相合傘戦争【後攻】
【登場人物】
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんがちょっと気になる。
席替えから3日経ったてもなお、教室の位置関係に多少の違和感を覚える木曜日の放課後。午後から降りだしてきた雨の中で釜無高校1年3組の《御勅使 美波》は、前から考えていた「ある計画」を実行しようとしていた。そう、私のことだ。
その計画とは、私の片思いの相手《赤坂 大》君と『相合傘をしながら帰る』こと。相合傘だったら異性の友達同士でも普通にしそうだが、「普通の友達」よりは一歩踏み込んだ行為だと思う。「友達関係」から「恋愛関係」に持っていくきっかけとしては最適なシチュエーションじゃないかな?
今日は大雨なので私の入っている陸上部はもちろん、体育館を使っている運動部や文化部の生徒も全員が早く帰るように促されている。
赤坂君は帰宅部なので普段は私より遅く帰ることはない。だけど今日、彼は日直で帰るのが遅い。しかもこの雨……これはチャンスだ! 私は赤坂君が帰るときに偶然会ったようなふりをするために昇降口でその時を待っている。赤坂君が傘をさしたら、私が傘を忘れて困っているふりをして入れてもらう作戦だ。
え? じゃあ赤坂君が傘を持っていなかったら意味ないって? そこは大丈夫。私はカバンの中に折り畳み傘を隠し持っている。もし赤坂君が傘を持っていなかったら「え? じゃあ一緒に帰る? 」と言って自分の傘をさりげなく差し出す。傘を持っているのに昇降口で待っているのは不自然だが、何か適当に理由を付ければいいや……例えば今日、赤坂君と一緒に日直やっている親友の《玉幡 遊》と待ち合わせしてたけど行き違ってしまった……とか言えばいい。
――そっか、じゃあ既成事実を作るため遊には会わないでおかないと……
「おーい美波ぃーどうしたでぇーけーらんだけぇ!? 」
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!! 遊が声を掛けてきた。コイツぅううううううタイミング悪すぎぃいいいいいい!!
「ななな何よアンタ! 日直の割にはずいぶん早いじゃん」
「ん? せっかく早くけえれるんだから前から見たかったDVD見っかと思って」
「えっ赤坂君は? もしかして置いてきたの? ひっど! 」
「いーじゃんけぇ、アイツ帰宅部でいつもはおらんとうより(帰宅が)早いじゃん! それより美波はけえらんだけぇ? 傘ねぇじゃ一緒に入るけ? 」
「えっあああああ私はぁあああ……さささっき先生に手伝いを頼まれてぇ、こっここで待ってるようにって……」
「え? おまんが先生からおやてっとう頼まれるほどみこんいいワケねぇじゃん」
――何それ失礼じゃん! 手伝いの話はウソだけど何かムカつく。
「あっ!! ……あーあーなるほど、そういうこんけぇ? 」
遊が突然何かに感づいた……え? ちょっやめて!
「そういや今日はあかさか……じゃなかった朝から天気悪いじゃんねぇ~ 」
――うわぁああああああああああああああああ!! コイツ普段はKYのくせに何でこういうときだけ察しがいいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「大ぶ雨強くなってきたけんど……あかさかだい丈夫かって心配……」
やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「もっもももう帰れー! 」
「あいあい傘さしてけぇるよ! 」
――「目的」まで完全に感づかれてしまった。
「じゃあ美波、気を付けてけえれし! わにわにして側溝につっぺっちょし! 」
遊が傘をさして帰っていった。あれ? そういえば遊、今日はチャリじゃなかったんだ。
※※※※※※※
――赤坂君、遅いなぁ~。
遊が帰ってから20分以上経った。私はスマホを見ながら昇降口の前の階段に腰かけて待っていた。途中、移動中の先生に「早く帰れよー」と注意されたが「あ、友達と待ち合わせでーす」と言い訳した。まあウソはついてないはず。
すると、下駄箱の方から男子生徒が出てきた。後ろ姿だけどすぐわかる――赤坂君だ! 雨の強さに少し呆然としたようだが、意を決したようにバッグの中から折り畳み傘を取り出した。
――そうか、赤坂君は傘持っているんだ!
私は自分のバッグに手を入れて、すぐに取り出せるようにしてあった傘をバッグの奥底に押し込んだ。じゃあ赤坂君の傘に入れてもらおう。あとは赤坂君がこっちを振り向いて「あっ? 」っていう偶然のシチュエーションになれば~って……
えっ? 赤坂君は一切こっちを振り向くことなく傘をさして帰ろうとした。
――ちょ待って待って待ってぇええええええええええええええええええこっちに気が付いてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「あっあああ赤坂君!! 」
私は思わず大きな声で赤坂君を呼び止めた。赤坂君はかなりビックリしたみたいで一瞬、背筋がピンと伸びた。そして震えながらゆっくり振り向いた。
【開戦】
「えっえ? 御勅使さん、帰ったんじゃないの? 」
「う……うん、実は傘忘れちゃって帰れなくなっちゃたんだけど……」
平然とこんなウソをつける自分が怖い。すると赤坂君が
「じゃあボクが職員室に行って傘を借りてくるよ」
うわぁああああああああああああ!! そういえば職員室にある「置き傘」って借りられたんだっけ? そんなことされたらこの計画全ておじゃんになるじゃん!
「あぁあああああああちょっ待って! 」
私は瞬時に大声で赤坂君を止めた。赤坂君はえっ? って顔でこっちを見た。
「すっすぐそこ……バス停までだから……申請とかめんどくさいし……」
――はっ早く、赤坂君が余計なことをする前に計画を実行しなくっちゃ……
「だっ……だから赤坂君、お願いがあ……るんだけど……」
――うわあぁ……意識しなけりゃどうってことないことなんだろうけど……やっぱ緊張するよぉっ!!
男子の傘に自分から入るアピールする女子って……ドン引きされるかなぁ~? でも今は雨が強くて他の生徒もほぼいない状況。ある意味「非常事態」なんだから「恥ずかしさ」より「親切心」が上回るよなぁ~?
よし、言うぞ! がんばれ美波! がんばれ美波! と、自分を励まして
「バス停まで……か……傘に入れてくれない? 」
言っちゃったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
も……もう後には引き返せないぞぉ! すると赤坂君は動揺を隠せない様子で
「えっいやいやボッボクじゃなくて他に誰かいませんか? たたた例えば……」
「え~もうみんな帰っちゃったみたいだよ……お願い、赤坂君だけが頼りなの」
いつもなら「はあっ? 」と威圧的になるところだが、今日はこちらからお願いしている(しかも仕組んだ計画で)。柄にもない、しおらしい態度でお願いした。
「そそそそんなこと急に言われてもボボボボクだって……」
赤坂君が必死に抵抗している。まあ恋愛経験もなさそうな純粋少年だから相合傘なんてやったことないんだろう……私もだけど。
しょうがない、押し問答続けても時間の無駄だから「いつもの」ヤツでいくか。
「あっそ……赤坂君って女子が帰れなくて困っているのを見て見ぬふりをするような冷たい人間なんだ……これは今夜クラスの女子全員にニャイン一斉送信して明日から君のあだ名は『非情おっぱい星人』でいいね? 」
赤坂君の顔が青ざめた。はい完了ー!!
この人、「操作」は非常に簡単なんだけど……操作するたびに「恋愛モード」から遠ざかっていく自分が悲しい。
「ていうか……だっ誰かに見られたらマズくないですか? 」
赤坂君が心配した。まあ確かにマズいだろうけど……。
「大丈夫。もうみんな帰っているだろうし、それに……人って、そこまで他人のことに興味ないと思うよ。たとえ面白いイベントがあっても、自分にとって関心がある方を優先するから……今は自分たちが無事に帰ることが最優先だよ」
――そう、興味がなくなると目移りするのが他人。「人の噂も七十五日」だよ。
「そっ……そうなのかな? 」
「そうよ! 他人の目なんて気にしない方がいいよ」
「じ……じゃあ、ボクのでよければ」
赤坂君が傘の左側を開けてくれた。
や……やったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「うん、ありがと」
赤坂君に冷静にお礼を言った。でも心の中はハイテンションだぜイエーイ!! だが、このテンションは階段を1段ずつ降りるたびに急激に下がっていった。
〝ボタボタッ〟
――ひぃいいいっ!!
私の左肩に雨つぶ……いや、水の塊が落ちてきた。え? どういうこと?
理由はすぐに分かった。上を見ると、傘の端から雨水が大量に私の左肩めがけ落ちている。そう、明らかに赤坂君の傘は普通の傘に比べて小さい。
「あ……赤坂君、これ……思ってたより小さい……よね? 」
赤坂君の動きが一瞬止まった。気が付いていたな……でも待てよ? これって逆にチャンスじゃないかな?
この状況で彼氏と密着したり、さりげなく手を握って温めてあげたりすると親密度アップするって雑誌に書いてあった……まだ彼氏じゃないけど。
スキンシップってことだよね? でもそれって大胆すぎない? 今の段階じゃ早いかな? でも相手は純粋少年の赤坂君だからたぶん大丈夫だろう。これが私の友達、《西条 彩》ちゃんの彼氏の押原君だったら「うぜぇよ! 」とか言ってきそうだけど。……よし、やるぞ!!
「ごめん赤坂君、左肩ぬれるからちょっと寄せていいかな? 」
と言うと、間髪入れずに赤坂君の左わきに腕を半ば強引に入れ、腕組みをした。そして傘を持つ赤坂君の左手の上に私の右手を添えた。赤坂君の手は少しひんやりしていた。さらに赤坂君の左腕に私の体全体を押し付けた。うわぁ! 大胆すぎたかな? でも、こうしないと肩ぬれちゃうし(もうぬれてるけど)いいよね?
赤坂君の顔をチラッと見る……顔、真っ赤だ。ふっふーん! 少しは異性として意識してくれたかな? 赤坂君は震えながら「あ……あの……ム……ムネが……」とささやいた。……え?
――あ゛っ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!
よく考えたら私……赤坂君の腕にオッパイ密着させてんじゃん!! うわぁあああああさすがにこれは大胆すぎた! 待って待って! 私、痴女じゃないから! 痴女じゃないからぁああああああああああああああああああああああああああ!!
――あ、でも待てよ?
この男、確か「おっぱい星人」だ! クラスナンバー1巨乳の《水辺 ふたば》さんのGカップ透けブラ見てニヤニヤしていたり、本屋で巨乳キャラの本買っていたり……こんな男が私のBカップに反応するかなぁ……カマかけてみよう。
「ちょ……ちょっと私のオッパイ当たってるって思った? 」
「えっ!? えぇいえその○×▲※◇……」
――動揺してんじゃん!!
「ごっごめんね、ふたばちゃんほど無くて……ガッカリしたよね? 」
ちょっと嫌味っぽく聞いてみた。さぁどう出る?
「……・・」
――無反応かーい!! ねえええええぇっ「そんなことないよ」って言ってよ! 「ノー」って言ってよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
まあ、「イエス」って答えたらブン殴ってやるけど。
※※※※※※※
学校のあるこの場所は扇状地って呼ばれていて、全体的に緩やかな坂になっている。私の家は坂を上った先、赤坂君の家は坂を下りた先なので「逆方向」だ。つまり学校を一緒に出てもすぐに「バイバーイ」ってことになる。
なので、一緒に帰れるこのチャンスを無駄にしたくない。私は様々な理由をつけて赤坂君の家の方向に一緒に帰ろうと計画を立てた。
まずは「校門」を出るところから。ウチの学校は「正門」と「裏門」の2か所の校門があってその先の「広い道路」につながる道がそれぞれに存在する。正門から帰ると、その先の広い道路に出たとき、坂を上っても下っても同じくらいの距離にバス停があり、おまけにどちらも近い。すぐに「バイバーイ」となる。
なので赤坂君を裏門に誘導する。ここから広い道路に出て坂を下れば、赤坂君の帰り道にある別のバス停にたどり着き、そこが一番距離を稼げる。
われながら完璧な作戦だ! このまま何も言わず裏門に向かって歩き出した。
「あれ? こっちって裏門だよ、こっちでいいの? 」
赤坂君がすぐに気づいた……まぁそうなるか。
「えっあああだっだって正門は、ほっほらまだ誰かいるかもしれないじゃない!? やっぱ見られたら恥ずかしいじゃん」
われながら隙だらけの作戦だ。さっき「気にするな」って言ってたのに……。
裏門の前にある坂道を下りる。雨水が流れ込み川のようになっていたので、滑って転ばないように足元に注意しながら歩いた。特にマンホールの上は気を付けないと……そういえば今まで意識して見たことがなかったけど、ここのマンホールってブドウやらキウイフルーツやら、何かゴチャゴチャ描かれていているなぁ。
すると赤坂君が思い出したように
「あれ? 御勅使さん、そういえば玉幡さんには会わなかったの? 確か玉幡さん傘持ってるって言ってたような……」
――ギックゥッ!! そういや遊と会ってたんだっけ……ヤバい! 余計なこと言わないよう、遊には明日ジュースでもおごってやるとして……
「えっあっああああぁ遊? 遊はぁあああどっかで行き違ったみたいぃいだよ、おっかしいなぁーどこで行き違ったんだろー? 」
「あっああそうなんだ……」
「……」
「……」
――きっ気まずい!
隙どころかボロボロじゃねーかこの計画! このまま赤坂君に真相がバレずにバス停までたどり着けるだろうか?
下り坂が終わると今度は上り坂だ。まあ雨だから仕方ないが赤坂君は歩くのが遅い。正直イラっとはするが、こっちが無理なお願いをしているんだからペース合わせてあげないといけないよなぁ。
もし私が赤坂君と付き合うことができたら……当然デートとかするだろうし、そうなったら今後はずっとこんな感じで一緒に歩くんだろうなぁ。今まで自分のペースで歩いてきたけど……うまく歩んでいけるのか、ちょっと不安になる。
――ま、それも楽しいと思えるようになればいい……のかな?
※※※※※※※
坂を上り交差点に出た。目的のバス停はここを右折し坂を下った先だ。私は右方向にある横断歩道を渡ろうとした。
「ちょっ御勅使さん! バス停こっち(左側)だけど……」
赤坂君が制止した。うん、わかっててやってるんだよ。
「うっうん……でも赤坂君の家こっち(右側)だよ……ね? バス停、道路沿いだからつっ付き合うよ」
「でもこっちのバス停の方が近いよ? 」
――だからぁ! 少しでも一緒に帰りたいのよぉおおおおおおおおおお!!
「ええっいっいいのよ! そそそっそれに(坂の)上のバス停じゃ〈快速〉がとっ停まらないでしょ? 」
「え? このバス路線に〈快速〉なんてあったっけ? 」
――ねぇよ! 知ってるよ。でも何かしら理由がなけりゃそっち(坂の下)のバス停に行けないでしょ! 困ったなぁ、他に何か理由は……あっそうだ!
「あっあるよあるある! そっそれに(坂の)下のバス停は屋根があるでしょ!? それとも何? 私に雨の中でずぶぬれになってバスを待てって言うの? 」
結局「威圧」で赤坂君を納得させてしまった。ううっ、こんなんで恋愛モードに持ち込めるのかよぉ~。
しばらくすると声の小さい赤坂君が
「み……・・ぃさん」
強まってきた雨音にかき消された。
「え? 何? よく聞こえない! 」
「御勅使さん! ボク左手が疲れちゃったから右手に持ち替えていい!? 」
赤坂君にしては精一杯の大声で話しかけてきた。
「……いいよ! 私は左利きだからそっちの方が楽! 」
まあどっちでもいいんだけど……。しばらく歩いていると
〝バシャーン〟
大型トラックが猛スピードで坂を上っていき水しぶきをあげた。水しぶき? いや、北斎の描く波のようだった。幸い私には直撃しなかったけど……あっ
「赤坂君、大丈夫!? 」
「う、うん大丈夫」
いやいや、全然大丈夫じゃないでしょ!? 赤坂君は水を少しかぶったようだ。赤坂君ツイてないなぁー、道路側を歩いていたばっかりに……
――あれ?
そういえば赤坂君、自分からポジションチェンジしてきたよね……まさか、こうなることを予想して……?
だとしたら……どんだけ気が利くのよぉー! ますます惚れちゃうじゃん!
※※※※※※※
下のバス停に着いてしまった。残念だけど私はバスの到着時刻を確認した。バス停のベンチに腰掛けようと思ったが、びしょぬれだったのであきらめた。屋根付きのバス停だが、今日は時々風が強く吹いて横なぐりの雨になったせいだ。
「あと10分くらいありそう……あっ今日はありがとね赤坂君 」
「え……うん」
赤坂君との相合傘もここまでかぁー! もっと一緒に居たいけど。でも赤坂君には水までかぶらせてしまった。これ以上、迷惑かけるわけにはいかない。
「……・・」
「……・・」
うわぁー、会話が続かない。相合傘してた時は会話がなくても、ただ赤坂君と密着していただけで楽しい時間を過ごせたが、このシチュエーションで無言はキツイなぁ……バスが来たらお別れだし何か話したい。
赤坂君が無口なのは百も承知だが、私も好きな人の前では(意識すると)こんなにしゃべれなくなるんだ……私も小っちゃい人間だなー、いろんな意味で。
「そっそういえば、玉幡さんが……」
「えっ遊がどうしたの? 」
すると赤坂君の方から珍しく話題を振ってきた。向こうもこの緊張感に耐えられなかったんだろう。できれば恋愛モードの話をしたかったけど……遊の話かよ、思わず苦笑いしてしまった。
「今日、日直だったんですけど……玉幡さん、DVD見たいからって学級日誌と戸締りをボクに押し付けて先に帰っちゃったんですよぉ……まあボクが帰宅部だからたまには残れって言われたらぐうの音も出ませんけど……」
「ああーそういえばアイツそんなこと言ってたなぁー」
――あ゛、
「御勅使さん、さっき玉幡さんと『行き違った』って言ってませんでした? 」
――うわぁあああああああああやべぇ口が滑ったぁああああああああああ!!
「あぁああああああ~そっそんなこと言いそう……って言いたかったの! 」
「……・・」
「……・・」
しまったぁ!! 変な言い訳をしたせいでよけい話しにくくなってしまった。このまま話を続けて計画のことがバレてしまったら最悪だ。仕方ない、赤坂君には帰ってもらおう……ホントはバスが来るまで一緒にいてもらいたかったけど。
「あ……赤坂……君……私、もうここでバスが来るのを待つだけだから大丈夫だよ。また雨も強くなってきたし……赤坂君もずぶ濡れになっちゃうから帰っていいよ! じゃあまた明日! 」
「う、うん……じゃあね」
あっさりしてるなぁ~、「いいよ、バスが来るまで付き合うよ」なんて……言わないか。はぁー……やっぱり脈ナシかぁー。まぁいいか、今日は相合傘できただけでもよしとしよう。
赤坂君は傘をさすと家の方……大きな橋がある方向へ1人歩いて行った。その姿を見送っていると突然、
〝ビュッ〟〝ザザァーッ〟
強い風が吹いて雨が掛かった。しかも制服のスカートがめくれそうになり思わず
「きゃっ! 」
と声をあげた。
すると、赤坂君が私の悲鳴に気が付き戻ってきた。ちょちょちょっと今スカートがヤバい状況だから戻ってこないでぇええええええええええええええええええ!!
赤坂君がバス停まで戻ってきた。間一髪で風は収まったので痴態をさらすことはまぬがれた。
「みっ御勅使さん、これっ!! 」
赤坂君はそう言うと、自分の傘を渡してきた。
「え? 」
「御勅使さん、ここじゃ雨掛かりますからボクの傘使ってください! 向こうに着いてからも必要でしょ? 」
「えっえええそんなことしたら赤坂く……」
「ボクは大丈夫です! (家は)ここから近いですから! 」
予想外の展開になった。
いやいやいや、そういうことじゃなくて! そんなことしたら赤坂君ずぶぬれになるし、私はバスが来たら傘必要ないし、向こうに着いてからも必要ないし……
だって……
――私、傘持ってるしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「それじゃ御勅使さん、明日学校で! さようなら! 」
「えぇええ赤坂君! そうじゃなくてぇー!! 」
赤坂君は自分のバッグを頭に乗せるとそのまま走り去っていった。えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!
どっどっどうすんの御勅使美波!? 私の「相合傘したい」という願望のために赤坂君がとんでもない行動をしてしまったじゃん!!
さっそうと走り去っていった赤坂君は……歩道の切れ目あたりで力尽きた。
あーあ、赤坂くーん……
キミの家、前にどの辺か聞いたことあったけど……確か、
そこまで近くなかったハズだよ。
【終戦】
でも、この後、『大事件』が起こった。
【終戦】ではなかった。
※※※※※※※
翌日、学校で……
私は昨夜のうちに借りた傘を乾かして赤坂君に返そうとした。
だが、教室に赤坂君の姿はなかった。
「あー、赤坂は風邪で休むと家族の方から連絡があった」
朝のSHRの時間に先生が言った。
――え?
赤坂君が……風邪?
間違いない。
原因は私だ。
なっ……なんてことを……
私は……なんてことをしてしまったんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
(つづく)
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!