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告白戦争【先攻】




ボクはずっと……御勅使さんの『笑顔』を独り占めしたい。




 12月も中旬になり、2学期の期末試験をいよいよ来週に控えた雲ひとつない木曜日の朝。釜無高校1年3組の《赤坂(あかさか) (だい)》はこの日の登校前、試験日以上に緊張する朝を迎えていた。そう、ボクのことだ。


 昨日、同じクラスの《西条(さいじょう) (あや)》さんや《鶴城(つるぎ) (まい)》さん、そしてたまたま通りかかった《押原(おしはら) (けい)》君から背中を押され……さらに同じ日の帰り道に偶然会った親友の《大垈(おおぬた) 竜地(りゅうじ)》君と約束をして……



 今日、ボクは隣の席の《御勅使(みだい) 美波(みなみ)》さんに告白すると心に決めたのだ。



 昨日は成り行きでそんな決意をしてしまったが、正直今は緊張と不安しか存在しない。そりゃそうだ、ボクは陰キャキモヲタスクールカースト最下層……じゃないと御勅使さんは言ってくれたが、恋愛と一番かけ離れたキャラクターなんだ。

 御勅使さんとはクラスの女子の中で一番話す機会が多かったが、いわゆる「恋バナ」のような話は今まで一度もしたことがない。なのでいきなり告白なんかできる関係ではない。


 それどころか……


 ここ1ヶ月、御勅使さんと口きいていない状況なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 ボクは自分でも自覚しているネガティブ人間だ。普通に女子へ告白する勇気などあるワケがない。だがもしボクがポジティブ人間だったとしても……



 ――今日じゃない!!



 1ヶ月間フツーの会話すらできていないのに、告白などできる空気ではないことくらいウチのドラコ(愛犬)でも読めるだろう。

 でもこの無理ゲー(告白)、大垈君と約束してしまった以上、約束は守らなければいけないだろう。まぁどうせボクに告白なんて玉砕覚悟(ダメもと)の行為だ。どのみちダメなんだろうから今の状況がどうだろうと関係ない。


 ボクは玄関で靴ひもを結んでいた。すると……



 〝ブチッ〟



 ……靴ひもが切れてしまった。



 ――あっ、これって……



 ――今から靴ひも交換する時間ないよな。


 ボクは下駄箱から代わりの靴を1足出し、それを履いて学校に向かった。






【最終戦争……開戦】






 学校に着き教室に入ると御勅使さんはすでに登校していた。御勅使さんは相変わらずボクを無視し他の女子と話をしている。いつもなら「赤坂君、おはよ!」と、誰よりも先に挨拶してくれるのに……ここ1ヶ月間はずっと挨拶すらない。


 ただ、いつもは完全に無視した態度をとっている御勅使さんだが、今日はなぜかチラッチラッとこっちを見てくる。たまに目が合うとすぐに逸らしてしまうが……何か様子が変だ。



 ※※※※※※※



 〝キーンコーンカーンコーン〟


 2時間目終了のチャイムが鳴った。3時間目は体育、今日は男子も女子も体育館でバレーボールだ。


 〝ガタガタッ……スタスタスタ……〟


 今日も御勅使さんはボクに目を合わせることなく席を立った。この高校では男子は教室、女子は女子更衣室で体操着に着替える。なので御勅使さんに限らず、女子は早々に着替えを持って教室を出た。


 ――どうしよう。


 もう3時間目だよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 ボクは体操着に着替えず席に座ったまま頭を抱えた。御勅使さんに告白するどころかまだ一言もしゃべっていない! こんなんで告白できるのか!?

 前の席の竜地君はと言うと、ボクの様子をうかがうこともアドバイスをくれることもなく……ただボクと目が合うと鼻息荒くして親指を立てる(サムズアップする)だけだ。


 この無言の対応がプレッシャーだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!


 さて、ボクも着替えないと……。ほぼ自習状態ではあるが、ボクは体育の授業が嫌いだ。というよりスポーツが嫌いだ……正直、休みたい。


 そんなとき……事件が起きた。


 ――あれ?


 ボクは自分の机のフックに引っ掛けておいた体操着袋を手に取ると、何やら違和感を覚えたのだ。


 体育のある日だけ、ボクは体操着をスポーツブランドのロゴが入った黒いナップサックに入れて持ち運んでいる。今開けようとしているのも黒いナップサックなのだが、よく見るとロゴが違う。

 おかしいなぁ……でも教室で着替えている男子の中で「おーい! オレの(体操着)袋を持って行ったヤツいねーか!?」とは誰も言っていない。ボクは恐る恐る袋を開けて中を見た。


 ――!?


 うっ……うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 キレイに折りたたまれていた体操着……これだけで他人の体操着だと気づいたのだが、胸元にプリントされた校章の上には何と……



『御勅使』



 という刺繍が施されていたのだ。


 何で御勅使さんの体操着がここにあるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


 こっこれはマズい! ただでさえ口をきいてくれない状況で御勅使さんの体操着を持っていったとなるとボクは変質者……虫ケラ同然の扱いをされるのでは!?


 でも何でボクの机に御勅使さんの体操着が? ってことはもしかして今、ボクの体操着を御勅使さんが持っているってこと?

 何でっ? わからない、わからないけど……ここで待っていれば体操着の無い御勅使さんは戻って来るよな? だったら……


「おーい、赤坂! オマエまだ着替えないのか?」

「あっ……ち、ちょっと具合が悪いんで……先生に連絡してください」


 ボクは教室に居残ることにした。たぶん御勅使さんはこれを取りに来る……逆にボクがこれを持って女子更衣室に入ったら退学確定の事案だろうから、ここで待っているのが正解だ。

 ところで……御勅使さんがボクの体操着持っているんだろうけど……キモいとか言って捨ててないよね? そのとき、


 〝スタスタスタスタスタ……〟


 確実に廊下を走っている上履きの足音が近づいてきた。


 〝ガララッ……ピシャン!〟


 教室の扉がものすごい勢いで開いたかと思ったらものすごい勢いで閉まった。ええっ、何で? すると扉の向こうから御勅使さんの声が聞こえた。


「あっ赤坂君!! 男子まだ着替えてる!?」


 御勅使さんは勢いよく扉を開けたものの、まだ着替え中の男子がいるか気になって閉めたようだ。ボクは声が小さいので出来るだけ大きな声で、


「あっ、大丈夫です! ボク以外いませんよ」


 ボクの声を聞いた御勅使さんは再びすごい勢いで扉を開けると、一目散にボクの席に向かってきた。そして息を切らせながら


「はぁ、はぁ……ゴメン! 赤坂君、なぜかわかんないけどジャージ間違えてたみたい。すぐに着替えて! 体育の先生来るの遅いから、今だったら出欠確認に間に合うはずよ」

「う、うん……ありがと」

「あっそれともうひとつゴメン! 私、1度袖通しちゃったんだけど……」


 と言い残すと御勅使さんはまるで疾風(はやて)のように去って行った。


 あっ……そういえば今、



 御勅使さんと2人っきり……だったよな……



 告白する千載一遇のチャンスだったじゃないかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 でもこんな忙しいときにそんなのムリだよなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 それに早く着替えなきゃ体育の授業欠席になるじゃないかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 あっ……そういえば今、


 御勅使さん、「1度袖通した」って言ってたよな……


 みっ……みみみ御勅使さん、ボクの体操着を着たのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


 ボクは大急ぎで体操着に着替えて体育館へ向かった。御勅使さんが間違えて着た体操着からはうっすらと、洗濯をしたときとは違う匂いがした。

 それは決して不快な匂いではなかった。ボクは走ったこととは別の理由でも心臓がドキドキしていた。



 ――あっ!



 そういえばさっき、約1か月ぶりくらいに御勅使さんと会話できたんだ。



 ※※※※※※※



 体育館にはギリギリ間に合った。体育の先生は出席だけとるとそのまま体育準備室に戻ってしまった。体育の時間なんてほぼレクリエーションのようなものだ。

 クラスの男子は20人なので、バレーボールは3チームに分かれて試合をする。ボクは運動が苦手な上に低身長なので基本的に補欠だ。それでも時々選手交代で呼び出される。正直ずっと出番なくてもいいんだけど……。


「おーい、赤坂! 交代ーっ」


 呼び出された……イヤだなぁ。まぁ試合に出てもレシーブもトスも……ましてや低身長のボクがスパイクなんて物理的にムリだ。なのでボクは、試合に出てもただコートに突っ立ってるだけだ。


 試合よりも今は告白のことが気になっている。さっきは御勅使さんと2人っきりで久しぶりに話すことができたがあれは偶然……アクシデントだ。

 今日1日、御勅使さんと2人っきりになれるチャンスなんてそうはない。さっきのは偶然とはいえ、数少ないチャンスだったのに……それを逃してしまうなんて!


 どうする赤坂大!? こうなったら月並みな方法だがニャイン送信して放課後に呼び出すとか? えっどこに? 屋上? ウチの高校太陽光パネル付きの屋根だから屋上無いし、体育館裏……裏って一体どこだよ! 校舎裏……結構人いるよ!

 それに他のクラスや他の学年の生徒に見られちゃうし、そもそもボクにとってはニャイン送信すること自体ハードルが高い。


「赤坂ーっ! ボール行ったぞー!!」


 そんなことを考えているボクの目の前に丸い影が……。



 〝バンッ!〟



 コートに倒れたボクはそのまま考え続けた。


 ボクは御勅使さんと2人っきりになるチャンスをつくれるのか?


 ボクは御勅使さんに告白できる雰囲気をつくれるのか?


 そして何より……ボクは御勅使さんに告白する勇気があるのか?


 うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! どうしたらいいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


 ボクはコートの上で顔に手を当てたままジタバタともがいた。


「おいっ赤坂! 大丈夫か!? 保健室行くか?」

「いや……あんな緩いトス顔面に受けたくらいでケガはしないだろ」



 ※※※※※※※



 〝キーンコーンカーンコーン〟



 この日は結局、御勅使さんに告白しないまま……


 授業が終わってしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 しかも……


 放課後に呼び出すこともしていなかったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 何やってんだボクは……ヘタレにもほどがある。


 明日があるさ……って思いたいところだが、こんな調子じゃボクは御勅使さんに明日も明後日も……あ、明後日は土曜日か、来週も再来週も来年も再来年も10年後も100年後も告白することはできないだろう。


 竜地君との約束も破っちゃったし……ボクは本当にダメなヤツだ。


 そもそも今日、2人っきりになれたのは体育の前の休み時間だけだった。まぁここは大勢の生徒が通う学校、2人っきりになれる方が奇跡的だ。

 そんな唯一無二のチャンスを逃してしまった……やっぱチャンスなんて待っていたところですぐにはやってこないんだ。あのとき、ボクが御勅使さんに「今日放課後に会ってくれる?」とひとこと言えばよかったんだ。


 ボクは昇降口まで来た。ここで靴を履き校門を出たら終了だ。


 そういえばここに来るまで御勅使さんを見かけなかったなぁ。御勅使さん、足が速いから速攻で帰ったんだろうな……来週は期末試験だし。

 ボクは御勅使さんに声を掛けられるかと、いつもよりゆっくり歩いて昇降口まで来た……こういう他力本願なところがボクのダメなところなんだよなぁ。


 ところが、ここで思わぬ事態が起きた。


「あっ、おい赤坂! ちょっと待って!!」


 ボクを呼びとめる声が……声を掛けてきたのは同じクラスの《高砂(たかすな) (みのる)》君だ。


 高砂君は御勅使さんの左隣の席で、よく御勅使さんをからかっては怒られている男子だ。だがボクは彼とほとんど接点がなく、おそらく話し掛けられたのもこれが初めてだと思う。


「あっ、えっ……な……なんですか?」


 ほとんど関わったことのない人からいきなり声を掛けられたので、思わず身構えた返事をしてしまった。


「あのさ赤坂……オレ今日、日直なの知ってるよな」

「う、うん……」

「この後、戸締りと学級日誌提出するんだけど……これからどぉしても行かなきゃならない用事があってさ……悪いが今から日直代わってもらえないかな?」


 ――え?


「せっかく帰ろうとしてたのに本っっっ当にすまん!! もちろんオマエが日直のとき代わりにやるからさ! 頼む! 一生のお願いだ!!」


 そう言うと高砂君は手を合わせてボクに深々と頭を下げた。普段関わったことのない人がこんなにも頭を下げているし、おそらく御勅使さんは先に帰っちゃってもう告白できないだろうし……


「う……うん、いいよ」

「ホントか!? 助かる~!! やっぱ友だちだよ赤坂くんは」


 いや、友だちになった覚えはないけど……ボクは高砂君と、途中からだけど日直を代わってやることにした。


 高砂君はボクに何度も手を振ってそのまま帰っていった。ボクは急いで上履きに履き替え3階の教室に戻ることにした。日直は男子と女子でペアを組む……今日の日直の女子を待たせてはいけない。

 そういえば今日の女子の日直は……鶴城さんだ! うわぁ、昨日あれだけアドバイスもらったのに全く活かしきれていなかった……こりゃ怒られそうだ!

 まぁ鶴城さんは優しそうな人だから大丈夫かも? 西条さんだったら確実に殺されそうだが……。そうだ、せっかくだから鶴城さんにもう少し相談しようかな。


 そんなことを考えながらボクは、3階にある1年3組の教室に入った。


 教室には鶴城さんと思われる女子生徒がひとり、学級日誌を書いていた。


「あっ、遅れてすみません」

「もうっ、()せーぞ! 何やってんだこのバカ砂……えっ!?」



「えっ!?」



「えっ?」



「あっ……」



「えぇっ……」



「なっ……」



「なんで……」




 何で御勅使さんがここにいるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?



 ※※※※※※※



「なっ……なんで赤坂君なの?」

「えっ、あっ……さっき高砂君に頼まれて……えっ、御勅使さんは?」

「わっ……私も昼休み、舞に頼まれて……えっ!?」


 ボクは動揺を隠せなかった。まさか2人とも日直を頼まれていたなんて……。


「あっ……そうだ! 日直! 日直を……学級日誌書かなきゃ……あっあああ赤坂君……あっあの、戸締りかっ、確認して!」

「えっ、あっう……うん」


 御勅使さんもなぜか動揺していた。すでに御勅使さんが窓の戸締りをしてくれたようだが、ボクは教室内の戸締りをもう一度確認した。その間に御勅使さんは学級日誌を書き終えた。


「じ……じゃ私、職員室に日誌出してくるね」


 御勅使さんはそう言ってそそくさと教室を出ようとしたが……


「あっ!」


 手を滑らせて学級日誌をボクの目の前に落としてしまった。ボクはその日誌を拾い上げ御勅使さんに渡そうとしたが、


 ――!?


 慌てて学級日誌を拾い上げようとした御勅使さんと同時につかんでしまった。


 ――ちっ……近いよ。


 近いよ御勅使さぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!


 学級日誌を挟んで御勅使さんと急接近し目が合った。ボクは至近距離で御勅使さんの目を見た瞬間、心臓の鼓動がカンストしそうになった。


 〝ドクドクドクドク……〟


 御勅使さんとボクは学級日誌をつかんだまま動きが止まってしまった……まるで時が止まったようだ。でも心臓の鼓動だけはどこからともなく聞こえていた。



 ――はっ!?



 このときボクはなぜか、突然思った。



 今が……告白するチャンスじゃないのか……と。



「「あっ、あのっ!!」」



 思った瞬間に声が出た。だが御勅使さんも同時に声を出していた。


「あっ……ど、どうぞ」

「ううん……赤坂君から先に言って」


 えっ、御勅使さんが何を言おうとしてたのか気になったが……。ボクは学級日誌から手を離すと1歩下がり姿勢を正した。


 ボクは意を決してちゃんと告白しよう! 意を決して……意を決……



 意を決せないよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 怖いよぉ! ボクみたいな陰キャキモヲタスクールカースト最下層がこんな大それたことしていいのか!? これで御勅使さんから断られたら……嫌われたらどうすんだ!? もう2度と口きいてもらえなくなってクラスで「アイツ、陰キャキモヲタスクールカースト最下層のくせに告ったんだってよ」とバカにされて1年の時点で高校生活終わるんだ! 2年3年は地獄の日々が待っているんだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 いや、でも……


 しっかりしろ! 赤坂大! ボクは心の中で自分にビンタをした。



「あっ……あのっ!!」



 ボクは体育祭の二人三脚で御勅使さんとゴールできたじゃないか! ボクだってやればできるじゃないか!!

 それに、スクールカーストなんか無いって言ってくれたのも……ボクと友だちになってくれたのも……ボクの目の前にいる……御勅使さんじゃないか! こんな人を逃していいのか!?



「みっ……御勅使さん!」



 おいおい、そうは言っても体育祭なんてフツー誰でもゴールするだろ、それに御勅使さんの友だちなんて他にもたくさんいるだろうし……オマエだけが特別じゃない。告白なんて無駄死にだぞ!


 そんなことない! ボクにとってこれは大きな進歩だ! ボクは御勅使さんと出会ったことで進歩したんだ! ボクならできる!


 まるでマンガのように、ボクの心の中に天使(ポジティブ)悪魔(ネガティブ)が現れて言い争っていた。



「ボッ……ボクは……」



 友だちと恋人は違う……そんなことはわかっている。今のまま友だちの関係でいれば……それでもいいだろう。

 でも何か違う! そもそも「好き」って何なんだ!? 何でボクは御勅使さんに告白するんだ? 何で御勅使さんと恋人同士になろうとしているんだ!?


 ――この人の顔?


 いや、確かにカワイイけどクラスで1番ってワケではない。


 ――この人のスタイル? 性的なモノ?


 いや、正直ボクが好きなのは巨にゅ…………まぁそれは置いといて。


 ――この人の性格?


 いや、この人はよく怒ってばかりで最初は怖い人だと思っていた。そして意外にもよく泣く……感情の起伏が激しくて正直めんどくさい。



「ボクは……」



 と、そのとき……


 戸締りが済んで、閉めたカーテンのすき間から西日が差し込んできた。冬に入り教室の後ろの黒板にまで差し込むようになった西日が、一瞬だけ御勅使さんを照らし出したのだ。


 ――あっ、


 ――思い出した!


 ボクが好きなのは……体育祭のとき、御勅使さんが見せた



 ――あの『笑顔』だ。



 ボクは御勅使さんの『笑顔』をもっと見ていたい。

 ボクは御勅使さんをずっと『笑顔』にしていたい。



 ボクはずっと……御勅使さんの『笑顔』を独り占めしたい。



 そう思ったそのとき……自然にこの言葉が出てきた。





「御勅使さんのことが……好きです」





 ――いっ、


 言ってしまったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 覆水盆に返らず、失言口に戻らず、どこかの国の大臣みたいに何食わぬ顔で「前言撤回」なんて言えないぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 ――っていうかここまで言ってしまったんだ。最後までちゃんと言おう!


「ボッ、ボクと……付き合ってください!!」


 あーあ、言ってしまったぞ。陰キャキモヲタスクールカースト最下層が告ってしまったぞ。ボクはあまり読んだことないけど、小説やマンガに出てくる学園ラブコメってフツー女子の方から好きだって言い寄ってくるもんだぞ。

 自分の立場をわきまえている陰キャキモヲタスクールカースト最下層はフツー自分から告白しないんだぞ。


 〝バサッ〟


「え……何で?」


 御勅使さんは再び学級日誌を床に落とすと、直立不動のまま目をまん丸くしてボクに聞いてきた。そうですよねぇ~、フツーそうなりますよねぇ~。


 でも「何で?」と聞かれても答えにくい。すると御勅使さんは


「えっ、いっ……いつから?」


 と質問を変えてきた。ボクは正直に答えることにした。


「たっ……体育祭……のときから……」

「えっ?」


 と言ったきり御勅使さんはフリーズしてしまった。御勅使さんが返事をしてくれるまで、ボクもどうしていいのかわからずフリーズしてしまった。

 御勅使さん……断る言い訳でも考えているのかな? それともボクを慰める言葉でも選んでいるのかな? それともお茶をにごしてこの場から去る方法でも考えているのかな?


 でも……もしかしたら万が一、奇跡的にOKしてくれる可能性あるのかな?


 ボクの脳内に「御勅使さんがOKする」などという選択肢はほぼなかった。それでもいい……自分の気持ちを正直に伝えたんだから。

 これでダメだったとしても、ボクの気持ちが変わらなければ押原君みたいに再度チャレ……いや、ボクにそんなメンタルは……ないよなぁ。


 しばらくして御勅使さんが動き出した。御勅使さんが何て言いだすのか……ボクの心臓がK点越えしそうだ。だが御勅使さんから出た言葉……それは



「だっ…………()()よ!」



 ――えっ?



「だっ、ダメ! 絶対にダメ!!」



 ――ええっ?



()()()()()()赤坂君! いっ、今の()()()()! ノーカンにしてぇっ!!」



 やっぱり……



 ダメだったんだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 ノーカンって……それって「聞かなかったことにする」って意味だよね!? つまりボクは……ボクは……


 フラれてしまったんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 何となくわかってはいたんだけど……やっぱボクみたいな陰キャキモヲタスクールカースト最下層に恋愛なんて似つかわしくなかったんだ。

 ごめんなさい御勅使さん! 余計なことを言ってしまい大変ご迷惑をおかけしました! ごめんなさい御勅使さん! ノーカンでいいです、ボクみたいな虫ケラの存在は忘れてください! ごめんなさい御勅使さん! 今まで友だちでいてくれてありがとうございました!


 でもそんなこと心で思っていてもしょうがないよな。ちゃんと言わないと……


「こっ、こっちこそゴメンなさい! ヘンなこと言っちゃって……やっぱボクのことなんて好きになるワケ……ないよね」


 するとボクの言葉を聞いた御勅使さんが突然焦り出した。


「ちっ、違うの赤坂君! そっ、そういう意味じゃないのよ!」



 ――えっ?



「そうじゃなくて、その……私の方から……私の方から先に言わせて!!」



 ――ええっ?



「お願い! 今の赤坂君の……聞かなかったことに……ノーカンにして! わっ、私から……私から先に()()させて!!」



 ――へっ?





「赤坂君! 私……ずっと赤坂君のこと好きなの!! だから……私と……私と付き合ってぇええええっ!!」





 えっ…………



 えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?


 どどどどういうこと!? いやいやおかしい! 何で御勅使さんの方から?


「えっ……なっなん……いっいつ……から……」


 予想外の展開にしどろもどろになっていると、御勅使さんは答えてくれた。


「入学式の日、初めて同じクラスで隣同士になってからずっとよーっ!!」


 にっ、入学式!? 入学……いや、1学期のときってボクはクラスメイトの名前をほとんど覚えていなかった。そして御勅使さんのことは《右隣の女子》としか認識していなかった。それどころか当時の御勅使さんの印象は『こわい人』、できれば関わりたくない人だったのに……。


「何で?」


 あっ……思わず心の声が漏れてしまった。


「そっ、そんなの……好きになるのに理由なんていらないわよーっ!!」


 えっ……そうなの!?


「それより……赤坂君は……何で?」

「ボッボク? ボクは……」


 もう御勅使さんからどう思われたっていい。ボクは正直に、ありのままに自分の気持ちを伝えることにした。


「最初……御勅使さんってとても怖い人だと思っていた」

「えっ、やっぱそう思ってたの!?」


 御勅使さんはちょっとムッとした顔になった。そうそう……その顔だよ。


「でも……御勅使さんとこうやって話すようになって、御勅使さんはとてもやさしい人だと思った! 御勅使さんにはいろいろ元気づけられた! 2度ほど泣かれたことがあったけど……でも御勅使さんと席が隣同士でとても楽しかった」

「ちょっ……泣き虫なのは余計よ!」

「でも1番の理由は……体育祭のとき、落ち込んでいたボクを励ましてくれたときの……御勅使さんの……笑顔」

「えっ? えが……」

「ボク、そのとき気づいたんだ! ボクは御勅使さんが好きだって……これからも御勅使さんの笑顔が見たいって! ボクも御勅使さんを笑顔にしたいって……ボクは、御勅使さんのことが好きだって……」

「えっ……その程度なの?」

「……えぇっ!?」


 御勅使さんは目に涙を浮かべていた。ええっ、何で? ボク……何かひどいこと言った? その程度ってどういう意味!? そして御勅使さんは目に涙を浮かべながら満面の笑み……あの素敵な笑顔でボクにこう言った。


「私の方が上ね! だって私……赤坂君のことが【()好き】なんだもん!」


 ――これだよ! ボクだって負けないよ!


 ボクだってこの「御勅使さんの笑顔」が【()好き】なんだ!!


「えっ……じゃあボクたち両想いってこと? ボッ……ボクたち……付き合っていいってこと……なの?」

「バカね……付き合っていけない理由が見つからないじゃない! よろしく、あかさ……うっ」


 御勅使さんはボクの名前を言いかけたところで、突然ボクに抱きついてきた。ボクは驚いたが、思わずそのまま御勅使さんを抱きしめてしまった。

 なぜかというと、今のボクの顔を見られたくなかったから。こうやって抱き合えばボクの顔を見られなくて済むからだ。


 このとき、なぜかボクは涙を流していた。自分でも理由がわからなかった。別に悲しいわけでも、悔しいわけでもない。なのに涙が止まらなかった。こんな感情、生まれて初めてのことだ。ボクは一瞬、自分が情緒不安定になったのかと思った。


 でも……


「う゛っ……う゛うぅ……ぐすっ」


 隣の御勅使さんも、顔は見えなかったが確実に泣いていた。声を押し殺して泣いていた。ボクはこの感情が異常ではないんだってことに気がついた。


 ――そうか、泣いてもいいんだ!


 ――御勅使さんと一緒に泣いてもいいんだ!!



 ボクは御勅使さんと……感情を【大爆発】させた。



 うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!



 この日……ボクに彼女ができた。



 ※※※※※※※



 12月24日……今日は言わずと知れたクリスマスイブだ。


 ――遅いなぁ。


 この日、ボクは市内にある駅のロータリーにひとりでいた。この日は彼女との初デートだ。ここで待ち合わせの約束をしている。

 駅前ロータリーは毎年この時期、夕方の5時になるとイルミネーションが点灯するのだ。山梨らしく富士山の形をしたイルミネーションもある。

 実は彼女は今日、女子の友だちとクリスマスパーティー……カラオケをしてからこちらに来ることになっている。夏休みに玉幡さんや竜地君と一緒にカラオケした店と同じ……駅までは歩いてくると言っていた。

 それにしても……ちゃんと5時までに来てくれるだろうか? できれば点灯の瞬間を見せたかったんだけど……。


 すると、


「赤坂君!」


 向こうから走って向かってくる人影が……彼女だ。


「遅れてゴメン! 待った?」


 う、うん! まぁギリだけど……走らなくても大丈夫だよ! この辺って、他に走ってる人いないし……目立っちゃうよ。


「もぉ~、遊のヤツが最後までしつこくって……」


 そんなことは意に介さず、彼女は聞いていないことまでボクに話しかけてくる。


「赤坂君! 今日は……楽しみにしてるよ!」


 辺りが薄暗くなり、イルミネーションの点灯を待ちわびているこの状況で……



 彼女の笑顔は……イルミネーションを点灯する必要がないくらい輝いていた。



 ※※※※※※※


 期末試験も何とか無事に終わり、冬休みを間近に控えたクリスマスイブ。


 釜無高校1年3組の


 《赤坂(あかさか) (だい)》は、


 クラスで隣の席に座る……ボクが世界で一番笑顔が素敵だと思っている


 《御勅使(みだい) 美波(みなみ)》さんと


 恋人同士になって、今から初デートをする。




 ……そう、ボクのことだ。






【終戦……後攻に続く】


最後までお読みいただきありがとうございました。


次回の【後攻】がいよいよ『最終回』になります。


御勅使さん視点の「告白」と、その後のエピソードをお楽しみください。

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