決意戦争【後攻】 ※オマケ小説付き※
【登場人物】
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。赤坂君が好きだけど現在絶賛誤解中。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長148センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんの態度に悩む。
◆大垈 竜地(おおぬた りゅうじ)◆
高1。身長166センチ。赤坂の親友。「三国同盟」のひとり。オマケ小説の主人公。
◆玉幡 遊(たまはた ゆう)◆
高1。身長168センチ。御勅使の親友。「三国同盟」のひとり。
◆上条 志麻(かみじょう しま)◆
高1。身長146センチ。御勅使の恋敵を演じている。「三国同盟」のひとり。
◆忍野 萌海(おしの もえみ)◆
地元アイドル。身長165センチ。イボ●が悩みの種。
何でぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?
もう1ヶ月近く赤坂君を避けている……。
隣の席の《赤坂 大》君は、私の友人だった《上条 志麻》と付き合っているらしい。それを知った先月の日直以来、私は赤坂君と話すことが……それどころか目を合わすこともできなくなってしまった。
〝キーンコーンカーンコーン〟
「あっ……みだぃ……さ……」
〝ガタガタッ……スタスタスタ……〟
――またやっちまったぁああああっ!!
休み時間になるとすぐに、赤坂君が何か話し掛けようとしていることには気がついている。本当は話をしたいが、私にだってプライドくらいある。
赤坂君は今や「他人の彼氏」だ。何を話したいのかは知らないけど「彼女」がいるのだからその人と仲良く話せばいいでしょ! それとも私が知らないところで志麻と付き合ったことの「言い訳」でもするのかしら? まぁ私とは元々付き合っているワケじゃないから言い訳する必要もないんだけど……
……って、ちょっと待って待って!
これって……
私……完璧にヤな性格の女じゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
そして私はトイレの個室にこもり……このループが1ヶ月近く続いている。
休み時間中ずっと籠城し続ける私は、このまま「トイレの花子さん」になってしまうのではないだろうかと不安になるほどだ。そしてトイレの中で自問自答と自己嫌悪を繰り返している。
なぜ私は赤坂君を避けている?
なぜ私は赤坂君に彼女が出来たことを素直に認めようとしない?
――やっぱり……赤坂君のことが今でも好きだから?
でもすでに付き合っているという現実……どうしたらいいの?
※※※※※※※
「ただいまぁ……」
学校から帰った私は疲れ切った声でボソッとあいさつすると、家の階段を重い足取りで上ろうとしていた。
今日も赤坂君とは口をきかなかったし目すら合わせなかった。赤坂君からは相当性格の悪い女と思われているだろう……性格の悪さに対する自己嫌悪感に足を強く引っ張られ階段を上る気力もない。
すると、台所の方からママの声がした。
「あら美波、お帰り! 今日は早いのね」
「うん、テスト前だから部活禁止だよ」
そういや期末テストあるじゃん……明日からトイレに教科書持ち込むか。
「そう……あっそうだ! 今日お兄ちゃん帰ってきてるわよ」
――げっ!
私には《御勅使 福嗣》という兄がいる。「東京の大学」に通っているのだが東京大学とかMARCHなどではなく、偏差値35未満のいわゆる「Fラン大学」に通う見た目も行動もチャラい男だ。だが困ったことに近所のおばさま方からは「てっ、福嗣君は東京の大学なんてえらい優秀じゃんけ」と誤解されている。
つーか冬休みまだ先だろ! 年末の大掃除前に邪魔者が増えやがった。
私は部屋に入り試験勉強を始め……られなかった。こんな状況で力が入るわけがない……まぁ試験勉強に力が入らないのはいつものことだが。
――あっ、そういえば!
今日は動画サイトで「萌海ちゃん」が生配信やっているんだった。そうだ、彼女に相談してみよう! 私は急いでスマホを取り出すと、登録してある「萌海ちゃんねる」を視聴した。
萌海ちゃんとは、地元で活躍するアイドル《忍野 萌海》ちゃんのことだ。以前はご当地アイドルグループ「Φブレイク」のメンバーだったが、グループが全国進出するとき彼女は「ある理由」で自主的に脱退した。だがその後、彼女は地元に残り文字通り「地元アイドル」として1人で地道に活動している。
私は萌海ちゃんのファンで、彼女が県内各地のイベントに出演するときには追っかけまでやっている。そして生配信「萌海ちゃんねる」には相談コーナーがあるのだ。私は思い切って萌海ちゃんにメールを送り、アドバイスを聞こうと考えた。
「はぁ~~い!! げんきばっくはつじがじさぁ~ん!! みんなの地~元アイドルぅ~……忍野萌海の~『萌海ちゃんねる』だよ~ん!!」
スマホの画面に萌海ちゃんの元気な姿が映し出された。彼女は私より1つ年上だがとてもカワイイ。
「続きましては~、『ここは萌海がくい止めるちゅーこん! おまんとう先に行けし』のコーナー! は~い、このコーナーでは視聴者の皆さんのお悩みや疑問に萌海が何でも答えちゃいま~す! ではさっそく最初のメールはぁ~……あれぇ? 『らぁてる』ちゃんじゃなーい! お久しぶりー! 元気してたぁ?」
私は「らぁてる」というハンドルネームで萌海ちゃんと普段SNSなどでやり取りしたり、この名前で何度も会っている。なので萌海ちゃんとは友だち感覚だ。
「あら、相談? 珍しいわね……えーっと、萌海ちゃんこんバンバンジー! はーいこんバンバンジー! 萌海ちゃんに相談があります。実は私には好きな人がいますが……えっちょっと待ってらぁてるちゃーん! 恋愛経験のない私に恋愛相談するってどういうことぉ!?」
あっ、そういえば萌海ちゃんに恋愛と「あの話題」はNGだった……ごめーん!
「まぁいいわ、らぁてるちゃんのためなら……できる範囲でね! で……どうやらその人は私の友人と付き合っているみたいなんです。私の方が前からアプローチしていたのに……うわっ、三角関係じゃん! このこのぉ~やるねぇ~」
――もうっ! うらやましがられることじゃないよぉ萌海ちゃん!
「そこで萌海ちゃんへ質問です。私はキッパリとその彼をあきらめた方がいいのでしょうか? それともその友人との関係を壊してでも彼に自分の気持ちを伝えた方がいいんでしょうか? ふむふむ、彼をとるか友情をとるか、あきらめるかあきらめないかってことね……らぁてるちゃん! これ見てるわよね? チャットに入ってこれるかなぁ?」
私は動画サイトのチャット機能を利用してスマホからメッセージを送った。
『見てまーす』
「あっ、らぁてるちゃん! こんバンバンジー!」
『こんバンバンジー!』
――萌海ちゃーん、自虐だよこのあいさつ。
「さっそくだけどさぁ、もしらぁてるちゃんがその彼をあきらめたとしたら……心の中にぽっかり穴が開いちゃうよね……その穴埋めはどうするの?」
――穴埋め? そんなこと考えてないよぉ! う~ん、まぁとりあえず……
『部活に打ち込む?』
「ダメよぉそれは! 恋の穴埋めは恋でなきゃ満たされないのよ! 誰か他に好きな人とか気になっている人、あるいはその彼より魅力的な人とかいないの?」
えっ? えぇええええええええええええええええええええええええええええ!?
そんな尻軽女じゃあるまいし、すぐに好きな人を切り替えるなんてできるワケないじゃん!! 何てこと聞くの萌海ちゃんは!?
『いませんよぉ!!』
「そっ……だったら、まだその人のことあきらめちゃダメよ!」
――えっ?
「本当にあきらめていいのはね、次の目標やビジョンがハッキリしているときだけなのよ! それがない状態で一度あきらめちゃうと、次から『あきらめグセ』がついて結果的に何もできない人になっちゃうのよ!」
――あっ!
そういえば昔、親友の《玉幡 遊》が言ってた、「あきらめるのは新しいことにチャレンジするキッカケ」だと……。次にチャレンジする目標が無い状態であきらめたら「あきらめグセ」がついてどんどん負のスパイラルに陥ってしまうんだ!
「私はね……知ってると思うけどΦブレイクの全国進出に参加できなかったの。でもね、そのときすでに地元に残って活動しようって目標があったからあきらめることができたんだよ! 恋愛はね、絶対に消極的になっちゃダメ! 一度好きになったらグイグイ押してたま~にちょっと引いて……あっ、引くのは作戦よ! 決してあきらめることじゃないからね! 心の中は常に押しまくるのよ!」
私は、自分のことのように親身になってアドバイスしてくれた萌海ちゃんにお礼のメッセージを送った。
『ありがとう萌海ちゃん』『頑張ってみます』
「そうだね、らぁてるちゃん! やれるところまで頑張ってみてねぇ~! イイ結果を待ってるよぉ~!」
ありがとう! 萌海ちゃん……絶対、恋愛経験あるよね。
「はーい、じゃあ次のメール! 萌海ちゃんこんバンバン……おい、コイツかよ」
――え?
「読みたくねーんだけど……なぜこのメール入れたスタッフ!? えー、ハンドルネーム・ジロー! 『ズバリ聞きます! 萌海ちゃんはキレてますか?』って毎回毎回オメーってヤツは!」
――あ゛っ「出禁のジロー」だ。
「で、アレだろオマエ! 私がキレてないっていうとチャットに……ほーらやっぱりな、『じゃあイ●ですか?』っておいジロー! オマエ出禁のハズだぞ! 何で来やがる、そして何でいつもコイツのメール採用するんだよスタッフーッ!!」
あーあ、萌海ちゃんキレちゃった。萌海ちゃんが「●゛持ち」なのはファンの間で公然の秘密だがこのジローって人、毎回毎回萌海ちゃんに同じ質問をしてくるんだよねぇ……まぁこの配信の「名物」でもあるんだけど。
まるで私の低身長をイジッてくる同じクラスの《高砂 農》みたいだ。
……まさか同一人物?
※※※※※※※
萌海ちゃんからは「あきらめちゃダメ!」って言われたけど、今さら志麻と付き合っている赤坂君に告白するのって……リーグ優勝が決まった後の消化試合で優勝チームに大勝利するようなものだ。
――それとも志麻から略奪……略奪愛!?
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああムリムリムリムリッ!! 昼ドラみたいな展開じゃん! 見たことないけど。
私って、こういうときに行動力ないんだよなぁ……。
――あ゛っ……行動力と言えば!
ウチには恋愛に関しての行動力だけは優秀なヤツいるじゃん! ほぼ毎月のように彼女を替えている「福嗣」とかいう節操のないFランバカ兄貴が!
ヤツなら何かいい方法を知っているかも? 聞いてみよう……不本意だが。
〝コンコンッ〟
「お兄ぃ、入るぞ」
私が兄の部屋に入ると、なぜかコイツは体中を掻いていた。
「あれっ、かゆいと思ったらノ美波が侵入しやがったか」
この平和な時代、顔を見た瞬間ブン殴りたい衝動に駆られるヤツは珍しい。だが低身長イジリはいつものこと、我慢ガマン……。
「あのさぁ、ちょっと相談があるんだけど」
「えっ!? 珍しいなぁオメーがオレに相談なんてよぉ~……ってかメチャクチャ嫌そうな顔してるじゃねぇか」
「まぁね、背に腹は代えられんくらいのレベルだわ」
「いや、別に美波だったら背と腹が入れ替わったところで誰も気付かねぇよ」
てっ……てめぇえええええええええええええええええええええええええええ!!
ついにそっち方面でもイジッてきやがったなセクハラFラン! さすがにガマンの限界だ、とっとと終わらせよう。
「あっ、あのさぁ……お兄ぃってしょっちゅう彼女変えてんじゃん! 正直何でそんなにモテんのか妹の私から見たら不思議なんだけど……その、何かコツとかってあるの?」
コイツには1ミクロンも尊敬の念を抱きたくない……この言い方が限界だ。
「えっ何だよ、変なこと聞くなぁ……はは~ん、オマエもいよいよ色気づきやがったかぁ~!? いいぜ~この福嗣様のモテテクを伝授してやろうじゃないか」
うわー図に乗りやがったーマジで殴りてー(棒読み)。
「まずはな、落としたい相手のイイ所を見つけてホメることだ! その子が普段から言われていそうなことじゃなく、意外な方向から的確にホメてやると相手に好印象を与えられるぞ」
そうか! そういえば私、赤坂君をホメたことってほとんどないよなぁ。何だよコイツ、意外とまともなこと言うじゃん……ってか、たまには私もホメろよ!
「ふんふん……で?」
「そしたら相手も気分よくなるじゃん! そこでさりげなくボディータッチだ」
「ふむふむ…………え?」
「まずは手を握ってからの~肩を抱き寄せ~、太ももまで触ったところで相手が拒否らなかったらOKでぇ~っすってことでそのままホテルへゴォ~ッ!」
「…………」
「どーだ美波! 参考になったか?」
「うん、相談相手を間違えた」
時間のムダだったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
こんなクソ野郎を少しでも信頼した私がバカだったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「ってかそんな方法で上手くいくわけないだろ!」
「まぁな~! ほとんどの場合は太もも触った時点でビンタされるわ」
――コイツにナンパされた女性の多くが正常な感覚だったことに安堵したわ。
怒りが爆発する前に早くコイツの部屋を出よう。そう思ったとき
「でさぁ……オマエは何でそんなことオレに聞こうとした?」
――!?
急に兄がチャラ男口調ではなく、マジなトーンで話しかけてきた。私は驚いて
「えっ!? そっそりゃ一応……恋愛経験豊富なお兄ぃに聞い……」
「恋愛テクなんて経験の積み重ねだぞ~! マニュアルなんてね~よ」
「えっ、そっそんなこと言ったって……最初から上手くいくワケないじゃん」
「最初から? はっは~ん! オマエ……アレだな、外食するときグルメサイトで星が3.5以上の店だけを選んで行くタイプだなぁ~」
「なっ、なによそれ……別にいいじゃん! それのどこがいけないの? 失敗したくないじゃん!」
「バッカだなぁ美波、そういうのは何も考えずに行くんだよ!」
「……は?」
「もしクソ不味い店に当たったらそれはそれでラッキー……美味しい店のありがたみがわかるじゃねぇか! 失敗のない成功体験なんてのはなぁ、感動はペラッペラに薄いし記憶からすぐに消えちまうもんだ……逆に失敗してからの成功は感動は大きいし良い記憶としていつまでも残るんだよ」
「何それ? 意味わかんない!」
すると兄は冷静な口調で私を諭し始めた。
「なぁ美波、失敗したら次にどうやって失敗しないかを考える……これが天才だ」
「……?」
「で、失敗しても何も考えず同じ失敗を繰り返す……これがバカ者だ!」
「じゃあボディータッチして何度も何度もビンタされるオマエはバカ者だな」
「まぁ確かに、オレはバカ者だ……だがな!」
「?」
「失敗することを恐れて動けないヤツ、成功することばかり考えて日和っているヤツは凡人……いや、オレに言わせりゃ『大バカ者』だ! 美波、オマエは大バカ者だ……オレ以下だな」
「なっ、何よそれ! 私がお兄ぃ以下!? もういい!」
「おぅ、そういえば美波! これオマエんだろ~」
「えっ?」
私が怒って部屋から出ようとすると、兄が私に何かを放り投げた。
――あっ!
私はそれを見てドキッとした。これは以前、私が部屋の窓から捨てた……赤坂君の名前を書いた「おまじないの消しゴム」だ。もう赤坂君とは結ばれないとわかったので投げ捨てた物だ。
残り5分の1くらい……すでに赤坂君の名前は消えている。ちょっとペンで書いた跡があるくらいだが文字かどうかもわからない。
「ちょっ……何でこれを?」
「お袋が洗濯物干していたときに見つけたんだとよ! オレのじゃねーかって……でもオレは好きなヤツの名前を消しゴムに書いて使い切る……なんつー乙女チックなおまじないなんてしねぇしぃ~」
わっわわわわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! コイツ知ってやがったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「えっ、なななな何のこと? 知らねーし」
「美波、だから言ったんだよ、いつまでも乙女チックなことばかりやって日和っていたら大バカ腑抜け野郎だってな! まぁオマエのことだ……どーせ勝負する前に怖気づいて消しゴム投げ捨てたんだろ」
――う゛っ、図星だぁああああああああああああああああああああああああ!!
何でわかるんだコイツ……超能力者か?
「ち……ちちちちげーし」
「失敗を恐れてんじゃねーよ! まずは行動することだぞ」
「……」
私は何も言わずに兄の部屋を出た……悔しいがその通りだ。でも素直に負けを認めたくないから黙って出ていったのだ。
私は自分から赤坂君に告る勇気がなく日和って……様子見ばかりしていた。失敗したくなかったから……恥ずかしい思いをしたくなかったからだ!
でも結果的にこうなってしまった……私は大バカ者だ。
失敗を恐れない……か。
今回ばかりは兄が頼もしく思えた。するとドアの向こうから、
「おーい! その消しゴムに書いた名前って、もしかしてこの間フードコートにいた小っちゃい男の子か?」
「うっ、うるさい! バカッ! 死ねっ!」
……前言撤回! やっぱこのデリカシーのない男はキライだ!
※※※※※※※
萌海ちゃんから「あきらめないこと」、Fランバカ福嗣から「失敗を恐れず行動すること」を教えられた。
私はRPGをやったことがないが、いろんな人と出会っていろんなスキルを身につけていく……なんか「勇者」ってこんな感じで成長していくのかなぁ。
――私は……勇者になれるのだろうか?
〝キーンコーンカーンコーン〟
翌日の昼休み、いつものように私は親友の玉幡遊と一緒に教室でお弁当を食べていた。隣の席の赤坂君は2ヶ月くらい前から友人の《大垈 竜地》君と一緒に学食を利用している。なので昼休みに彼と顔を合わせることはないが、遊が勝手に赤坂君の机を私の机と向かい合わせにする……複雑な心境だ。
「ねぇ遊……ちょっと確認したいんだけど」
「ん、何でぇ?」
私と志麻の関係が悪化していることを遊は知っている。今は赤坂君を巡り私が一方的に志麻を嫌っている状況だ。だがもし私が告白すれば、志麻との関係が壊滅状態になるのは確実だろう。
元はといえば、私が志麻や志麻の親友《西条 彩》ちゃんと友だちになったのは遊がキッカケだ。彩ちゃんはいざとなったら志麻に注意するといってたが……志麻と絶交すれば彩ちゃんたちとの交友関係自体にもヒビが入ることは間違いないだろう。とりあえず遊には正直に言わなければいけない。
「この前の私と志麻のことなんだけど……」
「あぁ、おまんもはんで告っちめぇばいいじゃんけ」
「えっ!?」
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?
まだ何も言ってないのに遊から先に答えが返ってきた。私は「もし私が赤坂君に告って志麻との関係が壊れたらどうする?」って聞こうとしてたんだけど……。
「えっ、でっでも私たちの友だち関係が壊れちゃったら遊たちに悪いし……」
「いいさよぉ、かまーんじゃん! ほんくれーのこんで壊れるんだったら大した関係じゃねぇずらに!」
私が話している間、目を合わせず黙々とお弁当を食べている遊は、自分のお弁当に入っていたスライスハムを箸でつまむと、
「女の友情はハムより薄いっつーじゃんけ、だから気にしちょ! おらんとうが10年後20年後に友だちでいるかどうかなんて先のこたぁ知らなー! ほんなこんより今を見ろし、まっと大事なヤツを逃しちょし!」
遊のドライだが温かみのある言葉に少し安心した。てゆーか遊のお弁当……ご飯の上にハムがのっているってどういうセンスだよ!
遊が語っていると、私の背後に誰か近づいてくる気配が……。
「てっ、ウワサをすりゃ本人が来とぉ……」
遊の言葉にふり返ると……
――志麻だ!! 何で……遊に用事なのかな?
「美波……ちょっといい?」
――私か!? 一気に緊張が高まり心臓がバクバクしてきた。
「な……なに?」
私から向かって左側に立った志麻は冷静な口調で話しかけてきた。
「放課後、美波と話したいことがあるの……校舎裏にひとりで来てくれる?」
――宣戦布告か!? やっぱ戦いは避けることができなさそうだ。
「う、うん……いいわよ」
「じゃ、よろしくね」
と言い残すと志麻は自分の席に戻っていった。
はぁ、これで絶交は決定的になったな……遊たちには悪いが。そんな気持ちを察してか遊が私にこう言ってきた。
「ま……売られたケンカは買っちめーし! これで関係がいなようになってもアタシも彩も美波のこん責めたりしんよ!」
「わっ……わかった、色々とケリつけるよ」
「あっ、でもぶさらっちょしね! 暴力はダメどぉ」
「しないわよ!」
「あと、食い殺すこんも禁止な」
「遊……私を何だと思ってるのよ!」
※※※※※※※
その日の放課後、私は志麻に言われた通り校舎裏にひとりでやって来た。期末試験前なので部活動は行われていない。
志麻は先に待っていた。今は泥棒猫とか絶交とか言っているが、志麻とはクラスの友だちグループ5人の中で唯一私と同じくらいの低身長……なので気の合う間柄だった。彼女とのやり取り次第では、私は大好きな異性と気の合う友人……その両方を同時に失うことになるかもしれない。
外は風が強く寒いので、以前ショッピングモールで兄から買ってもらった手袋をしている。だが手袋の中はびっしりと不快な汗をかいていた。
私は志麻にあいさつすることなく近づいた。壁にもたれスマホを見ながら待っている志麻も、私に気づいている様子だが黙ったままだ……緊張が走る。
「何の用?」
私は素っ気ない口調で志麻に話しかけた。
「美波、最近ニャイン送っても返事ないじゃない……何で?」
スマホをしまい込んだ志麻は私にそう尋ねた。いつもはニコニコしながら話しかけてくる子だが、今は全くの無表情だ。
何を今さら……それはね、アンタのことが大嫌いだからブロックしてんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「そんなことより、志麻に聞きたいことあるんだけど……」
私はついに赤坂君の件で口火を切った。間違いなく志麻は赤坂君と付き合っているのだろうけど、まだまだ認めたくない自分がいる。ここはやはり、本人の口から真実を聞き出すまで気が済まない……怖いけど。
「なぁに?」
「そっ……その、最近志麻……赤坂君と仲いいじゃない?」
「うん、仲いいよ」
――コッ、コイツ……何食わぬ顔でよくも! まっまぁでも志麻は、私が赤坂君のことを好きだってこと知らないのか。
「そっ……その、志麻は……赤坂君と…………もしかして付き合って……」
その言葉を聞いた瞬間、志麻はいつものニコッとした表情になってこう言った。
「あっ、美波って赤坂君のこと好きだよね?」
――えっ?
バッ……バババレてるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?
「えっ! ちょっそれ……」
「わかるわよ、美波の顔を見れば」
志麻はクスクスと笑っていた。ちょっと待て! だとしたら志麻はそれを知った上で赤坂君と付き合っているってことか!?
「えっ、それじゃあ……」
「でもねぇ美波」
志麻は私の言葉を遮ると、
「私も……赤坂君のことが好きよ」
ついに本人の口からこの言葉が出たかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
正直私は、赤坂君が三角関係になるようなタイプじゃないとタカをくくっていた感はあった……これはうかつだった。だとしたらなおさら、志麻に対して「あのこと」を確認しなければならない。
「そっ、それじゃあ……やっぱり(赤坂君と)付き合ってるの?」
ついに「禁断の質問」をしてしまった。ここで志麻から「YES」と言われたらおしまいだ。やはり私には志麻みたいに他人の彼氏を奪う自信はないし、もしそれをやったらコイツと同類になってしまう!
お願い神様! 頼むからコイツの口から「NO」と言わせて! 私にあと1度だけチャンスを……ワンチャンください!!
「ん? 付き合ってないよ」
やっ……やったぁまだワンチャンあったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「でもね……赤坂君に告白はしたわよ」
ワンチャンじゃねぇよ圧倒的に志麻が優勢ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「しっ……したの?」
「したわよ! 赤坂君の返事待ち。彼はね、期末テストが終わったら返事くれるって約束してくれたの! 今から待ち遠しいわ」
何だそのすでに勝利を予感した余裕ぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!
「で、美波は赤坂君と……どうなの? 告白でもしたの?」
私、完全に出遅れぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!
「ちょ待って志麻! 私が赤坂君のこと好きって知ってたよね? なのに……」
「彩から聞いてるでしょ? 私は他人の彼氏とか、友だちが好きだっていう男の人に興味があるの! そういう男を奪い取ることで私は満足感を得られるのよ」
コッコイツ……やっぱ泥棒猫ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
私はこんなヤツと半年以上も友だちでいたのか!? 私が赤坂君のこと好きだと気づいた上でこんなことするなんて……。
志麻は体が弱く病気がちな子だ。私は今までそんな志麻に気をつかって接してきてやったのにこの仕打ち……。
――もう頭きた!
「ふっ……ふざけないで! もうアンタとは友だちじゃない、絶交よ!」
ついに言ってしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! もう後戻りはできないぞ御勅使美波ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「望むところよ! じゃあさ、美波も赤坂君に告白したら? そして赤坂君が私と美波、どっちを選ぶか勝負しない?」
――!?
いや、それはマズいだろ!? あの優柔不断ネガティブ陰キャの赤坂君にそんな選択させたら……好き嫌い関係なく彼にとって精神的な重荷になるだろう。
だが今はそんなこと言ってられない! このまま私が黙っていたら赤坂君は間違いなく志麻になびいてしまう!
「やっ……やってやるわよ」
私は今まで志麻……いや、女子に対し見せたことのない怒りの形相を向けた。
「そういえば最初の質問、答えてなかったわね……そうよ! アンタのことが嫌いだからニャインブロックしたのよ!」
「……」
「私も赤坂君に告ってやるわよ! そして赤坂君が私を選んだらブロック解除してアンタへ真っ先に『ざまぁみろ』ってメッセージ送りつけてやるよ!!」
「ふーん、まぁせいぜい…………頑張ってね」
志麻は何食わぬ顔でそのまま去って行った。
もう後戻りできない! 志麻との関係も、赤坂君に対しても……逃げ場を失った私は決意した。
――私は明日、《赤坂 大》君に告白する!!
だが、このとき志麻の「頑張ってね」は違う意味だということを後になって知ることとなる。
※※※※※※※
※オマケ小説※「修羅場戦争【エキシビション】」
期末試験を控え幕府より部活動禁止令が出された壱拾弐月のある日の放課後、釜無高校壱年参組の《大垈 竜地》は三国同……そう、拙者のことでござる。
この日、《御勅使 美波》殿の恋敵を演じておられる《上条 志麻》殿がついに直接対決をするというので立会人として……それと万が一、暴力沙汰になった場合の用心棒として《玉幡 遊》殿と一緒に校舎の陰から成り行きを見守っておる。
「期末試験後と踏んでおったが……思ったより早く動き出したでござるな」
「ほぉずら……ま、あのしんとうだってびいたらびいたらこいてたら試験勉強に影響しちもぉじゃんけ」
「うむ……ん!? どうやら話し合いは終わったでござるな」
上条殿が御勅使殿との話し合いを終えこちらに戻ってきた。上条殿は顔面蒼白で目には涙を浮かべておられる。そして玉幡殿に抱きつくと、
「ふっ……ふぇええええん! 遊ぅ~、怖かったよぉおおおお!」
上条殿の脚は恐怖のあまり震えており、立つのがやっとの状態であった。
「みっ、美波の目……あれはマジで殺られるかと思ったぁ~!」
「おーよしよし、よく頑張ったじゃんけ志麻! あとでコンビニのシュークリームでもおごっそうしてやるっちゅーこん」
玉幡殿は上条殿の頭をなでながらそう言った。いやいや、上条殿は確実に寿命が縮まったことであろう……命を懸けたのじゃからもう少し高い洋菓子を御馳走してもよいであろう。
確かに……あのときの御勅使殿の顔は遠めにも殺気が伝わっておった。まるで親の仇でも見るような目……眼力だけで人を殺めそうでござった。
「で……どうでぇ、美波の様子は?」
「バッチリよ! あれだけ逃げ場のない状況作ったんだから……美波は今日明日にでも告ると思うわよ」
「じゃあ美波の方は問題ねぇっつーこんで……あとはあのちっくいの(=赤坂)だけだな、竜チン!」
「竜地じゃ!」
「赤坂はおまんにまかせたぞ! 実は今日、彩と舞を使って赤坂に揺さぶりかけておいたさぁ! そもそもアイツには『告る』って概念がいっさらねぇら? まずはそっからこぴっとしんとずでだめどぉ」
何と! あの彼氏持ちどもまで使ってけしかけておいたとは……策士じゃな。
「じゃあ竜チン、あとは頼まぁ! 思いのほか早く進んじまっとぉ……美波が告る気になったから、できれば今日中にアイツんとこ行ってけしかけてくりょー」
「竜地じゃ! ま、それは拙者に任せるでござる」
「えっ、あっ! でも……」
上条殿が何かに気づいた様子じゃ。
「もう赤坂君、家に帰ってるんじゃない? こういうことってニャインじゃなくて直接会って話した方がいいでしょ? 大垈君、追いつけるの?」
「あっ、ほぅじゃんけ! どうするで?」
「ふふふ……それは大丈夫でござる」
拙者には赤坂殿に追いつく自信があった。それは……
「これでござる!」
拙者は原動機付自転車の鍵を取り出した。実は今週から原付通学で登城しておったのである。
「なんでぇおまん、原チャリ通してるだけぇ」
「そっか、これだったら赤坂君に追いつけるわよね」
「なので拙者はこの黒雲号で今から赤坂殿の元へ馳せ参ずるでござるよ」
「おいおい、黒雲って武田信玄の愛馬の名前じゃんけ」
おぉ、黒雲の名前を知っておるとは……こやつ、なかなかやりおるな!
そして拙者は黒雲号に騎乗し橋の上で赤坂殿に追いつき、御勅使殿に告白するよう説得することに成功したので候。
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次はいよいよ最終回……の【先攻】です。