったの! どぉ? 似合う?」
赤坂……とは言っているが、どう見ても私に声をかけているようだ。えっ、どういうこと? 私が赤坂君? いや、結婚して苗字変わったワケでもないしそもそも付き合ってすらいない。
「ち……ちょっと! 私、赤坂君じゃないよ!!」
すると遊が私に向かって、
「えっ、おまんは赤坂じゃんけ」
「何でよ!」
「だって……名札見ろし」
「……えっ!?」
私はすぐに自分が着ているジャージの胸元を見た。
うっ……うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
プリントされた校章の上には何と……
『赤坂』
という刺繍が施されていたのだ。
何で私、赤坂君のジャージ着てんのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
赤坂君のジャージを間違えて着たことに私が気づいた瞬間、女子全員大爆笑。
何でぇええええっ!? ちゃんと自分の机のフックに掛けてあったバッグを持ってきたはずなのに……。
「おーい、赤坂美波!」
遊がニヤニヤしながら話しかけてきた。まさか……
「つーこんは今、ちっくいの(=赤坂)がおまんの『ジャッシー』を着てるか、着る前に気づいて困ってるちゅーこんだよなぁ……」
「……え゛っ!」
赤坂君が……私のジャージを着てる?
「早く行ってこーし! そうしんとおまんとう遅刻しちもーよ!」
「うわぁああああっ!!」
私は急いで制服に着替え、赤坂君のジャージを持って教室に戻った。
「おいこら! 廊下を走るんじゃない!」
「あぁっ、すみません!!」
くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
こんなしょーもないイタズラ……絶っっ対に遊の仕業だ! もうっ、覚えてろよあのバカッ! ったく、何でこんなことすんのよアイツは!?
〝スタスタスタスタスタ……〟
私は早足で3組の教室に戻り、勢いよく扉を……
〝ガララッ……ピシャン!〟
半分まで開けてすぐに閉めた。
――あっぶねぇあぶねぇ!!
下手すりゃまだ男子が着替え中かもしれない。こんな中で勢いよく教室に入ったら私は変態か痴女扱いされてしまう!
赤坂君は間違いなくいるハズ……私は教室の外から赤坂君に声をかけた。
「あっ赤坂君!! 男子まだ着替えてる!?」
すると教室の中から小さな声……でも赤坂君にしては大きな声で
「あっ、大丈夫です! ボク以外いませんよ」
その言葉を聞いた私は再びすごい勢いで扉を開けると、一目散に赤坂君の席に駆け寄った。そして息を切らせながら
「はぁ、はぁ……ゴメン! 赤坂君、なぜかわかんないけどジャージ間違えてたみたい。すぐに着替えて! 体育の先生来るの遅いから、今だったら出欠確認に間に合うはずよ」
「う、うん……ありがと」
「あっそれともうひとつゴメン! 私、1度袖通しちゃったんだけど……」
と言い残して私は女子更衣室に急いだ。
あっ……そういえば今、
赤坂君と2人っきり……だったよね……
告白する千載一遇のチャンスだったじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
でもこんな忙しいときにそんなのムリだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
それに早く着替えなきゃ体育の授業欠席になるじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
しかも! 赤坂君のジャージを着てしまった……
何で違和感なく着られたんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおそれってサイズが全く一緒ってことじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
せめて……せめて……
胸まわりだけはキツくなっていてほしかったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああバストサイズが男子と一緒なんてイヤだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
よく考えたらすげーショックな出来事だ!
私は大急ぎでジャージに着替えると体育館へ向かった。体育館に着くと真っ先にネットを設置していた遊の元へ向かって……
「テメェ! よくもやってくれたな」
「ん? 何のこんで?」
「とぼけんな! こんなことするのオメーしかいないわ!」
私が詰め寄ると遊はニンマリとした顔で
「ふーん……で、どーでぇ? 久しぶりに会話した感想は?」
――あっ!
そういえばさっき、約1か月ぶりくらいに赤坂君と会話できてたんだ。
まさか遊、それを狙って……?
※※※※※※※
ネットを設置して準備ができた。体育の先生は出席だけとるとそのまま体育準備室に戻ってしまった。体育の時間なんてほぼレクリエーションのようなものだ。
クラスの女子は19人なので、バレーボールは3チーム……ではなく、女子の体育の先生はプライベートでママさんバレーの監督をしている。その影響もあって女子は9人制、2チームに分かれた。
私は低身長なので前衛はムリ。なので私としてはローテーションがある6人制より9人制の方がありがたい。そういや山梨ってなぜかママさんバレー盛んなんだよねぇー。ウチのママも地区のクラブに入っているし……。
私は遊と同じチームだ。そして相手チームには《西条 彩》ちゃんと……
……志麻がいる!!
志麻も私と同じ低身長……後衛にいる。しかも私と目が合った瞬間、手を振ってきやがった! くっそぉ~、すでに告った勝者の余裕か……ふざけんな!
私に身長があってアタッカー任されたら、絶対にアイツ狙ってスパイクぶち込んでやるんだけどなぁ~。
でも今日は……それどころじゃない。
試合よりも今は告白のことが気になっている。さっきは赤坂君と2人っきりで久しぶりに話すことができたがあれは偶然……アクシデントだ。
今日1日、赤坂君と2人っきりになれるチャンスなんてそうはない。さっきのは偶然とはいえ、数少ないチャンスだったのに……それを逃してしまうなんて!
どうする御勅使美波!? こうなったら月並みな方法だがニャイン送信して放課後に呼び出すとか? えっどこに? 屋上? ウチの高校太陽光パネル付きの屋根だから屋上無いし、体育館裏……裏って一体どこ? 校舎裏……結構人いるわよ!
それに他のクラスや他の学年の生徒に見られちゃうし、そもそもあの赤坂君のこと……ニャイン送信なんかしたらビビってしまい、やって来ないかも……?
「美波ごめーん! 1回相手に返してー!!」
そんなことを考えながらボーっとしている私の目の前に丸い影が……。
〝バンッ!〟
コートに倒れた私はそのまま考え続けた。
私は赤坂君と2人っきりになるチャンスをつくれるのか?
私は赤坂君に告白できる雰囲気をつくれるのか?
そして何より……私は赤坂君に告白する勇気があるのか?
うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! どうしたらいいのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
私はコートの上で顔に手を当てたままジタバタともがいた。
「えっ美波、大丈夫!? 保健室行く?」
「いや……あんな緩いトス顔面に受けたくらいでケガしないでしょ」
そこへ遊がやってきて
「ったく、おまんとうはどんだけ仲いいずらか……」
よく見ると男子のコートでは、赤坂君が私と同じように顔に手を当てた状態でジタバタしていた。
……え? 何で?
※※※※※※※
「ねぇ、美波!」
お昼休み、私は後ろから突然声をかけられた。
声の主は《鶴城 舞》ちゃん……私の友だちで吹奏楽部に所属している。私の中では3組の中で1番の美少女……ただし、同じ部活に1年先輩の彼氏がいる。
「どしたの? 舞ちゃん」
「あのさっ、ちょっとお願いがあるんだけど……」
舞ちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。彼女からお願いされるのは珍しい。
「えっ、何?」
「あのさぁ今日、私日直じゃん……でも放課後どぉしても行かなきゃならない用事があって……悪いんだけど放課後だけ日直代わってもらえない?」
「う……うん、いいわよ」
期末試験が近いが……私の場合、どうせ少し早く帰って試験勉強したところで大して結果が変わるわけじゃないし……それに、
――もしかしたら赤坂君に告白するチャンスが巡ってくるかも!?
「ホント!? 助かるぅ~、ありがと美波!」
舞ちゃんはとても喜んでくれた。だがその後、舞ちゃんの口からとても恐ろしいワードが飛び出した。
「あっそうだ美波! 今度のクリスマスイブはヒマ?」
――ぐっさぁああああああああっ!!
その『地獄のイベント』の存在を忘れてたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
――ヒマであって欲しくない! ヒマであって欲しくない!!
「クラスの女子でカラオケパーティーしようって話があるの! 美波もどう?」
「どうって……舞ちゃん、ユウキ君はどうするの?」
ユウキ君とは舞ちゃんの彼氏のことだ。
「私? 私は大丈夫! 途中で抜けられるし……だから美波も大丈夫よ」
いっ、いやいやっ大丈夫ってどういう意味よ! 私、まだ彼氏いないんだから途中で抜けられるとか関係ないんだけど。
それに……
「それって……志麻も来るの?」
「うん、行くって言ってた」
……無理じゃん! 恋敵と顔合わせたくないわ。
でも、ここで私が「勝って」赤坂君と付き合えたなら問題ないよね? 逆に志麻の方が私と顔を合わせにくくなるだろう……今日、告白さえすれば返事ができる。
「あ、ごめん……ちょっと考えさせて」
「いいわよ、返事は明日まででいいから」
「うん、ありがと舞ちゃん」
「こっちこそ日直よろしくね! じゃあ放課後……頑張ってね!」
――えっ!? うっ、うん……まぁ日直も頑張る……けど。
えっ、何で舞ちゃん「頑張って」なんて言ったの? よくわからない……。
そういやもうひとりの日直って……げっ!? 「バカ砂」じゃん!
今日、舞ちゃんと日直組んでいたのは《高砂 農》、通称「バカ砂」……私の低身長をしつこくイジってくる「天敵」だ!
うわ~、今日はツイてねぇ~っ!!
※※※※※※※
〝キーンコーンカーンコーン〟
この日は結局、赤坂君に告白しないまま……
授業が終わってしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
しかも……
この後バカ砂と日直なんて最悪だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
しかも、もっと最悪なことに……
授業終わりに赤坂君を呼び止めようとしたけど急にトイレに行きたくなって……戻ってきたら時すでに遅し! 赤坂君は帰った後だった。自分の尿意のせいで一世一代のチャンスを逃すなんて……こんなの絶対に「黒歴史」確定じゃん!
何やってんだ私は……おバカにもほどがある。
後はニャインで告るとか? うん、確かにニャインで告ったとかいう話をネットで見たことはあるけど……私としては何かそういうのって抵抗がある。やっぱ面と向かった状態で告りたい。
明日リベンジすればいいじゃん……って思いたいけど、こんな調子じゃ私は赤坂君に明日も明後日も……あ、明後日は土曜日か、来週も再来週も来年も再来年も10年後も100年後も告白することはできないよぉ。
みんなのアドバイスがムダになっちゃった……私は本当にダメなヤツだ。
そもそも今日、2人っきりになれたのは体育の前の休み時間だけだった。まぁここは大勢の生徒が通う学校、2人っきりになれる方が奇跡的だよ。
そんな唯一無二のチャンスを逃してしまった……やっぱチャンスなんて待っていたところで簡単にはやってこないのよ。だからあのとき、私が赤坂君に「今日放課後に会って!」とひとこと言えばよかったんだよぉ。
――それにしても……遅いぞバカ砂!!
何やってんだよ! こっちは代理できたのに戸締りを終えてもうすぐ学級日誌も書き終えるぞ! まぁ学級日誌は舞ちゃんがほとんど書いてたんだけど……。
アイツ~さてはどっかでサボってるな!? 私は今日、赤坂君に告白するチャンスを逃してめっちゃ気分が悪いんだ! あの野郎、私が全部終わらせてから何食わぬ顔でやってきたらフルボッコにしてやる!!
私が自分の席で待っていると上履きの音が近づいてくるのがわかった。でも何かゆっくり歩いているような……まさか私が代理なのを知っててわざとやってる?
そして上履きの音が教室の前で止まり、ガラガラっと弱々しく扉が開いた。
「あっ、遅れてすみません」
私は振り向きざま、扉に向かって怒鳴りつけた。
「もうっ、遅ーぞ! 何やってんだこのバカ砂……えっ!?」
「えっ!?」
「えっ?」
「あっ……」
「えぇっ……」
「なっ……」
「なんで……」
何で赤坂君がやって来たのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
※※※※※※※
「なっ……なんで赤坂君なの?」
「えっ、あっ……さっき高砂君に頼まれて……えっ、御勅使さんは?」
「わっ……私も昼休み、舞に頼まれて……えっ!?」
えっ、バカ砂の代わり? まさか2人とも日直を頼まれていたなんて……。
「あっ……そうだ! 日直! 日直を……学級日誌書かなきゃ……あっあああ赤坂君……あっあの、戸締りかっ、確認して!」
「えっ、あっう……うん」
私は動揺を隠せなかった。どうやら赤坂君も、日直の相方が舞ちゃんだと思っていたら私だったので動揺しているようだ。このときすでに私は窓の戸締り確認を終えていたが、思わず赤坂君に戸締りの確認をお願いしてしまった。
赤坂君が戸締りの確認をしている間、私はだんだん赤坂君と同じ教室にいることをプレッシャーに感じ
「じ……じゃ私、職員室に日誌出してくるね」
と言ってそそくさと教室を出ようとした。こら美波ーっ! なんで逃げようとするの!? ちゃんと向かい合わなきゃダメじゃん……と心の中で思っていても、どうしても逃げようとしてしまう自分がいた。
そのとき……
「あっ!」
手を滑らせて学級日誌を落としてしまった。私はすぐに拾い上げようとしたが、
――!?
赤坂君も拾い上げようとして、同時に学級日誌をつかんでしまった。
――ひっ! ち……近い!
今はこの距離ダメぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!
学級日誌を挟んで赤坂君と急接近し目が合った。私は至近距離で赤坂君の目を見た瞬間、心臓の鼓動がカンストしそうになった。
〝ドクドクドクドク……〟
赤坂君と私は学級日誌をつかんだまま動きが止まってしまった……まるで時が止まったようだ。でも心臓の鼓動だけはどこからともなく聞こえていた。
――はっ!?
このとき私は確信した。
今が……告白するチャンスだ!
「「あっ、あのっ!!」」
そう思った瞬間に声が出た。だが赤坂君も同時に声を出していた。
「あっ……ど、どうぞ」
「ううん……赤坂君から先に言って」
えっ、今何で私は赤坂君に発言を譲ったんだ? まだ私は逃げようとしているのか? バカか私は! ここは私が先に告白しなきゃダメなパターンじゃん!
――それにしても……赤坂君は何を言いたいんだろう?
赤坂君は学級日誌から手を離すと1歩下がり姿勢を正した。
――えっまさか……志麻と交際宣言?
――何で私にそれを?
もしかして私の気持ちに気づいていた?
そして私にあきらめさせるつもりで……?
そんなのやだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「あっ……あのっ!!」
私が告白……リングインする前に試合終了のゴングなんてヤダよぉ~! ダメでもいいからせめて同じリングに上がらせてくれ~!
「みっ……御勅使さん!」
それもこれもさっき、赤坂君に「先に言って」なんて告白を少しでも先延ばしにしようとした私のせいだ! 何であんなこと言ったんだろう……
「ボッ……ボクは……」
わかってるわよ……志麻と付き合いたいんでしょ!? 聞いてやろうじゃん!
「ボクは……」
でも……やっぱり後悔している。言いたかった……赤坂君、あなたに「好き」ってひとこと言いたかった!
もういい、バカなヤツと思われてもいい! 恥も外聞も捨ててやる! 赤坂君から志麻と付き合いたい、あるいは付き合ってると言われても私は……赤坂君にこの思いを伝えてやる!
――私は、赤坂君のことが好……
「御勅使さんのことが……好きです」
――へっ!?
今…………何て言ったの赤坂君、
好きです……って言った?
いやいや、それ私のセリフ……だよ。
きっ、聞き間違いよね……そうよね!?
まさかぁ~、あの赤坂君が私にそんなこというワケ……
「ボッ、ボクと……付き合ってください!!」
聞き間違いじゃなかったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
〝バサッ〟
「え……何で?」
予想外の告白に、私は思わず学級日誌を再び床に落としてしまった。そして瞬間的に「何で」と聞いてしまったのだが……
「えっ、いっ……いつから?」
さすがに抽象的な理由をいきなり聞いても答えにくいだろう。そう思った私は具体的に答えやすい質問に変えてみた。
「たっ……体育祭……のときから……」
「えっ?」
はぁああああああああっ? 体育祭って……2ヶ月以上も前じゃん!! そんな前から私のことを……
何で気がつかなかったんだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
アホじゃん私! 何だったんだよぉ今までの努力や葛藤は!?
あーなぁんだ! 赤坂君って私のこと好きだったんだ……じゃあもう両想い確定じゃん! そしたらここで私が「はい」って答えれば全て終了ーっ! 私は晴れて赤坂君と恋人同士になれるんだねー! いやーよかったよかった……って、
よくねぇよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
そんなんじゃダメだ! 私は……自分の想いを伝えていない!
私はずっと赤坂君のことが好きだったんだ!!
しかも体育祭からなんかじゃない! 入学当初からだ!!
この想いを隠して「赤坂君から惚れられた」形でこれから恋人同士になったとしても……自分にウソをついて付き合っていかなければならない……
そんなのイヤだ!! そんなのダメだ!!
「だっ…………ダメよ!」
やっぱり私は……自分の想いを赤坂君に伝えなければ!! そうよ! 私の方が先に好きになっていたのよ! この想い、私から先に伝えなきゃダメなのよ!!
「だっ、ダメ! 絶対にダメ!!」
なのに何で赤坂君の方から先に告らせたのよ! あー、世の中って思った通りいかないものね……だから今の赤坂君の告白は聞かなかったことに……ノーカウントにしたい! 今から言っても遅いけど……でも……でもっ!
「ゴメンなさい赤坂君! いっ、今のノーカン! ノーカンにしてぇっ!!」
私はそう言うと、その場で姿勢を正して告白する覚悟を決めた。こういうことはちゃんとした状態で言いたい。
ところが……
赤坂君の様子がおかしい。
「こっ、こっちこそゴメンなさい! ヘンなこと言っちゃって……やっぱボクのことなんて好きになるワケ……ないよね」
――えっ……あ゛っ!
もしかして「ダメ」とか「ノーカン」とか……
まさか、私がフッた……っていう風に捉えられた?
そういや……
赤坂君は超ネガティブキャラだってこと忘れてたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「ちっ、違うの赤坂君! そっ、そういう意味じゃないのよ!」
――マズいマズい! 早く誤解を解かなきゃ!
「そうじゃなくて、その……私の方から……私の方から先に言わせて!!」
うわぁああああっ赤坂君の顔、半分放心状態だ! 誤解だよー! 起きてー! 目を覚まして聞いて―!
「お願い! 今の赤坂君の……聞かなかったことに……ノーカンにして! わっ、私から……私から先に告白させて!!」
赤坂君は少し生き返ったが、まだ状況が理解できていないようでキョトンとした顔をしている。
「赤坂君! 私……ずっと赤坂君のこと好きなの!! だから……私と……私と付き合ってぇええええっ!!」
いっ…………
言ったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
結果がわかってるからイマイチ締まりがないけど……でも言った!! 私は自分の想いを伝えたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「えっ……なっなん……いっいつ……から……」
赤坂君は動揺してしどろもどろになっていた。
「入学式の日、初めて同じクラスで隣同士になってからずっとよーっ!!」
これはウソ。本当は入学試験のとき、お弁当を忘れた私にパンをくれた低身長の男子……そのときから意識していた。でもまだそのときは好きとかそういう感情ではなかったけど……。
でも入学式の後、クラスで隣同士になったときハッキリした!
私は……この人が好きなんだ! と……
だって……
「何で?」
「そっ、そんなの……好きになるのに理由なんていらないわよーっ!!」
私より背が低くてマウント取りやすそうだからなんて口が裂けても言えるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
確かに最初はその理由だった……でも、
「それより……赤坂君は……何で?」
「ボッボク? ボクは……」
今は違う! 私は……別の理由で好きになっている。現在赤坂君の身長は148センチ……私と同じだと以前聞いていた。今の赤坂君は私より低くない、もしかしたら私を超えるかも……でもそんなことどうだっていい!
「最初……御勅使さんってとても怖い人だと思っていた」
「えっ、やっぱそう思ってたの!?」
やっぱそうだったかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
授業中に消しゴムを拾ってもらったとき、なーんかコイツ怯えてんなって思ってたよ! 確かに当時の私は男子……特に同中で低身長をイジってくる高砂に対して暴力を振るっていた。なので「ラーテル」などという不名誉なあだ名を付けられていたんだっけ。
赤坂君に暴力は振るってないけど……前の席の透けブラを見ていたときに脅したり、赤坂君がお弁当を忘れたとき「パシリ」という形でパンをおごってやった。
でもこれは……嫉妬だよ! そしてパンは……入試のときの恩返しだよ! だって……意識しているのに親切にしたら周囲に悟られそうじゃん!
「でも……御勅使さんとこうやって話すようになって、御勅使さんはとてもやさしい人だと思った! 御勅使さんにはいろいろ元気づけられた! 2度ほど泣かれたことがあったけど……でも御勅使さんと席が隣同士でとても楽しかった」
「ちょっ……泣き虫なのは余計よ!」
あー、あの時か!? 1回目は日直のとき、1学期も終わりに近いというのに赤坂君は私の名前を知らなかったんだっけ! 私は好きだったのにコイツは私の名前すら知らなかった……ショックだったし悔しかったんだよ! でもこのとき私がブチ切れて「ぶっちゃけ」たことでお互いの距離が一気に縮まった気がする。
夏休みには、アクシデントとはいえ……かっ、間接キスまで……うわぁ!
2回目は私が強引に相合傘をして帰ったとき、それが原因で赤坂君が風邪をひいてしまった。私は責任を感じて赤坂君の家までお見舞いに行き、赤坂君に謝罪したんだっけ。でもこのとき、私たちはお互いの「過去」をさらけ出し、赤坂君の境遇を知って「この人に寄り添っていきたい」とより強く感じるようになった。
「でも1番の理由は……体育祭のとき、落ち込んでいたボクを励ましてくれたときの……御勅使さんの……笑顔」
「えっ? えが……」
「ボク、そのとき気づいたんだ! ボクは御勅使さんが好きだって……これからも御勅使さんの笑顔が見たいって! ボクも御勅使さんを笑顔にしたいって……ボクは、御勅使さんのことが好きだって……」
――そうか! あれだったのね!?
体育祭のとき私は赤坂君と二人三脚リレーで出場することになった。運動音痴の赤坂君とは最初、息が全然合わなくて私はずっとイライラしていた。
でも赤坂君は私に追いつこうとして、私も赤坂君に合わせようとして何とか形になった。そして本番、私たちは順調に走ったが最後の最後で転倒してしまった。
でも赤坂君は最後まであきらめなかった。私たちは最下位でゴールしたがレース後、赤坂君は校舎の陰でひとり泣いていた。
赤坂君はネガティブキャラ……だけど本当は頑張り屋で負けず嫌いな男の子なんだ。私はそのとき、思わず「カッコよかった」と褒めたんだけど……
――それで私を好きになったんだ! もぅ、何よ……それ。
「えっ……その程度なの?」
「……えぇっ!?」
「私の方が上ね! だって私……赤坂君のことが【大好き】なんだもん!」
――こんな笑顔でよければ……これから毎日見せてあげるよ赤坂君!
でも今は……
「えっ……じゃあボクたち両想いってこと? ボッ……ボクたち……付き合っていいってこと……なの?」
「バカね……付き合っていけない理由が見つからないじゃない! よろしく、あかさ……うっ」
――ダメだぁっ!! もうムリーッ!!
私の涙腺が崩壊する……限界だ!
私は赤坂君の名前を言いかけたところで、突然彼に抱きついてしまった。なぜかというと、私の泣き顔を見られたくなかったから……。
赤坂君は私の笑顔が好き……だったら私の泣き顔なんかもう見せたくない! こうやって抱き合えば私の顔を見られなくて済む。
でも……
「う゛っ……う゛うぅ……ぐすっ」
隣の赤坂君も、顔は見えなかったが確実に泣いていた。声を押し殺して泣いていた。それがわかったとき、私の目からさらに涙がこぼれた。
私は……赤坂君の前で3回、泣いてしまった。
1回目は「悔し涙」
2回目は「悲しみの涙」
そして3回目は……「うれし涙」だ。
でも、もうこれで終わりにしよう。
赤坂君は私の「笑顔」が好きなんだ。
だったらここで……一生分の涙を絞り出してしまおう!
私は赤坂君と……感情を【大爆発】させた。
うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
この日……私に彼氏ができた。
※※※※※※※
「あっ、そうだ! 赤坂君、ちょっと待ってて」
「えっ?」
私はしばらくの間、赤坂君とハグしていたが突然「あること」を思い出しスマホを取り出した。
――恋敵・志麻との決着をつけないと……!
赤坂君は私と付き合うことになった……私の「勝ち」だ。私はスマホからニャインを開き、志麻のブロックを解除するとすぐさまメッセージを送った。
『赤坂君、私と付き合うことになったから……だからあきらめてね』
――勝利宣言だ! ざまぁ!
〝ニャイン!〟
すぐに志麻からメッセージが返って来た……即返じゃん!
それは……予想だにしない内容だった!
『やったぁー! 美波おめでとー♥』
――へっ?
何で? アンタ赤坂君に告った泥棒猫の恋敵じゃないの!?
……何が「おめでとー♥」よ!?
すると今度は「クラスニャイン」の方で動きがあった。志麻が
『ねぇみんなー! あの2人カップル成立したよー!』
とメッセージを書き込むと一斉に
〝ニャイン! ニャイン! ニャイン! ニャイン……〟
クラスのみんなからメッセージやスタンプが送られてきた。
『美波ーっ赤坂くーん! おめでとー!』
『おぉでかしたでござるぞ赤坂殿! お主は漢じゃ!』
『やったね美波!』
『はぁー、やっと告ったか……オマエらおせーよ!』
『いいなークリスマスは2人だねー♪』
『はいはい、末永く爆発しろ!』
『あーこれでやっと試験勉強に集中できるわー』
――えっ?
――えぇっ!?
えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?
――どっ……どういうこと?
「えぇっ!? なっ……何で?」
赤坂君もスマホを見て驚いていた。彼は先日、学級委員長の《押原 蛍》君からクラスニャインへ半ば強制的に入らされていたらしい。
私たちが困惑していると
〝ブゥウウウウン〟
私のスマホに着信が……遊だ!
「……もしもし」
『おー美波! お疲れさん』
「ちょっと! これどういうこと?」
『どういうこんって……』
すると遊はとんでもないことを言い出した。
『おまんとうがお互い好きだっちゅーこんは3組のしは全員気づいてらぁ! 気づいちゃいんのは当事者のおまんとうだけどぉ』
「はぁっ!? じゃあ志麻は? 赤坂君に告ったんじゃないの!?」
『そんなヤツ好きになるの、おまんみてーな物好きしかいんよ』
――おい! それは赤坂君と私に失礼だぞ!!
『おまんとうがいつまでも付き合わずにびーたらびーたらだっちもねぇこんばっかしてっから……志麻を恋敵という設定にしてけしかけてみとぉ! だから志麻にそんな気はいっさらねぇよ! 本当かどうかちっくいの(赤坂)に聞いてみろし』
えっ……私は赤坂君に聞いてみた。
「ねぇ赤坂君……前の日直のとき志麻……上条さんと一緒にいたよね? 上条さんとはどっ……どういう関係……なの?」
「えっ、上条さん? たまたまボクと同じネットゲームやってて、攻略の方法がわからないって言ったから教えたんだけど……」
はぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
「ちょっ遊! ってことはアンタ……志麻とグルだったってこと!?」
『アタシたちだけじゃねぇっつーこん、クラス全員グルだし……今日、舞と高砂が日直頼んだろ? あれも仕込んでとぉ』
「えぇっ!?」
『ほれだけじゃねぇよ! 昨日の朝ちっくいヤツのところに彩と舞たちが話しかけたのも、帰りに竜チン(大垈)が説得したのもでーんぶ仕込んだっちゅーこん! ほーでもしんとおまんとういっさら先に進まんじゃんけ!』
私はもう一度、赤坂君に確認した。
「えっ……赤坂君! 昨日彩や舞たちと話した?」
「う……うん」
「帰りに大垈君と……」
「う……うん、竜地君に応援されて……えっ!?」
「みんな……グルだって」
「え……? えぇええええええええっ!?」
赤坂君もみんなの「策略」に驚きを隠せなかった。
「やってくれたなオマエ! いや、オマエら!!」
『まぁ怒っちょし! おまんとう付き合うんだろ? おめでとー』
「あ……あり……がと」
『ところで……おまんとう、まだ学校け?』
「う……うん、そうだけど」
『いつまでいるで? もう外は暗いじゃんけ! ほんねんいてぇならそこに教会建てるか一緒に帰ってこーし! じゃーな!』
えっ……外が暗い?
カーテン越しで気づかなかったが、明らかに窓の向こうは夜だった。
「うわぁっ、もうこんな時間じゃん!」
「もっもしかして最終下校時間過ぎてない?」
私は教室の時計を見た。とりあえず大丈夫そうだが……
「試験前だからヤバいかも? 赤坂君、早く帰ろう」
「あっでも……学級日誌」
「わーっ、忘れてたーっ!」
私は机の上に置いたペンケースをカバンにしまい、急いで帰り支度を済ませた。帰り際に職員室に寄る格好で教室を出ようとすると
「あっ……御勅使さん! コレは?」
赤坂君が私の机の上から何かを拾い上げ、私に差し出した。
「あっ……」
それはとても小さな「消しゴム」だった。ほとんど使い切って今は豆粒ほどの大きさしかない……とても使いづらい状態だ。
そう! これは恋愛が成就するという「おまじない」で赤坂君の名前を書いていた消しゴムだ。さっきまで学級日誌を書くときに使っていた……でも赤坂君の名前はすでに消えている。
「あ……それ? もう小さすぎて使えないから捨てちゃうよ」
私は消しゴムをゴミ箱に捨てた……。
――もう、これは必要ないんだ!!
※※※※※※※
赤坂君と2人で職員室へ学級日誌を届けに行った。担任の西八幡先生はすでに帰られていて、私たちは戸締りのため居残っていた先生にこっぴどく叱られた。
帰り際、その先生から「気をつけて帰れよ」と言われた。冬至も近いこの時期は夕方5時を過ぎればあっという間に暗くなるが、部活動で帰りが遅くなるときはこのくらいの暗さは珍しくない。
先生は何であんなこと言ったんだろう……その答えはすぐにわかった。
「えっ!? えぇええええっ!」
「なっ……何で? 何で雪が……?」
昇降口から出てきた赤坂君と私は唖然とした。外は雪が降っていて1センチほどうっすらと積もっていたのだ。
「えっ、何で? さっきは西日が差していたんだよ」
赤坂君が信じられないといった表情をしていた。それもそのはず、この日の県内の天気は晴れのち曇り……私たちが日直をしていた放課後は、曇り空の中から西日が差している状態だったのだ。
だが、この地域は南アルプスの山々から遮る物が無い……なので時々、このような天気のイタズラが起こる場所でもある。
私たちは急いでカバンの中から折り畳み傘を取り出した。
「御勅使さん、帰りはどうするの?」
「うーん、もう暗いしこんな天気だからバスで帰る」
「気をつけてね」
「うん、赤坂君も! じゃ、また明日……」
私たちがそれぞれ傘をさして帰ろうとしたとき……
「「あっ……」」
お互い顔を見合わせた。そして……
「一緒に……帰ろうか」
「……うん」
「今度は私の傘使って! 赤坂君の傘、小さすぎるもん」
「そっ、そうだね」
赤坂君は一度開いた傘を再び折りたたんだ。
2学期も終わりに近づき、クリスマスや冬休みを控えた雪の降る12月の夜。
「すっ、滑らないように気をつけないとね赤坂君!」
釜無高校1年3組の
《御勅使 美波》は
「足を垂直に下すようにして歩くと滑りにくいらしいよ……あ、御勅使さんってスニーカーなんだね」
クラスで隣の席に座る……ネガティブだけど頑張り屋な男の子
《赤坂 大》君と
「うん、部活もあるしずっとスニーカーだよ! それにローファーは冬場冷たいって言うし……」
「そうなんだ……ボク、もっと御勅使さんのこと知っておきたいよ」
「えっ! あぁ……私も赤坂君のこと……もっと知りたいな」
2度目の相合傘をしながらバス停に向かった。
「御勅使さん、明日ボクたち……クラスでいじられるのかなぁ?」
「絶対いじられる! とりあえず遊のバカはブッ飛ばして……志麻には謝ろう」
ただ、前回と違うのは……
「赤坂君! あっ、あのさぁ……クリスマスイブなんだけど……ヒマ?」
「……ヒマじゃないよ」
「えぇっ! 予定あんの!?」
「だって……御勅使さんと一緒にいたいもん」
「もうっ! じゃあ話が早いわよ! デートしない?」
「う、うんいいよ! じゃあボクも御勅使さんに見せたい場所があるんだけど」
「そうなんだ! じゃあ楽しみにしてるね!」
今は「恋人同士」で相合傘をしている。そして私たちの歩いた雪道には、2人分の足跡がいつまでもいつまでも続いていた。
……そう、私たちのことだ。
【席が隣同士の赤坂君と御勅使さんは今日も平和に戦争中・終戦】
最後までお読みいただきありがとうございました。
「赤坂君と御勅使さん」は現在、交際を始めてからのストーリーも構想中です。「こんな話が好き」とかご意見ありましたらお聞かせください。また、ご感想もお待ちしております。