三国同盟【エキシビション】
【登場人物】
◆大垈 竜地(おおぬた りゅうじ)◆
高1。身長166センチ。赤坂の親友。侍好きの中二病。
◆玉幡 遊(たまはた ゆう)◆
高1。身長168センチ。御勅使の親友。クセの強い甲州弁を話す。
◆上条 志麻(かみじょう しま)◆
高1。身長146センチ。現在、御勅使から敵視(誤解)されている。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長148センチ。主人公。今回は登場しません。
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。もう1人の主人公(ヒロイン)。今回は登場しません。
弐学期の中間試験が終了し、その結果とは関係なく晴れ晴れした天気が続いている霜月中旬の木曜日。釜無高校壱年参組の《大垈 竜地》はこの日、週に一度執り行われる「芸術」と云う授業を受けるべく今年から新たに出来た「書道室」に参上仕りし候……そう、拙者のことでござる。
我が校の「芸術」は選択授業となっており、「美術」「音楽」そして「書道」と分かれておる。美術選択者は美術室、音楽選択者は音楽室へ各々移動していくのだが、以前は書道のみ自陣の教室で行われておったそうじゃ。
だが少子化の影響で組が減ってしまい、やむを得ず空いた教室を「書道室」に改造したそうな。「書道」を選択した拙者は週に一度、こちらで鍛錬しておる。
やはり武士たるもの、書の心得がなくてはならぬ(注※大垈君は武士ではなく武士に憧れている中二病です)。なので拙者は迷わず書道を選択したのじゃが……
この寺子屋の書道の師範はちと変わっておる。最初我々に「課題」を与えるとそのまま何処かに行ってしまい、授業終わりに再び戻ってきて課題の書を回収するという……ほぼ自習なり!
しかもその「課題」もこれまた変わっておる。実はこの師範は国語も兼任されており、いつも国語に関連する課題を与えてくる。この日も『国』という字を使った四字熟語を書く……という課題を残して書道室を去っていった。
うーむ、「国士無双」はすぐに思いついたが……他にあるかな?
ところでこの選択授業、我が心の友《赤坂 大》殿も当然の如く拙者とともに切磋琢磨して書道に励まれると信じておったのじゃが……。
赤坂殿は美術を選択された! まぁ仕方ない、赤坂殿は電子遊戯が好きで登場人物の挿絵にも興味を持っておられる。なので美術を選択するのも頷ける。
ちなみに御級友の《御勅使 美波》殿は音楽を選択しておられる。昨日は体調不良で欠席されておったが今日は登校しておられる。だが具合が悪いのかまだ元気がない御様子じゃった。
で、こうして赤坂殿や御勅使殿と分かれて授業を受けておる拙者でござるが、こちらの部隊にはとても困った問題があり難儀しておる。それは、せっかくの楽しい授業の邪魔をする「曲者」の存在じゃ!
それは《玉幡 遊》殿のことでござる! なんとあの女子も書道を選択しておったのじゃ! しかもこの書道室は席順が決められておらぬ……なので好きな席に座ることができる。それを利用していつも彼奴は拙者の隣に座り「おい竜チン! アタシの墨も磨ってくりょうし」だとか「おい竜チン! 半紙無くなったからおまんのシャツに書かせろし」などと不条理なことを申してくる……せっかくの楽しい授業が彼奴のせいで苦痛なり! それと拙者は竜地じゃ!
だが……今日は玉幡殿の様子が何やらおかしいでござる。
玉幡殿はいつもの拙者の隣……ではなく、前の席に座る《上条 志麻》殿の隣に座ったのじゃ。まぁ玉幡殿と上条殿は御友人であるがゆえ隣同士に座るのは珍しいことではござらぬ。拙者としては災厄が遠ざかるのでむしろありがたきことでござるが……二人の間に何やら不穏な空気が流れておるのじゃ。
特に腕組みをして終始無言の玉幡殿からは殺気すら伝わってくる。まるで今から敵討ちでもしそうな雰囲気じゃ! この異様な光景に拙者は思わず恐怖におののいてしまったのでござる……こっ怖い!
二人がずっと黙ったまま時は過ぎたが、ようやく玉幡殿が話を切り出した。
「おい……志麻」
「ん? なぁに?」
上条殿が答えると、玉幡殿は信じられない言葉を上条殿に告げた。
「おまん……ちっくいのと付き合ってるって……本当け?」
――なっ!
なぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
【開戦】
衝撃的な一言じゃ! 「ちっくいの」とは赤坂殿のことでござる。拙者が言うのも何じゃがあの者は、女子とはほとんど接点の無きいわゆる「草食系」……いや、もはや仙人のごとく霞でも喰らっていそうな「霞食系男子」でござる! 赤坂殿が女子と付き合うなどと云うことは万が一にも有り得ぬことじゃ!
しかも赤坂殿は御勅使殿に好意を持たれておる。もし赤坂殿が上条殿と付き合っておるというのなら……これは由々しき事態でござる!
だが、玉幡殿からそう追及された上条殿は
「え? えぇえええっ!? そっ……そんなワケないじゃん! 何で?」
目をまん丸くさせて驚き、全力で否定した。すると玉幡殿は
「いや……一昨日の放課後に美波がな、おまんとちっくいのが2人っきりでイチャイチャしてるのを見たって言ってとぉー……どぉいうこんで?」
――ん?
「あっ、あれ? あれは……私が今やってるゲームでどうしてもわからないことがあって、大垈君に相談したらやってないって言われたんだけど……代わりに赤坂君を紹介してくれたのよ……それで、その……」
うっ……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
そうじゃった! 確かに拙者は一昨日、上条殿から「自販鬼探し」なる電子遊戯の攻略法について相談を持ち掛けられた。だがあいにく拙者は使用者ではござらぬので実際に参加しておられる赤坂殿を紹介したのじゃが……
まさか……かような展開になってしまったとは!? すると
「おい!」
うっ、うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
玉幡殿は突然、後ろを振り向き殺気立った顔で拙者を睨みつけた。
「おいっそこのコブトリブシモドキ!」
「せっ、拙者を新種の昆虫みたいに呼ぶな! 竜チ……いや竜地じゃ!」
「おまん……どうせ今の話聞いてたずら? どぉで、本当け?」
う゛っ、確かに聞いておった……図星じゃ!
「すっすすすまん玉幡殿! 確かに上条殿に赤坂殿を紹介したのは拙者じゃ!」
拙者の詫び言を聞いた玉幡殿から殺気立った雰囲気が消え
「ほーけ? やっぱなぁ……んなこんだと思ってとぉ! あのちっくいのを好きになっちもぉなんて変わり者、美波以外にいるワケねぇっちゅーこんさ」
――おい、それは赤坂殿と御勅使殿に対して失礼じゃぞ!
安堵の表情を浮かべた玉幡殿の言葉に合わせるように上条殿も、
「そっそうよ! そもそも美波が赤坂君のことを好きだなんてこと、今や3組全員が知ってる事実だし……」
「ほーずら? 知らねぇのは本人たちだけどぉ」
確かに……拙者ですら夏休みに玉幡殿たちと伴奏合唱機した際、御勅使殿の気持ちを見抜いておった位じゃからな。
「あっ、そうそう!」
すると突然、上条殿が思い出したように声を上げた。
「ん? 何でぇ?」
「そういえばさぁ……あ、ちょっと……ここだけの話なんだけどね」
うわっ出た! 女子どもの「ここだけの話」……絶対に「ここだけ」では収まりきらないやつじゃ!
「赤坂君のニャインに美波のアカウントがあったの! で、おかしいと思って彼を問い詰めたら……どうやら美波のこと、好きらしいよ」
ぬっ……
ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
なんと! ついにあの「霞食系男子」にも、そのような感情が芽生えたということか!? 彼奴にとって恋愛は一生涯、電子遊戯の中だけかと思っておったぞ!
ついに赤坂殿にも「漢」という性別が付いたか! これは衝撃じゃ(※大垈君もそれなりに失礼です)。
「ほーけ? じゃあ両想い確定じゃんけ」
「そうね……で、赤坂君に『告った方がいい』って言ったんだけどね」
「ほんなこんも言っただけ?」
「うん」
「あっ……それで美波、志麻と赤坂が恋バナしてるのを聞いておまんとうが付き合ってるって勘違いしたっちゅーこんか!」
「えぇっ! そうなの?」
「絶対ほぉだよ! 美波、ホントに単純なおバカっちょだし……」
親友の筈だが此奴、滅茶苦茶辛辣じゃ! まぁしかし、これで上条殿が赤坂殿と付き合うてるという誤解は解けた。だがすぐに上条殿は困ったような顔をした。
「そっかぁ……それで美波、私のニャインブロックしてたのね? でも困ったわ、どうしよう? 早く美波の誤解を解かなきゃ……」
「いや……志麻、ちっと待てし!」
御勅使殿との誤解を解こうとし、拒絶され繋がらないであろう全知全能電話に手を掛けた上条殿を玉幡殿が止めに入った。
「えっ?」
「いや、さっきも言ったけんども……美波が赤坂を好きだっちゅーこんはみんな知ってるこんじゃんけ」
「う……うん」
「まぁ今までは、それを知ってる上で赤坂にあたふたしてる美波の反応を見るのが面白かったんだけんども……正直飽きちまっとぉ」
「……え゛っ?」
上条殿が絶句した。親友の恋わずらいを楽しんでいたのか……此奴、やはり鬼か悪魔じゃ!!
「そろそろあのしんとうくっ付けてもいいころ合いじゃんけ! さっきの志麻の話で赤坂にもその気があるっちゅーこんがわかったし……ただ……ふぅっ」
玉幡殿にしては珍しくため息をついた。そして……
「あのしんとうにはずでどうしょもねぇ問題があるけんど……」
「?」
「問題? 二人とも好き合うとるのじゃから問題などあるまい」
拙者が口をはさむと玉幡殿は声の音調を一段下げた。
「甘いぞ竜チン! 赤坂は今さら言うこんねぇけど、あの美波ってぼこもかなりのオクテ……ウブだ! 自分から告るずくなんかいっさらねぇよ!」
「何じゃと!? あっそれと拙者は竜地じゃ!」
「つまりあのぼこんとうはウブとウブのカップル……ウブップルだ!」
「遊……ウブップルって……」
「勝手に新語を作りおった」
「間違いなく、あのずくなしウブップルはどっちからも告るこんなんてしんよ」
うをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおそうじゃぁあああああああああああああああああああああああああああああそれは大いにありうるぅううううううううううううううううううううううううううう!!
玉幡殿の言葉を聞いた拙者と上条殿は目を見開きお互い見つめあった。
「お主の言う通りじゃ! あの者たちが告白する姿など一厘も想像できぬ!!」
「こっ……このままじゃ何の進展もないまま2年になっちゃうよね?」
上条殿もかなり焦った表情になった。
「ほうずら? あのウブップルにはちっとばかし『刺激』を与えんといっさら先に進まねぇっちゅうこん! そこでだ、おまんとうにはえらいごっちょうかけちもうけど頼みがあるさー」
「「……えっ?」」
「まずは志麻! ちょうど美波が誤解してる今の状況が都合いい! おまんはそのまま美波の『恋敵』としてしわいキャラを演じてもらって美波に揺さぶりをかけてもらいてぇさー」
「えぇっ!? 私が?」
「おぅ……まぁあの危険動物のこんだから追いつめられると相手が女でも何すっかわからんが、そんときはアタシが止めるし……だから心配しちょ!」
「えっ!? ええええっ……怖いよぉ~!」
うわぁあああああああああああとんでもないことを考えよったぞ、この女子は!
「そして竜チン! おまんは赤坂に揺さぶりをかけて……まぁ無理かもしんねーけんどもできればアイツの方から告れるように仕向けてくりょーし」
「う……うむ、親友の一大事じゃ! お引き受けいたす……それと竜地じゃ!」
「アタシは……美波が志麻との関係を最悪にしんように調整しながら、美波が告れる状況を作るちゅーこんで! これでアタシんとうの目的はひとつ!」
「美波と……」
「赤坂殿を……」
「「結びつける!!」」
何ということじゃ! それぞれの思惑が一致した。
「で、玉幡殿……これは何時までに成功させるつもりじゃ?」
「そうそう! 遊……やっぱ2年に進級するくらいまで?」
「いや、ごっちょうだから期末が終わって冬休みまでに決めちもうさよぉ」
「「軽っ!!」」
そんな簡単にできるものでござるか? 敵は手強いぞ!
「じゃあ具体的に作戦を考えるじゃんけ! まずは……」
と、玉幡殿が話し始めたとき……
〝ガラガラガラッ〟
「おーい、あと5分だ! ちゃんと書きあげたかー!?」
扉が開き、書道の師範が入ってきた。
うごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! この女子どもと話に夢中になってたので課題をまだ一枚も書いておらんかったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「きゃっ!」
「てっ! マズいじゃんけ!」
上条殿と玉幡殿も全く書いておらんかったようで慌てて書き始めた様子じゃ。
どどどどっどうする!? とりあえず何か書かねば……えぇっと、確か「国」の付く四字熟語だよな?
やはり「国士無双」か? いやいや、電子遊戯が趣味の拙者がかような文字を書けばただの麻雀好きとからかわれるであろう。何か他の四字熟語を……うぅむ困ったものじゃ! 「国」の付く四字熟語がすぐに思い浮かばぬ……んっ?
――あっ! ひとつ思い出したでござる!!
拙者はその四字熟語を書き、すんでのところで提出した。ところが師範は採点し終わると、なぜか顔をしかめて
「おい、玉幡! 上条! 大垈!」
わしら三名は師範の元へ呼び出された。
まずい! この三名……ということは授業中に密談していたことを咎められるのだろうか? 緊張が走る。
「オマエら……なんで3人とも『三国同盟』って書いたんだ?」
「「あ゛……」」
わしら三名はもちろん申し合わせなどしておらぬ……偶然じゃ。
「しかも四字熟語じゃねーし……」
師範が呟いた……確かに。
【同盟締結……参戦!】
こうして御勅使殿の「恋敵役」を演じることになった上条殿、御勅使殿の指南役の玉幡殿、そして赤坂殿の指南役の拙者……同じ目的を持った三名の将による「三国同盟」が結ばれ活動する運びとなった次第でござる。
最後までお読みいただき感謝するでござる。次回もお楽しみに!