二人三脚戦争(練習編)【先攻】
【登場人物】
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんが好き……?
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
◆大垈 竜地(おおぬた りゅうじ)◆
高1。身長165センチ。赤坂の親友で侍モノが好きな中二病。
◆玉幡 遊(たまはた ゆう)◆
高1。身長168センチ。御勅使の親友で体育委員。甲州弁がキツい。
朝からどんよりとした曇り空で、時々にわか雨も降りだす9月中旬の火曜日、釜無高校1年3組の《赤坂 大》はこの日、久しぶりに登校してきたが、クラスの雰囲気がいつもと微妙に違っていることに不安を感じていた。そう、ボクのことだ。
先週の金曜日、ボクは風邪をひいて休んでしまった。その日の夕方、なぜか隣の席の《御勅使 美波》さんがお見舞いに来てくれた。
御勅使さんとはそのときに、今まで学校やニャインでは話したことがないお互いの「過去」の話をした。御勅使さんが小学校のときに受けたイジメを1人で克服したこと、ボクが小学校のときに当時の父親に虐待を受けていたこと……。
御勅使さんの本当の姿を知り、お互いの過去を包み隠さず話しているうちに、ボクは自分の心にある変化が起きていることに気付いた。
――ボクは、御勅使さんのことが好き……?
まだ絶対とは言い切れないけど、今は御勅使さんのことが気になって気になってしかたがない。教室に入ったら、真っ先に御勅使さんを見つけたかった。
でもボクが教室に入った瞬間、クラスのみんながボクのことを見た。いつもボクのことなんて誰も注目していないのに……何か様子がおかしい。
あれっ? もしかして……ボクが御勅使さんに好意を持ってることがクラスにバレた? えぇええええええええええええええええええええええ!? そんな、まだ誰にも言ってないのに何でぇえええええええええええええええええええええええ? すると……
「あっあぁあああああ赤坂君!!」
教室の後ろの方からボクに向かって一直線にやって来た女子がいた。
――みっ……御勅使さんだぁあああああああああああああああああああああ!!
【開戦】
「えっえええっ! あぁおはよう御勅使さん……あっあの、この間は……」
「それどころじゃないの赤坂君! っていうかゴメンっ! 私の力不足で……」
御勅使さんはボクに向かって両手を合わせて頭を下げた。
「え、な……何?」
突然のことでワケが分からなかった。何で御勅使さんが謝っているのか? 傘の話ならこの間全て解決しているのに……それにしても焦っている御勅使さんがとても可愛らしく見える。先週はこんな感情が全くなかったのに……。
「い、いいいいいい? おぉおおおおお落ち着いて聞いてね」
――え? 御勅使さん、落ち着いた方がいいのは御勅使さんだと思うよ。
「あ、あのね……今月末に〈体育祭〉があるのは知ってるよね?」
「う……うん」
この学校では9月末に体育祭がある。でも綱引きなどの全員参加の競技以外はクラスの代表がやるので、運動音痴のボクには関係のない話だ。
「その体育祭でね、〈男女混合二人三脚リレー〉があるんだけど……」
――あぁ、ボクみたいな陰キャキモオタスクールカーs……じゃなかった運動音痴キャラには全くもって無関係な話だと思うけど……?
「その競技の代表に……私と赤坂君が決まっちゃったの」
――へぇ、そうなんだぁ御勅使さんと赤坂君がねぇー……え?
え?
え?
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
「えぇええっ!? なななな何でボクが?」
「そっそれは……身長が近いからっていう理由……だっ、だよ」
と言うと御勅使さんはなぜか下を向いて目をそらした。え? 何で?
「えっ? でもボク、運動全然できないし……」
「うん知ってる、私も最後まで反対したんだけど……ちなみに、今回の策略を巡らせたのは……アイツよっ!!」
御勅使さんが指差した先にいたのは《玉幡 遊》さんだ。御勅使さんの親友で、ウチのクラスの元・学級委員長だ。
「おー、ちっくいの! 久しぶりじゃんけぇ!」
こっちを見て手を振り、ニヤッと笑った。やっぱりこの人か……。
「ほんねん気にしちょし! この種目は点数がちっとばっかだから負けても問題ねえっつーこん! それに実行委員会から、できるだけ多くのしんとうを代表にしてくりょうって言われてるし……ま、アタシもコイツと組むからいいじゃんけ!」
「痛たたっ! こっこのろうぜき者め! お主、この恨み晴らさでおくべきか!」
玉幡さんに耳を引っ張られて目の前に現れたのは《大垈 竜地》君だ。そうか、大垈君も「犠牲者」の1人なのか。
そういえば玉幡さんは2学期から体育委員だった。
「赤坂君どうする? 今からでも遅くないから先生に直訴して取り消してもらう? そもそも〈欠席裁判〉なんだし認められると思うよ」
そうか、ボクは昨日(月曜日)も休んでしまったから……ホームルームの時間に決められてしまったのか。
それよりも……御勅使さん近付きすぎだよ! 御勅使さんがこんなに近いとめちゃくちゃ緊張するぅううううううううううううううううううううううううううう!
「――え? ねぇ、赤坂君、どうしたの? 」
「えっ、ううん、何でも……」
「まだ調子悪いの? やっぱ無理だよね? 断る? 」
確かに運動音痴のボクにとって、体育祭の選手なんて無理ゲーだ。でもこの間、御勅使さんと色々話をしてわかったことがある。
ボクは今まで、自分が何もできない、何もしてはいけないと思い込んでいた。スクールカースト最下層だと勝手に思い込んでいて(いや、まだカーストが存在していない確証は得ていないが)何もしてこなかった。
それじゃいけないんだ! 今まで何もしてこなかったボクは、これから様々なことで経験を積んでレベルアップしていかないと! それに……
御勅使さんに……カッコいい所見せたい!
御勅使さんに……ボクを見てもらいたい!
なぜなのかよくわからないけど、なぜかそんな気がしてきた。
「あ、あの……ボク、やってみる」
「え?」
「二人三脚の選手……やってみるよ」
「えっ? えぇええええええええええっ!?」
御勅使さんが大きな声を上げるとクラスのみんなが驚いた顔でボクの方を見た。
「えっどうしちゃったの赤坂君……何で?」
「この間、御勅使さんに言われて思ったんだ。逃げちゃいけない、前を向いていかなきゃいけないって! だから……」
「え、えええっ!? たっ確かにそんなニュアンスの話したかもしれないけど……えぇっ、ちょっとぉ!」
※※※※※※※
放課後、グラウンドの片隅に二人三脚リレーのメンバーが集まった。二人三脚は2人の息が合わないといけない……ということで自主練習をしようという話になった。他にもムカデ競争のメンバーが集まって練習をしている。
御勅使さんと玉幡さんは、それぞれ新人戦を控えていて部活が忙しい中、駆けつけてくれた。本当は恥ずかしいので体育部の部活の人が多いグラウンドではなく、校舎裏でこっそりやりたかったのだが、アスファルトで転ぶと危ない……ということで、結局グラウンドを練習場所にした。
御勅使さんを見るとTシャツに短パンだ……部活の練習着のようだ、そういやこのあと部活か……学校で制服やジャージ以外の御勅使さんを見るのは初めてだ。
二人三脚リレーは各クラス3組のペアでリレーをする。ボクと御勅使さんのペア、大垈君と玉幡さんのペア、それと……《鶴城 舞》さんと《橘 太湖》君のペアだ。そういえば鶴城さんは1学期のときに1度だけ日直が一緒だったときがあった。橘くんは……確か体が柔らかいって聞いたことがある。
走る順番はじゃんけんで決めて、ボクと御勅使さんのペアがアンカーになってしまった。この種目に関して特に作戦とかは無いみたいだ。
「そ……それじゃ赤坂君、どっちがいい?」
御勅使さんが紐を手に持って話しかけてきた。
「え?」
どっち……てどういう意味? そして紐……? そうか! そういえば二人三脚ってお互いを結ぶんだっけ? え? てことは……
――御勅使さんと紐で結ぶってこと!?
えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
(注※赤坂君は今やっと気がつきました)
そっそうだった、結ぶんだっけ? でも待てよ、紐が1本で「どっち?」と聞いてくるってことは「脚」か「腕」のどちらかを結ぶって意味かな?
脚を結ぶってことは……御勅使さんの太ももに密着してしまうってことだよな? えぇええええっ! いやいや、そんな恐れ多いことなど……ならば
「あ……じゃあ腕で」
すると周りから
「ぷっ……ぷはははははっ」
「あっ赤坂殿、それは滑稽でござる」
「ははははっ! おまん、だたらおもしれーじゃんけ」
メチャクチャ笑われた。ただ、御勅使さんだけはムッとした顔をして
「そうじゃなくて! 右か左、立ち位置はどっちがいいの!?」
何か怒っている! うわぁあああああああああああああああああああああああっごめんなさいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「え? その……どっちかって言われても……」
「うーん、じゃあ〈利き足〉はどっち?」
「え? そんなのわかんな……」
「あー、じゃあっちの方に歩いてみて」
ボクは御勅使さんに言われるまま、御勅使さんが指をさした方に歩いた。
「ストップ! もういいよ」
御勅使さんに止められた。まだ2、3歩しか歩いていなかったけど……
「赤坂君、利き足は〈右〉ね。じゃあ右側に立ってくれる? 私は利き足が〈左〉だから左側! その方がバランスがとれるハズだよ」
すごいなぁ御勅使さん、陸上部だけあってテキパキと指示を出してくれる。
「じゃあまずは紐を結ばないで練習ね」
「う……うん」
「〈うん〉じゃない! 返事は〈はい〉よっ! 」
「ハ……ハイッ! 」
うわぁ御勅使さんが完全に仕切っている……これは全て御勅使さん任せにした方がいいだろう。ボクは御勅使さんに嫌われないようにしないと……。
「こっちに来て! 右側」
「う……ハイッ」
「まずは並んで……赤坂君は左足から1歩目を出してね」
言われるがままに御勅使さんの右側に並んだ。教室の席と同じ並びだ。すると次の瞬間、予想だにしていなかった事態が起こった。
え? 手? 手をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
御勅使さんがボクの肩に手をまわしてきた。ボクの肩から首筋にかけて御勅使さんの腕が密着している。
気になっている人に肩を組まれた……もちろん緊張で心臓がバクバクしている。
「あぁああの……その……肩……組ん……で走るの?」
「えっ、あっああ当たり前でしょ? 肩組まなかったら走れないじゃん」
「あっあぁ……そう……だよね」
ボクは二人三脚について何も知らなかった……引き受けたとき、まさかここまで密着する競技とは思っていなかったぁあああああああああああああああああああ!
御勅使さんはボクの無知っぷりに顔を赤くして怒っているようだった。
「イチ、ニ、イチ、ニ……うん、大丈夫そうね?」
脚を結ばない状態で走ってみた。御勅使さんが大丈夫と言っているのだから間違いなく大丈夫だろう。
「う……うん、そうだね」
それよりボクは、御勅使さんと一緒に走れることがうれしかった。女子と肩を組むのはとても恥ずかしいが、御勅使さんは『友だち』だ。そして、たぶん……ボクが好きな人だ。
御勅使さんにいいところを見せたい。そのためには、この人に迷惑かけないように、この人が全力で戦えるようにサポートしなければいけない。
脚を結ばない状態で何となく走れたので、今度は脚を紐で結んで練習だ。あまりきつく締めると走りにくくなるそうなので御勅使さんが少し緩めに結んだ。
「それじゃ行くよ!」
御勅使さんが合図を出す。よし、頑張ろう!
「「せーのっ!」」
2人で声を合わせて1歩目を出す。ボクは左足だ……あれ? 何かメチャクチャ足を持っていかれるような感覚だ。そっか、御勅使さんがリードして引っ張ってくれているからだ……あ、でも、左足が着地する前に体全体が前に引っ張られていくような……え、ちょっと待って! このままじゃ右足が間に合わない――!
〝ドタッ!〟
1歩目でいきなり転んでしまった。
「イタタタタッ」
隣を見ると……うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ御勅使さんを転ばせてしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「あぁ、みっ御勅使さん、ごっごめんなさい! あっあのっケガは……?」
「う、うん大丈夫、このくらいじゃケガしないよ」
おかしいなぁー、紐で結ばなかったときは上手くいってた気がしたんだけど……ボクが御勅使さんに付いていけないのが原因なんだろう。
「ドンマイ! 次はちゃんとやろうね赤坂君!」
御勅使さんが励ましてくれた。そうだね、頑張ろう! 再び二人三脚の体勢を組んだ。今度は転ばないぞ……せーのっ!
〝ドテッ!〟
「ドンマイ! 次、頑張ろう!」
〝ドスンッ〟
「ド……ドンマ……」
〝バタンッ〟
「…………」
……息が合わない。
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ何で? 御勅使さんとは相性悪いの?
周りを見ると
「ぬぉおおおおおおっ!」
「いいじゃんけ! その調子で桜の木までとんでいくじゃん」
竜地君と玉幡さんがメッチャいい感じで走っている。鶴城さんと橘君のペアも息ピッタリだ……何でボクたちだけまともに走れないのだろうか? やっぱりボクのせいなのだろうか?
「……」
「……」
御勅使さんが口をきかなくなってしまった。ボクも御勅使さんに何て声をかけていいかわからない。とても気まずい雰囲気だ。
ボクが御勅使さんをサポートしようと頑張れば頑張るほど空回りしてしまう。御勅使さんにいいとこ見せるどころか完全に足を引っ張っている……最悪だ。やっぱりボクは何をやってもダメな非リア充の世界の住人なんだろうな……。
「なぁそろそろ休憩でもしんけぇ?」
玉幡さんが休憩をしようと言い出した。御勅使さんは無言で紐をほどき、ボクたちはまるで磁石が同じ極で反発するように別方向に歩きだした。
――あわわわわわっ! 御勅使さん完全に怒っている……嫌われちゃったかも?
「赤坂殿……少しよろしいでござるか?」
竜地君が声を掛けてくれた。でも何かいつもと声のトーンが違う。ボクは竜地君と桜の木の下へ移動した。
※※※※※※※
「赤坂殿……先刻よりお主たちを見ておったが、全く動けておらぬではないか」
竜地君は自分たちの練習の間もボクたちの様子を気にかけてくれてたみたいだ。
「う……うん、何かボク、足引っ張っているみたいだね」
すると竜地君の口から意外な言葉が出てきた。
「いやいや、お主がもっと引っ張っていかなければいけないでござる」
「えぇっ! ボクこれ以上迷惑かけられな……」
「そうではござらぬ!」
いつも温厚でふざけてばかりの竜地君が珍しく怒っている。
「お主が御勅使殿をもっと引っ張っていかなければいかんのじゃ!」
「え?」
「お主……御勅使殿に頼り切っておるであろう?」
「え、そっそりゃ御勅使さんは陸上部で足速いし、運動音痴のボクに比べたら御勅使さんに任せておいた方が間違いないし……」
「それが間違いじゃ! 二人三脚は二人の力に均衡が取れて初めて成り立つでござる。どちらかが無理をしても、あるいは他人任せでもうまくいかないでござる」
「えぇっ、じゃあどうすれば……?」
竜地君の指摘に、ボクはどうしていいのかわからなくなってしまった。すると竜地君は、ボクの考えを根底から覆すようなことを言い出した。
「それは…お主が御勅使殿を先導することでござる」
「えぇっ! 何でボクが?」
「うむ、正直に申すが……お主は明らかに遅い!」
「うっ!」
「体力もない!」
「ううっ!」
「実力もない!」
「うううっ!」
わ、わかっているけどさぁ竜地君、こう改めて他人から連続攻撃されるとダメージが大きすぎるよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「ならば、お主が全力で御勅使殿を先導すればおのずと均衡がとれるであろう……なぁに、御勅使殿にはお主の『全力』など取るに足らぬ」
うわっ、今の一言は会心の一撃だよ竜地君……ライフ0になった。
「今、御勅使殿には玉幡殿が助言しに行っておる。お主も漢なら……御勅使殿にいいとこ見せたらどうじゃ?」
そうだった! ボクは御勅使さんにいいとこ見せたくて二人三脚を引き受けたんだ。この二人三脚の頑張り次第で、ボクの御勅使さんに対する「本当の気持ち」がわかるような気がしてきた。
――竜地君、ありがとう! やっぱり君は親友だ!
※※※※※※※
休憩を終えて練習を再開した。御勅使さんが玉幡さんと一緒に戻ってきた。気のせいか御勅使さんは落ち込んでいるように見えた。
御勅使さんが黙々と紐を結んでいる。ボクがリードしろって言われたけど……とても不安だ。よく考えたらこの人は「ラーテル」だ。いかなる男子に対しても威圧して歯向かう危険人物だ。ボクがリードするなんてこと……はたして御勅使さんがすんなりと受け入れてくれるだろうか?
すると御勅使さんはひざまづいてボクたちの脚を紐で結び終えると、その体勢のまま顔を上げた。そしてボクに向かって……
「赤坂君! 絶対大丈夫……信じてるよ!」
御勅使さんの一言で目の前がパッと明るくなった。御勅使さんに信頼された……つまり頼られたんだ! だったらボクは全力で頑張るしかない。よしっ! 御勅使さんを絶対ゴールまで連れて行こう! そして一緒にゴールしよう!
「うん、頑張るよ……任せて!」
ガラにもなく親指を立ててしまった。任せてとは言ったものの、その言葉に何の根拠もない……でも、ボクはやらなくちゃいけないんだ。
「じゃあ結んだ脚からね」
ボクは御勅使さんの目を見た。御勅使さんは黙ってうなずいた。
「「せーのっ!」」
ボクは左足を前に出した。御勅使さんに任せるのではなく、自分の意志で。わずかながら紐に掛かる力がさっきと違うことに気付いた。今はボクが御勅使さんの右足を引っ張っているんだ。
――あっ!
いつの間にか何歩も進んでいる。やった! うまく走れている。
「ストップストップ! もういいよ赤坂君」
気がついたらかなりの距離を進んでいた。大成功だ!
「やったぁー赤坂君! 転ばずに行けたね」
御勅使さんが嬉しさのあまり抱きついてきた。ええっ! ちょっとこれは……?
〝ドタッ〟
脚を紐で結んだままなので、バランスを崩してボクは尻もちをついてしまった。するとそれにつられて御勅使さんもバランスを崩し、ボクの上に倒れ込んだ。まるで御勅使さんに押し倒されたような格好になった。
あ……あああああ……うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
すると玉幡さんが
「おーいご両人……特にそこの痴女! 公然ワイセツ中のところ悪いけんど……」
「だっだだだだ誰が痴女だぁ!!」
「ちっちちちち違いますこれは!!」
御勅使さんが顔を真っ赤にして起き上がった。竜地君と玉幡さんは声を合わせ
「「転ばないのが前提……でござるよ」」
とても冷めた声でツッコミを入れてきた。
「「あ゛……」」
ボクと御勅使さんは顔を見合わせた。
【終戦】
その後、練習を何日も続けた結果、ボクと御勅使さんのペアは……ボクのせいでまだスピードは出ないけど、確実に息ピッタリで走れるようになった。
そして月末……ボクたちは万全の状態で体育祭本番を迎えた。
(つづく)
最後までお読みいただきありがとうございました。
次は御勅使さん視点の【後攻】に続きます。