本屋レジ戦争【後攻】
【登場人物】
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんがちょっと気になる。
2日前から分厚い雲に覆われたため、気温がいつもより上がらない曇天の8月中旬。釜無高校1年3組の《御勅使 美波》は、客が1人もいない本屋のレジで、店番をしながら……ふぁ~あ……ヒマを持て余していた。そう、私のことだ。
ここは私の住んでいるところの隣町にある、商店街の一角にある本屋さんで私のお祖母ちゃんの家だ。夏休みの間、部活のない日はよくここに泊まりがけで来て店番のアルバイトをしている。
実はウチの高校、校則でアルバイト禁止になっている。でも実際は皆、隠れて上手くやっていて有名無実な校則なんだけどね。
私の場合、バイトといっても親戚の家で「お手伝い」レベルだし、もらうお金はお小遣い程度だ。それより、ここに泊りがけで来ているのでお祖母ちゃんに夕飯作ってもらえるし、ときどき外食にも連れて行ってもらえるし、自分専用の部屋まで貸してもらっているので、気兼ねなくゲームできるし……・・たまには夏休みの宿題もできるし、そっちのメリットの方が大きい。
それにしても……今日は開店時間から店番をしているけど、まだ客が1人も来ていない。そりゃそうだ、ここは元々人通りが少ない商店街、いわゆるシャッター通りだ。おまけに今はネット通販や電子書籍もある時代。本屋なんて需要がないだろう。まあ、ここはお祖母ちゃんが趣味でやっているようなところだから、儲けは二の次なんだろうけど……。
そんなこと考えていたら珍しくお客さんが来た。私は、お客さんに聞こえるか聞こえないかわからないくらい、テンションの低い小さい声で
「いらっしゃいませー」
と、声をかけた。
なんか、小さい男の子が1人でやってきた。中学生? いや、小学生かな? 夏休みの自由研究か読後感想文用に本でも探しに来たのだろうか? と、思ったらライトノベルとか置いてあるコーナーへ一直線に向かっていった。新刊をチェックしているみたい……って、あれ? どっかで見た顔……
ま、まさか……え? 何で??
何で赤坂君が来てるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
【開戦】
――えぇえええええ!? ちょっとマジでヤバいんですけどぉおおおおおおお!
《赤坂 大》君、私の「片思い」の相手だ。先日、親友の《玉幡 遊》とカラオケに行ったとき偶然居合わせて、そのまま遊が、彼と彼の友人をカラオケに誘いそこで……遊の策略によって……間接キスまでしてしまった。うわぁああ……
今日の私は店番で出かける予定もないから、ドすっぴん髪ボサボサ、服ダサいしコンタクト外してメガネ姿だ。
――いやぁあああああああこんな姿見られたくないぃいいいいいいいいいい。
しかも、家の手伝いとはいえレジにいたらバイトだって思われる。学区外だから誰にも会わないだろうと油断しきっていたけど……マズい! 赤坂君に弱みを握られてしまう。
――ヤバっ! こっちを見た。気づかれたかな?
あれ? でも様子がおかしい。赤坂君っぽい人は間違いなく私に気が付いたようだが、すぐに本棚の陰に隠れた。そしてラノベコーナーに戻るとしばらくそこをウロウロしてた……不審者じゃん。万引きでもするつもりか?
しばらく店内をうろついた不審者は、意を決したかのようにレジにやってきた。やっぱ赤坂君じゃん。でも私のことを見て見ぬふりをしているようだ。なんで? 私がこんな格好だから気を使っているとか?
――ん!?
赤坂君は本を3冊、裏表紙を上にして背表紙も見えないようレジに置いた。
――おいおいおいおいっ!
これって中学生とかがエロ本買うときによくやるヤツだ(笑)、完全に怪しい。どれどれ、ヒマだし面白そうだからちょっとからかってやるか。
赤坂君は、私のことを赤の他人だと思っているか、あえて知らないふりをしているみたいなので、私も他人のふりをしたまま一番上のバーコードを読み取った。じゃあさっそく軽めのジャブでもお見舞いしてやろうか。
「カバー、お付けしますか? 」
本屋では定番のサービスだ。当然、赤坂君も知っているはず。
「いっいえ、だだだ大丈夫です! 」
――ぷぷぷっ! 明らかに動揺している……こりゃ間違いない。カバーつけるときは必ず表紙見られちゃうもんね!?
「じゃあ袋にお入れしますね」
さて、じゃあヤツが何の(エロい)本を買うのか確認してみよう。たぶんこれが本命であろう2冊目の本のバーコードを読み取ると、何か問題があったかのように
「あれ? 」
と、本のタイトルとレジの画面表示が、さも違っていたのかな? みたいな感じで、わざとらしく本を裏返して表紙を確認した。
――ビンゴぉおおおおおおおおおおおおお!
長すぎるタイトルでよくわからなかったが『巨乳』という文字だけは確認できた。しかも表紙のイラストが疑う余地もないほど
――エロい!!
何この主人公らしい女の子のオッパイ……こんな大玉スイカ2つぶら下げている女いねーよ、肩凝るどころかこれじゃまともに立てそうもないわ。しかもそれを覆っている黒いブラみたいな衣装……もはやニップレスじゃん、隠す気あんの?
そういや学校でも、水辺さんの巨乳をジロジロ見ていたことがあったなコイツは……おっぱい星人確定だな。
表紙を見られたおっぱい星人は思いっきり動揺している。目が泳いでこちらに視線を合わせようとしない。あー面白い、もう少し様子を見よう。
3冊目のバーコードを読み取る。結局3冊ともラノベじゃん。
「3冊で○○円です」
「あっはい」
そのままおっぱい星人は私のことを無視して星に帰ろうとしたので、ここでネタばらししますか。おいっ赤坂! オマエの行為は貧乳に対する当て付けだぞ……地獄に落としてやるぅううううううううううううううううううううううううう!!
「へー、赤坂君ってこんな本読んでるんだぁー」
――ぷぷっ……ぷぅあぁああああああはっはっはぁあああ!!
出入口に差し掛かった赤坂君の背中が硬直し、すぐに脚が震えだした。うぷぷっわかりやすいなぁー。そして、まるでコマ送りのように少しづつ振り向きながら、
「え? 」
「え? じゃないよ、私よ……御勅使美波よ! 赤坂大スケベくん♪ 」
こっちを振り返った赤坂君は、どこに捨ててきたのか聞きたくなるくらい、全身の血の気が引いていた。
「えっええええあああああだだだだだだってメガメガメガネェェ……」
「おいおい落ち着け! ああ、このメガネ? 普段、家にいるときはしてるよ、学校とかはコンタクトにしてるけど……」
「えっえええええいえ……え? 家? 」
「ああそうそう、ここは私のお祖母ちゃんの家なの。だから夏休みはここで手伝いをしてるんだよ」
――じゃあたっぷりイジってやろう……イッツショーターイム!!
「そ~れ~よ~り~」
私は肺がパンパンになるまで大きく息を吸って一気に、
「赤坂君ってこういうキャラがタイプなんだねぇーそういや前に水辺さんのおっぱいガン見してたよねぇーうわぁー巨乳好きなんだねぇー意外と肉食系なんだねぇー赤坂りくーん」
言葉の連打で赤坂君をコーナーに追い詰める。面白いほど攻撃が決まっていく。
「あーでも赤坂君って高校生だよね? 」
「こっ高校1年で同じクラス! ししし知ってるでしょ!? 」
――知ってるよぉ~席が隣のドスケベくーん!
「こういうエッチな本って、未成年に売っていいんだっけ~? 」
「えっえっ? これは別にそういう本じゃないよ! 異世界モノのライトノベルで決して18禁の官能小説とかじゃ……」
「冗談だよー、知ってるよー」
――もうすでにダウン寸前だな――半分涙目だ
「赤坂くーん」
――じゃあ、とどめを刺しますか。
「2学期……楽しみだね!? 」
あらあら赤坂君、ウチの店クーラー効いてるんですけど何で汗かいてるんですかぁ~? あれ~もしかして冷や汗ですかぁ~!?
すると、今まで防戦一方の赤坂君が、
「御勅使さん! そういえば高校ってバイト禁止じゃ……?」
――う゛っ! ……それいきますか赤坂君、でもね、ダメージとしてはアナタの比じゃないのよ!
「え……えぁまぁそうね、でも私の場合はお祖母ちゃんの家の手伝いだしぃー、まぁ見つかったところでその場で怒られるだけだしぃー、……それよりぃー誰かさんの場合は間違いなく〈おっぱい星人〉のレッテルを張られちゃってぇー卒業まで過ごすことになると思うけどなぁー」
〝カンカンカンカンカーン〟
あーあ、確実にノックダウンしたなコイツ……2学期マジで不登校になりそうだからこのくらいで止めときますか。
「あら、お客さん? 」
「あ、お祖母ちゃん! お帰り、早かったのね」
この本屋の店主で私のお祖母ちゃんが近所から帰ってきた。何か大きなレジ袋をぶら下げている。おそらく近所のおばさんから何かもらってきたのだろう。
「さっきから仲良さそうだったけど、美波ちゃんのお知り合いけ? 」
「えっええっ見てたの!? うん、高校のクラスメイトで赤坂君」
――今は……ね。いずれお祖母ちゃんに「彼氏」って紹介したいけど……
「あらそうなの……あ、そういえばアナタ、何度かウチで買ってるわよね? 」
――えっ赤坂君、何度も来てるの? 常連さん??
「あ、そうだわ……アナタがいつも買ってる『オッパイが大きい娘の本』今日、入荷したわよ」
ぷっ……ぷぁーーーーっはっはっはっはっはっはーーーっコイツこのエロい本何度もウチで買ってんだぁああああひーっひっひマジウケるぅうううううう……って待って! よく考えたら……
「あははははは……あ、大丈夫、ちゃんと買ってくれたよ」
全然大丈夫じゃないわぁあああああああああああああこの「おっぱい星人」がぁあああああああああああああああああ!! もし付き合うことになって、お祖母ちゃんに「いつも『オッパイが大きい娘の本』買っている人が私の彼氏」って……紹介できるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
そのとき、お祖母ちゃんが私にとんでもない提案をしてきた。
「美波ちゃん、せっかくお友達来てるんだから家に上がってお茶でも飲んでいってもらったら? レジは私が代わるから」
えっ……家に上げる? 赤坂君を? ぇええええいいのぉおおおお祖母ちゃああああんっ!! と、思ったけどまだ付き合ってもいない男の子と私の部屋で2人っきりって、まだ心の準備が……よく考えたらここ私の家じゃないけど。
まっまぁでも、とっ友達なんだから家に上げてもももも問題ないよねぇええ? 部屋にはゲームも置いてあるし赤坂君もゲーム好きそうだから……あっ!
だ……ダメだぁあああああああああああああああああああああああああああ!
そういや昨夜、洗濯物をたたむのが面倒でそのまま寝てしまった。まだ部屋の中に私の「下着」とか散乱しているんだったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああダメだダメだ、今、赤坂君に部屋に入られたら非常にマズいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「え? あぁいえいえそんな……」
「そっそうそう! 赤坂君も今から帰らなくちゃいけないから……ねぇ赤坂君」
あっぶねぇあぶねえ、うっかり家に上げたら赤坂君に私の下着大公開じゃん! くっそぉおおおせっかくのチャンスだったのにぃいいいいいいいいいいいいい!
「そうなの? じゃあまたいつでもウチに買いに来てね」
「え? あぁはぃ……」
そしてこの後、空気を読まないお祖母ちゃんは、とんでもない質問をサラッと、まるで今日の天気でもたずねる感覚で私たちに聞いてきた。
「それにしても2人は仲良さそうだねぇ……もしかして付き合ってるの? 」
お祖母ちゃーーん!! ど直球すぎるよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「いっいえいえっ! 付き合ってなんかいませんよ! 」
「そそっそうよ! 付き合ってないわよ!! まだ……」
――あ゛。
口が滑って「まだ」なんて言ってしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
「え? 今なんて……」
しかも、赤坂君に聞かれてしまったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
「あっあああああ何でもない何でもない! 今のは忘れて」
――うわぁあああああああラムサール条約に登録したい位の「しつげん」だぁ。
さらにお祖母ちゃんは攻撃の手を緩めなかった。
「赤坂くん、美波はおっぱいは小さいけど、とっても優しくていい子だからね。これからも仲良くしてやってね」
「おおおお祖母ちゃん! なんてこと言ってるのぉおおおお!! 」
お祖母ちゃああああああああああああああああああああああああああああん! ほめてくれるのはうれしいけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! おっぱいが小さいは余計だよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
味方だと思っていたお祖母ちゃんが、まさかの敵だったとは……穴があったら入りたい。なかったら掘ってでも入りたい。
「あ、そうそう」
マイペースなお祖母ちゃんは急に話を変えた。
「赤坂くん、桃食べるけ? さっき近所から桃をもらったんだけど……」
お祖母ちゃんが、さっき近所から帰ってきたときにぶら下げていた袋から何か取り出した。どうやら袋の中身は桃だったようだ。そういや近所の高松さんの実家って桃農家だっけ。
「あっいえいえお構いなく……」
「そうなの? 〈新府の桃〉だよ、4つばかし持ってけし」
赤坂君は少し考えた後、
「え? じゃあいいんですか? 」
「いいよいいよ、赤坂くん持ってけし」
なぜか私もお祖母ちゃんにつられて甲州弁になってしまった。この時期、桃をもらったりあげたりするのは山梨あるあるだ。
「あ、でもボク自転車で来たから……」
「えっ!? 赤坂君チャリなの? 」
ここだったら電車でも問題なく来られる場所なのに何で? まさかコイツ、電車代浮かせるために……? 後でカマかけてみるか。
「あぁだったら箱に入れてけし」
お祖母ちゃんが、店の奥から箱を持ってきた。そこに新聞紙で作ったクッションを敷き詰めて、店の前に置いてあった赤坂君のチャリの荷台にくくりつけた。
「あ、すみません、ありがとうございます」
「いいさよぉー、また来てくりょーし」
「赤坂君、遠いから気を付けてね」
まあでもよかった。大好きなお祖母ちゃんに赤坂君紹介できて、しかもお祖母ちゃんも気に入ってくれたみたいだし……いつか付き合うことができたらお祖母ちゃんに報告したいなぁ。
「あ……ありがとう」
「それにしても、ここまでチャリで来るとは……すごいね、〈エロの力〉って」
ペダルに足をのせた赤坂君が凍りついた。やっぱりそうだったか……完全に痛いところを突かれたって顔してるわ赤坂君。
赤坂くーん、マジで帰り気を付けてねー……気のせいかチャリがふらふらしているみたいだけど。
※※※※※※※
赤坂君を見送った後、お祖母ちゃんが
「でも美波ちゃん、お友達だったら家に上がってもらってよかったのに」
――うん、そりゃ一緒にいたいのはやまやまだけど、今の部屋の状態じゃ……それに彼を部屋に入れるのはまだハードル高すぎるわ。
「そうなの? 今夜、〈花火大会〉があるのに一緒に行けばよかったじゃんけ」
――え?
――え?
…………
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!? 今夜、花火大会あるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 知らなかったぁああああああああああああああああああああああああああああ!!
お祖母ちゃああああああああん、もっと早く言ってよぉおおおおおおおおお!
※※※※※※※
その日の夜、
〝ドーン〟〝ドンドンッ〟〝パチパチパチッ〟
お祖母ちゃんの「本屋」兼「家」の3階、夏休み限定で使っている私の部屋の窓から花火が見える。
「あ~あぁ……」
赤坂君と2人っきりで花火を見にいけるチャンスだったのにぃいいいいいいい。しかもココなら知り合いと出会う確率も低いから、付き合っていない今の状態でも堂々と見に行けた……はず。
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ私のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
私はプールではなく布団に飛び込んでバタ足で100メートル泳いだ。
――そうだ!
悔しいから赤坂君にニャインしよう。
『こんばんは! 』
『今日はウチの店で買ってくれてありがとう』
数分後、赤坂君から返信が来た。
『こんばんは』
『まさか御勅使さんのおばあさんの店だとは思わなかった』
あっはは、それな! まさかこんな偶然があるとはね。スタンプ送っておこう。
今年は行けなかったけど、来年こそは赤坂君と花火行きたいなぁ。そのときはクラスメイトとしてじゃなく……。
――あ、そうだ!
私は窓から見えた花火をスマホで撮った。そして、赤坂君にちょっとしたドッキリを仕掛けてみることにした。
『ところでさぁ~』
『やっぱ赤坂君って』
『リアルでも巨乳の女の子が好きなの? 』
『そんなことないけど』
『じゃあ……私ので判定してみる? 』
『おばあちゃんからちっちゃいって言われたけど少しはあるんだよ』
『今から私のオッパイの画像送るよ』
『大きいかどうか判定してみて(ハート)』
――画像送信! さーて、どんな反応してるかな?
『あー、既読になってるぅ! 見たなエッチ』
『だってトーク中だし、勝手に開いちゃうよ』
『ってコレ花火じゃん』
『そ、花火だよー』
『残念だったね』
『今日、花火大会があったの』
『私もさっきまで知らなかったんだけどね』
『で……』
――さぁて、この流れで来年の花火に誘っちゃうのかぁ私? まだ付き合っても告ってもいない今の状態で……ちょっと大胆すぎるかな?
『来年は一緒に行こうね』
――う……うわぁああああああああああノリで書いてしまったけどこれだけは送信できないぃいいいいい! どおしよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!
メッセージを入力して送信するかどうか悩んでいたところに、
「美波ちゃーん、桃むいたけど食べるけー? 」
下から突然、お祖母ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「うわぁあああ! ――あっ!! 」
慌てた私は、うっかり送信ボタンを押してしまった。
〝ヒュルルルルルルルー……ドンッ! ドドドドンッ!! 〟
私の心の中でスターマインが打ちあがった。
【終戦】
※※※※※※※
〈1年後〉
「ごめん、待った? 」
「もぉ~遅いよ! 」
「えっでも花火までまだ時間あるんだけど……」
「あのさぁ、それまでにいろいろ回ってお祭り楽しみたいじゃん! 」
「そうだね……どこから見ていく? 」
去年の年末から付き合っている彼《赤坂 大》君が、1年前に約束した花火大会を見るため待ち合わせた駅にやってきた。
今回は電車でやってきた。去年、本を買いに来た時は電車代を節約するためにチャリだったが。でも結局、私の姿を見て買う予定のなかった本まで買ってしまったらしい……バカじゃん(笑)。
去年は花火大会の情報なんて全く知らなかったので残念な結果に終わった。なので今年はリベンジだ!
ま、花火の話はいずれ語るとして……
大くんは、今回のことを2学期早々バラされないか、あれからずっと心配していたらしい。言うワケないじゃん! 将来、私の彼氏になる人がそんなエロい本買っているなんて周りに知られたら私も恥だ。
そんなこんなで調子に乗ったのかアイツは、続刊もどうやらお祖母ちゃんの店で買っているらしい……変態め!
でも、お祖母ちゃんもすっかり彼のことを気に入ってるみたいだ。私が大くんと付き合い始めたことを2人で報告に行ったときは涙を流して喜んでくれた。
ただ〈あの本〉は……2次元とはいえ浮気だよぉ。この前、彼の部屋に遊びに行ったとき、何冊か見つけたから、まとめて
『死ねドスケベ』
と書いたメモを添えてベッドの下に隠しておいた。
見つけたらパニックになっているだろうな……ぷぷぷっ!
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!