本屋レジ戦争【先攻】
【登場人物】
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんがちょっと気になる。
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
2日前から分厚い雲に覆われたため、気温がいつもより上がらない曇天の8月中旬。釜無高校1年3組の《赤坂 大》は隣の町まで……自転車に乗って……はぁ……出かけている……はぁはぁ……そう、ボクのことだ。
この日はボクがいつも読んでいるシリーズ小説の新刊が発売される日だ。そのため自転車に乗ってはるばる隣町の本屋へ買いに向かっている。
え? 近くに本屋はないのかって? もちろんある。何ならボクの地元の方が手に入りやすいくらいだ。じゃあなぜ大変な思いをしてまで遠くの本屋に向かっているのかって? それは……
――作品タイトルと表紙が原因で、とても買いにくい本だからだ。
タイトルは『異世界学園の、コミュ障で巨乳のサキュバスちゃんは、学園の最高峰を目指します』(略称・巨峰)だ。これは悪魔や魔物が通う異世界学園で、スクールカースト最下層の陰キャコミュ障な主人公のサキュバス(陰魔さきゅ)ちゃんが様々な策略(時々お色気)を使って学園最高峰に上り詰めていくという異世界学園コメディー小説だ。内容はいたってマジメ(?)でカースト最下層から徐々に陽キャグループにとり入れられる主人公に、とてもシンパシーを感じている。
もちろん18禁ではないが、タイトルの『巨乳』と表紙のサキュバスちゃんのイラストがとてもエロいので地元では買いづらい。もし買っている姿をクラスメイトにでも見られたら2学期から不登校決定だろう。命にかかわる由々しき事態だ。
だったらアマゾソで買えば? と思われるかもしれない。でもボクは、書店で実物を手に取って紙の質感とか本の厚みとかを確認して買いたいタイプだ。電子書籍とか論外だ。
幸い、隣町には個人で経営している本屋がある。以前たまたま立ち寄った時、ボクの好きなジャンルの品揃えが意外に多く、しかも店内ではお婆さんが一人だけで店番をしていた。ここはウチの高校の学区外だから、知り合いと出会うことはまずない。完璧な環境だ。なのでこのシリーズは、いつもこの店で買っている。
はぁはぁ……やっと着いた。今日はいつもより暑くないとはいえ、夏日一歩手前だ。かなりの距離を自転車に乗ってきたので当然暑い。
店内は、地元の大型ショッピングモールにある本屋ほど冷房は効いていないが、それでもまあまあ涼しい。ボクは汗をかかない方だが、ある程度落ち着いてから店内を見まわし、目的の本を探した。
あった。『巨峰』(正式名称・異世界学園の、コミュ障で巨乳のサキュバスちゃんは、学園の最高峰を目指します)だ。相変わらず買いにくそうな表紙だ。ちょっとでも動いたら見えそうなサキュバス(淫魔さきゅ)ちゃんの……その……ち……乳くb……い、いや何でもない。
田舎の本屋なのでほかに客も見当たらない。誰もいないうちに会計を済ませて早く帰って読もう。そう思ってレジに向かうと……予想だにしなかったトラブルが発生してしまった。
レジにいたのはいつものお婆さんだと思っていたら……
――え? 何で?
何で?
何で「御勅使さん」がレジにいるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
【開戦】
レジにいたのは《御勅使 美波》さん、同じクラスで右隣の席にいる女子だ。
先日、友人とネットカフェに行ったとき偶然居合わせて、なぜかそのままカラオケに行こうという流れになってしまい、そこで……仕組まれたとはいえ……その……間接キs……までしてしまった相手だ。
クラスの女子の中で一番……いや、唯一気になる人だけど……何でこの人がここに??
――マズいぞこの状況は!
これはあくまで未成年も読めるマジメな小説だけど、このタイトルと表紙のイラストは誤解を受けかねない。同じ学校でも、ほとんどの人はボクの存在を知らないだろうから、万が一この姿を見られても話題にすら上がらないと思う。
けど、よりによって同じクラス、隣の席、しかもウチの学校で一番口をきいたことのある「女子」にこんなところを見られたら――?
しかもボクには「前科」がある。以前、授業中に前の席の女子の「透けブラ」にたまたま視線が合ってしまったところを御勅使さんに見られるという事故があり、それが原因で彼女に脅されて、購買までパンを買いにパシらされたことがある。でもなぜかそのパンはボクが食べることになったが……。
今度、このような失態を見られたら、それこそアニメの「悪の組織の幹部」みたいに命はないだろう。夏休み中にクラスの女子全員にニャインがまわって、2学期開始早々さらし者になって死ぬ……最近、忘れかけてきたがこの人は「ラーテル」と呼ばれて男子から恐れられてる人だ……やりかねない。
まあ実物は見たので、この本だけアマゾソで買うという方法もある。しかし、明日は家族で親戚の家に行かなければならない。今は午後だから当日配送もほぼ不可能だろう。今日読みたいから何としてでも今、買わなければ!
――待てよ?
あのレジの人、本当に御勅使さんなのだろうか?
最近、御勅使さんと一緒になる機会が多くてボクの意識がおかしくなっている可能性もある。遠目ではっきりと見えないから、もしかしたら「他人の空似」かもしれない。
――こうなったら……賭けに出よう。
まずは本をあと2冊買う。それで『巨峰』をサンドイッチにする。
そして裏表紙のバーコードの部分を上にしてレジの人に渡す。ちなみにこの店のお婆さんは、表紙など見ずにバーコードを読み取るのでいつも助かっている。
よしっ、そうと決まれば作戦決行! 想定外の出費になるが、ほかの2冊も前から欲しかった本だ、いたし方ない。
※※※※※※※
レジに着いて、店員さんの顔をチラッと見る――あれ?
何だ、御勅使さんじゃなさそうだ。髪型も違うしメガネもしているじゃないか? ボクは学校でメガネをしている御勅使さんを見たことがない。
ただ、背格好は似ている。中学生のバイトかな? だとしたら高校生のボクがこの本を買って「このお兄さんエロい」って思われるのも恥ずかしいな。
ボクは本を3冊、バーコードが上になるようにして「御勅使さんに似ている」店員さんに渡した。よし、これなら完璧だ。
店員さんはボクの顔をチラッと見たが、すぐに何食わぬ顔でバーコードを読み取った。だが一番上のバーコードを読み取った店員さんは、手を止めてボクにこう聞いてきた。
「カバー、お付けしますか? 」
うわぁあああああああああ! そんなことをしたら表紙見られちゃうでしょ? それはやめてぇええええええええええええええええええええええええええええ!!
「いっいえ、だだだ大丈夫です! 」
「じゃあ袋にお入れしますね」
よく考えたら「大丈夫」って言葉遣いは変だが思わず出てしまった。なんとなく声も御勅使さんに似ている店員さんは「問題の」2冊目の本のバーコードを読み取った。すると、
「あれ? 」
と言って店員さんはレジの画面表示を見て……そして、
うっうわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
本を裏返して表紙を見てしまった。
――恥ずい。
この人が御勅使さんだったら完全に人生終わったし、女子中学生のバイトでも軽く死ねる。でもその店員さんは無表情のまま3冊目のバーコードを読み取った。
「3冊で○○円です」
「あっはい」
ボクはお金を渡し、店員さんは買った本を紙袋に入れて、おつりと一緒に渡してくれた。無反応なのでどうやら御勅使さんじゃなさそうだ。
でも、こんな小さな子(とはいってもボクと同じくらいの身長だが)にエッチな「表紙とタイトル」の本を買ったことを見られたのは恥ずかしいが……まあこの子とは2度と会うこともないだろうと思い、そのまま出ていこうとした。
――だが、ここで一気に「地獄」がやってきた。
「へー、赤坂君ってこんな本読んでるんだぁー」
――え? 今、この人……ボクの名前を……
「え? 」
「え? じゃないよ、私よ……御勅使美波よ! 赤坂大スケベくん♪ 」
やっ……やっぱり御勅使さんだったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「えっええええあああああだだだだだだってメガメガメガネェェ……」
「おいおい落ち着け! ああ、このメガネ? 普段、家にいるときはしてるよ、学校とかはコンタクトにしてるけど……」
「えっえええええいえ……え? 家? 」
「ああそうそう、この店は私のお祖母ちゃんの家なの。だから夏休みはここでお店の手伝いをしてるんだよ」
――そうだったんだ。ある意味「サンクチュアリ」だと思っていた本屋が、まさか御勅使さんのお祖母さんの家だったとは……
「そ~れ~よ~り~」
――御勅使さんの目つきが変わった。これはもしや……
「赤坂君ってこういうキャラがタイプなんだねぇーそういや前に水辺さんのおっぱいガン見してたよねぇーうわぁー巨乳好きなんだねぇー意外と肉食系なんだねぇー赤坂りくーん」
うわぁあああああああああああああああああああああああこの人、息継ぎもせず一気にイジってきたぁあああああああああああああああああああああああああ!!
これはマズい、御勅使さんの顔が妙に生き生きとしてきた。生き生きとした顔とは言ってもボクには悪魔の微笑みにしか感じられない。
「あーでも赤坂君って高校生だよね? 」
「こっ高校1年で同じクラス! ししし知ってるでしょ!? 」
「こういうエッチな本って、未成年に売っていいんだっけ~? 」
「えっえっ? これは別にそういう本じゃないよ! 異世界モノのライトノベルで決して18禁の官能小説とかじゃ……」
焦るボクを見ながら御勅使さんは、レジカウンターでほおづえを突きながら
「冗談だよー、知ってるよー」
――うわぁあ完全に手のひらで転がされているぅうううううううううううううっ
「赤坂くーん」
――え? 何かブリっ子っぽい声出してますけど……まだ何か?
「2学期……楽しみだね!? 」
――どぉいう意味ですかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
この人……公開処刑する気だ。それなら今ひと思いに殺してくれ。
なんとかこの状況を脱する方法はないのだろうか?
――あれ? そういえば……
確かウチの高校、バイト禁止だったはず……まあ実際はみんな普通にやっていて有名無実な校則だが。無駄なあがきかもしれないが御勅使さんにぶつけてみよう。こっちも少しは反撃しないとこのままじゃサンドバッグだ。
「御勅使さん! そういえば高校ってバイト禁止じゃ……? 」
――御勅使さんの表情が険しくなった。やった、効果あったか? だが、
「え……えぁまぁそうね、でも私の場合はお祖母ちゃんの家の手伝いだしぃー、まぁ見つかったところでその場で怒られるだけだしぃー、……それよりぃー誰かさんの場合は間違いなく〈おっぱい星人〉のレッテルを張られちゃってぇー卒業まで過ごすことになると思うけどなぁー」
うわぁあああああああああああああああああああ!焼け石に水……じゃない、溶鉱炉に水滴だったぁああああああああああああああああああああああああ!!
――わかってはいたが、無駄な抵抗だった。
「あら、お客さん? 」
ボクたち2人だけしかいない店内に誰か入ってきた。
「あ、お祖母ちゃん! お帰り、早かったのね」
御勅使さんが急に声のトーンを変えた。あ、そういえばこの人、いつもレジにいるお婆さんだ。ってことはこの人が、御勅使さんのお祖母さんなんだ。レジ袋をぶら下げているから、おそらく買い物から帰ってきたのかもしれない。
「さっきから仲良さそうだったけど、美波ちゃんのお知り合いけ? 」
「えっええっ見てたの!? うん、高校のクラスメイトで赤坂君」
「あらそうなの……あ、そういえばアナタ、何度かウチで買ってるわよね? 」
――ええっ! ボクが買いに来てるの覚えているんだ。マズいなぁ~『巨峰』シリーズいつも買ってるの御勅使さんにバレちゃうじゃん。
まぁでも、このお祖母さんはいつも表紙を見ないでバーコードを当てているからボクが何を買っているかなんて知らないよな?
「あ、そうだわ……アナタがいつも買ってる『オッパイが大きい娘の本』今日、入荷したわよ」
爆死ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
――御勅使さんは爆笑しながら
「あははははは……あ、大丈夫、ちゃんと買ってくれたよ」
プライバシィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
個人情報ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
ちゃんと守ってください2人とも……。
「美波ちゃん、せっかくお友達来てるんだから家に上がってお茶でも飲んでいってもらったら? レジは私が代わるから」
――え? えぇええええええええええええー! そんな、いくら親戚の家だからといっても、女子の家にお邪魔するなんて滅相もございませーん!
「え? あぁいえいえそんな……」
「そっそうそう! 赤坂君も今から帰らなくちゃいけないから……ねぇ赤坂君」
――ほら、御勅使さんもそう言っているし、長居は無用です。
「そうなの? じゃあまたいつでもウチに買いに来てね」
「え? あぁはぃ……」
――顔バレ&買う本バレしてるから非常っっっに行きづらいが。
「それにしても2人は仲良さそうだねぇ……もしかして付き合ってるの? 」
えっえええええええええええええええええええええええええええええええ!? そんなことあるワケないじゃないですかぁああああああああああああああああ!
ボクみたいなスクールカースト最下層の身分の者が女子と付き合うなんて100万年早いですぅうううううううううううううううううううううううううううう!!
「いっいえいえっ! 付き合ってなんかいませんよ! 」
「そそっそうよ! 付き合ってないわよ!! まだ……」
――!?
「え? 今なんて……」
「あっあああああ何でもない何でもない! 今のは忘れて」
――今、「まだ」って言わなかった? え? どういうこと??
すると、本屋の……御勅使さんのお祖母さんがボクに近づいてきて、
「赤坂くん、美波はおっぱいは小さいけど、とっても優しくていい子だからね。これからも仲良くしてやってね」
「おおおお祖母ちゃん! なんてこと言ってるのぉおおおお!! 」
御勅使さんは顔を真っ赤にして叫んでいた。
「あ、そうそう」
お祖母さんは帰ってきたときぶら下げていた袋から何かを取り出した。
「赤坂くん、桃食べるけ? さっき近所から桃をもらったんだけど……」
どうやら袋の中身は桃だったようだ。
「あっいえいえお構いなく……」
「そうなの? 〈新府の桃〉だよ、4つばかし持ってけし」
えー、でも正直、桃は好きだけど……
「え? じゃあいいんですか? 」
「いいよいいよ、赤坂くん持ってけし」
なぜか御勅使さんまで甲州弁になっている。
「あ、でもボク自転車で来たから……」
自転車のカゴで桃を運んだら家に着くころには表面が真っ黒になりそうだ。
「えっ!? 赤坂君チャリなの? 」
御勅使さんが驚いてる。まあここなら電車でも行けるが、本のためにできるだけお小遣いを節約したかったのだ……結果的に2冊余分に買うハメになったが。
「あぁだったら箱に入れてけし」
お祖母さんは、店の奥から手ごろなサイズの箱を持ってきた。そこに新聞紙で作ったクッションを敷き詰めて、店の入り口に置いた自転車の荷台にくくりつけた。
「あ、すみません、ありがとうございます」
「いいさよぉー、また来てくりょーし」
ボクは店の外まで見送りに来た御勅使さんとお祖母さんにお礼を言って、自転車のペダルに足をのせた。
「赤坂君、遠いから気を付けてね」
御勅使さんが心配してくれた。
「あ……ありがとう」
「それにしても、ここまでチャリで来るとは……すごいね、〈エロの力〉って」
――御勅使さんは最後の最後まで攻撃の手を緩めなかった。
やっぱこのシリーズだけはアマゾソで買うか。
※※※※※※※
その日の夜、御勅使さんからニャインがきた。
『こんばんは!』
『今日はウチの店で買ってくれてありがとう』
――まさか御勅使さんがいるとは思わなかったけど。
『こんばんは』
『まさか御勅使さんのおばあさんの店だとは思わなかった』
――御勅使さんから「それな! 」と書かれたキャラクターのスタンプが送られてきた。続けて、
『ところでさぁ~』
『やっぱ赤坂君って』
『リアルでも巨乳の女の子が好きなの? 』
――えっええええええええ何てこと聞くんですか御勅使さん!
『そんなことないよ』
――ごめん、ウソつきました。でも、そんなこと正直に言ったらほとんどの女子を敵に回すことになる。それに、実際はそこまでこだわってるワケでもない。
『じゃあ……私ので判定してみる? 』
――はっ? 何言ってるんですか御勅使さん?
『おばあちゃんから小っちゃいって言われたけど少しはあるんだよ』
――いや、ちょっと待ってください。何ですかこの流れ……
『今から私のオッパイの画像送るよ』
『大きいかどうか判定してみて(ハート)』
えっ……
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!
何をする気ですか御勅使さん! ご乱心ですか!? そういうのってニャインとかで送っちゃダメなヤツですぅうううううううううううううううううううううう!
ネットって危険なんですから後々大変なことになるかもしれませんよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
〝ピコピコーン〟
うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ来ちゃったよどうすんのコレ? 見ちゃダメでしょぉおおおおおでもトークしているから勝手に既読になっちゃうしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ
ボクはスマホから目を背けていたが、このままじゃニャインを続けられないのでドキドキしながらそーっと画面を見た。
――え? これって……
『あー、既読になってるぅ! 見たなエッチ』
『だってトーク中だし、勝手に開いちゃうよ』
『ってコレ花火じゃん』
――おそるおそる見た画面には花火の画像が映っていた。
『そ、花火だよー』
『残念だったね』
――残念じゃないよぉおおお心臓止まるかと思った。でも何で?
『今日、花火大会があったの』
『私もさっきまで知らなかったんだけどね』
――そうだったんだ。
『で……』
――で……?
『来年は一緒に行こうね』
え……えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
【終戦】
※※※※※※※
〈1年後〉
「ごめん、待った? 」
「もぉ~遅いよ! 」
「えっでも花火までまだ時間あるんだけど……」
「あのさぁ、それまでにいろいろ回ってお祭り楽しみたいじゃん! 」
「そうだね……どこから見ていく? 」
お付き合いしている《御勅使 美波》さんと、1年前に約束した花火大会を見にやってきた。
美波さんは浴衣姿がとても似合っていた。1年前のあの日、こんな日が来るなんて夢にも思っていなかった。
ま、花火の話はいずれ語るとして……
まさか誰にもバレないと思って、わざわざ遠くまで買いに行った本屋で美波さんに会うとは……。美波さんは、このことを他の誰にも言わなかったが、ボクにはこの後、何度もこのネタでイジってきた……もう勘弁して!
結局、美波さんのお祖母さんと知り合いになってしまった手前、続刊が出るたびに、この本屋に買いに行っている。
お祖母さんはとても優しくて親切な人で、ボクが美波さんと付き合っていることを2人で報告に行ったときは涙を流して喜んでくれた。
ただ、他にお客さんがいるときにボクに向かって、
「大くん、〈おっぱいの本〉新刊入ったよ」
って大きな声で言うのは止めてほしい……マジで死ねる。
え? ……オマエは御勅使さんと付き合っているのに、まだそんな本買っているのかって?
だって、それとこれとは別でしょ? シリーズ物だから続きが気になるじゃん! 今もこうして部屋に……あ……あれ?
――ないっ! 本がないっ!! えぇええっどこに行った?
(しばらく部屋を探し回り)あっ! こんなところに……えっ?
う……うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
怖い怖い怖い……怖いよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
(何が起こったのかは【後攻】で! )
最後までお読みいただきありがとうございました。
次は御勅使さん視点の【後攻】に続きます。