カラオケ戦争【延長戦】
【登場人物】
◆大垈 竜地(おおぬた りゅうじ)◆
高1。身長165センチ。赤坂の親友で侍モノが好きな中二病。
◆玉幡 遊(たまはた ゆう)◆
高1。身長168センチ。御勅使の親友で学級委員長。甲州弁がキツい。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆※主人公※
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんがちょっと気になる。
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆※主人公※
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
待ちに待った夏休みになって二週間が過ぎ、葉月に入り初の猛暑日となったこの日。あまりの暑さに夏休みの宿題も、何も手をつける気が失せた未の刻、釜無高校一年三組の《大垈 竜地》は、冷房の効いた漫画喫茶に行こうと、店の前で待ち合わせをしている友の元へ馳せ参じた。そう、拙者のことでござる。
「赤坂殿~待ったでござるか? ……ハァハァ」
すでに店の前におったのは《赤坂 大》。拙者のかけがえのない『友』である。「強敵」とは書かぬ、仲の良い「友」である。
「竜地君、ずいぶん汗かいてるけど大丈夫? そういやココ、シャワールームあるけど? 」
赤坂殿が心配してくれた。心優しい友である。自転車で一里以上離れた屋敷から出陣したのじゃ。そりゃ汗だくにもなる。
せっかくの心遣いありがたき幸せではあるが、水浴をしたとて着物が乾ききらぬのなら意味がない。
「心配ご無用! 拙者とて武士の端くれ、汗なんぞすぐに乾くでござるよ」
「う、うん……? そうなんだ」
赤坂殿が納得してくれた。素直な友である。
さっそく受付をしようと店内に入った時、どこかで聞き覚えのある声がした。
「う、うん……わかった、お大事に、じゃあね」
「どうだった? 」
「やっぱ来られないって」
「マジかー! あいつらドタキャンじゃんけー」
「どうする? 2人になっちゃうけど……」
「ええっ? 美波ぃ、他に誘えるヤツいんだけぇ~? 」
受付の前にいたのは二人の女子……
「「あっ!」」
「「あ……」」
あ……悪魔じゃああああああああああああああああああああああああああ!!しかも「蜜穴熊」もおるぅううううううううううううううううううううううう!!
「悪魔」とはワシらのおる組の学級委員長、《玉幡 遊》のことである。この女子、顔はそこそこ美形なのだが超悪魔的性格をしておる。
しかも「蜜穴熊」こと《御勅使 美波》を連れておる。この女子は体が小さく見た目は中学一年生くらいだが、男子に対しては相手を選ばず容赦なく潰しにかかる「小さな悪魔」だ。最近、赤坂殿に危害を加えているとか? 要注意人物なり。
――何てことだ……今日は厄日でござる。
【開戦】
「てっ! 何でぇおまんとう、何しに来たでぇ?」
玉幡が話しかけてきた。この女子は誰に対しても分け隔てなく接してくる。わしらのような陰属性に対してもだ。
「何しにって……拙者たちはこちらで漫画を堪能しに参ったでござるよ、で、そちたちは?」
ここで怯んでは武士ではござらぬ。負け戦とわかっていても全力で挑むなり。
「え? アタシんとうはカラオケしに来ただよー、そしたら2人もドタキャンされちまっとぉ。で、どうしっかって美波と話してただけんども……」
伴奏合唱機か……そういやこの施設には撞球や手投げ射的もあるな――興味はないが。
「そうか、それは災難でござるな」
「だろー、にしてもあい変わらずおまんの喋り方はみぐせぇなぁ~」
何だとぉおおお!ワシは侍が主人公の漫画に感動し、武士道に憧れておるだけじゃ! しかもそのような暴言を日本一下品な方言を使うお主に言われとうないわ!
「ななな何を言うか! お主の甲州弁も異様でござるぞ」
「おい何だと? ちょべちょべしてるとぶっさらうぞ!」
うわぁ、暴力に訴えるというのかこの女子! こやつは本気でやりかねない。大人しくしておこう。
ふと横に目をやると赤坂殿と御勅使殿が黙り込んで二人で別世界に飛んでおる。何かあったのか? 妙な雰囲気だ。
「あっそうだ!」
んっ何じゃ? 何やら甲州弁暴力女が突然言い出した。
「せっかくだからおまんとうも一緒にカラオケやらざあ」
なぬぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?
いくら悪魔とはいえこの二人は女子である。女子と伴奏合唱機などという行為は普通、宴会好き人種がすることだ。ワシや赤坂殿には荷が重すぎる。それにワシらは漫画を読むという本来の目的がある……ここは丁重にお断りしよう。
「んーー、せっかくのお誘いは大変ありがたき幸せじゃが……拙者どもは本日、漫画を読みまくろうという話になっておってなぁ……」
「あー大丈夫! ここのマンガはカラオケルームに持ち込み可能だっちゅーこん」
何だと!? ……それなら本来の目的も果たせるし「女子と伴奏合唱機」という陽属性の世界にも足を踏み入れられるということかぁー!? それなら断る理由はなかろう。
「なぬ、そうだったのか!? ……ではお言葉に甘えて伴奏合唱機を楽しもうではないか、なあ赤坂殿? 」
ん? 赤坂殿は思いっきり嫌な顔をしているな……だが赤坂殿! 我々御宅は、いつまでも女子と関わってはならぬ――という時代は終焉を迎えるのじゃ! こんな時に備えてワシは最新の日本大衆音楽も練習しておる。
「ちゅーこんで美波、一緒でいいら~? 」
おぉそうじゃ! いくら玉幡殿が提案したとて、御勅使殿が承諾しなければこの話は無かったことになる。
「う……うん、いいよ」
――なぬっ! 良いのか? お主らはなぜ、ワシらのような御宅をすんなりと受け入れられるのじゃ? 解せぬ。
しかし、女子と伴奏合唱機など久しぶりじゃ! 幼少の頃、お母上や姉上と行って以来二度目でござる。
これは楽しい夏休みになりそうじゃ! 意気揚々と伴奏合唱機部屋に向かうワシの足取りは軽く、先陣を切って歩いていると
「おいおまん! ちょびちょびしてちょ」
――ひっひぃいいいいいいいいい! やっぱこの玉幡怖い。
※※※※※※※
普段、ワシと赤坂殿には無縁の、二階にある伴奏合唱機部屋に参上した。席は背もたれ付きの長椅子と背もたれなしの椅子の二種類。女子たちに背もたれなしを使わせることなどできぬだろう。
「ささっ!姫君たちはこちらへ」
女子たちは長椅子に座るよう促した。たとえ「悪魔」であろうと、こうして我々御宅を誘ってくださったのだ。こちらも最大限のもてなしをするのが至極当然のことであろう。
ワシは奥の椅子に座った……玉幡と向かい合わせじゃが、この際致し方ない。
そういえば誰も、飲み物とかマンガや雑誌を持ってきておらぬな?
「「あっ、ボク(私)が持ってく……」」
入口側に居た赤坂殿と御勅使殿が席を立ち上ろうとしたが
「いいっていいって! おらんとうが持ちに行ってくるつーこん! 若けぇしんとうははんでくっちゃべってろし」
玉幡殿が気を利かせて立ち上がった。そして
「行くよ竜チン! 」
「竜地じゃ!! 」
たっ確かに「地」はチとも読むが……なんじゃ「珍」って!?
しかし、勝手にワシを指名するとはこの玉幡、何故? まあ言われずとも行くつもりじゃったが。
「で、お主たち飲み物は何をご所望か? 」
赤坂殿と御勅使殿に飲み物の希望を聞いた。
「ええっと、ボクはアイスコーヒーを」
「あ、私コーラ……悪いねー行ってもらって」
「いいさよぉ~」
「承知致した! 」
伴奏合唱機部屋を出たところで、少々腑に落ちないことがあったので玉幡殿に聞いてみた。
「玉幡殿、一つ訪ねてもよろしいでござるか? 」
「ん、何でぇ? 」
「何故、一緒に行くのが拙者でござるか? あ、いや、別に嫌という訳ではござらぬが……」
「あぁそれけ? 別におまんと一緒に行きてぇっつーこんじゃねーから心配しちょし! 」
――なんじゃそりゃ!? 女子に指名されて多少は……その……男女二人組とか一好機を期待しておったというのに、そんな即答で一分(=約3.0303ミリメートル)の希望も与えぬとは……やはり悪魔だ。
「まあ美波と赤坂を2人っきりにしたかったっつーこん」
――何? 赤坂殿と御勅使殿を? それはどういう事だ??
※※※※※※※
一階の漫画書庫にやって来た。拙者は漫画を選んで玉幡殿と合流した。女子たちも、有名どころの少年漫画は好きだというので何冊か選んでみた。
玉幡殿は雑誌を選んだあと、飲み物を用意している……って何じゃこの大量の雑誌は!? お主、一体何冊借りておるのじゃ……ほかの客人に迷惑がかかるのではないのか?
「で、おまんは何を飲むでぇ? 」
「拙者か? ならば玉露をひとつ……」
「おい……あるわけねーだろ! マジメに答えろ」
ひっひぃいいいいいいいい!こやつが標準語でしゃべると怖い。
「あ、あの……ウーロン茶でいいです」
こっちもつい標準語になってしまった。
飲み物を用意している最中、玉幡殿が話しかけてきた。
「なあ……あのちっこいのって、誰か好きなヤツとかいるだけぇ? 」
――なっなにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
この女子、赤坂殿に興味があるとか――まさか?
「なっなぬ? まさかお主……」
「あぁいやいや、アタシじゃねーつうこん! ちっと聞いてみたかっただけどぉ」
何じゃそれは? もしかして誰か赤坂殿に好意を寄せておるということか? 赤坂殿に「春」がやってくるのは友として嬉しい限りではあるが、それと同時に、我々の関係にひびが入らぬか心配でもある。
――いったい誰だ?
飲み物も準備できたので、伴奏合唱機部屋に戻るとしよう。拙者が飲み物を持ち、玉幡殿が大量の漫画と雑誌を持った。
「いいのか玉幡殿、そちらの方が重くて大変ではござらぬか? 」
「ああ大丈夫、アタシは力あるから平気! それより……おまん、この飲み物1滴でもこぼしたらしょうづけっぞ!」
やっぱ悪魔じゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!
あれ? 赤坂殿は甘味料も乳製品も使わぬが……?
※※※※※※※
伴奏合唱機部屋に戻るやいなや
「おっ待ったっせーーーーーーーーーー! お、何だご両人? なんか楽しそーじゃんけぇ!? 」
絶好調な玉幡殿とは対照的に、ワシはずっと考えておった。
誰だ、赤坂殿に好意を寄せているという女子は?
そういえば、先ほどまで御勅使殿はずっと赤坂殿と一緒にいたが……いやいやまさか?
この二人、今日受付にいた時からずっと会話をしておらぬ。赤坂殿は御勅使殿が苦手だったはず。二人きりにしていじめられなかったか心配していたくらいじゃ。
「じゃあ今日はみなさんお疲れ~カンパ・・」
「はーーーーーーーい歌いまーーーーーーーーーーーーーーーーーーす♪ 」
「早っ! アンタいつの間に入れたんだよ!! 」
――無茶苦茶だな、この女子たち。
※※※※※※※
結局、空き時間なしで連続して、玉幡殿がほぼ一人で歌っている。しかもこの女子、雑誌を読みながら歌っておるぞ! 何なんだ一体?
ようやく御勅使殿が二曲目を歌いだした。ワシもやっとの思いで入れたのだが何曲先かわからないくらいじゃ。
最初のうちはちゃんと聞いておったが、さすがにここまで続くと……おかげで漫画に集中できるわい。
「んっ竜チン! 何ソレ? 面白いだけぇ? 」
「ああ、拙者が一番好きな漫画じゃが……あと、竜地な」
歌い終わった玉幡殿が、ワシの読んでいる漫画に興味を持ったみたいだ。
「竜チン、それ読み終えたら貸してくりょうし」
「ああ、今読み終えたからどうぞ……それと竜地じゃ! 」
「わりいじゃんけ! ……あ、コレ、おまんの曲じゃね? 」
おぉおお、やっと来たかぁ! 長かったぁああああああ! ではワシが、いつかやってくると信じていたこの日のために練習しておいた、最新の日本大衆音楽を歌って進ぜよう。
「え? この曲、大垈君が歌うの? へ~意外」
御勅使殿が驚いてる。そうじゃろう。皆、ワシが御宅だから動画主題歌しか知らないと思っておるじゃろう?
赤坂殿! これからの御宅はこうでなくてはならぬぞ!
どうじゃ玉幡殿も聞いて驚い……ってお主は漫画読んでて聞いておらぬではないかぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「あ、終わったけ? じゃあ次はアタシの番ずら? 」
こっこの女子はぁああああああああああああ!全然聞いておらんかったのか!?
玉幡殿は前奏が流れているとき、ワシに向かって小声で言った。
「別に、無理しんでもいいっつーに……自然体のおまんが好きなヤツもいるっつーこん」
――え?
それって、もしかしてお主、ワシのことが……ってもう無視して歌っているしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
――こやつの本心はわからぬ。
そういえば赤坂殿、始まってから全然歌っておらぬ。無理に誘って申し訳なかったであろうか――ん?
「ねえ赤坂君、何か歌わないの? 」
「う、うん……ボク、最近の歌は全然知らないから……」
「え~、せっかく来たのにもったいないじゃん! 最近のじゃなくてもいいから何か歌わない? 」
「う~~ん、ボク歌うの自信ないし……」
御勅使殿が赤坂殿を誘っておる。御勅使殿、かたじけない。しかしよく見ると御勅使殿も可愛らしい顔をしておる。男子から嫌われておるから負の印象しかなかったが……そういえばワシは男だがこやつから攻撃されたことはなかったな。
「じゃあ、一緒に歌わない? 昔のでいいから何か知ってる曲ある? 」
――なっ! ななな何ぁあああああんと! 女子と二重唱だとぉおおおおお!?
そそそそれはいきなり障害物が高いのではないか?
「赤坂君、アニメソングとか好きなんじゃない? だったらコレなんかどう? 」
「う、うん……これだったら知ってるけど……」
何とぉおおおおおお!御勅使殿が赤坂殿に好みを合わせておるぅうううううう!
どういう事だ? こやつは赤坂殿の「天敵」ではなかったのかぁあああああ!?
しばらくして(玉幡殿が数曲歌った後に)前奏が流れた……これはもしや?
おぉおおおおおおっ! 「φブレイクス」の「魔法少女は思春期」だ!この曲は山梨出身の五人組女性偶像集団の曲で、かつて魔法少女だった四人の女子高生? が再び魔法少女にさせられてしまうというお笑い動画の主題歌だ……懐かしい。
「おっ何でぇデュエットけ? よっご両人~! 」
「おぉお主、懐かしいのを入れたのぉ~拙者も好きだぞこの曲」
――なかなかやるのぉ御勅使殿。
赤坂殿と御勅使殿は我々に背中を向け、電視画面を見つめて歌っている。
ん? 玉幡殿が怪しい動きを……何をする気じゃ?
うっ……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
玉幡殿は、赤坂殿の冷やし珈琲と御勅使殿の炭酸飲料を、本人たちが気づかぬうちにすり替えようとしておるではないか!?
「ちょっ……何を」
「しぃーーーーーーーーーーーーー!!」
突如、玉幡殿が近づいて、立てた人差し指をワシの口元へ!
あぁああああああああああ!顔が近すぎるでござるよ玉幡殿! しかも、玉幡殿の人差し指がワシの唇に触れているでござる! 玉幡殿、殿中でござるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!
不意打ちじゃ! まるで辻斬りにあったようじゃ。そんなことをされたら……
お主に惚れてしまうではないかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
こやつ……悪魔かと思ったら「小悪魔」じゃったあぁああああああああああ!
赤坂殿と御勅使殿が歌い終わり飲み物を口に……まっまずい!
「ぶっ! ケホッケホッ……え? 何これ炭酸? 」
「ぷはっ! 何これ苦っ! え? コーヒー!? 」
――やってしもうた。この二人……
間接接吻してしまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……しかもお互いに。
赤坂殿は事の重大さに気づいて顔面蒼白になっておる。
「おっおおオマエぇええっ! 」
御勅使殿は誰が犯人か瞬時に気づき、玉幡殿に詰め寄った。
女子二人は小声で言い合っているがこちらには丸聞こえだ。
「何てことすんだよ!赤坂君もビックリしてんじゃねーか」
「あ~ら、もしかしてイヤでしたかぁ~? 御勅使さぁ~ん 」
そりゃ嫌だろう。お互い好きでもない相手と間接接吻したのだ。赤坂殿には申し上げにくいが、御勅使殿もさぞかし不快な思いをされたであろう。
――だが、次の瞬間。
ワシは想像だにしなかった言葉を聞いた。
「イィ…………・イッ……ヤ……イヤ・・じゃないです」
――何?
――嫌じゃない??
御勅使殿の顔を見ると、赤坂殿とは対照的に、顔が赤くなっている。心なしか口元も緩んで口角が上がっているようにも見える。
――まさかっ!?
この御勅使……
赤坂殿の事が好きだというのかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
――本日一番の衝撃だ。
「あ……ちょっと、ボク、トイレに……」
「あぁ! でっ……では拙者も厠に……」
ワシは、その場にいてもたってもいられなくなり厠に逃げ込んだ。赤坂殿も同様な気持ちであろう。
しかーし!
赤坂殿……お主は以前から、自分は女子と話ができない、女子と一生付き合うことはできないと以前からワシに話しておったな?
だが違うぞ赤坂殿!お主には、お主の事をとても好いておる背の低くて可愛らしい「姫」がおるぞ!お主はまだ気づいてはおらぬ様じゃが……
それにしても――もし、赤坂殿が御勅使殿と付き合うことになれば……ワシとは縁を切ることになってしまうのであろうか?
ワシは、手巾で手を拭いている赤坂殿に問うてみた。
「なあ、赤坂殿、そちと拙者は友達だよな? 」
「う、うん、もちろんそうだよ……何で? 」
「……これからも、友達でいてくれるか? 」
「え? 何で? 何でそんなこと聞くの? 」
「赤坂殿! お主はこれから益々高みに向かって羽ばたいていくことだろう。そうなれば、下界にへばりつく拙者など見向きもされない存在になるであろう」
「え? え? え? 何でそんなこと言うの? 全然意味わかんない! 竜地君! ボクずっと友達だよ! ……何でぇええええええええええ!? 」
――赤坂殿……いずれわかるでござる。
廊下に出た。あの女子どもはどうなったであろうか?
突然、どこかの部屋から
「○◆△※■▽ったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」
という大絶叫が聞こえた。
――ななな何じゃ!?討ち入りかーーーー!?
どうやらワシらのいた部屋から聞こえたのでそちらに向かった。
御勅使殿が絶叫しながら歌っている。どうしたと言うのだ?
「おぉ、おまんとぅがいねえ間に盛り上がってっぞ! ほれ、ドンドン曲入れて歌ってけし!! 」
なっ……何だかわからぬが楽しそうじゃ! そうじゃな、今は余計なことなど考えずこの瞬間を楽しんでゆくでござるよー!!
「よーし、拙者も歌うでござる! 赤坂殿も歌うでござるよ」
「ええええっ!? 歌うって言ったって……」
「動画主題歌でいいだろう! 自分の流儀でよいではないか、大丈夫! 赤坂殿は今のままでもきっと幸せが訪れるでござるよ」
「お、竜チンいいこと言うじゃんけ!? それじゃアタシも1曲いくよー! 」
玉幡殿が人差し指を高く上げて叫んだ……あと、竜地な!
――っていうか、玉幡殿の人差し指を見て思い出した。
そういえばさっき、玉幡殿がワシのしゃべりを遮るとき、あやつの指が……ワシの唇に触れてしまったのだ。
歌い終えた玉幡殿の隣に座ってこっそり聞いた。
「のう玉幡殿、先ほどそちの指が……その……拙者の………………唇に触れてしまったのだが申し訳なかっ……」
「何ソレ……キモい」
うわぁあああ冷静に軽蔑されてしまった。
「ま、こんなんでいいなら〈お土産〉に持って帰っていいっつーこん」
と、玉幡殿は再び、ワシの唇に人差し指を押し付けた。
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
――やはりこの女子、「悪魔」ではなく「小悪魔」であったか。
【終戦】
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!